File.13 探偵メイド
File.13 探偵メイド
崖の上にただずむ古びた屋敷。そこで屋敷の主人である小金持蔵が自室にて何者かに殺された。死因は頭から何か硬い物で殴られた撲殺であり、犯行に使われたとされる凶器は未だ発見されていない。
容疑者は、第一発見者である持蔵のメイドの森野恵。執事の寶野宇美。持蔵の妻の小金持子に、娘の小金成江。そして屋敷の近くで血塗れで発見された不法侵入者の奈栗増代。
この説明書を私の主人にして刑事である、多々野一刑事から説明を聞いていた。「ふむ……」と意味しげな顔を作って私、一様のメイドである新野閃は話を聞いてこう思った。
(いや、絶対にその奈栗さんが怪しいでしょう!)
確かにまだ凶器が発見されていないから何とも言えないのは確かですけれども、絶対にその奈栗さんが犯人ですよね!? 『被害者の部屋には入っておりません』と言う事を聞いているんでしょ!? だったら、どこで付いたんですか、その血液!? だいたい不法侵入者の時点でどこか怪しいから逮捕してくださいよ!
「その奈栗と言う人、逮捕しないんでしょうか?」
と主人である多々野一様に話しかけると、多々野一様はいかにも用意していたかのような決め顔で、
「証拠がないのに、犯人だと決めつけるのは早計だろう(ドヤッ)」
と言っていた。
いや、確かに証拠がないのに決めつけるのは絶対に可笑しいと思いますし、一様の言いたい事も理解しています。けれども……
(その怪しい容疑者、ポケットに何か血塗れの箱を入れているんですけど!)
絶対あれ凶器でしょ! 身体検査でまず間違いなく見つかって可笑しくないはずの凶器でしょうが! 何!? あなた達の眼にはその凶器に対して見えなくなるフィルターを付けているのではあるまいな! 絶対に見えているでしょうが! あの凶器が目に入らぬか!
「はぁー……」
「どうした、閃! 何か証拠でも見つかったか!?」
いや、証拠は証拠でも、結構決定的な証拠だと思うんですけれども!? あんなに分かりやすい証拠はないと思うんですけれども!? そんな事だから、『ただの一刑事』などと言うあだ名が付けられてしまうんですから!
……私がメイド探偵として活躍した初めての事件は、これと良く似た、警察では密室殺人として表現されるような、私からしたら何故分からないんだと言いたくなるような事だった。侵入経路が分からないと言っていたが、いや窓から入れるでしょと言う事件で、私が「窓空いてますよー」と一様に進言したら見事解決した。解決してしまった。
それから私は、何故か事件を解決に導く女神として一様と事件現場に赴くようになったが、何故か私の取り扱う事件はどこが難しいか分からない事件ばかりだった。
ダイイングメッセージがそのまま犯人の名前になっていたりとか。
アリバイ時刻もこれまた簡単なトリックを使っているだけだったりとか。
容疑者の死亡時刻をずらすトリックも、私から見たら稚拙の塊でしかなかった。
別に私は頭が良い訳ではない。精々、推理小説やら推理漫画などを見て、2割くらいの確率で犯人に目星が付くか付かないかと言った具合のものだ。それなのに、こうもまあひどく簡単な事件ばかりだと、『この国オワタ』とかネットに呟きたくなってしまう。
私以外の人は、事件の神に見放されてしまい、分からなくなっているだけなのではないだろうか? いや、それで私が事件の神とかに愛されて、証拠やらトリックの種などを簡単に見つけ出してしまう人になってしまっているのだとしたら、それはそれで嫌なのだが。
(全くこれはメイドの仕事ではないと思うのですが……)
とりあえず、容疑者兼犯人(確定)の奈栗さんのポケットに凶器みたいなのが入ってますよと、一様に伝えると、
「流石、メイド探偵・閃! 今日も凄い洞察力だ! さては掃除で身につけたな!」
私の仕事、ほとんど洗濯と食事ですが。
「閃だけに、閃いたと言う訳か……」
上手い事を言おうとする前に、とっとと犯人を捕まえてほしい物です。犯人、逃げちゃいますよ。
「おおっ、そうだな! 来訪するお客様もこうやって逃亡していたのか……それで閃が人の行動を観察して逃げ出すのを察知するように……」
お客様が何故、毎回このように逃げ腰でいるのかさっぱりです。普通に観察していた結果ですのに。
「はぁ……」
今日もまた、不本意ながら事件を解決してしまった……。