File.21 読書好き系メイド
File.21 読書好き系メイド
僕、牧瀬博の家には本が多い。父が学者、母が読書家であるからだ。
父は仕事の関係上、家に置くための本が多くなる。母は一年で100冊以上の本を読む本の虫であり、父と同じく本が多くなる。また2人ともデジタル書籍よりもアナログの紙の本がや好きと言う2人なので、本は物量的に多くなっていく。勿論、そんな本が大好きな2人の間に生まれた僕もまた、本が大好きなのだが。
けれども父も母も家を留守にしがちで掃除がそこまで好きと言うわけでもないので本に埃が溜まっていくので、本を綺麗にするために父と母は家政婦、いわゆるメイドさんを雇った。
「と言う訳で、博様に代わりましてこの蔵書の管理を任されましたメイドの栞と申します。以後、よろしくお願いします」
と彼女、星宮栞さんは読んでいる本から一切目を離さずにそう言う。
「え、えっとよろしくお願いします」
「良いお返事ですね。それにしても……」
と彼女は顔をあげて父と母が集めた蔵書の束を眼鏡越しで見つめていく。いつ見たって、この多さは多い。図書館並みの蔵書数を誇り、さらにはジャンルごと、筆者ごとに分けられたこの蔵書は凄いだろう。彼女も驚いていたのか、
「……面接の際にどれくらいかは聞いていましたが、やはり聞くと見るとでは大違いですね」
と言い、さきほどまで読んでいた本に手持ちの栞を挟むと、トコトコと本棚へと向かっていき、そして顔をしかめる。
「ですが、本に埃が溜まりすぎですね。これでは背表紙だけではなく、ページ自体にも汚れがついてしまいます。さっそく、仕事を始めましょう」
そう言って仕事を始める栞さん。その姿を見て、僕は嬉しくなる。父と母からはちゃんと仕事をするか最初は確認してくれとは言われているが、仕事熱心のようだし大丈夫だろう。
そして栞さんは仕事を始めた。こちらがちょっと異常とも思えるくらい。
まず窓を開けて埃を吐き出し、その後1ページ1ページに落丁、汚れがないかを確認して、その後日陰干しを行って、もう本を大事にやっていた。
「栞さんは本当に本が好きですよねー」
「はい。本の手触り、香り、重さ。それに文字の深み、味わい、面白さ。そのすべてが私にとっては愛おしく、また美しいのです」
眼鏡の奥からでも熱意が伝わるほどの眼で、彼女は僕にそう教えてくれるのであった。
それからも彼女の本好きは伝わってきた。
僕がちょっとでも汗や雨などで水が濡れていたら、絶対に本には触らせてくれなかった。
「本が汚れますので、ダメです」
「今、読みたいのに……」
「絶対にダメです。たとえご主人様の命であったとしても、本を汚すような行動は断じて許すわけにはいきません。本は至高、最高の存在なのですから」
その時はもう主よりも本のほうに忠誠を誓ってるかのように見えた。
それ以外は彼女は素直だった。僕がなんとなく、あるかどうかも分からないような本だったとしても、言うだけで本を検索してくれる。まるでコンピューターのようだった。
「ありがとう、栞さん」
「いえ、私はご主人様が探している本を、私が読んだ事のある本で見つけただけだから」
「嬉しいんだけれども男の子が興奮する本って言ったのに、どうしてエロ本を渡してくるのかな!?」
本のために生きているような栞さん。そんな栞さんが昔、自分で本を書いた事があると言うから、僕は読ませてくれるように頼んだ。
「読ませてよ!」
「いえ、恥ずかしながらそこまでして読ませる物では……」
「絶対に笑わないから」
「でしたら構いませんが……」
そして栞さんが書いたという本を借りたのだが、
「えっと……『ABCD殺人事件』……」
完全にパクリですよね、栞さん!?
例え本が好きでも、良い本が書けるとは限らないようである。
感想にてリクエストがありました『読書好き系メイド』を作ってみました。




