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第12話 血に染まった左目

「あれが、影野慧か」


高層ビルの屋上に立っている男は双眼鏡を目に当てながらそう呟いた。

その視界に映るのは一人の少女と青年、そして化け物。


「始まったか」


視界に映っていた少女の姿が消えほぼ同時に化け物の体が軽く吹き飛ぶと男はそう呟く。

男は双眼鏡を離すと羽織っていたコートのポケットからいくつかの『石』をとった。


そして、本来右目と同じ(・・・・・・・)茶色であるはずの左目(・・・・・・・・・)の色が金色になった(・・・・・・・・・)ことを自覚すると、男は手に持っていた石を投げた。


投げられたいくつもの石は吸い込まれるように落ちていく。

影野慧のいる場所に向かって。






何が起きた?


現在、慧の頭の中はその疑問で満たされていた。

目の前では突然現れたダスト相手に香椎結佳が奮闘している。

当たり前だ。そのために自分たちはここに来たのだから。


─────幸セノ時間ハ終ワリダ……サァ、滅ビノ時間ヲ受ケ入レロ。


─────受け入れるのは……お前だ!!


なのに、ほんの数秒前に発せられたダストの言葉に対する結佳の言葉が頭から離れなかった。

あの時、あの瞬間、確かに憎しみが、怒りが、殺意が香椎結佳の目には秘められていた。

まるで、赤く染まった左目が誰かの血を証明するかのように。


「………香椎っ!?」


慧は未だに頭から離れない疑問を無理やり抑えると叫んだ。

今まで自身の能力『Acceleration』を使ってダストを翻弄しながら攻撃していた結佳が突然吹き飛んだのだ。

ダストが右手を前に出していることからかろうじて、殴られたということは分かるがそれ以上のことは分からない。

────────いや、もう一つだけ分かることがあった。


自分が今、何をすべきなのかを。


自分がここにいる意味を。


コートのポケットから一本のボールペンを取り出し剣に変えると慧は走り出した。

しかし、直後、六つの白い光が空から落ちてきたため慧は足を止めた。


「なんだ、アレは?」


光は地面に落ちると瞬時にその姿を変えていく。

その過程を赤い右目と青い左目を驚愕に染めながら慧は眺めていた。


光は人型になると弾けるように光が消えその姿を現した。


「ダスト……なのか?」


化け物。

光から出てきた姿はまさしく、化け物だった。

成人男性ぐらいの大きさのあるその体は土と石でできており、慧の頭にはRPGなどに出てくるゴーレムの姿が浮かんだ。


「……石のダストだったら前に戦ったんだがな」


苦々しくそう呟く慧に向かって全く同じ姿をした六体の化け物は慧に襲いかかってきた。

剣を構えなおすと慧も化け物どもに向かって走り出す。






何が起きた?


