Chapter26[はじめての…行為]
タイトル通りです。
読んでて不快にさせてしまったらすみません。
先に謝りましたからね!? ごめんなさい!!
カテゴリ:予防線
オークションの会場を出てからまた仕事をして、夜八時になった時には昨日と同様に弟子は二人とも開拓者ギルドの前で待っていた。
特にロナルドのほうはなんと二時間も前から待っていて、俺が仕事で魔法を使っているところを見学するためについてきた。
荷運びを手伝うとも言ってくれたが、俺一人で全部できるし、不慣れなうちはスピードを上げると荷物を傷つけかねないので断らせてもらった。ちょっと感じが悪いだろうか。
いや、弟子だしいいよね。
ラナのほうは結構ぎりぎりまで仕事に出ているみたいだ。昨日は少し遅れてきてロナルドに怒られていた。
俺は気にしないんだが、弟子を甘やかしすぎるのはよくないとか。ロナルドは魔導士ギルドで後進の育成とかやっていたらしいので従っておいたほうがいいんだろう。
敬語使おうとするのは認められないけど。
「魔導士ギルドのランクアップってそんなこともしてるのな」
「もともとが相互扶助組織なんでな。いい設備を使おうと思ったらそれだけ貢献しておかないとダメなんだ。その関係で弟子を二人とったし、十人ほど教え子にとったこともある」
「それは弟子とは違うのか?」
「もちろん違う。弟子は師匠を変えられないが、教え子の扱いならあくまで関係は授業だけだ」
要するに弟子の軽いバージョンでよさそうだ。
「わたしもグランダンにいたときに魔法を教わりましたけど、弟子にはしてもらえませんでした。サフリー先生も三人も弟子は取れないって」
「具体的にどう違うと言われると……そうだな、さっきショウタが言っていたように、教える内容の差だろうな。一般に教え子というだけでは初歩となる魔法しか教えない」
その代わりにあくまで教えてもらう立場というだけの縛りしか発生しないが、弟子になって師匠の身の回りの世話なんかをやるようになれば家族同様の扱いで秘術の魔法も教えてもらえるようになるらしい。
「たとえば俺ならアトモスフェリックパイルだな」
「ああ、あの魔法」
上級魔法の一つで、真上から大量の空気を塊で叩き付ける大技だ。演習場の半分を丸ごとクレーターにした大砲である。
「ショウタは使えるんだろう?」
「そりゃあまあ」
使ったことはないけど使えるはずだ。難易度はシリファリオンのほうが上みたいだし。
「ロナルドさんも先生もすごいです! わたしは上級魔法一つも使えないんですよ……」
「弟子入りしたんだから教えてもらえばいいだろう」
「そうですね。頑張ります!」
このまっすぐさ加減がラナはかわいいよな。
話している間に草原まで来たので、そこで授業開始だ。一昨日から教え始めて、それぞれがどんな魔法を使うのかとか、一番得意な魔法はどんな調子なのかとか、攻撃が得意なのか守るのが得意なのかなどなどを調べていたが、今日からは実際に能力を伸ばしていく。
同じ弟子でも魔導士ギルドでゴールドランクのロナルドと開拓者ギルドの中堅どころにいるラナでは同じ内容をやっても無駄が多い。
「今日一日考えてきた練習方法が、あれだ」
俺が指差した先には空間魔法まで見せるのはさすがに刺激が強そうなのでわざわざ森まで行って切断しておいた丸太が積まれている。
日本で同じことをやったら器物破損か何かでしょっ引かれることになるが、ギルドで聞いてみたところ、木こりが切らなければどんどん街のほうに広がって、最後に街が樹海に呑まれてしまうので好きなだけ切れとのこと。
まあ、そうでもなければ開拓者なんて入れないか。どこかには一〇〇メートル単位で森をつぶした幼女もいることだし。
「丸太……?」
「アトモスフェリックパイルなんかを使ってる通り、ロナルドは威力は十分なんだが、どうにも大味だからなあ。あれを使って細かい魔法の調整を練習してもらおうかと思うんだ」
