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Chapter32[ギルドにお金を預けよう]

 開拓者が複数人でパーティを組んだとき、その取り分は貢献度や能力に応じて分配される。荷物持ちとして連れてこられたやつとメインで戦っている開拓者では扱いに差が出て当然、というわけだ。

 特に上下のあるパーティでは顕著に取り分に差が出るらしい。新人は先輩に面倒を見てもらったりしているので、取り分が少なくても我慢する。


 そこで俺たちの場合になるが、魔法の師匠というのはものすごいジャイアニズムを発揮するのが普通らしい。衣食住を奪うことまではしないが、嗜好品を禁じて、それを入手する余裕からなくしてしまう魔法使いもざらだそうだ。


 アホらしい。

 だからどうしたというんだ。

 よそはよそ、うちはうち、だ。

 ほかがどうだろうと俺は俺の考え方がある。

 いいところを見せて好感を持ってもらい、女の子をはべらせたいというよこしまな考えが!


「敵の警戒もやってたし、敵と切りあったのもラナだ。俺は遠くから魔法をぶち込んでただけだぞ」


 戦ってさえいない。

 ただ、魔法使いとはそもそもそういう役目なので、そのぶんで山分け。


「でも、タイラントドレイクは完全に先生が一人で倒したじゃないですか……」


「発見が遅れたら二人そろって食い殺されてただろ」


 あれだけデカい声で吠えられてたらどのみち気づいてウィンドボルトで瞬殺だっただろうが、そこは黙っておく。言い出すと面倒くさい。


「それとも金が要らないのか?」


「要ります!」


 即答だ。

 素直でよろしい。


「お金は、要ります、けど……」


 ラナの目が泳いでいる。

 額が大きすぎて受け取るのに抵抗があるのだろうか。


「だったらいいじゃないか。毎回山分けってわけにはいかないんだから、今回はラッキーと思ってとっとけ」


「……はい」


 金板五〇枚といえば五〇〇〇万デロー。言うまでもなく大金なので、ラナは大事そうに皮袋に入れた。しまう前に銀貨だけ取っていたから、そっちで買い物する気なんだろう。


「無駄遣いしてなくなっても知らないぞ」


「無駄遣いなんてしません」


 ラナはぷくっと頬を膨らませた。

 すこし困ったように、


「ほんとうにいいんですか? こんなお金……」


「だから、今回はラナがいてこその稼ぎだからだって。これで納得できないなら……そうだな、自分の働きで返してくれ。胸を張って受け取れるくらいになってくれたら俺も助かる」


「はい。わかりました! 頑張りますね!」


 ようやくほころぶように笑うラナ。

 それはいいことだが、何か使い道は考えているのだろうか。


「何に使うか知らないけど、使うときには気をつけろよ」


 言って、ポンコツにもラナが五〇〇〇万デロー持っていることは内緒にしておくように釘をさす。


「どうしてですか?」


「大金を持っていると小賢しいアホが寄ってくるからな。ラナはまだ魔力がちょっと多くなっただけのアイアンランクの開拓者でしかない。自衛できないまま可愛い女の子が金持ってたら鴨がねぎを背負ってるようなもんだ。ラナも高い買い物をするなら俺のお使いってことにしてごまかしておけ」


 本人も女の子ということ悪漢には気を付けてはいるようだが、シルファリオンがばれた時にドローレスが雇ったシルバーランクの開拓者と今日のラナの動きを比較検分する限り、一対一でもラナの手におえる相手ではない。


「鴨が……ねぎですか?」


「鴨を煮込んで鍋にするときにネギは薬味として使うだろう? 都合よく美味しいものが作れる材料が、ほかの材料まで持っているっていう状況からくるたとえ話で、俺の故郷の表現なんだ」


