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亡き祖父への誄歌(るいか)
今日の早朝 祖父は逝った
目覚めの風景に 自分で造園した 大好きな庭を遺して
最愛の祖母に抱かれて
父や母や叔父や叔母や従弟妹たちに見守られて
祖父は逝った
台風の中 修学旅行へ飛び立った 別の従弟の帰りも
フィリピンへ短期留学中の私の姉の帰国も
1週間後に迫った自分の誕生日さえも
祖父は待たなかった。
医師は あとひと月は大丈夫 って言った
京の桜を見たから 次は紅葉だね って約束した
祖母と母に怒られて 祖父に甘えたあの頃
手土産にお酒を頼まれ 買うのに苦労したあの時間
どんなに忙しくても お正月には全員集合して
一緒におせちやお雑煮片手に騒いで過ごし
祝い酒よりも いいちこが好きだった祖父
想い出は抱えきれないほど たくさんあるけれど
もう これ以上 積もってゆくことはない
その事実が 心にぽっかり大きな穴をあける
いつか時間を経ても
この空虚は決して埋められることは ないと思うけれど
祖父が生きた七十余年の歳月を胸に いま私は
未来へと歩く。