表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

第6話 3人目の能力者

夜の7時を過ぎて辺りも暗くなった頃、青年はその場にいた。


見る限り体育会系だと判断できるほどの肉体を持っている男たち──────青年の周りにはそんな男たちが声を出すこともなく意識を失わせて地べたに這いつくばっていた。


「これが俺の力か……すげえな」


青年はそう言って笑おうとしたが素直に笑うことはできなかった。

今、周りで倒れている男性たちをやったのは自分。


そんな、罪悪感が彼を襲っている─────わけではない。


むしろ、男性たちはこうなっても仕方がないとさえ思っていた。

そう、こうなっても仕方がない。


この男たちは自分の大切な友人を傷つけた。

むしろ、殺さないように心掛けただけ喜んでほしいものだ。


そう、考えながら青年は振り向く。

その視界に映るのは周りで倒れている男性たちと比べたら明らかにひ弱そうに見える男。


「もう、安心だ……ここまでやれば──────」


「何……してるんだよ」


「え?」


男の─────友人の言葉に青年の言葉は止まった。

友人の言葉は自分を救った相手に送られるものではなくまるで、ただの暴力現場に出くわしただけだと感じられるほど冷たかったからだ。


「何って……俺はお前のために──────」


「だからって、ここまでする必要はないだろ? お前がここまでやったらこいつらと同じじゃないかよ………」


その言葉に青年の動きは止まった。


こいつら────今、倒れている奴らと同じ。


その言葉の意味を青年は理解できなかった。

──────いや、理解することを拒否していた。


しばらくすると、友人は何も言わずに背を向けた。

そして、そのまま歩を進める。


「待て! 待ってくれ……確かに俺はやりすぎた……だけど、それでもこいつらはお前を───────」


「───────これ以上、僕に近寄るな」


低い声。

怒鳴られたわけでも叫ばれたわけでもないのに、青年はその言葉で動けなくなった。

友人はそんな青年に振り向こうともせずに青年の視界から遠ざかっていく。


青年はその場で座り込んだ。


「俺は……間違っていたのか?」


そんなはずはないと青年は自分に言い聞かせる。

だが、友人を失ったという事実が青年を蝕む。


「がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


叫びながら青年は目の前に広がる固い地面を殴った。

青年の拳は地面にめり込む。

青年は拳を地面から離すと手を広げながら確認した。


地面を思いっきり殴ったはずなのにその手には怪我はない。

分かっていた……何故なら、痛みがなかったのだから。


「くそ……くそ……くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


青年は叫んだ。

その緑と銀(・・・)のオッドアイ(・・・・・・)から涙を流しながら。






「お兄ちゃ~ん! ご飯出来たよ~……って、いないし」


影野家の夕飯は基本的に遅い。

両親が生きていたころは大体七時ごろに夕飯を済ませていた。

だが、兄である慧がバイトを始めたことにより兄がバイトの日は夕飯の時間が九時ごろに繰り上げられるのだ。


先に夕飯を食っててもいいんだぞ……お前がわざわざ待っている必要はないだろ?


兄がそう言ったことも一度や二度ではない。

だが、そのたびに美奈は兄に理不尽な怒りをぶつけた。


一人の食事は寂しい。


たったそれだけの理由だった。

だが、だからこそ美奈は慧がバイトに行く日はいつも帰りを待っていた。

例え、何らかの事情で慧の帰りが遅くなろうとも美奈は一度も一人で夕飯を摂ったことはない。


「全く………また、アソコにいるのかな?」


美奈は軽くため息をつくと兄の部屋を出ていく。

すでに兄の居場所には見当がついていたからだ。。


「全く……風邪をひいたらどうするのよ……」


そう言いながら美奈は風呂上がりの兄のことを心配しながら階段を下りてアソコに向かう。

どうせ、毎回のように自分も彼と同じ景色を見ることになるんだと自覚しながら。






平和だったな……。


星の見えない夜空を見ながら慧はそう考えていた。

突然の転校生─────香椎結佳が転校してきてからまだ、一日も経過していない。


昼休みに結佳と屋上で協力関係を結んだあと慧と結花は互いに話をしなかった。

五時限目が終わった休み時間には慧はいつも通り当夜と話をしながら時間を潰し、結佳は転校生らしくいろんな人に囲まれていた。


そのまま、授業も終わりいつも通りバイトに行った。


慧は何気ない仕草でパジャマのポケットから携帯を取り出すと着信履歴及び受信履歴を確認する。


電話とメール、両方とも誰からも来ていない。


当たり前だ。

風呂から出て確認した後はずっと所持していたのだから。


「平和だ……」


夜空を見ながら慧は呟く。

今日は『いつも通りの』日常を送れた。


だが、明日はどうなのだろうか?


