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Chapter22[『尖り耳』のエルフ]

 演習場を半分に割って、王城の近くでは急な俺の頼みを快諾してくれた二人によってことごとくの開拓者が吹き飛び、俺のほうでは夕方になるころには三人ばかり有望そうなやつを発見した。

 ただし、そのうちの一人は貴族のお嬢様で、気位が高くて面倒事のにおいがしたのでエアハンマーのぶつけ合いをしてどうにかこうにかおかえり願ったが。


 圧縮空気の激突でダメージを与えるエアハンマーならそうそう生き死ににかかわるまいと思ったのだが、互いに威力が高すぎて吹き散らされた空気が近くにいた人間を空中に放り出したのはご愛嬌だ。

 貴族だとか面倒事の塊のようなのはもう少しこなれてきてからでいいのだ。


 同じように、しかしさらに手加減をしたエアハンマーで残り二人も試して、合格者とした。


 一人はセミロングの金髪をしたスレンダーな女の子で、名前はラナ。

 地方の開拓者ギルドで仕事をしていたが、金がたまったので王都の魔導士ギルドに加入して魔法の力を伸ばすために上京してきたのだそうだ。

 得意な魔法は矢のように発射するアロー系。相当に練習しているのか、通常一本しか出ないウィンドボルトで十二本もの数を一斉に作って発射できている。


 魔法よりもナイフを主体にしてきたようで、なかなか戦えるようだし、貴族のお嬢様と違って素直そうなところもポイントが高い。


 もう一人はハゲの開拓者だと思っていた男で、ロナルドという名前。

 斧を持っているだけあって接近戦もできるし、魔導士ギルドの風魔法使いの中では屈指の実力者というだけあって、上級魔法のアトモスフェリックパイルで演習場に大穴を開けた。

 演習場の敷地に沿ってエアシールドを発生させていたので遠慮なくやれとは言ったが、的の役は俺がやっていたので軽く死んだかと思った。隕石が落ちたような被害だったのに衝撃も通さないとかシルファリオンさんマジでパない。

 というかこの中年は俺を殺しても仕方ないくらいの全力でぶち込んできたよな。


 エアハンマーの時にきっちりお返ししておいたが。貴族のお嬢様よりも威力十倍くらい増しで叩き込んだし。それでも軽く吹き飛ばした程度だったけど。


 だが、すごいことにこの中年は念唱ができるのだ。

 念唱とは、普通の詠唱を声に出さずに詠唱して魔法を発動させることだ。詠唱時間は変わらないし、むしろ威力も落ちやすいのだが、しかしばれないように水面下で詠唱できる。

 魔法の基礎原理として、リズムを刻んで脳に演算させるのが目的の詠唱なので、演算さえさせられるのなら口に出す必要はないのだが、かなり難しく、念唱を使っているのは少数だ。

 俺もいつかは使えるようになるべきだろうか。

 いや、それよりも無詠唱や、短縮詠唱のほうが先決だな。


「先生、それで、いつから教えてもらえるんですか?」


 演習場から第三城壁の中に入ったあたりでラナから尋ねられる。


「上級魔法はまだ使えないのでそのあたりからになるんですよね? それとも、中級までの魔法をコンプリートしてからですか?」


「師匠。やはり、シルファリオンは風を感じるために山にこもるんですか?」


「話の前に、二人とも、言葉遣いはどうにかならないか? 弟子になったくらいで敬語なんて使われると違和感がすさまじいんだけどさ……」


 ラナのほうは同年代だし、ロナルドのほうははるかに年上なので、これで敬語というのはくすぐったい。


「そうですか? 弟子入りともなれば敬意を払うのは当然だと思いますが?」


「だろうけど、だとしてもだよ。ラナくらいでもいっぱいいっぱいなのに親父くらいの年のアンタに敬語なんて使われているとな」


「ですが、魔法を教わる立場として礼を失するのは……」


 どうやらこの世界での弟子入りというのは町の道場で剣道を習う程度のものではなく、中国武術における拝師のような制度に近いらしい。

 魔法の師匠と弟子とは擬似的な親子のような関係で、たとえ年下の師匠であっても敬語を使って先生、師匠と呼ぶのが通例だそうだ。

 拝師と同じように、弟子が修練の途中で師を勝手に変えるのは、可能ではあっても非難の対象になるくらいだとか。


「だったらまだアットホームな雰囲気で行こうぜ。これから旅をするんだから、助け合ったりもあるだろう」


「弟子として、師を助け、敬うのは当然です」


「頼むから。俺を助けると思って。普通に接してくれ……」


 自分の父親と同じくらいのおっさんから敬語を使われるのは、まだ社会人でもない、年の多寡で先輩後輩が決定的になっている学校社会からやってきた十五歳にとっては拷問に等しいのだ。


