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Chapter12[美少…?のパーティ勧誘]

 アヤシ草も換金してギルドを出ると、美少女がギルドの前で佇んでいた。

 どこの美少女かと思ったらカールだ。


「おーい」


 手を振ってくれたので俺も軽く振りかえす。

 美少女の待ち合わせの相手だと思われたのか、周りの目がすさまじい。

 違う。美少女ではないのだ。

 あくまで美少年なのだ。

 言い聞かせていないとうっかり求婚してしまいそうで怖い。


「やっと出てきた。今、時間大丈夫?」


「ああ、もちろ」


 周囲からの殺気が増した。

 うんと言えば殺す。そういう意図がビシバシ飛んでくる。

 やあ皆さん、嫉妬ですね?


 開拓者ギルド前だからか、男たちの視線もただ者ばかりではない。歴戦の戦士のような傷のある顔をしたゴリラ男が俺のようなひょろいのを睨むなんて大人げないじゃないですか。


「もちろん暇だ」


 でも恐れる俺ではない。もともと神を殺すと決めている俺に怖いものなどないのだ。

 運命の出会いと思ったのに、と思い出したらまた殺意がわいた。

 やはりゴッド殺す。


「そっか、よかった! じゃあお話ししようよ! 実は待ってたんだ!」


「一応宿を取りに行くんだけど、そのあとでもいいか?」


「え? 宿ってどこ?」


「腹黒亭ってとこ。今日王都についたばっかりだからさっき教えてもらったんだ」


「そうなんだ。じゃあ歩きながら話してもいい?」


「もちろん」


 なんかデートみたいだ。すぐ向こうにジーノたちがいなければ、だが。

 王都の町並みはやはり煉瓦造りになっている。だが、聞いてみればどこも築二百年くらいだそうで、見た目よりもはるかにガタがきていそうだ。


 また、建築方式がどうなっているかまではわからないが、煉瓦造りということは地震にも弱そうで、日本に住んでいた身としては何とも心細いものがある。

 家を買うときには自分でツーバイフォーか鉄筋コンクリートを建てようと心に決めた。魔法があればできるはずだ。便利な便利な魔法様があれば。


 向こうのほうに見える尖塔は王城のものらしい。

 近代兵器がある時代から来たせいで、ああやって建物が見えていると壁の守りの意味があるのかと疑問してしまうが、この世界にはミサイルのような兵器は無いようだし、だとしたら弓も魔法も届かない距離から見えても痛くもかゆくもないのだ。


 俺はここからでも狙えるけど。空から打ち下ろす光の柱とか地面から焦熱を呼んだりとかできるので壁なんてものがそもそも意味がない。


「そういえばウーツはどこにいるんだ?」


 左右に広がっている屋台を見ながら話を促す。

 いろいろなものがあって目移りしそうだ。

 屋台が下げている値札にはDに似ている文字が数字と一緒に書かれている。

 デロー、と、そういうことか。

 グリニャード王国で作られている、この大陸でもかなり信用されている硬貨。


「ああ、ウーツなら今日の宿を取りに行ったよ。ほんとは僕だけが残る予定だったんだけど、ジーノとアリアがどうしてもって言ったから一人で馬小屋の掃除をしてるはず」


 ランクの低い……要するに稼ぎの少ない開拓者が馬小屋生活というのは本当のことらしい。そういえば金を握らせて口止めしようとした時、ジーノは食い気味になってたっけ。


「お前ら、ウーツがかわいそうだろ」


 それなりの年だったから人間が出来ているのかもしれないが、それに甘えるなよ……という視線で見てやる。


「ちょ、わたしはジーノと違ってただのわがままで来たんじゃないわよ!? この馬鹿が余計なことしないようにってお目付け役なんだから!」


「あ、てめえ一人だけいい子ちゃんかよ! 俺はチームリーダーとして、新入りの様子くらい見ようと思ってだなあ!」


「いつからあなたがリーダーになったのよ」


「え!? 俺、リーダーだろ!? なあ、カール!」


「うん。やりたいひとがやればいいと思うよ?」


 ほうら見ろ!とジーノがふんぞり返っているが、俺はカールがリーダーだと思っていた。


「新入りって?」


「ああ、うん、僕の用事はそれなんだけど、そのまえに、ショウタってホントにストーンなんだよね?」


「ああ。なんだったらもう一回見るか?」


 結局ギルドに魔法は見せていないのでガラスランクにはまだなっていない。実戦レベルくらいでガラスランクになるんだったら俺が本気を出して魔法をぶっ放したらどうなるのだろうか。