今日、結佳から受けた説明によると五日前に病院で死闘を繰り広げた化け物はまだ現れるという。

そして、自分と同じ能力者も自分を抜かして──────いや、自分と香椎結佳を抜かしてもあと24人存在する。


「いつまで……平和でいられるのだろうか?」


できれば、いつまでもこのままがいい。


それは慧の偽りのない本心だった。

だが、それが叶わないことにすでに気づいていた。


「仕方が……ないだろう?」


壁に背を預ける形で寄りかかると慧は座り込んだ。

そして、夜空を見ながら───────まるで、誰か(・・)に話をするかのように口を開く。


「俺は自分ではどうすることもできずに状況だけが最悪の方向に進んでいく悲しみを知っている……だったら、放っておくことなんてできるはずがないだろ? 俺が頑張れば誰かが救われるんだったら─────」


脳裏に浮かぶのは病院で知り合いもう二度と会うことのないだろう一人の少年の姿。

別れの時、少年は笑っていた。

自分のせいでみんな不幸になりそれを止められない─────そんな、最悪の状況でただ、泣くことしかできなかった少年が最後には笑ってくれていた。


自分が救ったなどと自惚れるつもりはない。

だけど、もし、誰かが笑えるんだったら。

誰かを救うことができるんだったら──────。


「────────俺は俺のできることをしたいんだ」


そこまで言うと、慧はゆっくりと目をつぶった。

風呂上がりのせいか、やけに涼しい風が体に伝わる。


「だから……俺がそっちに逝かないように見守っていてくれよ……父さん…母さん」


慧の言葉は誰にも聞こえることなく夜の闇にかき消されていった。






「お兄ちゃん……やっぱりここにいた……って、寝てるし」


慧を迎えにベランダに来た美奈の瞳に映るのは小さな寝息を立てながら寝ている慧の姿。

美奈は困ったように右手を顔に当てるとまるで、子供でも見るような優しい目線で慧のことを見てゆっくりとその隣に腰掛けた。


「空が……綺麗だなぁ……」


いつもだったら、慧を部屋に入れるついでに二人で見る景色。

夕飯は後ですべて温めよう──────そう、心の中で決めながら美奈は夜空を見ていた。


まるで、兄がこの夜空を見ることによって得ているものを自分も得ようとしているかのように。

少しでも、兄との距離を縮めようとするかのように。


「お疲れ様……お兄ちゃん」


美奈はバイトで疲れてしまったであろう兄の頭に手を乗せるとやさしくなで始めた。

結局、二人が夕飯を食べ始めたのはそれから30分後だった。






「おはよう」


「あぁ」


登校中の廊下。

偶然、鉢合わせた慧と結佳はそんな短いやり取りを済ませると教室に入っていく。


二人は必要以上に会話をしなかった。

それは香椎結佳という存在が『転校生』だからだ。

転校して二日目にいきなり異性と仲が良くなればそれだけでクラス中に広まる可能性だってある。


だから、必要以上に馴れ合わない。


それは誰が決めたわけでもなく勝手に決まった二人の取り決めだった。


慧が自分の席に着いてバッグを下ろすといつも通りに目立つ金色の髪をした友人がこっちに近づいてきた。


「よぉ、影野……ついにアイツが戻ってくるぜ」


「……誰のことだ?」


「ほら、アイツだよ……ボクシング部で停学喰らったやつ」


その言葉に何かがひかかった慧は手をおでこに乗せて思い出す作業に入る。

慧の求める情報は一瞬で思い出すことができた。


「黒鉄将輝か……今日だっけ?」


慧の言葉に当夜はゆっくりと頷いた。


六日前───慧が能力に目覚め化け物と死闘を繰り広げた日。

偶然か必然か、その日は慧たちの通う蒼鷺高校でも一つの事件が起きていた。


一人の男子生徒による暴行事件。


生徒の名前は『黒鉄(くろがね)将輝(しょうき)