「だったら……こほん、これから先の予定はどうなっているんだ?」


「予期せずに弟子をとることになったからまずはそれぞれ旅の資金繰りだな。今日は十四日だから……とりあえず一週間で用意をしよう」


 その間に旅の荷物をまとめてもらって、出られるようにしてもらう。


「これは準備資金だ」


 グリフレッドにもらった小金貨を二人に二分して渡してやる。


「こんな大金を、とったばかりの弟子に渡すのか……」


「あ、あの、これ、小金貨じゃあ……」


 本当は弟子をとる気なんてなかったのだが、全員不合格で合格者無しだと大部分が納得できず手段を選ばなくなる可能性が高い。


 そういう事情もあって誰かを弟子に取らざるを得なかったわけだが、いきなり旅をするからと言って金があるとは限らない。準備を万全にするために王都にとどまるのも嫌だし、かといって準備不足で困ったことになるのは避けたい。


 小金貨が十五枚に一週間もあれば買い物をして旅の道具をそろえることができるだろう。


「代わりに渡すのは今回限りだ。考えて使ってくれ。計画性も大切なことだぞ」


 この計画性という言葉のあたり、貴族のお嬢様ではわかってもらえなかっただろうなあ。


「あ、ああ、なるほどな。わかった」


「あの、こ、こここれ金……」


「いいから仕舞え」


 小金貨でも金貨に触ったことがないのか、ラナがカチコチに固まっている。そのままではスリのいい餌食なので、スカートのポケットの中に突っ込んでその上から小さめの皮袋を入れてやる。

 こうすると一瞬ではあとからポケットに詰めた皮袋しか取れず、しかも気づきやすい。


「し、心臓が……」


 手元から小金貨が離れたおかげでどうにか混乱から覚めたラナが胸を押さえて荒い息を整えている。小金貨とはいえ、金貨は経済的に大金なのだろう。

 ラナの開拓者ギルドランクのアイアンでは小銀貨や、多くても銀貨が依頼の報酬だそうだし。


「そういえば、二人とも杖を持ってるんだよな」


「うん」


「ああ」


 ラナは小さめの木の杖、ロナルドはラナと同じような小さめの杖と一メートルくらいある長い杖だ。長いほうは懐に入らないので斧を振り回す邪魔にならないように腰のあたりに差している。


「どこかでいい発動体を扱っている店を知らないか?」


 ラナは上京したてだからもしかしたら知らないかもしれないが、ロナルドのほうは長年王都で研究していた魔法使いなので発動体の店くらいは知っているだろう。


「なんでそんなことを……待てよ、そういえばさっきから引っかかっていたことがあるんだが、ショウタ、演習場で杖を使っていなかったな?」


「まさかショウタ先生……発動体もなしで魔法を使ってるの!?」


「ああ、いや、使っている発動体が調子が悪くてさ。それで買い換えようと思ってるんだ」


 もちろん、店を知らないのに買っているわけがない。いつか買おうとは思っていたのだが、ここ二日は馬車馬のようにこき使われていたのでそんな暇はなかったし、今日は午前中から恐ろしく拘束される時間が長くて店を探すような余裕はなかった。


 かといって、このまま発動体なしで弟子に接するというのはまずい。

 なぜなら、人間は魔力を直接制御できないため、発動体という魔力を通しやすいものを使って一度集める必要があるのだ。


 俺はチートのおかげで発動体なしでも魔法をつかえているが、これ以上常識から外れたことをしたらいい加減に『英雄の末路』なんてことになりかねない。

 端的に言えば、力を恐れられた勇者が守ったはずの人間に謀殺されてしまうというものだ。

 自分たちでは勝てなかったドラゴンを倒してしまうあいつが怖い、みたいな感情が湧くらしい。


「なるほど……だったら職人通りにいこう。あそこなら数軒、いい店がある」


「わたし、王都でのお店は初めてですよ、ロナルドさん!」


「そうなのか。その杖はどうした?」


「開拓者になりたての時に魔法を教えてくれた人がくれたんです。初心者の時に使っていた杖だって」


「そうか。大切にするんだぞ」


「はいっ!」


 この世界の魔法使い同士、ラナとロナルドは会話の合うところが多いようで、もめごとらしいものを起こしそうにない。パーティ内の仲がいいのは喜ばしいことだ。

 連れて行かれた先は、カウンターがかなり手前側にあって、商品が全部店主側に収納されている店だった。

 発動体処理のされているものはそれだけでも高価なもののようで、勝手に持ち去られたりしないようにこうして店主が客のニーズに合わせて商品を持ってくるようになっているらしい。


