File.43 逆ハーメイド
File.43 逆ハーメイド
人気のない校舎裏。そこに1人の女子生徒が顔を伏せていて、1人の先輩男子が立っていた。
女子生徒の方は亜麻色の髪のツインテールの、ブレザーを着たちょっぴり胸が大きめの美女と言うよりかは美少女と言う印象が強い娘である。男子生徒の方は茶髪のショートヘアーの少し焼けた小麦色の肌が眩しい、健康的なスポーツ男子高校生と言う感じである。
「せ、先輩……! 私、先輩の野球に打ち込む姿が、キラリと光る汗が、大好きです! どうかこの私、久常院優里枝と付き合ってくださいませんか!」
そう言って彼女は、ペコリと頭を下げて、スポーツ男子と言う印象が強い、その男子高校生へと手を差し伸べていた。それに対してスポーツ男子はなんとも申し訳なさそうな顔で彼女を見ていた。そして男子高校生は「ごめん!」と頭を下げていた。
「俺、好きな人が居るんだ! だから……ごめん! あなたとは付き合えません!」
「そ、そんな! あなたの好きな人って誰なんですか?」
「そ、それは――――――2年2組の柏木……」
「それってもしかして……柏木美奈代……」
それは優里枝にとって本当に良く知る人物であった。
2年生で、2組の柏木美奈代。
その人物は、優里菜の家である久常院家で働いているメイドであった。
☆
「また取られた――――! 美奈代のバカー!」
「お、お嬢様! 落ち着いてくださいませ」
と、えんえんと泣き続ける優里枝を、1人の人物が慰めていた。
艶やかな黒髪が怪しく光る三つ編みの女性。口の下には大人らしい泣き黒子、大人らしい怪しさを漂わせているメイド服を着ていた大人の女性。彼女こそが柏木美奈代。
「今日告白した彼氏も、美奈代の事が好きって言ってたんだよ! もう10人だよ! 取り過ぎだよー!」
「はぁー……すいません」
美奈代は謝りながら、優里枝の頭をよしよしと撫で続ける。そして優里枝はえーんえーんと、さらに泣き続ける。
「私、別に尻軽じゃないよ! 全然違うんだよ! 告白だって結構、慎重にやってるのにー!」
「美奈代様、ジュースいただきますか?」
「……うん。ありがと」
優里枝はそう言って、美奈代のポケットから差し出されたジュースの缶を受け取る。受け取ると共に驚いていた。
「これ、とっても冷たい! な、なんで!?」
と、美奈代は差し出されたジュースの缶を受け取っていた。先程ポケットの中から差し出されたはずなのに、それなのに冷たいから驚いているのである。
「……先程、買いました。美奈代様が欲しがると思いまして」
「う、うーん。……前から思ってたけど、優里枝はそうやってお節介焼きですよね」
「後、これは美奈代様が欲しいと申していたアクセサリーです」
ポケットからまたしても取り出したアクセサリーを渡す優里枝。
「優里枝……あんたは本当にお節介焼きで……まぁ、そこがあんたの……」
「美奈代様……」
優里枝は美奈代に対し、ある程度の信頼を寄せていた。そして仲良くなりつつある中、優里枝と美奈代の2人に、主従関係に強くなりつつある2人。
「優里枝! お前の事が!」
「優里枝さん! 私、あなたの事が……!」
「柏木先輩! 私、あなたと共に居たいです!」
「メイドとしてではなく、1人の女性として……」
「私はあなたの事が……」
そうやって部屋の中に入って来る男達。そいつらは美奈代が告白した男性ばかりではなくて、家で働いている執事達の姿があり、その人達の恋する瞳は全て優里枝へと向かってしまっていた。
美奈代はふるふると拳を震わせていて、
「優里枝――――! 逆ハーレム、築いてるんじゃない!」
優里枝へと怒るのであった。
「……美奈代様。すいませんです。この方達、今すぐ帰します」
「もう良いよ! 1人で逆ハーでもなんでもしとけば良いんですよ――――!」
そうやってえんえんと泣きながら、美奈代は出て行った。
「……美奈代様。泣いてばっかしですね」
溜め息を吐きながら、優里枝は無理矢理来た男達に事情を説明しながら、今度はどうやって美奈代を慰めようかと考えていた。




