File.18 サキュバスメイド
File.18 サキュバスメイド
とある都会のマンションの一室。その部屋の主である男性、黒澤賢世は扉を開けて、部屋に帰って来ると1人のメイドが出迎える。
「お帰りぃ♡ マスター♡ マスターはご飯にするぅ? お風呂にするぅ? それともわ・た・しぃ?」
と、そのメイドがウフフとした笑顔で近付いて来る。薄紅色のメイド服を着たアイドル並みの顔の美少女、しかし彼女が普通の人間でない事は頭から角を生やしていて、背中から大きな翼を生やしていた。そう、彼女は人間ではなく、この黒澤賢世によってこちらの世界にやって来たサキュバスと言う淫魔だった。賢世はメイド服を着たサキュバスの顔を見ながら、溜め息を吐きながら答える。
「おい、このダメサキュバス」
「だ、ダメサキュバス!? だ、ダメサキュバスって私の事ですか、マスター!?」
「当たり前だ! 言いつけはどうした!」
と、強く賢世が言うと、「うっ……」とサキュバスは言いよどむ。
黒澤賢世は召喚術師である。正確に言えば、現代に生き残った召喚術師の末裔である。偶然、実家の蔵にあった召喚の本を使い、最初のページに載っていた複雑怪奇な紋様を描いて呪文を唱えた。そして見事このサキュバスを召喚し、隷属させる事が出来た。これで後は他のページに載ってある呪文で多くの魔界の猛獣を呼び出して、世界を我が物にしようと考えたのだが、
「お前のせいで、俺の完璧な計画が遂行不可能になったんだから、責任を取れ!」
「せ、責任って大胆ですよねー。マスターは♡」
「そう言う意味じゃないからな!」
と、賢世がそう強く言う。
本来、賢世は召喚の本を用いて世界征服をすでに完了していると言っても可笑しくはなかった。けれども、このサキュバスのダメイドが間違えてゴミ捨て場に捨ててしまった。そして即行で回収車が回収してしまったのである。召喚本は世界征服に必要であり、なおかつ家宝でもあったのに、それをうっかりで捨ててしまうのはいかがとは思う。
「お前が色々な人の精気を奪って、奪った精気を魔力に変えて強引に魔界への門を開く! そう言う計画だっただろうが!」
召喚の本には多くの紋様が描かれていたが、それは本を見ながらでないと描けないくらい複雑怪奇な物だった。一度は見たあれをうろ覚えで覚えてはいるが、間違った物を描いて予定外、予想外の効果が起こってしまう場合もありうる。だからサキュバスに、色々な男に精液を収集するように命じているのに……。
「精液を吸収しないと、魔力を溜めて魔界の門を開けないだろうが!」
そう言っているのに、彼女はカチューシャを外し、着ていた薄紅色のメイド服をするすると脱ぎ始める。
「お、おい! 何しているんだ!」
「え~! だってぇ~♡ 3つとも服を脱ぐでしょう♡ 『お風呂』でも、『わたし』でも、どれでも服は脱ぐでしょう♡」
「ご飯は違うでしょうが!」
「え~♡ 私のぉ、『ご飯』はぁ♡」
そう言って、ツンツンとあそこを突くサキュバスメイド。
「えぇい! もうどうでも良い! 良いか、このダメサキュバス! お前の役割はうちの家事手伝い、それと精液による魔力供給の2つだ! それをきちんと果たすのだ!」
「それもマスターの協力さえあればぁ♡」
あそこをさらに突くサキュバスメイドから離れて、俺はそのまま自室へと戻って行った。
自室を戻ったのを確認し、"わらわ"は着ていたメイド服を脱いで本来の服装、女王様のようなドレス姿へと変じる。いや、元へと戻る。
わらわは魔力を使って、小さな空間の穴を作り出す。この穴こそわらわとマスターを紡ぐ絆である。
そもそもマスターが行ったのは、召喚ではない。マーキングだ。
マスターが住んでいる人間世界、それにわらわが本来住む魔界とを行き来できるほどの力を持つ者に印を付けると言うマーキングをして交流すると言う方法だ。そのマーキングにわらわが選ばれ、わらわがマスターの元へとやってきたのである。マスターは未だに召喚術だと思ってるようだけど。
(マスターの望みは知ってる……マーキングを通して)
マーキングからはマスターの意思が伝わって来る。わらわの気持ちは来ないように、マーキングを弄っているが。
マスターの望みは世界征服ではない。本来の目標は世界征服を行った後のハーレムだ。ハーレムを作る事こそ、マスターの望みなのだ。
色欲を好むのはサキュバスとして良いと思うけれども、わらわはわらわ以外の女は赦せない。
「うふふ♡ マスタァ♡ わらわが尽くします♡ わらわ以外がどうでも良いと思えるほどに、ね♡」
わらわはそう言って、いつものメイド服を着てマスターに尽くすように頑張るのであった。
召喚では無く、今回のようなモンスターにマーキングを行って契約する方法も面白いと思います。