その事件の被害者である二年や三年と同じボクシング部に入部していた(・・・・・・)一年生だ。


「てか、俺はその話を昨日聞いたばかりで何でそんな事件が起きたのかも知らないんだが……お前、知ってるの?」


「あぁ、友人にボクシング部がいるから詳しい話を聞いたんだが……どうやら、その一年生、黒鉄の友人がボクシング部の上級生に目をつけられていたらしくてな。その友人を助けるために先輩たちを殴って病院送りにした……ということだそうだ。まぁ、その上級生の方は昨日の時点で退院して学校に通ってるがな」


その言葉に慧は妙に納得した。


部活内での上下関係。

ソレはどこの部活動────とくに運動部で多い問題の一つだろう。


当然、その問題は蒼鷺高校にも存在する。

ボクシング部はそれらの中でも一際部内での上下関係が問題であるとして有名だった。


先輩にひどい目に合わされてきた人間たちが進級して後輩ができると自分たちの負った痛みや苦しみをかつての先輩同様後輩に与える。


そんな噂が絶えることはなかった。


「それにしても、問題になった割にはボクシング部は休部になったりしなかったらしいな。黒鉄の停学期間も長いとは言えないし」


「ボクシング部全員が後輩いびりをしているわけじゃないからな……後、噂じゃあ、被害者の奴らが教師に休部だけはやめるように頼んだらしい」


「なるほど……だから、自然と黒鉄の罪も軽くなったのか」


「まぁ、どうせ黒鉄と後輩いびりを受けていた一年はボクシングを辞めたらしいからな」


「まぁ、当然と言えば当然か」


そこまで、会話をしていると担任が教室に入ってきたため当夜は自分の席に戻っていく。

慧の方もこれ以上ボクシング部の事情を気にすることを止めて時間割を見て一時限目の授業を確認するとその教科の準備をし始める。

瞬間、慧の顔は青ざめた。






「飯食おうぜ~」


午前の授業が終わるといつも通り当夜がパンと飲み物を持って慧の席にきた。


「あぁ、そうしょう……と言いたいところだが、弁当忘れたわ」


「ははは……ドジったな。俺みたいに休み時間に買いに行けばよかったのに」


「ははは……財布も忘れたんだよクソ。……金貸せ」


「仕方がねえな……」


慧は当夜から五百円玉を借りると購買に行くために教室を出ていく。






慧がそいつ等を見たのは一階まで下りてちょうど購買が視界に映りこんできた時だった。

金属バットを所持した四人が走っていく姿。

走る方向からして目的地は校舎裏。


嫌な予感がした。


慧は一度購買の方を見て溜息をつくと気づかれないように四人の後をつけ始めた。






四人は慧の予想通り校舎裏まで来た。

校舎裏にはオレンジ色の髪をした青年が一人立っている。

四人がその青年に向かっていくのをしり目に慧は誰かに気付かれる前にすぐに隠れた。


「ちっ、なんだよ……下駄箱にラブレターが入ってたから告白かと思ったら相手はむさい男たちかよ……つっまんねえな~!!」


オレンジ髪の男はそう言いながら笑っていた。

まるで、最初から四人の男が来ると知っていたかのように。


「戯言はそれぐらいにしておけよ……今から、あの時の借りを返してやるんだから」


「おいおい……そんなことをしたら、俺みたいに停学……いや、部活が休部になってしまいますよ~先輩」


「はっ、大丈夫だよ……てめえを叩き潰したらさっさと退散するからよ」


四人の男とオレンジ髪の会話を聞きながら慧は今の状況を察した。

オレンジ髪の男は『部活』という単語を発してるし相手の男は『あの時の借り』と言っている。

つまり、目の前の五人はボクシング部。

いや、正確に言えば、オレンジ髪の男は『元』ボクシング部────────つまり、黒鉄将輝。


(まさかな……。さてと、俺はどうするか……)


今の状況を大体察しても慧は動こうとは思わなかった。

オレンジ髪の男が本当に黒鉄将輝かは分からない。


だが、本当に黒鉄将輝ならば、慧は動く必要がないのだ。


黒鉄将輝が停学を喰らった理由がそもそも先輩たちの暴力行為なのだから。


(だが、奴らは武器を持っているしな……どうするか)