そもそも盗るやつがいるのかどうかは別にして、一応乾燥させたら薪的な利用価値もありそうだし、盗まれないように切り倒して枝葉の付いたまま放っておいた丸太の束を風の刃で包み込むように枝を切り落とし、それから長さをそろえるように丸ごと輪切りにして、長さ三十センチ大の塊を何十個と作り出す。
「おおっ!!」
「さすが師匠!」
「見てろ」
手近な一つを拾い上げて風で細切れにして、俺は有名な青いタヌキ型ロボットの彫刻を作り出した。木くずがうっとうしいので(そよ)風を起こす魔法、ウィンドを使って吹き飛ばす。
「こまかい調整にはもってこいだろう? とりあえずこれを見本にして、同じものを作れるかやってみてくれ。できたら一メーテルくらい離れたところからできるように、どんどん離れていくこと」
一メーテルというのはこの世界の距離の単位だ。だいたい一メートルと同じだが、実測してみると一メーテル九十七センチしかなかったので少しだけ短い。
メーテルを基準値にして、百分の一でセードメーテル、千分の一でミードメーテル。逆に千倍ならキードメーテルと大きくなっていく。
異世界なんだからそこはもっと変わった単位の名前があってしかるべきだろうと思わないでもないが、元が同じ世界だからものの数え方も似ているんだろうな。
神様が考えるのが面倒だからこうしたということではないだろう……たぶん。
「ただこういう細かいことをやってもつまらないだろうから飴玉を一つ。シルファリオンを使うときに必要なのは風を感じるとか同化するとかあいまいなものじゃない。自分の周囲に風を鎧って、完全に制御することが大事だ」
勉強とかでもそうだが、何のためにやっているのかわからないものはやる気があまり起きない。逆に明確に目標があって、そこに進んでいるときは進歩も早いものである。
「わかった。ではさっそく……!」
「うわ、ちょっと待て! 人がいる方向に魔法を向けるな!!」
アメリカのような銃社会で起こる銃の暴発事故のほとんどが「弾が入っているとは思わなかった」なんて供述していることから、銃のインストラクターはみんな言うことがいくつかあって、それは撃つ時以外は引き金に指をかけるなということと、もう一つ、人に銃口を向けるなということだ。
弾が入っていようといなかろうと、とりあえず人のいる方向に向けていなければ人に弾が当たることは避けられる。
手元の木に向けたんだろうが、俺がいるのになんてことをするんだ。
「人がいないことを確認して、そっちに向けて練習してくれ」
「す、すまない……」
冷や汗をかいた。
「ラナのほうは……」
「はい! なんでしょうか!!」
背中を向けて手元の丸太相手に彫刻を始めたハゲを確認して、振り返るとそこに目をキラッキラ輝かせている女の子がいた。
ロナルドに指示を出している俺を見て、本格的だと思ったりしたのだろうか。
したんだろうなあ。
ラナに魔法を教えたサフリー先生とやらは魔法を空打ちして慣れろだとか、とにかく大きい魔法や難しい魔法を使えるようになれとか言ってたみたいだし。
方向性が違うだけで、やっていることは魔法を使わせているので同じなのだが。
「ラナもやっぱりシルファリオンが使いたいのか?」
「わたしにも使えるんでしょうか!?」
「ちゃんと言うこと聞いてたら数年後にはな」
今のままでは逆立ちしたって使えないだろうが、魔法チートの名は伊達ではない。
魔法の使い方がわかるということは、使うために何が不足しているのかもわかるということ。
「まず、手を差し出してくれ。両手だ」
「はい!」
元気よく差し出される。
ほそっこいな。握ったら折れたりしないだろうか。
「ほえ? え、ええええええ!?」
手を取って指と指を絡めるように繋ぐとラナが変な声を出してあわて始めた。
