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File.52 獣人メイドのはじめてのおつかい

File.52 獣人メイドのはじめてのおつかい


 この世はなんて理不尽なのでしょう。

 この世には獣人と人間の2種類が居まして、獣人は人間の命令には逆らえない人間の奴隷であり、従僕であり、社会的弱者です。

 私は自分自身で考える事すら許されてはいませんし、それに自分自身でどうするかも許されてはいません。


「……と言う訳で、ミケよ! このメモに書いてある物を買ってきて欲しい! お金はここにある!」


 私は主様の部屋へと呼び出されると、いきなりお買いものメモとお買いもの袋を渡されて、家の外へと放り出されていました。窓からは他の獣人メイドの皆様がこちらを見ながら「頑張れ」と言う旗を見せており、逃げ道を絶たれてしまった私はそのまま外へと出るしかない。


「外に出るなんて……こ、ここ、怖い」


 私は外へと出ると、生まれたてのカモシカのようにプルプルと震えながら歩いていた。

 この世界、獣人が1人で歩くのは本当に危険な世界である。獣人には人権はなく、なおかつ例え犯罪に巻き込まれようともそこに責任の二文字は人間には存在しない。無事に帰れたとしても、待っているのは使命を果たせなかった私に対するおしおきだけだ。

 多分、先輩の獣人メイドが言っていたような、えろどうじん(?)みたいな、とんでもなくヤバいおしおきを受けるに違いない。


 誘拐? 殺人? それとも窃盗?

 どんな犯罪に巻き込まれようが、それを起こしたのが人間ならば悪いのは獣人の私。同じ獣人が起こしたのだとしてもきっと私の御主人様とその獣人のご主人様のどちらの人間的価値が高いかと言う話へとなるに違いない。


「ううっ……こ、怖い!」


 怖がりながらも、このまま帰ったとしたら自分は主の責務を果たせなかった獣人としてお叱りを受けるに違いない。

 え、えろどうじん(?)だけは勘弁して欲しいです。


 ともあれ、私は耳をピンと立て、そして尻尾で風の流れをしっかりと把握しながら、目的地である魚屋さんへとやって来た。


「いらっしゃいませー! あら、ミケちゃん! いらっしゃい♪」


 私をそう言ってニコリとした笑顔で迎えてくれたのは、この魚屋さんに仕えている獣人メイド、狼のウルさん。ウルさんは銀色の毛並が美しい、世が世ならば王宮にでも言って可笑しくないくらい、気高く美しい獣人さんですが、このご時世、獣人の地位なんてあってないような物なので、こうして魚屋さんの番犬代わりをさせられているみたいです。あぁ、おいたわしや……です。


「今日はどうしたの? 1人? 携帯でミケちゃんの主様の他のメイドさんを呼ぼうか? それともあの家が嫌で出ちゃった?」

「……! そ、そんな事ないよ! 家を出るなんてそんな事しないよ!」


 主様の家を出るだなんてとんでもない! あの家を出て、主様のご加護が無くなったら、私は野良で飢え死にか、それとも他の主様にこき使われるかのどっちかである。

 それに、こんな主様を裏切るような事を言ってるのを聞かれたら、私がどんな目にあうか……。


「そう? 無理しないで、本当に嫌だったら否定したって構わないのよ? あなたの主様が嫌ならば、うちで働いても良いって、ご主人様も言ってらしたし」

「そ、それでも良いの! あ……ありがたいけど、今日はこれ!」


 と、私はそう言ってウルちゃんに主様から渡されたメモを渡す。


「あら……そう、そう言う事ね。分かったわ、はい、これ」


 ウルちゃんはメモに書いてあった魚、私の大好物のカツオを丸ごと持って来てくれた。


「ありがとう」


 私はそう言って、片手でカツオを持ち上げると、主様から渡された財布からお金を差し出す。


「いつも思うけど、その身体からどうやって、私以上の怪力を出せるのかしら? 流石に、私でもカツオを1人では持てないけど」

「日々の鍛練、です。では、ウルちゃん、またね」

「まっ、たね~」


 そう言って、私はウルちゃんに別れを告げて、そのまま家へと帰還する。

 途中、私を後ろから覗く怪しげな人達が居たので、怖くなりつつも私は無事帰還するのであった。


 後にこのミケちゃんの様子は、『はじめてのおつかい』として彼女の主のコレクションの1つになったそうな。

わとすこさんのリクエストにより、獣人メイドの第2弾を投稿します。

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