File.39 ふつうのメイド
File.39 ふつうのメイド
「――――――す、好きだ! 付き合ってくれ!」
「えっ!?」
魔王にさらわれてしまったお姫様、サファイア姫を、孤軍奮闘の活躍で助けに行かれた勇者である俺、ベルント。
魔王を倒しつつ、あちこちで一生懸命勇者としての活動を行い、見事にエルフの村や人魚の国など人種の差別を失くして、全ての者達に愛し愛を説いた俺。
そんな俺が求婚したのは魔王にさらわれてしまって助け出されたサファイア姫でも、エルフの威信をかけて一緒に戦った狩人のシンシアでもなく、魔法学園で優等生として現れた幼馴染の魔女、グレイでもなくて――――国王様に仕えるメイドのヒメルダであった。
☆
俺、ベルントがそのメイドのヒメルダに会ったのは王様に呼ばれて、グレイと共に王城に向かった日の事である。
「いらっしゃいませ、勇者様のベルント。それに魔女のグレイ様。向こうにて王様がお待ちでございます」
そう言って案内しに現れたのが、赤毛の髪のメイド、ヒメルダである。
「「…………!」」
赤毛の髪に、赤いメイド服。全身赤色染めと言うメイド。とっても個性的であり、なおかつ目立つ存在であったのである。赤い髪の毛の人って、あんまり見た事がないし、とっても目立つ存在であったから良く覚えている。
「では、こちらに付いていただけますか?」
と、そのメイドのヒメルダさんは俺とグレイに来るように言うのであった。ヒメルダさんに付いて国王様に連れて行かれる間、2人でヒメルダさんの事について考えていた。
(グレイ、あの髪って赤毛だよな)
(そうね。あの赤い髪、よね)
赤い髪を持つ人はこの世界にほんの一握りしか居ない。それも赤い髪の人間は普通の人と違う、何か特別な力を持っているのだそうだ。どう言った力なのかは分からないけれども。
「では、こちらですよ」
それから国王様に魔王様を討伐する事を聞いていたのだが、俺の頭の中はあの赤い髪のメイド、ヒメルダの事が気になっていた。
その日の夜。
国王様との夕食会が設けられて、俺とグレイはそこに参加した。そこでエルフの狩人であるシンシア、刀を扱う戦士であるシュヴァルツの2人との顔合わせだったのだが、そんな事よりもヒメルダさんの事が気になって仕方なかった。
「よー、ヒメルダ」
「あっ、シェリー!」
そんな所に現れて、ヒメルダに親しげに話しかけて来た女性に、グレイ、それにシュヴァルツの2人の眼が驚きに満ちていた。
「グレイさん、あんさんはあいつの事を知ってるんですか?」
「多くの武勇伝で有名、歴戦の戦士のシュヴァルツさんも有名ですが、あのシェリーさんはもっと有名ですよね? なにせ、国内最高の魔導師として有名なシェリーさんですよね!」
「えっ!?」
シェリー・ローズ。
国内最高の魔導師であり、グレイに言わせると「あの方の魔術は神をも凌駕している」とまで言わしめる最高の魔導師。
そんなシェリーさんと普通に話せる彼女にますます興味が湧いた。
勇者として旅する中、窮地に陥った時に思い浮かぶのは、魔法使いとして助けてくれたグレイでも、戦士のいろはを叩きこんでくれたシュヴァルツさんでも、エルフの国宝を分け与えてくれたシンシアでも、俺達が魔王に戦う目的である美女のサファイア姫でもなく、
明るくて、
目立って、
そして、旅立ちの時にお金とお守りをくれた、
素朴な笑顔が印象的な彼女の姿であった。