「そうなんですか。わかりました。気を付けます!」


「エリーゼも、いいな?」


「はい。そういうことならだまってますね」


 お口にチャック、みたいに、唇の端と端に手をやって、何かをつまむようにしてから左右に引っ張るジェスチャーをするエリーゼ。ファスナーならぬ皮袋のひもを締める動きだ。

 魔法や危険指定種(モンスター)の存在もだが、それ以上にこういう文化の違いを目の当たりにした時ほど異世界だなと強く実感させてくれる。

 まず異世界出身だなんて突飛な発想をして本気で疑ってくる奴はいないだろうが、ぼろを出さないためにも注意して覚えておきたい。


 こういうのも神に報告書として上げるとたまにメニュー機能を拡張してくれたりして働く意欲につながる。神としても後進のために必要なのだろう。


「だったらギルドに預けるといいと思いますよ?」


 エリーゼの提案を受けて、ラナが首をかしげた。


「ギルドに?」


「はい。ギルドカードに記帳して、ギルドでお金を預けることのできるサービスがあるんです。あんまりお金を持ってない人は預金を作りませんけど、お金を持ってる開拓者さんはみんな利用されてますよ」


 この世界の金は紙幣ではなく、金貨や銀貨が主なため、どうしてもかさばるということで始まったサービスなのだそうだ。商人ギルドでは無料で両替をしてくれるが、それでも何十枚も硬貨を持っていると邪魔だ。


 俺は空間魔法でバカひろい『倉庫』を持っているので気にしたこともなかったが、言われてみれば当たり前である。

 特に金板以上の硬貨は存在しないので、それ以降は価値の大きい硬貨に両替もできずに一方的にかさばっていくばかりだ。

 いや、金板なんて大店の商人や大貴族でもなければかさばったりしないだろうけれども。


「開拓者ギルドではアイアンランクから預かれるようになってるんですけど、アイアンランクだと預かり料をもらうことになってて……その代わりに各地のギルドでお金をおろせますから、旅をするときにはギルドカード一枚だけ守ればお金も守れるんですよ?」


 マイナス面を説明して悪く思われるのを恐れたか、ポンコツはあわてて付け加えた。


「いくらなの?」


「その、アイアンランクだと五〇分の一をギルドが預かるときに払ってもらうことになってます」


「それ、五〇デロー預けたら引き出せるのは四九デローになるのか、それとも五〇デロー預けるときに一デロー払うのか、どっちなんだ?」


 気になった疑問を横からはさむ。


「ええと、五〇デロー預かるときに一デローもらうことになってます。ショウタさんはシルバーランクですからただで使えますよ?」


 ランクを上げる特典の一つで、アイアンランクから使えるようになって、ブロンズだと一〇〇分の一、シルバーランクからは無料で預けることができるようになるらしい。


「引き出すときは?」


「引き出すときはお金はかかりません。真偽の石箱……額が大きいと真偽の石版で本人確認をして、そのギルドでストックされてるお金を引き出せます。なくても、日をもらえば輸送しますからそのギルドで言えば引き出せますよ。そのための預かり料ですから」


「でも五〇分の一……五〇分の一かあ」


「シルバーランクだとタダですから、ショウタさんのギルドカードで預けておけばタダで預かれますよ?」

「金の管理は自分ですること。そういう方針なんだ」


 何に使ってもいいし、悪いことをしなければ何で稼いでも自由だが、その金の管理は本人にさせる。弟子からもらうのは戦力だけにとどめる代わり、俺が弟子に与えるのは魔法の知識に限定する。

 異世界チートハーレムものでは女の子に何でも買い与えているだだ甘な主人公がいたが、何を買うにも何をするにも引っ張り出されるのは正直面倒くさい。


「たしかに俺のカードで預金しておけば預かり料はかからないが、俺が死んだら本人確認もできないのにどう引き出すつもりだ?」


「わかりました。そうします……」


 さすがに五〇〇〇万も持ち歩くのは怖いようで、ラナはその場で丸ごと預けてしまった。


「ええと……五〇〇〇万デローですね。預かり料はここからでいいですか?」


「うん」


「じゃあ、五〇分の一の預かり料で……四九〇一万九六〇七デローの預かりです」


「暗算早っ!」


 頭でやると結構面倒くさい計算になったと思うのだが一瞬だ。


「やるなポンコツ……」


「えへへ。そうですか? これだけが取柄で……」


 字が書けない人も少なくないこの世界で計算がこれだけできればそれだけで食べていけそうなものだが、ポンコツ扱いをされてここ以外で働けないっていうのはやっぱり本人の問題なのだろうか。


