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Chapter1[神様の面接会場]

 驚くこともできない。

 俺は完全に呆けていた。

 暗闇の空中に立っている。

 どうやって、なんて言われてもわからない。

 ただ立てているから立っているのだ。

 ついさっきまで家の中にいたはずの俺はどういうわけか気が付けばこの場所に立っている。

 これは。

 これはまるで。


「これはまるで異世界ファンタジーのプロローグだ」


 どこからか声がした。

 否、どこからか、という言葉は正しくない。

 どこからでも、と言うべきだったのだ。


「そう考えたんだろう?」


 もやのように周囲に漂っている光すべてから声が伝達される。


「こんにちは。あなたの神です」


「か、神!?」


 こんなのが。

 こんな名状しがたきモノが神だというのかアザトース?


「あれは作り話だよ。触手生物の神話体系と一緒にしないでくれないか。さすがにイヤだ」


 しかし名状しがたいのは事実なので。

 もやだし。

 光ってるし。

 触手は生えていないが十分に名状はしがたいだろう。

 しかし相手はこの名前は嫌だそうだ。

 嫌がることをするのはよくない。


「では名状しがたくなくもないモノで」


「ファ○ク!! あんまり変わってねえ!!」


 名状しがたくなくもないモノが叫んだ。

 どうやっているのかはさっぱりだが、とりあえず声が大きくなっている。


「ええいもういい! ちょっと待ってろバカ!」


 光るもや、名状しがたくなくもないモノが目の前に集まって密度を上げていく。

 そしてもやが固まって、


「ほら! これでいいだろう!」


 現れたのは絶世の美少年だった。


「名状しがたくなくもないモノさん?」


「その呼び方をやめさせるためにこの姿になったのに無視されているだとう!? つーか普通絶句したりするもんじゃないのかね? ほら、見てみろ! 超イケメン!」


 とはいえ、名状しがたくなくもないモノだった時と違って特徴が薄れてしまった感は否めない。

 ここはキャラ立ちのためにも名状しがたくなくもないモノという半端な感じで行くのはどうだろうか。


「普通にイケメン神でいいよ! 変なキャラつけないでくれる!? そのあたりナイーブなんだよ! 神様(僕ら)は噂話程度でも結構姿が変えられちゃうんだから! 触手うねうねの神だって言われるようになったら僕の姿それだぜ!? 変な神性付け足されたくねえんだよ!」


 そりゃ神様みたいなやつだ。

 みたいな?


「まさか、お前、いや、あなたは……」


「ようやく気が付いたか……」


 ふふん、と美少年の姿をとった名状しがたくなくもないモノは不遜に笑った。


「本当に名状しがたいモノだったのか……!?」


「違げえよ!」


 いいノリツッコミだ。


「ところでここは? 見たところ混乱していないようだけど、ここがどこか知ってるの?」


「気やすいな人間……。いいよいいよ、本当に理解すればそんな口もきけなくなるんだから。変な名前ともそれでおさらばだ」


 こほんと|イケメン《名状しがたくなくもないモノ》は咳ばらいをした。


「きみさ、電話しただろう? 求人を見て」


「あ、ああ……」


 俺はうなずいた。

 なぜ知っているのだろうか。


「まさか追いかけてくるモノ(ストーカー)っ……!」


「だからどうして君はそう(ひと)を呼ぶときにクトゥルーな名前を付けるのさ! 違うよ!」


「なんだ。じゃあ夢か」


「いい加減物理的に(なぐって)目を覚まさせてやろうかこの人間……」


 なにやらぶつぶつ言っているが、冷静になろう。

 普通に考えてこんななぞの場所は存在しない。

 以上。

 Q.E.D.……!


「はずぅっ……!?」


 ものすごいショック(電流)が脳髄を走り抜ける。


「はいはい。これで少しは目を覚ましたかな?」


 どこからともなく銀色の杖らしきものを取り出した|イケメン《名状しがたくなくもないモノ》が笑っていた。

 今の電撃はこいつの仕業か。

 夢だといったが訂正だ。

 こんな夢があってたまるものか。

 ここまで痛い思いをしたのは初めてです。

 涙があふれたはずなのに雷撃の威力で眼球ごと蒸発してきれいに(もど)された記憶がある。


「えーと名前は……渋谷(しぶや)彰大(しょうた)ね。では面接を始めます」


「めんせつ?」


「そう。だって君、電話しただろう? 求人票の電話番号に」


 たしかにしたが、いったいそれがなんだというのか。


「ここが面接会場なのさ。電話したらここに転送するようにしてあってね。えーと、面接って言っても転送してる間にいろいろ調べたから実はもう終わってるんだ。文句なしの合格さ。明日から働ける?」