「おお、ロナルドか。いつも魔法の研究に忙しいっつって顔も見せねえのに今日はどうした。杖の整備に来たか? それともガキに魔法を教えてるのか? というかお前にガキがいたとはなあ」


 店主らしい人は長身痩躯の男で、輝くばかりの金髪ととがった耳が特徴的な若い男だった。

 この世界に来てから初めて見たが、なんと森人種(エルフ)である。この国は人間種が幅を利かせていて、ほかの種族には肩身が狭いようで、人間種以外はほとんど見かけないし、たまに見かけても奴隷ばかりだったので、こうして普通に接するのは初めてかもしれない。


「親父に似なくてよかったな坊主」


「おいこら。どこを見て言いやがった」


 カウンターの向こうからわしわしと頭を撫でてくる店主の視線は俺の頭とロナルドの光る頭頂部を交互に行き来している。

 俺は親父も爺さんもハゲじゃなかったのでハゲないとは思うが、しかし男として一度も不安にならないやつはいないのではないだろうかと思っているように、こうやってハゲを見ていると少し不安になってくる。


「俺に嫁はいねえよ」


「なんだ、孤児か? 魔法以外に割く時間はねえ、なんて言ってただろ、お前」


「おう。だから俺はランクアップのため以外で誰かに魔法を教えたことはねえ。つまり、逆なんだよ」


 俺の頭を撫でたまま不思議そうな顔をしている店主にロナルドが種明かしをする。


「そっちが俺の師匠(せんせい)だ。今朝から街の騒ぎになってる原因は聞いてないのか?」


「聞いちゃいるが、まさかこんな子供がか!? おいおい、耳はとがってないよな!?」


 もみあげをのけて耳を確認されたが、俺がキャラクターシートで設定した種族は人間種なのでとがっているはずがない。

 耳がとがっているというのは森人種(エルフ)、ないしそのハーフという意味で、彼らが長命であることから子供のようなナリでもたまに人間種の老人と同じくらい年を重ねていることがあるために、意外なことがあると耳を見られることがあるのだ。


「本当だ。上級魔法をぶち込んでもビクともしなかったくらいだからな」


「おいおい……魔導士ギルドの風系統ゴールドランクだろお前」


 呆れたようにロナルドに言っているが、店主の視線は俺にくぎ付けだ。

 えへへ、チートのおかげです。サーセン。

 というかロナルドってそんなにすごい立場だったのか。


「どうも、開拓者ギルド、ストーン……じゃない、シルバーランクのショウタ・シブヤです」


「噂の空気の手(エアハンド)がこんな子供だったとは……いやいや、会えてうれしいぜ。魔法道具店『尖り耳』の店主、セッター・アーチバインドだ」


 手を差し出すとがっしりとした握手をされる。森人種(エルフ)というよりもこれじゃあ鉱人種(ドワーフ)だ。

 森人種(エルフ)鉱人種(ドワーフ)にとってお互いに例えるのは侮辱そのものと言われるほど仲が悪いので言わないが。なんでもそばにいると互いにストレスで毛が抜けるほど相性が悪いらしい。

 今は国同士の距離があって、その間に人間種の国があるので戦争になっていないが、昔はひどかったと聞いている。


「そっちの子は?」


「俺と同じ弟子だ」


「ラナって言います」


「おう、よろしくな。うちに来たってことは、この子の杖か?」


 ラナと握手をしながら俺に向かって尋ねてくる。


「いいや、俺の杖が欲しいんです。前のは大分悪くなってまして」


「そうか。ちょっと見せてみろ」


「え゛……」


 やばい。

 杖を見せろときた。

 下手にごまかしたせいで勝手にピンチである。


「あ、ああ、いや、俺の杖は相当に悪くて。もう直しようがないだろうから、新しい杖を買おうかとネ?」


「だから見せてみろって。杖の使われ方や痛み方でどういう杖があってるのか大体わかるからな」


「……………………」


「あの、先生? 汗が滝のようですよ?」


 やばい。言い訳が浮かんでこない。どうする? ここでばれないようにするためには……。


「実は、俺の発動体は杖じゃないんだ」


「そうか。いいから見せろ」


 セッターの目はまるで猛禽のように俺をとらえていた。

 弟子二人にも左右から見られていて逃げ場がない。


 HAHAHA。こりゃだめだね。

 せーのっ、



 はい詰んだーーーーーー!


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