 このカウンターを使おうとしたらラナに余計に時間がかかるから他に並んだほうがいいって助言されたと言われたように、相変わらずこのカウンターには俺たち以外の姿がないが、最近はミスもしなくなっているし仕事も早くなってきている。この調子が続けば次第に客もつくだろう。


「ところで、まだギルドが閉まるまでには時間がありますけど、今日はどうしますか?」


 ラナの方にちらちら視線をやりながらではあるが、ポンコツは俺に向かって聞いてきた。もう日が暮れかかっているので外には出ないが、雑用の仕事ならいつもはまだやっている時間なので聞かれているのだろう。


「実地で必要なものも見えてきたから、それを集めて回るかな。前衛の増員で明日も休むから、明後日からまた頼めるか?」


「そういえば、奴隷を買うって言ってましたっけ」


 相変わらず、ポンコツは奴隷の話になると表情を曇らせる。毎日重労働をさせられて、利益は全部主人が持っていくので、労働環境は最悪に近い彼らを思いやっているのだろう。


「ギルドで募集するんじゃないんですか?」


「大金が入って予定変更したわけじゃないぞラナ。もともと四〇〇万くらい持ってたからそれで買おうかと思っていたんだ。今日五〇〇〇万手に入ったからグレードを上げるつもりではあるけどな」


 有用な実力を持っているが、ラナやロナルドはあくまで弟子で、何があっても絶対に俺の力になってくれる保障まではない。

 二人を信じていないわけではないが、この世界で俺が生きていくためには絶対に離れていかない前衛は必須なのだ。

 俺が戦えたら自分で剣と盾を持つところだが……。まあ、代わりにものすごい魔法を使えるので、魔法チートを選んだことに後悔はない。


 あと、女の子の手前言わないが、夏と冬に有明で買える薄い本(ソリッドブック)な目的のために美人の奴隷も欲しいので、気に入ったらそれも買うつもりである。

 両立できている奴隷ならなおいい。


「そうだ。奴隷を使ってる開拓者だっているんだよな」


 中には本人以外が全員奴隷だったり、全員奴隷だけで構築されたパーティもあるという話だ。

 主人は安全な街の中にいながら、奴隷たちに働かせて帰ってきたら取得物を献上させているらしい。


 そこまで極端でなくても、パーティ内で奴隷を買って使っている奴はそれなりの数がいる。

 一人じゃ買えなくても複数人で金を出し合うこともあるらしい。


「前衛にするならどんな奴隷がいいか聞きたいから、何人か紹介してくれないか?」


 キャラクターメイキングの時にこの世界の人間のカテゴリにはいろいろいることを知っている。


 大まかに分けて俺がそうである人間種以外にも、森人種(エルフ)鉱人種(ドワーフ)、獣人種、妖精種、竜人種、鬼人種、小人種、巨人種、精霊種、動骸種、神霊種、半獣種、半竜種があったはずだ。


 森人種は魔法具店の店主のセッターが該当するし、ドローレスが俺を探った時のシルバーランク開拓者パーティの中にいた奴隷はウサギ耳をはやしていたので獣人種だ。

 俺のイメージでは森人種(エルフ)は肉体がよわっちいから魔法とか軽い弓を使うのが多い線の細い美形がそろっていて、鉱人種(ドワーフ)は体力自慢のずんぐりしたごついチビスケなのだが、これが実際の森人種たちにすべて当てはまるかはわからない。


 十六日に見学したオークションでは他にも有翼種だとか飛行種だとか、そんな言葉も聞いた。


 高い買い物だ。

 失敗は避けたいし、できれば相場も知っておきたいと思うのは当然だろう?



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