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Chapter9[デタラメチート性能]

「あった。これか」


 俺は再びユヴェルの森に来ていた。

 ツインテールウルフのこともあるし、死ぬかもしれないのはわかっているのだが、王都近くでアヤシ草が生えている場所は草原の中にたまーに生えているのと、このユヴェルの森らしい。


 アヤシ草は日当たりのあまりよくない場所を好む。なので森に入るのが一番発見率がいいのだ。実際、かなり簡単に見つかっている。

 元の世界で草なんてタンポポとかそのくらいしかわからなかった俺だが、アヤシ草は花が咲いてなくても簡単に見分けられる。

 紫色の混じった葉に、白いドクロのような模様が浮かんでいるからだ。


 怪しい。超絶怪しい。見た目には完全に毒草である。

 しかしこれが煎じれば止瀉、つまり下痢止めの薬になるのだとか。

 アヤシ草だと思って寄ってみると、たまに茎の四角いアヤシ草も見つかる。こちらはコロシ草といって、本物の毒草だ。食べると息ができなくなるとかで、下手をしたら死ぬとも聞いた。


 こんなに簡単に見つかるのにわざわざ依頼があるのは、やはりツインテールウルフがいるからなのだろう。やつらは集団で獲物を襲うので、数人で取りに来ると死ぬらしい。

 今の俺は前の反省を生かして常に肉体強化の魔法をかけ続けているので全く怖くない。すでに二回襲われかかったが、普通に走ったら逃げることができた。ぶっちぎりである。


「さて、これで五十本目!」


 五十。そう、二十本ではなく五十本である。もう帰っていいのだが、俺はまだ帰っていない。それどころか森を徘徊していた。


「迷子です」


 またである。最初はよかったのだ。アヤシ草はすぐに見つかったし、あっという間に目標数を達成できそうだった。

 しかし、ツインテールウルフに追い掛け回されている間に道も方向も頭からすっぽーんと抜け落ちて、迷子一直線になってしまったわけである。

 道くらい覚えてればいいやー、森にいても太陽の方向くらいわかるから平気ー、とか考えていた数時間前の俺が何の用意もしてこなかったせいで森から出られる気配もない。


 俺はチートのおかげで魔力の量が半端なく多いので魔法を使い続けていられるが、普通の魔法使いだったらもうとっくにオオカミの腹の中(赤ずきんちゃん)である。

 我ながら反省のない。仕方がないので今度からがんばります。


「でも日も暮れてきたし……さすがにオオカミのいる森で野宿はなあ」


 いっそ魔法で森をぶち抜きながら一直線に進むか、と乱暴な考えが顔をのぞかせる。理屈の上では直線に進めば森から出ることはできるはずだ。

 問題はどっちに行けば王都なのかということだが、それもレニングヴェシェンにいるときに「北東に向かえばユヴェルの森」と聞いているので、逆に進めばいいのだ。

 空が赤くなりつつあるので時間もない。


「やるか……。空に滲み出す黄昏の朱色。黎明に満ちる世の終焉。染めろ。漂え! 崩壊の序曲を奏でる暗闇の足音は地鳴りのごとく。総ての足枷と戒めを解き、旧世界の君臨者の剣を呼び覚ませ! 燃えよ大地。黒き者の持つ破滅の枝! グランドフレア!!」


