File.51 崖っぷちメイド
File.51 崖っぷちメイド
皆様、こんにちは。私、三輪安子と申します、ごくごく一般的なメイドです。強いて特徴をあげると言うのならば、私の今の状況でしょうか。
私は今、崖っぷちにいます。物理的にも、社会的にも。
きっかけはなんだったでしょうか?
あまりにも酷い主である主人を全員でストライキを申し込みに行ったら、もう既にご主人様は死んでいて、周囲の人達から主を殺したいと言う事を連呼したのが止めだったのでしょうか? それともストライキのために、いざとなったら脅すためにナイフとかの武器を持っていたのが間違いだったのでしょうか?
私達、元宿里家の使用人達は揃ってまとめて指名手配犯になりました。それからは各々別に逃げていました。勿論、私もです。
ですが、その他に逃げた使用人達が余計な事をしてくれました。警察に捕まりそうになればなんらかの原因で自害し、もしくは逃げる際に人質とかを取る人が現れたのが原因でしょうか。
ご主人様が殺された方法も、犯人も警察も、勿論私達使用人達も分からずじまい。
おまけに事情を知っていそうな使用人達は揃って口封じされたかのように皆死んで。
残ったのがストライキをしていた使用人達の中でも一番影の薄かった私。
「もう逃げられないぞ!」
「大人しくしろ、殺人メイド!」
……捕まえようとして揃って皆、死んだ事が、真犯人に口封じされたように警察は思ったのでしょう。そしてそれを行ったのが、使用人達の中で一番影の薄かった私とくれば、警察が考えるのはたった1つ。
「お前が全ての事件の黒幕だって事は分かっている! 大人しく観念しろ!」
私を全ての事件を影で操っていたメイドと言う事にしたいのでしょう。
(ドラマの見過ぎですよ)
あの事件の犯人は私達の中には居ない。少なくとも私が知る限り、そんな人物は覚えがない。
確かに使用人に対して雑な扱いをする主人を殺したいほど憎んではいたが、それはあくまでも比喩だ。改善されれば少しは話の余地があった。なのに……勝手に殺されてしまった。
(ドラマの間違いと思うのも、この場所が原因でしょうかね)
と、私は崖の上にたたずみながらそう思う。警察は私を犯人としたいらしく、聞くはずもない説得を続けている。
何故、私が犯人なのだろう?
あの家から私の指紋が出たと警察は言うが、そんなのは働いていたから当たり前だ。
他の人達が全員死んだからとマスコミは言うけれども、それはあっちが勝手に死んだからだ。決して口封じなどではない。
この世界には神も仏も、そして事件を解いてくれる名探偵も居ない。ただ、現実は非常に流れていくだけである。
「あぁ……もうどうでも良いや」
私が崖の下にある大きな渦を見ながら言うと、刑事達が「バカな真似は止めろ!」とか「死んでも意味は無いぞ!」とか呟いている。もうどうだって良い。
メイドではなく、最期はただの凶悪犯罪者として死ぬか。
本当はメイドとして生きたかった。もっと人に尽くしたかった。昔見た、あの日の母のように。
「それも虚空の幻、か」
私がそう言うと、刑事達が拳銃を構える。震えているけれども、そんなので撃つつもり? 本当に笑えてくる。
「さよなら、私のメイド人生」
そう言って犯罪者として、崖っぷちに落ちたメイドとしての末路を迎えようとしたその時、
"彼女"が現れた。
「その事件、ちょっと待ってくださいな」
そう、探偵メイド、新野閃が来たその時、私の人生は変わり始めていた。
探偵メイドは後にこう語る。
「被害者の隣に遺書があったでしょうが」と。