File.8 舌打ち系メイド
File.8 舌打ち系メイド
「チッ……。面倒だな」
と私、メイドの桜崎かなかは今の状況について不満しか無かった。私は料理や洗濯と言った家事は得意なのだが、ちょっとだけ苦手にしている事がある。
「かなかー」
「メイドさーん」
「だっこ! だっこ!」
それが今、行っているガキの子守である。ガキの行動と言うのは話を聞いても分からない事の方が多く、なおかつその行動範囲と言うのもこちらが決めたのにも関わらず平気で破って来る、困った奴らである。
私は今、そんなガキの子守を行っていた。こいつらは私を雇っている主人の子供やその親友の子供達である。メイドを雇うくらいお金持ちであればこのような横の繋がりによって、同い年くらいの子供達を遊ばせる事も多い。私はご主人より子供達を見るように頼まれた。頼まれたのだが……
「チッ。なんか疲れるよな、ガキの子守ってさ」
私はそう言いながら、買って来た缶コーヒーを飲みつつ、子供達の事を見守る。
あいつらは私の子供時代よりも恵まれた生活を送っている。私の子供時代は生きるのにも精一杯で、少ない食料を分けて過ごしてきた物である。けれどもあいつらは親が金持ちであるため、そう言った苦労も無くて日々を幸せそうに生きている。一日一日、いつ死ぬかと言う事を考えて生きていた私とは違って、こいつらは未来が楽しそうで何よりである。
「チッ……」
イライラする気持ちを抑えるようにして、私は缶コーヒーを一気飲みする。あいつらは別に悪くはないが、私の気持ち的にそんな事を考えた自分が許せないだけである。そんな事を考えていると、1人の少女が近付いて来る。確か……うちの家の娘だったか? まだ働き始めたばっかで、子供の顔ってなんか似たようなのばかりで見分けがつかないんだよね。
「何の用だ……?」
私がそう聞くと、彼女は手を差し出す。その手には白い花で作った冠があった。あの白い花……確か名前はシロツメとかそう言った名前だったような?
「……で、その花を渡して何の用だ?」
「あげる」
と、彼女は可愛らしい声のまま、私の頭の上からその白い花の冠をかけてくれて、満面の笑みでこちらを見る。どうやら私に対しての贈り物のつもりでこの花を渡しているみたいである。正直、こんな花の冠を貰って嬉しがるような歳ではないし、そう言った物で喜ぶ性格ではないので困惑するばかりであった。
「あー! メイドさん、いいなー!」
「みなちゃんのはなかざり、にんきなんだぞー!」
「でもメイドさん、いいひとだしなー。このまえも、おかしつくってくれた!」
「おねしょもやってたよね!」
「みなちゃんはいいめいどさんがいるよなー。うらやましーい」
「そうだ! そうだ!」
……なんか私の事で盛り上がってるようだが、私としてはこいつらにそんな大層な事をした覚えはない。お腹を減らしている子供達に対してお菓子を作ってあげる事も、おねしょした事に対して怒りもせずにお布団を干すのも、メイドとして当然のことだからだ。それを子供達がどう思うが、私には関係のない事だ。ただ、関係のある事と言えば、子供達が寄ってたかってうちのお嬢様に寄ると、うちのお嬢様が泣いちゃうから困る。泣かれると監督者である私が怒られるから困る。子供の探求心は大いに結構だが、せめて私のいない所でその探求心を発揮して欲しい物だ。
「ひっく……」
あぁ、くそっ! もう泣きかけのお嬢様の首根っこを掴んで、背中に乗せる。
「ほら、そろそろ帰るぞ」
ごねる子供達を無理矢理説得しつつ、私はお嬢様を連れて屋敷へと戻っていた。その途中、背中で「ありがとう」とお嬢様が言って来た。
チッ。やっぱり子供は苦手だ。
その素直な言葉にどう対処したら良いか分からねぇから。