「そ、そんな、急にこんなつなぎ方っ……で、でもネリスだってわたしなんかが弟子になれた理由は一つなんだからうまくやれって言ってたけど……。あ、あの……先生、わたしは……まだ、そのっ」
「やったことがないって?」
「そ、そんな直球で……!」
戸惑いながらもどうにかラナがうなずいた。
「は、はじめて、なので……その」
「だったら激しいのはやめておこうか。今日は優しくするように努力する」
「ほ、ホントにするんですか!?」
当たり前だ。やらないとこの先が厳しいじゃないか。何をそんなにがちがちになってあわをくっているのだろうか。
「あの、あのあの、でも、先生、こんなところですしっ」
「何か問題があるか?」
「できれば、初めてはベッドの上のほうがっ……!」
「そんなところでできるかバカ」
弟子とはいえ、こんなかわいい子とベッドの上でいたら本格的に変な気分になるじゃないか。
「せ、先生はお外のほうが好きなんですか!?」
「ああ。こっちのほうが都合がいい。何か壊したら大変だろうが」
「こ、壊れるくらい凄いんですか!?」
「だから外でやるって言ってるんだよ。宿のものを壊したら迷惑がかかるだろうが」
「で、でも……! すぐそこにロナルドさんもいますし……!」
「気にするな。そんな余裕はすぐになくなる」
「そんなぁ!? そ、その、もしかして先生って無尽蔵だったりするんでしょうかっ……」
「ああ。一晩中だって続けられるはずだ」
「そ、そんなに……!」
ラナが息をのむが、その両手は俺がしっかり握って離さないので逃げることはできない。
「始めるぞ。集中しろ」
「は、はひ……」
奇妙な声で返事をしたと思ったら、ラナはぎゅっと目をつむって固まってしまった。
「入れるぞ?」
「え? ま、まだわたし、服を着てますけど、できるんで――ふひゃああああ!?」
「……きついか?」
ほんの少しだけ入れたつもりだったが、ラナは体を大きく跳ねさせて抵抗する。
俺はそれを逃がすまいとつないだ手をしっかりと握って引き寄せた。
「我慢しろ。少しずつ入れていくから、頑張って受け入れるんだ」
「いっ……ひぎぃっ!? かはぁっ……あ、あああっ!? ひっ、はいって、先生っ、先生のっ、おっきい……! う、うぅ……くはっ、あ、ぁぁ、ぬ、抜いてっ……くださいぃ……こ、こんなの壊れちゃう……、壊れちゃいますっ……!」
「馬鹿言うな。まだまだ、半分どころか、ほんのちょっと入れただけなんだぞ」
「そ、そん、にゃああああ!? あっ、だ、だめ、からだが、さけちゃうっ、さけるぅ……っ。お願、い、お願いします先生っ! かはっ……、先生、もっとゆっくり、ああっ、ゆっくり、してっ、くださいいいっ。あっ、ひゃあん!」
「だめだ。このペースだと終わるころには夜が明けるだろ。く……お前、小さすぎて入れにくいぞ。せめてもっと力を抜け」
「む、むりっ、むりぃ……ですぅ! は、はげしっ……、やぶけるぅっ。こんなの、やぶけちゃうっ、あついっ、ゆ、ゆるして、ゆるしてくださいっ、もうだめ……! こんなの、おかしくなる……! |おかしくなっちゃいます《おかしくなっちゃいましゅ》ううう!! あたまがとんでっちゃうっ、狂っちゃう……!」
「初めてだからってこのくらいで泣き言をいうんじゃない」
「あひゃうううううううううううう!? おっき、あつぅ……! 焼けちゃうっ!? こんなにあついの、だめですっ、わたしのなか、やけどしちゃうっ……! えうっ、あ、ぎぃ……! やめ、やめてっ、はいらないっ、そんなおっきいの、わたしにははいりません! あっ、あっ、だめ、だめです……それ以上……あぅ、あっ……」
「入らない、じゃない。入れるんだ……よ!」
「あああううううううううううううう!!」