 宮廷魔導士と同じくらいの魔法が使えるわけだし、そっちのスカウトとか来るかもしれない。

 宮仕えとなったら作法とかありそうで面倒だが、どうしても金に困ったら考えてみよう。


「よっしゃあ! 聞いたなお前ら!? 聞いたよな! よーし、おいショウタ! 俺らと一緒にパーティ組もうぜ! 決定!」


 いきなりテンションが急上昇したジーノが変なことを言った。


「ぱーてぃ……?」


「そうだよやろうぜ! お前がいたらウルフも怖くねえし、ちょうどいいだろ! 決定! 決定な!? よーしさっしょくっ!?」


「はーいはい。落ち着きなさいね。まだ返事してないから」


 グキリと首筋から鳴ってはいけない音がしたかと思ったらジーノの顔が空を向いて悲鳴を上げた。

 その後ろではアリアが頭をつかんで引き倒している。前に詰め寄っていた拍子にあんなことをされたら抵抗もできなかっただろう。恐ろしい……。


「抑えておくから。カール」


「うん、ありがとう。えーとね? 開拓者はだいたい数人で行動するんだ。別にそうしなくちゃいけないってこともないんだけど、そうしたほうが安全だから」


 たとえばカールたちが今日襲われたツインテールウルフみたいに、一人だと相当の手練れでなければ一方的に攻撃されまくる危険指定種に対しても集団でかかればどうにかなる。

 カールたちは人数が少なかったせいで危なかったが、人数がいればもっと強い危険指定種とだって戦えるようになるらしい。


「他にも、両手剣を持ってる人が、片手剣と盾を使ってる人と組んで防御と攻撃の効率を上げたり、戦いはそんなに得意じゃないけど鍵開け(ピッキング)とか地図作り(マッピング)ができる人はそういうのが苦手な人と一緒にいたりするし、炊事関係ができるとか、とにかくお互いの特技を持ち寄りあって協力していくんだ」


「なるほど。お前らは……ええと俺の『倉庫』を借りたいってわけだ」


「ありていに言うとそうなんだ。例の『倉庫』があったら持ち帰れる獲物の数も増えるし、戦いの中で気にしなくていいから」


「ただでさえ魔法使いは人気があるのよ。弓のほうが早いけど、火力を比べたら魔法使いに軍配が上がるからね。魔力が切れるならサブで弓とか練習すればいいわけだし」


 ジーノの頭をヘッドロックみたいにして固めながらアリアが言った。

 ウーツは弓のような遠距離の武器は持っていなかったが、その代わりに短めの杖を使った格闘術を使えるらしい。


「わたしたちのところにいるけど、ウーツだって本当は引く手あまたなんだから」


 強い魔法使いは国の魔法兵になってしまうから、開拓者には少ないのだそうだ。魔法兵になれば安定して給料ももらえるから、不安定な開拓者職に比べればやはり人気があるらしい。


「ウーツは宮仕えは嫌だって言って、最初に組んだ僕らとやってくれてるんだけどね」


「おれも宮仕えは肩が凝りそうだなあ」


 この世界の作法なんて知らないし、絶対にどこかでぼろが出るに違いない。


「でさ、見たところ一人っぽかったし、ストーンだって言うでしょ? だったら無名のうちにコナかけとこうかって思ったんだ。特に……ええと、『倉庫』だっけ、『倉庫』なんて使えたら絶対にブロンズ……いや、ゴールドランクからのお誘いが来るだろうし。もしかしたらプラチナランクからも来るかも」


「ちょっとカール!?」


「そんなこと言ったら絶対断られるだろうが!」


「どうせいつかばれることだよ。だったら最初に言っておいて、雰囲気で勝負しようと思って。どうかな? 僕らと一緒にやってみない?」


「そうだな……」


 強さ的にはガラスランクだが、カールたちとパーティを組むメリットは多い。

 まず、ジーノとアリアの二人が剣士なので、迷子になってツインテールウルフを相手にしているときに散々思っていた魔法使いの弱点、詠唱の時間を稼いでもらえる。

 これが一番大きい。俺の能力はチートのおかげでけっこう強いはずなので、詠唱さえできればそれなりに敵なしなのだ。


 走りながらでも詠唱はできるが、狙いは甘くなるし、息切れして失敗するかもしれないので大砲として活躍できるならそのほうがいい。

 そして、ゴールドランクの誰それさんとは違って、もうすでにばれているため、ロストテクノロジーである空間魔法を自重しないで役にたてられる。


 人間なのでそう戦力に違いもないだろうし。

 違うのだろうか?


 そしてカールたちは俺を入れることで今いるところよりも上を目指せる。

 ギブアンドテイクとしてはいい感じだ。


 だが、俺はそこで考えた。俺はこの世界を楽しみ尽くしたいのだ。開拓者をやっているのは、単にてっとり早くお金を稼げる手段だからで、同時に自由が利きそうだからだ。


 未知の場所。

 知らない世界。

 体験したことのない出来事。

 体感したことのない存在。


 対外的には堅苦しさが嫌と言っているが、本当のところは、そういったものが味わいたいからこそ、宮仕えは嫌だと言っているのだ。


「俺はもうしばらくどこにも入る気はないよ。縁がなかった……いや、縁の力が足りなかったと諦めてくれ」


「そっか……」


 とても残念そうにされる。カールのこんな顔を見ていると翻意するかもしれないとも思ったが、意外にもそういった気は全く起きてこなかった。


「じゃあ今回はここまでにするけど……機会があったらまた誘ってもいい?」


「ああ。是非。半日にもならない短い間だったけど楽しかったしな。お互いが王都にいれば会うこともあるだろうし」


 手を振って別れると、ちょうどそこは腹黒亭だった。


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