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Chapter11[馬小屋生活]

「つまり君は僕を女の子だと、そう思っていたんだね?」


「ついでに言うなら、うっかり一目ぼれをしていました」


 帰り道、叫んでしまった俺はカールの追及を避けきれずについにすべてをゲロってしまった。

 どうやら女と思われていた、と知ったカールは不本意だったようで、頬をぷくっと膨らませている。見ているとやっぱりかわいいとか思えてきた。


 もうこの際……いやいや、さすがにその選択は音速(マッハ)すぎる。この世界に来て最初の女衆が無愛想ロリ、ポンコツ受付嬢、嘘つきギルド職員という濃いメンツだったから頭がどうかしているのだ。


 平均レベルを確かめてからでも遅くはない、はず。


 とか考えていたら剣士の男のほう、ジーノに腕を肩に回された。


「ショウタ、同士よッ!」


「ジーノ、お前もかッ!」


 がっしりと肩を抱き合った。前側では握手もする。

 俺たちは心を同じくするものなのだ。


「なあにやってんのよ……」


「うるせえ! お前に俺たちのブレイクハートがわかってたまるか!」


「そうだ! 女には男の純情はわからねえんだよな!」


「おうとも兄弟!」


 もはや握手だけにはとどまらず、がっしりとハグで親愛の表現をする俺たちをさらに気持ちの悪くなったものを見る目で剣士の女の方であるアリアが見ていた。

 完璧にドン引きしている目だ。


「なあ兄弟。ところであいつのどこに惹かれた? やっぱりケツか。ケツだよな」


「え? 俺は脚線美に一番……」


「……何言ってんだ。あのケツに惹かれないわけがねえだろ? ほれ、照れるこたあねえよ。正直に言えって」


「……何言ってんだ? まず脚線美だろ? 尻が良くても脚線が好みに合わなかったら画竜点睛を欠くってもんじゃないか」


「「…………やんのかこのやろう!!」」


「なあにやってんのよ」


 一転して胸ぐらをつかみ合ってなぐり合い始めた俺たちをアリアのさらにあきれた目が貫く。二人してそちらを見て、


「「……」」


「なによ?」


「「いやあ、好みには合わねえなって」」


「そこにいなさい。なますにしてあげるからッ!」


 一転、また仲良く逃げ始める。

 悪くないのだ。アリアも十分にきれいな方だとは思うのだが、微妙にストライクではないのである。抱けるかと言われたら抱きたいと答えることろだが。

 いまの俺はカールのせいで舌が肥えている。


「あのね、後腐れのないように言っておくと、僕は、男だからね?」


「まったまたあ。この間アリアと女湯の方に入っていったじゃねえか」


「あれはアリアが無理やり引きずってったんだよ! 僕は男湯に入ろうとしたじゃないか!」


「そうなのか?」


 ジーノとつばぜり合いをしているアリアに尋ねるとうなずかれた。


「だってカールが男湯に入ったら大騒ぎになるでしょ? 男湯に女の子が入ったらダメじゃない」


「「なるほど」」


「なるほどじゃないよ! 僕は男だってば! ねえ、ウーツ!」


「あ、ああ、俺は、ちゃんとわかっているぞ」


「だったらどうして目をそらすんだよ!?」


「家庭の事情というやつだろう?」


「それ最近ウーツが吟遊詩人から聞いたって言ってた話の女の子じゃないか! 故あって男装してるけどバレバレっていう!」


「えー? 違うだろウーツ。そこは亡国のお姫様ってやつじゃねえと」


「ジーノも! そっちは追手から逃げるために男装してるやつだし!」


「わたしはわかってるわよカール?」


「そうだよね! だってお風呂の時に見られたもんね!」


「昼は男の体、夜は女の体……魔女に呪いをかけられたんでしょう?」


「やっぱりこんなオチか! 読めてたよ!!」


「運命のキスで呪いは解けて美しいお姫様の姿に」


「ならないよ!」


「よし、まかせろ」


「まてジーノ! 俺がやる!」


「ならないっていってるのに!」


「カール……これだけ周りが言ってるんだぜ? もうほんとのこと言えって」


「最初から言ってるよおおおおおおおおおお!!」


 カールが叫び、町の通りを歩いている人が何事かとこちらを振り向いた。


「あ、あはは……」


 愛想笑いでカールが切り抜けてくれたので問題はない。

 危険指定種の相手をしているよりも人間の相手をしているほうが向いているのではないだろうか。

 開拓者ギルドに戻ると、ポンコツ受付嬢のところで例のドロップキック女が手招きしていた。


「うげっ! ドローレスがこっちに手招きしてるぞ」


「だれか何かやったか?」


「僕は何も……」


「わたしだって何もしてないわよ?」


「正直に言え、アリア。男の取り合いでもしたんだろ?」


「しないわよ! ドローレスってば行き遅れ気にしてて怖いのに……」


「うおっ! いまこっちを見る目が睨む目に変わったぞ!」


「あの目は人殺しの目だぞ……!」


「あー、僕、依頼の報告に行ってくるね? エドさんの所で」


「俺、便所」


「俺も一緒に行こう」


「俺も俺も」


「ちょっ! なんでわたしから離れていくのよあんたたち!」


 それはもちろん命の危険を感じたからだ。

 知りませんよー? あの人は赤の他人ですよー? 僕たち関係ありませんよーう。


 戻ってくると、ポンコツ受付のところにまだ鬼がいた。

 鬼……もといドローレスは俺を見つけると手招きしはじめる。

 ポンコツのところだと時間がとられそうだから結果として回転の速そうなハゲのマッチョ――さっきカールが列に並ぶときにエドとか呼んでいた――のところに行こうとしていたのだが。