「ええと……やっぱ夢?」


「もう一発神鳴り(でんげき)でも落としてほしいのかな? んん?」


 イイエケッコウデス、と全力で首を振った。

 夢でも二度食らいたくない。


「じゃあそうだね……簡単に仕事の概要を話そうか」


 俺は話を聞く体勢に移った。

 夢だと決めつけておくのはたやすいが、そうなればこの|イケメン《名状しがたくなくもないモノ》はもう一度雷を落とすと言う。

 とりあえず長いものには巻かれておくのだ。


「君は時間軸と言って理解できるかな? ああ、理解できないらしい。いいさ、なら説明の仕方を変えるだけだ」


 目の前に突然パソコンのウィンドウのようなものが表示された。


「未経験者歓迎。そのための用意はしてるということさ」


 さすが夢、と思ったが口には出さない。

 雷が怖い。

 おおもとに太い幹があって、そこから枝分かれした大樹のような図が表示されていた。


「君の世界っていうのはいろんな要因が重なってできている。何気ない行動、あるいは歴史の転機。そういったことが起こるたびに世界っていうのは分肢するのさ。哲学者は重なり合っているとか言ったっけ。えーとウィキペデ○アでのシュレディンガーの猫のページでも見てればわかるんじゃないかな」


 すみません。

 調べてはみたけど専門的なことが書かれててさっぱりです。


「難しく考える必要はないさ。可能性のことを考えてごらん? 考えたね? では仮定の話をしよう。もしも君が考えなかったとした世界があったとしたらどうだろう? それが枝分かれするということだ。織田信長の本能寺の暗殺。漢王朝の発展。きみの世界ではそういったことが起きているけれど、平行世界では起こらなかったかもしれない、そのうえで歴史が積み重なったかもしれないと考えれば合っている」


「つまり……平行(しらない)世界があるってことでオk?」


 オッケーでぇす、と軽薄な調子でうなずかれる。

 やはりおかしい。

 俺の夢にしては頭がよすぎる。そもそも神様と言いながらこの軽佻浮薄な言動はいかがなものか。


「そこで調査員の話になる。とある平行世界で人間がちょっと神様(僕ら)よりこわーい魔法使いを怒らせちゃってさ、どうも世界基盤のレベルで呪いをかけられたみたいなんだ。普通なら神様権限でどうにでも知ることができるんだけど……これが覗き見も許してもらえないくらい強い魔力と複雑怪奇な魔法術式でくくられててね。権限や権能っていう本物(かみさま)の奇跡を使ってもカウンターで術式ごと大爆発させられちゃうんだ。オーディンとか北欧神話の連中はドワーフに武器作らせる感覚で武器突きつけたんだけど武器壊されて涙目になってたなー」


「神様より、こわい魔法使い?」


 よくわからない。

 魔法使いというのなら人間だろうし、だったら神様のほうが偉いと思うのだが。


「偉いさ。でも偉さと強さは別なんだ。君の世界では王様が世界最強である必要はないだろう? 彼女は人間なのに僕らより魔力が多かったし、頭も比較にならないくらいすぐれていた。なのに心だけは普通の人間でね。周りとの差に我慢できなかったんだろうね。だから僕らでも手の付けられないことになっているんだ」


「そうなのか……」


 いや、それでも想像もつかないが。

 神様より強い『彼女』とやらの正体が気にかかる。

 神話の英雄みたいに頭がおかしかったりするのだろうか。

 ゴリラみたいな女を想像した。というかゴリラそのものを。


「君は心臓に剛毛が生えているなあ。僕は絶対にそんなことを言えないよ。死にたくないからね」


 本気の声音、真面目な調子で言われてしまう。


「ひょっとして俺、まずいこと言ったか」


「いったね。聞こえてないとは思うけど、やめておいたほうがいいよ? 彼女、妙に勘が鋭いところがあったから。僕がまだあの世界の権利を持ってた時から太陽の主な権能はひと揃え再現できてたし、光の長腕(ブリューナク)とか飛んでくるよ?」


 まじか。

 この名状しがたくなくもないモノを怯えさせるっていったいどんな女なんだろう。

 会ってみたいような、会いたくないような。


「でさ、そういうことだから、目となる人間を送ることにしようってことになってね。君がするお仕事はそれさ」


 パチン、と|イケメン《名状しがたくなくもないモノ》が指を鳴らすと、そこに――明確な座標のようなものはあやふやでつかめないがちょっと前の場所だ――三つのモニターとキーボードが置いてある机といすのセットが現れた。


「さあ、異世界に行くために君の情報を整えよう」


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