考えた末に慧は携帯を取り出した。

最悪の事態が起きたら速攻教室にいる当夜に連絡するつもりだ。


本当は自分で対処したいところだが、生身で武器を持っている四人を倒せるとは思えないし能力を使うわけにもいかない。

かといって教師を呼びに行ったらその間にすべてが終わっている可能性が高い。


「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


そこまで考えているといつの間にか四人のうちの一人がオレンジ髪の男に突っ込んでいた。

男の持つ金属バットはオレンジ髪の男の方にぶつけられる。


その瞬間、慧は自分の耳を疑った。


金属と金属がぶつかり合う音が聞こえたのだ。


ぶつかったのは金属とひと肌だと言うのに。


「ちっ、やっぱりこんなものかよ……武器を持ってもこんなもんだったら最初から手ぇ出してくんなよ」


オレンジ髪はそう呟くと同時に男の腹を殴った。

男は唸り声をあげるとその場で倒れる。


一撃だった。


慧の額に冷や汗が流れる。

だが、ソレは別にオレンジ髪の男の強さに驚いたからではない。

気づいてしまったからだ。

オレンジ髪の男の瞳の色が変わっていることに。


さっきは両目とも緑だった。

なのに、今は左目が銀色─────つまり、オッドアイになっていた。


「まさか……アイツが俺たち以外の能力者……? 26人のうちの一人?」


慧が動揺している間にも戦いは─────否、虐殺は続いていく。

仲間を倒された男たちはオレンジ髪の男に突っ込んでいくがみんな、一撃のもとに倒れていく。

一分もかかることなく喧嘩は終わった。


「さてと……おい、起きろよ」


その言葉に慧は我に返った。

喧嘩に承知したオレンジ髪の男は倒れた男を無理やり起こすと殴って気絶させたのだ。


「もう二度と、後輩いびりなんてできないよう体に教えてやらねえとなぁ……」


そう言いながらオレンジ髪の男は男たちを起こしては気絶させていく。

男たちは一言も発する暇も与えられない。

与えられるのは延々と続く痛みだけ。


「──────いい加減にしろ」


そう呟き、慧の左目が青く染まると同時に慧は走り出した。


これ以上は見ていられなかった。

26人の能力者なんて今はどうでもいい。

とりあえずは、今の状況を何とかしたかった。


能力を発動しているおかげで体が軽くいつもをはるかに超える速度で走ることができた。

慧はその速度のままオレンジ髪の男を蹴り飛ばす。


オレンジ髪の男が慧に気付いたのは慧によって蹴り飛ばされた後だった。


「なんだぁ……お前は?」


「これ以上はやめておけ……もう、十分だろ?」


慧がそう言うと、オレンジ髪の男は突然笑い出す。

慧の言葉があまりにも滑稽だというように。


「もう、十分だぁ……ふざけるなよ! 俺はこいつらのせいで全てを失ったんだ!! ボクシングも……友人も。何も知らねえくせに正義のヒーローを気取ってるんじゃねえよ!!」


