File.35 熊の着ぐるみメイド
File.35 熊の着ぐるみメイド
ある日。森の中。
女の子が熊に出会ったー。
「が、がおー。く、熊ですよ。こ、怖いですよねー」
「…………」
女の子は固まっていた。森を通って近道で親戚の家に行こうと思っていたら、熊に会ってしまった。とは言え、女の子は熊が怖くて固まっていたのではなかった。そこに居た熊とは、普通の熊では無くて、熊の着ぐるみを着た自分の家のメイドであったからだ。
「――――何してるの? 樹理さん?」
と言うと、熊は――――いや、熊の着ぐるみを着た女の子のうちで働いている樹理さんに話しかけていた。
「わわ、私は決してあなたの家で働いている不細工なメイドの樹理さんではありませんよ? ただの森の熊さんですよー♪」
「いや、樹理さんは可愛いと思います」
と、女の子はそう言う。本当に樹理さんは可愛くて、大きくてつぶらな瞳やらくるくるカールしている髪など、どこかリスのような小動物のような雰囲気を漂わせていて可愛い。それは本当に可愛らしいと、屋敷でも評判なのである。
「そ、そそ、そんな事は絶対にありえませんよ! わ、わわ、私なんてお嬢様の可愛さに比べたら全然で……ハッ! べ、べつに最初からお嬢様だと知っていた訳ではなくて……」
「…………」
女の子はどうしようか迷っていた。幼いとは言っても、ここでこの熊の着ぐるみを着た樹理さんを追い詰めるのは何か違う気がするからだ。
「え、えっと、そ、そうだ! 熊さんはどうしてここに……」
「え、えっと、お嬢様……じゃなくて、お嬢さんが困っていたから森を抜けるまでお手伝いをしようかなーと思いましてー。ハハハ……」
それを聞いて、幼い女の子は、幼いながら状況を理解した。
多分、お父さんが私が1人でメイドも付けずに、親戚の家に行くのを心配して樹理さんがやって来たと言う事でしょう。……けれども熊の着ぐるみは正直、どうかと思う。
(小学生の演芸会ですか……)
所々に糸で縫った跡が分かりやすく出ているし、布の色の濃さが所々違うんですけれど。後、顔の整い具合と熊の稚拙さから怖いよりも、可愛いと言う印象の方が強いんですけれども。
(うん……でも森は1人じゃあ怖いよね)
森を通ると近いからと通ったのは最初は良かったけれども、だんだんと木が暗くて、怖くなってしまってどうしようかと悩んでいたのである。この状況で樹理さんと共に行くと言うのは本当に嬉しい限りである。精神的にも安定するはずである。
「じゃ、じゃあ、じゅ……森の熊さん。一緒に森の外まで連れて行って下さると……」
「は、はい! お嬢様! よろしくお願い致します!」
そして女の子は樹理――――いや、熊の着ぐるみを着た女の人と共に森を一緒に出て行くのでありました。