もういっそ一気に行ったほうがいいかと思ってひときわ強く入れると、ラナが他人には聞かせられない感じの声をだした。
「何をやっているんだ、お前たちは?」
「え? 見たらわかるだろう?」
すぐそばで彫刻をしていたはずのハゲが騒ぎを聞きつけて戻ってきていた。
俺はラナとつながっているところからさらに奥に突き入れながら、首をかしげる。わざわざ尋ねてこなくたって見れば一目瞭然だろうに。
「んんっ……く、くはぁ! あっ、ああっ、くぅ……! あふぁ、ああ……っ! わたしのっ……なか、広がってる……なかで、先生のが動いて……わたしっ、初めて……なのにぃっ、こんなに……! なかで動いてるのがわかっちゃうよお……! く……ふぁ、ひぐっ……」
少し力を緩めてやると息苦しさにあえぎながらラナは焦点の定まらない視線を俺に向けた。与えられる痛みに耐えながらもどこか恍惚と頬は紅潮し、熱く潤んだ目じりからは透明なしずくが頬にこぼれている。
「その調子だ。ラナのも絡みついてきていい具合だぞ」
「あ……く……ぅ……あぅ……えゃ……、そう、ですか……?」
力をかけるごとに、より埋没させようと送り入れるたびにラナは体をびくりと震わせてきゅう、とつながっているところに力を入れてくる。
「ああ。馴染んできたみたいだし、もっと奥まで行くからちゃんと集中しろ」
「ま、まだ強くなんて、ふぇう!? いっ……ぎっ!? ああっ!! あ、あぐ、ぅうっ、せ、せんせいっ! そんなに奥のほう、かき回されるとっ……! あた、ま、あたまがとんじゃうっ! おかしくなっちゃう……! あっ、あっ、だめっ、い、くぅ、あぅぅっ、あ、ああああああああああああああ!!」
「あ、こら!!」
あと二割ほどを残して一番奥まで届いたかと思ったらラナが背をのけぞらせ、ガクガクと体を痙攣させながら絶叫して瞳から光をなくしてしまった。
両手がふさがっていたので、くったりと身を預けてくるラナを抱き留めたが、これは完全に失神している。まさか途中で気を失うとは……。
「それで、いったい何をやっていたんだ?」
「だから見りゃわかるだろう。弟子の指導だよ。魔法の練習をさせようにも二日連続ですぐにバテてたからまずは魔力量を拡張してやろうかと思ってな」
「それがさっきやっていたことでできるのか?」
「そうだが……? 何をしていると思っていたんだ?」
ずる、と力の抜けたラナとつながっていたところを離す。
べったりと服が張り付くほどに汗をかいていて、体液が混ざり合ってぬるぬるする。ああもう、口元からよだれなんて垂らして、この弟子は。
「人間の魔力は体力みたいに、使ってゼロにすれば回復した時にはちょっと多くなるんだが、それ以外にもこうやって力技で増やす方法もある。吹きガラスを思い浮かべてみればわかりやすいか。風船を膨らますように、限界量を超える魔力を入れて強引に器を広げて、もっとたくさん魔力が入るようにするんだ」
「手をつないでいるだけに見えたが……そんな技術があるのか……?」
「あんまり知られてない方法みたいだけどな」
というかこの世界では誰も知らないのではないだろうか。
いや、チートの知識はここを調査した前任者たちの知識を神が補完しているわけだから、それらしいものはあったはずだ。
「気絶しているようだが、危険じゃないのか?」
「手加減はしたんだけどな。たぶん大丈夫だろ。もとの容量が小さすぎて入れにくかったくらいだ。まあ、俺に収まってる魔力量のほんの一部を流しただけなんだから人体的には大丈夫だろう」
渡したのも湖の中からひとすくい分くらいだし。体力を消耗して気を失っているだけだと思う。
「俺にはやってもらえないのか?」
「やってもいいけど、吹きガラスって言っただろ? 熱したやわらかいガラスじゃないとできないんだよ。ロナルドくらいの年だと魔力の器になっているガラスがもう冷えてて、容量以上に入れると壊れたりヒビが入って漏れ出したりしかねないぞ?」