 無視すると回り込んできて「ドローレス から は にげられない !」とかウィンドウで表示されそうなので仕方なくポンコツ受付嬢のカウンターのほうに行く。


「なんだよ……」


「さっき例の魔法姫ちゃんが帰ってきたから。ユヴェルの森なんだけど、やっぱりツインテールウルフのクイーンが近くまで来てたみたい」


「まさか倒して来いって?」


「無理に決まってんでしょ。思い上がるんじゃないわよ新人未満。あれは危険指定五号種の怪物。平均レベル(アイアンランク)の開拓者でも集団でかかることを推奨してる危険度の魔獣なんだから」


 ようするに俺では勝てない相手らしい。


「じゃあなんで俺を……」


「応援してあげようって心遣いよ。あんたが受けてる依頼なんだけど、アヤシ草って草原だとまばらでしょ? でもユヴェルの森だと簡単に手に入る。女王を失ったツインテールウルフはどこかの群れと合流するから、三日くらい後になったら入ってみるのもありよ」


「ああ、なるほど」


 どうやら今日一日、俺が草原でアヤシ草を探していたと思われているようだ。


「その依頼の報告に来たんだ」


 カールたちの反応から空間魔法のレアさについては想像がついたので、買い取り商にウルフやオークの死体や持ち物を売った時に手に入れた金で買った革袋の中から摘み取ったアヤシ草をカウンターの上に出す。

 カールたちには金を握らせて黙っていてもらおうとしたのだが、命の恩人の秘密を喋ったりしないと言われて受け取ってもらえなかった。

 俺が倒したツインテールウルフもさばいて売値を上げてくれたし、いいやつらである。


「これは……アヤシ草よね? どうやってこんなに集めたの? 草原の中にも生えてるといえば生えてるけど一日で集められる量じゃあないでしょ? 前もって集め……てたらこんな鮮度は保ってないか」


「察しの通り、森の中に入ってきた」


「わたし、ツインテールウルフがいるって言わなかったっけ?」


「だから十分に用意をして行ったんだ」


「この命知らずが……」


「王都まで来たのはいいけど、今日の宿をとる金もなかったからちょっと博打に出たってわけだ」


「宿無し? だったら宿で馬小屋の掃除の代わりに泊めてくれって言ったら馬小屋に泊めてもらえるわよ?」


「いや、さすがにそれは……」


 だが、ストーンランクの開拓者はけっこうそうやって夜をしのいでいるんだとか。あるいは数人で固まって野宿が基本だとか。

 水や火は魔法で出せるとはいえ、文明人として馬小屋生活は避けたいところだ。


「初心者はよくコロシ草を持ってくるんだけど……よし、一本も混じってないわね。これ以上はない?」


「あと三十本くらいあるけど、買い取ってくれるのか?」


「ええ。アヤシ草は乾燥させて煎じると下痢止めの薬になるの。乾燥させておけば日持ちするから、旅人に売れるのよ」


「へえ……こんな怪しい草がか……」


 アヤシ草の紫色の葉に浮かんでいる白いドクロと目を合わせる。

 とてもこの草に似つかわしくない薬効だ。

 暗殺に使われてますというほうがよほど納得できる。

 社会のポリープ(腐った政治家)を取り除くという意味で。


 迷子になった間に倒した危険指定種(ツインテールウルフ)のおかげで懐はそれなりに温かいが、売れるのなら売ってしまおう。

 革袋の中に蔵の門を開いて、革袋に入っているように偽装しながら聞いてみたいことを聞く。


「なあ。魔法が使えたらガラスランクになれるってホントなのか?」


「そりゃあそうよ。実戦レベルで魔法が使えるやつは百人に三人くらいって言われてるのよ? 大騒ぎするほどでもないけど、そんなやつをクズ石(ストーン)とは言えないでしょ?」


 そうなのか。


「何? 使えるの? だったら演習場まで連れて行ってあげるわよ。嘘だったら嘘つきの罪でしょっぴくけど」


「とりあえずそんなもんがあるならあんたが真っ先に捕まれよ」


 眇めでにらんでやったが、どこ吹く風という調子である。


「まあいいや。あとは……そうだな。適当な宿屋を教えてくれないか?」


「そうね……。素直に馬小屋使ったほうがいいとは思うけど……すぐ前のメインストリートからこっち側に二本入った通りの、腹黒亭ってところがいいんじゃないかしら。安いわよ?」


「大丈夫なのかその宿屋……」


「ギルドと提携してるのはもっとちゃんとした宿屋だから高いのよ。少なくとも三十デローそこそこしか持ってないんじゃ泊まれないわ。それに、そういうところは最低三日からって制度になってるからアンタじゃお金が足りないでしょ」


 この世界は名前に反した内容を持っているとかそんな天邪鬼になっているのだろうか。唐辛子が甘かったり砂糖がやたら塩辛かったりしたらどうしよう。


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