「やっぱり、お前……黒鉄将輝か?」


「ははは! 何で知ってる? ……とは聞かねえよ。噂なんて広まるのは早いからなぁ……それより、てめえこそ誰だよ……その瞳の色は? 瞳に映るWの文字はなんだよ!!」


オレンジ髪の男───────黒鉄将輝は狂ったように叫ぶ。


嬉しいのだ。

自分の楽しみを奪った相手が只者ではないと分かったから。

自分の溢れそうな思いをぶつけられる相手だと分かったから。


「お前と同じだよ……流星群を見ていたら能力を得てしまった人間。だよな? Mの能力者」


「──────へぇ、この力を得たのって俺だけじゃなかったんだ」


そう言うなり、黒鉄将輝は慧に突っ込んできた。

慧は念のために所持していたボールペンをポケットから取り出すとソレを剣に変える。


将輝の拳を慧の剣が激しくぶつかると同時に、金属同士がぶつかり合うが辺りに響く。


「やっぱり……お前の能力は『Metal(メタル)』。大方、肉体の金属化ってところか?」


「へぇ……随分と冷静だなぁ。そうだよ……俺の能力は肉体を金属のように固くすること。あんたは左目とその武器を見る限り『Weapon』。要するに、武器を使うのか?」


「……想像に任せるよ!」


そう言うと同時に慧はその場を離れて将輝との距離を開ける。

すぐに将輝は間合いを詰めてきて殴りかかるが慧はそれらを剣で防いでいく。


「おいおい……戦わないのか?」


「勘違いするな。俺はお前を止めにきたつもりはあっても戦うつもりはないんだよ」


「そんな寂しいこと言わずに──────とっとと死んでくれよ」


最後の方を静かに言うと将輝の攻撃方が変わる。

今まで、やみくもに殴っていたのが左腕での高速パンチになったのだ。


早い分、軽いため剣で攻撃を防いでいた慧はすぐに将輝が元ボクシング部だったことに気付いた。

今の将輝の攻撃がボクシングでいう『ジャブ』だとすれば──────。


将輝の右拳が動いたのを見て慧はすぐに剣の刃を左手で軽く持って防御態勢に入った。

一歩遅れて将輝の右ストレートが慧の剣に当たる。


同時に両手が震えるほどの痛みが慧を襲った。

剣は折れていない。

だが、その衝撃で慧の体は後ろに下がる。

その隙をついて将輝が慧に近づくと右拳を慧の腹に放った─────────瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

同時に将輝の拳が慧の腹に当たる寸前で止まる。


「……やらないのか?」


「戦う気のないやつを倒しても後味が悪いだけだろ……死にたくなかったらこれ以上は俺に関わるな」


そういうと、将輝は慧に背を向けて校舎に向かっていく。

慧も能力を止めて剣を元のボールペンに戻すと倒れている四人の男たちを見る。


仕方なく慧はその四人の男を起こし始めた。


「……う……ん……?」


「起きろ。昼休みは終わったぞ」


「はぁ!? ……てか、黒鉄はどうした?」


「知るか。俺は通りかかっただけだ。さっさと仲間を連れて戻れ」


「……そうか、起こしてくれてありがとな」


「…………………そう思うんだったら後輩いびりなんてやめろよ」


慧の言葉を聞くと男は罰が悪そうな顔をしながら仲間を起こしていく。

慧はソレを確認するとせめて、五時限目が終わった後に食事ができるようパンと飲み物を買うために購買に向けて走り出した。






「遅かったな~影野……てか、お前何してたの?」


何とか、授業開始時間ギリギリに戻ってくると当夜はすぐに近づいてきた。

同時に、慧の持つ袋を見てそう聞いてくる。


慧は当夜の質問を軽く無視するとパンと飲み物の入った袋を机の上に置いて机に顔を伏せた。


脳裏に浮かぶのは突然始まった黒鉄将輝との戦い。

その時に行っていた将輝の言葉。


「なぁ……」


「……なんだ?」


机に顔を伏せた状態で慧は当夜に聞く。

当夜の方も慧の様子に多少驚いているようだがソレ以上追及することなく聞き返してくれた。


「黒鉄将輝の友人……ほら、あの後輩いびりの被害者。ソイツと黒鉄将輝の仲って今も健在なのかな?」


その言葉に当夜はすぐに答えを出さなかった。

自分のために停学になるほどの問題を起こした友人。

その友人との仲がどうなるかなんて想像がつかなかったのだ。


だが、将輝は言っていた。


ボクシングと……友人を失ったと。


それに、慧は気づいてしまった。

黒鉄将輝の能力を知るためにその左目を注視していたから。


全てを失ったと言った時の将輝の瞳がどうしょうもなく悲しそうだったということに。


「──────友人に聞いてきてくれないか? 黒鉄将輝の友人の名前とクラスを」


だから、影野慧は動く。

見てしまったから──────聞いてしまったから。

気づいて───────しまったから。

……長いですね。

あまり長すぎると読みづらいので短くまとめようとは思っているのですが……区切りのいいところまで書こうとすると、毎回こんな長さになってしまいます。

本当、短く纏めようとすると……纏めすぎて話の内容が分からなくなるのでは? と考えてしまい結局、こんな長さになってしまう。

一応、長さはともかくとして文章の構図や誤字・脱字には気を配っているつもりなのでもし、何かあれば気軽に書いてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