それこそ赤ん坊ならガラスの張力の限界を越えなければ、いくらでも入れて膨らませられるだろうが、ロナルドの年だとちょっとあぶないと思う。
「あの威力のアトモスフェリックパイルが使えるなら魔力が足りないってことはないだろうし、コントロールを磨いてればシルファリオンにも届くだろう」
さて、これでできることもなくなったし、俺もロナルドの隣で魔法のコントロール精度を上げるために修行っぽいことをしておこう。
高熱をかけたら物証が跡形もなくなるのでいつもやっていた、氷を火炎で溶かさないように彫刻する方法はロナルドの目があるのでできないし、おとなしく木で彫刻をつくろう。
氷と土を固めて作る鏡も使えないのですぐ近くのロナルド……は、ちょっと華がないのでラナをモデルに。
丸太を積んでいるところに複数の風刃を同時に発生して、狙いの一つだけを思った通りにカットできたか手元に引き寄せて確かめる。
「それはラナか? よくそこまで細かく……」
「集中しろよ……」
細かくはあるが、若干イメージより足のほうが太くなってしまっている。スカートのしわも傷みたいで質感が再現できていない。
遠近でズレたのだろう。
「このくらい些細なものだろう」
「こういうささやかなズレが範囲攻撃で味方を巻き込むからな……」
理想を言うなら味方の周囲も攻撃に巻き込みながらピンポイントで味方だけを攻撃しない器用な攻撃方法だ。今の俺ではまだできないが、いつかは皮膚すれすれを攻撃しながら、安全圏を味方の動きに合わせて高火力範囲攻撃バリアみたいにすることができればと思っている。
たとえば体に張り付いたヒルなんかを一瞬で灰も残さず焼殺し、かつ肌には火傷させないくらいの精度がほしい。
「すごいことを考えるものだ……」
「味方と組み合ってる敵に魔法が使えないままだと前のほうから各個撃破を狙われかねないからな。戦闘中にミリ……じゃない、ミード単位で制御できるのが目標だ」
本当は先に無詠唱を習得したいところだが、こればかりは仕方がない。
魔法チートを受けている俺は無詠唱魔法の使い方自体はわかっている。魔法の正体とは、詠唱をして脳に特別なリズムを刻んで普段使われていない脳の演算領域を開き、体内の魔力を操れるようにする方程式のようなものだ。
つまり、脳に演算をさせるための領域を開きさえすれば詠唱などしなくても魔法は使える。
なのに俺が詠唱を必要とする理由は、俺が異世界人であるからだ。魔法の計算に慣れていないため、詠唱でリズムを刻まなければ魔力を使うことができないのだ。
解決手段はいくつかあるが、一番単純でリスクのない方法はやはり慣れてしまうこと。
自転車に乗る方法、のようなイメージでいいだろう。
魔法を使う、というコマンドを、歩くための筋肉を動かすほどに使っていれば自然と脳の演算領域は開きやすくなり、手足のように魔力を使えるようになるはずだ。
「この方法だとまだ先になるだろうけどな」
木から削り出した人形が不出来なのを確認したら細切れにして廃棄する。
やはりゴミが出てしまうのは気分がよくないな。火が使えたら焼いて簡単に終わるのだが。
後で戻ってきて魔法の練習がてら焼いておくか。
灰も、俺の世界に焼き畑があるくらいだし、森に撒いておけば栄養になるだろう。
フィギュアの精巧さを上げるためにラナを観察していると、長いまつげが震えた後、静かに瞼が薄く開いて、まばたきをしてとろんとしたままの目が俺のほうを向いた。
「おはよう。思ったより早かったな」
メニューで確認できる時刻が日付をまたぎそうだったし、これはもう今日は目を覚まさないかと思っていたのだが。
がば、と音が立ちそうな勢いでラナが起き上がろうとしたが、
「へぶぅっ!?」
途中で力が抜けたようで、顔面から地面に突っ伏した。