 詠唱によって頭の中で魔力を使う知識が法則に成立する。

 魔力で作られた炎が周辺の木々を焼き払うために範囲に定めた周辺から立ち上り、


「っぎゃあああああああああああああああああっっ!?」


 火力が高すぎた。グランドフレアは範囲内の大地から炎を発生させて焼き尽くす上級魔法。

 太陽の方向を見るために、木がなくなるくらいの炎を出す魔法をイメージして頭の中に浮き上がってきた詠唱をそのまま唱えたのだが、予想以上の熱量に悲鳴を上げる。

 地面から火が出て焼き尽くすというから、根元を燃やして倒木にするのかと思ったらまるで違う。


 地面の下、地獄からでも突きあがってきたような灼熱そのものが円柱状に、あるいは円錐状に高く吹き上がり、焦熱という現象そのもので中のものを根こそぎに焼き尽くした。

 火柱は一分ほども燃え続け、ようやく収まった時にはそこには何も残っていなかった。全部燃え尽きたようだ。


「え……と。とりあえず太陽はあっちだから……」


 南西の方角にあたりをつけてそちらに進む。ウィンドランスで発生する風の槍で木を折って目印にしつつ、まっすぐを意識して進む。

 忘れるのだ。今の破壊力を。さすが魔法チート、午前中に見たあの大重力潰殺陣(グラヴィティサークル)に匹敵するめちゃくちゃな威力である。

 まあ範囲は三十メートル径くらいだったし、重力で金属が歪むなんていうでたらめさとは比較できないが。


 しかし俺のチートは魔法。神は人類最強クラスのチート度合いと評していたので、やろうと思えばあれくらいはできるということでもある。

 ()()魔導士ということはこのグリニャード王国につかえている一介の魔法使いということだろうから、強ければあれくらい当たり前なのだ。

 なんて世界だ。怖すぎる。


 とりあえず国とかには極力逆らわない方針で行こう。あんなのがホイホイ飛んでくる戦いなんて勝てる気がしない。

 例のものすごい詠唱の長い最上級魔法で先制決めたらどうかわからないけど。知識によればあれは対人ではなく対陸魔法カテゴリーのデタラメチート性能みたいだし。


「できることならもっとこう、素早く撃てたらいいんだけどな」


 魔法ということで詠唱するのだ、みたいな認識でいた初日とは違って俺はもう魔法の原理を知っている。

 なにしろ時間だけはたっぷりあったので、チートで埋め込まれた魔法の知識と自問自答気味に確認作業をしていたのだ。

 そこで魔法に関する知識の中に詠唱に関する項目もあった。


 この世界の魔法とは、ゲーム的に、あるいは創作的にただルールだから詠唱しなければならないものではない。

 そもそも魔法とはこの世界の外にある異界の法則であって、それを再現することで魔法として行使する。


 法則とは世界のルールそのものだ。たとえば光は直進する。火が発生する条件など。俺の世界で科学によって解き明かされてきた法則を思い浮かべてみて、それから違う条件の世界があったとしたら、と考えればわかりやすい。

 光は曲がって進むのが当たり前。水が燃えたり、猫がしゃべったりするのが当たり前。重力は1Gと呼んでいる強さではなかったりするかもしれない。


 詠唱をすることで脳にリズムを刻み(刺激を与えて)、法則を演算させて、つまり普段使われていないその脳の未解明な部分で魔力という力を誘導して、魔法という形で出力するのが魔法だ。

 だから最後に狙った形で出力する機能さえ再現できれば詠唱は必要ないし、決まった形でなくてもいい。


 つまり、俺の詠唱が固定されたようになっているのは、この世界で昔に魔法を使っていた人が「この詠唱はたくさんの人が魔法を使える、使いやすいすぐれた詠唱だ」と発見していったことによる。

 神が与えてくれた詠唱の知識はこの世界に俺より前に派遣されてきた人たちから報告されたものであるらしく、だからチートで手に入れた詠唱の知識なんてものがある。


 魔法も難しい話になると認識による世界構築やら脳の構造がどうのという専門知識をもってしても難解なところに向かうので今のところ面倒になって、そういったお勉強らしいものまでは手を出さない。

 なんとなく気になったものを調べておく程度で精いっぱいだ。

 とか考えていたらツインテールウルフを見つけた。


「マジで多いのな……」


 これで何度目か。迷子になっている間にも遭遇したのを含めると六回目くらいである。

 途中、追い掛け回されている間にほかのツインテールウルフの群れに遭遇して挟み撃ちにあいかけたのもカウントしている。

 だが幸いなことに、まだ見つかっていないらしい。風下だったのか、ツインテールウルフはこちらに気付かず、遠吠えが聞こえてきたかと思えばあっという間にかけていく。

 幸運に思ってしばらく立ち止まっていると、遠くから悲鳴らしきものが聞こえてきた。


「まさか……」


 襲われている人がいるのだろうか。さっきのツインテールウルフたちが俺に気付かなかったのはそのせいもあったということか。

 風上から空気を媒介して聞こえてくる悲鳴はやがて雄叫びになったりしている。


「行ってみるか」


 この先で誰かが――といってもユヴェルの森に入るのは現状、開拓者くらいのものらしいので開拓者が――戦っている。

 なりたて開拓者の俺からしてみれば先輩の開拓者ということになるし、見学すればいろいろ参考になるかもしれない。

 足音を忍ばせて、音の流れてくる元のほうへと寄って行ってみる。


「うおおおおおおりゃああああああああああああああ!!」


 暑苦しい雄叫びが耳をつんざく。

 茂みの陰からそっと見てみると、木々の中で四人ほどの人間がツインテールウルフに襲撃されて、手に手に武器を持って応戦していた。


ストック終了。でき次第なので不定期更新です。頑張って定期にしたいですが。

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