「おい、大丈夫か?」
仕方がない奴だ。
一度起こした後、背中で支えてやると、ラナは顔を真っ赤にしてあわあわと何か宙に手をさまよわせている。
よだれとか垂らして寝ていたわけだし、やはり女の子としてはそうとうに恥ずかしいのだろう。
「あ、あの……これは、その……」
「ああ、気にするな。初めてだったんだろう? 俺も手加減が足りなかったな。悪かった。まさか気絶までするとは思わなかったんだ」
「ご、ごめんなさい……! 途中で気を失っちゃうなんて……」
ぎゅ、と俺の服にしがみつくラナ。体全体でもたれかかってくるものだから、その柔らかさが胸にかかってきて、いい匂いが鼻腔をくすぐる。びっくりして顔を見ると、俺を見つめる目元がしっとりと濡れていてついキスしそうになる。
くそう、なんだこのかわいい生き物。
目を合わせていたらロナルドがいるのに押し倒しそうになったのでそっぽを向かせてもらおう。
「次はもっと優しくしてやるから許してくれ」
「は、はい……!」
「体のほうは大丈夫か?」
俺のほんの数パーセントにも満たない量だから平気だとは思うが、一応聞いておこう。手術が成功しても医者が聞くのと同じようなものだ。
「こ、腰が抜けて立てません……」
「腰?」
はて、おかしいな。魔力を送り込んだだけなのにそんなところに影響が出るものだろうか?
「はい……その、良すぎて……」
すでにリンゴのようになっている頬をさらに朱に染めてラナが俺の胸に顔をうずめてきた。思わずどきっとしたが、これは仕方ないことなのだ。
俺だって年頃なんだ! 思春期なんだよ!
しかし体調が良すぎると腰が抜けるのだろうか? そんなはなしは寡聞にして聞いたことがないが……解明されていない人体の神秘?
「そうか……じゃあ今度からは宿でするか?」
「え? は、はいっ……! さすがに外では……恥ずかしいです……」
「恥ずかしいって。別に恥ずかしがるようなことじゃないだろ? ここには俺たちしかいないんだから」
「で、でも、ロナルドさんもいますし……」
「うん? そりゃいるだろ。同じ弟子なんだから、となりでしてても普通じゃないか?」
「ふ、普通じゃないです! やっぱり、その、人に見られるのは恥ずかしいです……」
「そ、そうか……」
そんなによだれ垂らして寝てるところを見られるのが恥ずかしかったのか。これは悪いことをしたな。ラナフィギュアを作ってる間はずっと見てたよ俺。
「じゃあ魔力を増やすのはもうやめたほうがいいのか?」
恥ずかしがってるのに毎回寝顔を見てしまうのは悪いし。
「ふぇ? 魔力ってなんですか?」
「いや、だから、魔力を奥まで入れただろ? お前の魔力と絡み合わせて魔力の容量を増やしたじゃないか」
変な顔をされたのでロナルドにした説明を繰り返す。
「え……えと……それじゃあ、先生はただ魔力を増やしただけ……ってことですか?」
うなずく。
「そしたら途中で気を失ったからびっくりしたぞ」
「じゃ、じゃあぜんぶ勘違い……っ」
まんまるに目を見開いたラナの顔が一気に火が出そうなほど真っ赤になった。
「わ、わたし、そのっ……! は、離してください……!」
「あ、こら、暴れたら――」
「ひゃわあ!?」
「……言わんことじゃない」
俺の腕から転げ落ちたラナがまた地面にキスをして呻いている。腰が立たないっていうのに暴れるからだ。
しかししがみついてきたかと思えば離せと暴れだしたり、女心というのはよくわからない。
「やれやれ……青いな、二人とも」
背後ではロナルドが呆れたような声を出していた。
ようやくヒロイン|(候補)も登場しましたし、エロっちい表現に挑戦してみましたがどうでしょう?
感想待ってます。ブックマークや評価、感想をもらえると毎回超喜びますし御布団の活力になります。
ポンコツちゃんヒロイン化計画、立案中。