結佳は目の前のダストを睨みながらそう考えていた。

さっきまで、結佳は目の前のダスト相手に優勢に戦っていた。

高速で動くことにより相手の攻撃が当たる前に何度も攻撃した。

能力を使用していることにより強化された拳や足を使って何度も何度も攻撃していた──────ほんのさっきまで。


「何が起きたの……?」


意味が分からなかった。

確かに、結佳はダストの攻撃を喰らうよりもはるかに攻撃をし続けた。

だが──────────それなのに、結佳はダストの攻撃を喰らっていた。


「なんなのよ……っ」


苛立ちが募る。

目の前の化け物への怒りが増幅される。

結佳は攻撃に夢中で手放すことを忘れていたカバンからナイフを取り出すとカバンを投げ捨て、ナイフを構えた。


瞬間、結佳の体は飛んだ。

結佳の意思ではない。

まるで、何かに引き寄せられるかのように結佳の体はダストのいる方向(・・・・・・・・)に向かっていく。


「ッッ!?」


ダストは向かってくる結佳めがけて静かに拳を振るった。






「はぁ!!」


剣で化け物を一体斬ると、慧はそのまま走りもう一体化け物を斬った。

二体の化け物は体から光を溢れさせるとそのまま光となって消えていく。


「はぁ……はぁ……やっと……二体か…」


剣を地面に刺し、そこに体重を預けながら慧はさっき倒した化け物と全く同じ姿をした残り四体の化け物を睨む。

正直、化け物一体一体の戦闘力は慧がかつて病院で戦ったダストよりは弱い。

そのため、余裕とはいかないまでも倒すことは十分に可能なのである。


────────相手が一体ならば………だが。


地面から剣を抜くと慧は剣を構えた。


目先の脅威は相手の数。

例え、一体一体の戦闘力がダストに比べて弱かったとしても手数が多ければソレはすでに脅威だった。


「……てか、お前ら……結局、なんなんだよ」


そこまで考えていると慧は自然にそう呟いていた。


頭の中に浮かぶのはほんの数日前に見た流星群。

あの時に見た流星群はこの世界に二つの存在を生み出したと香椎結佳は言った。


一つは自分を含めた26人の人間たちが力を与えられたことによって誕生した『能力者』。


もう一つは所有者の願いを叶えるために流星群の欠片が化け物に姿を変えることで誕生する『ダスト』。


流星群が生み出した存在はこの二つのはずである。

ならば、あいつらは?


「ダスト……なのか?」


最初に化け物の姿を見た時と同じことを言っていると自覚しながらも、慧は心のどこかであいつらはダストではないと思っていた。


何故なら、奴らの姿が同じだから。


ダストが石から化け物へとその姿を変える時、その姿は一つではない。

石のようなダストもいればカンガルーの姿をしたダストも現れた。


だから、同じ姿をしたダストなどいるはずはない。


そう、思っていた。


「ッ!?」


だが、現実は違う。

化け物の拳の一撃を腹に受けることにより慧の考えは正面から否定された。


「いい加減に……しろよ」


剣の柄で目の前の化け物を突き飛ばして化け物との間合いを開けると、慧は化け物を斬った。

化け物は光になって消えていく──────────と同時に、化け物の後ろにいたのであろう別の化け物が慧に殴りかかってきた。

攻撃の後の隙を突かれた慧はそのまま殴り飛ばされ、地面に叩き落される。


仰向けに地面に叩き落された慧は全身から鈍い痛みを感じながら空を見た。

星が見えない暗い空。


かつて、誰かは言った。


「死んだ人は空から自分たちを見守っていてくれる……」


心の片隅に残っている言葉を口にすると慧は体を起こした。

自分はここで眠っているわけにはいかないから。

まだ、空で誰かを見守るわけにはいかないから。


慧は膝を立て、立ち上がろうとした瞬間、その動きを止めた。

一つの光景が視界に映った。

その瞬間、慧の体は震えた。

同時に、二つの質問が心を支配する。


─────自分は何をしにここにきた?


─────自分は誰とここにきた?


化け物との戦いに集中するあまり忘れていた。

自分の目的を。

仲間の存在を。


慧は自分に迫ってくる残り三体の化け物を無視すると走り出した。

すでに、その目は化け物を見ていない。

見ているのはただ一つの光景。


抵抗できずにただただ、ダストに殴られ続けている香椎結佳の姿だけだった。






意識が薄くなっていった。


攻撃され吹き飛ばされると体制を立て直す時間もない間にダストのもとに体が引き寄せられる。

そして、また、攻撃される。


その繰り返しだった。


体制が整わない状態では防御すらままならず、一方的に攻撃を受けるのみ。

何度も立ち上がろうとしたが、それよりも先に体がダストのいる方向に引き寄せられていった。


能力を使って加速をしようにも引き寄せられる力が強いため動くこともできない。

攻撃をしようにも不格好な体制では威力もない上に届くことすら困難だった。


「ぐっ」


何度目かの攻撃で地面に倒れた結佳の体はまた、すぐにダストのいる方向に引き寄せられていく。


「う……くぅ……」


結佳は必死に体を起こそうとするが、倒れた姿勢のまま動き続ける体を起こすことは困難だった。


「香椎!!」


声が聞こえた。

そして、そのすぐ後に結佳をダストのいる方向に引き寄せていた力はなくなった。


結佳はすぐに立ち上がるとダストの方を見る。

そこでは先ほどまで姿を見せていなかった慧がダスト相手に戦っていた。


ソレを見た結佳は能力を使って一瞬で慧とダストのいる場所に向かった。






違和感を感じ始めたのは戦い始めてすぐだった。


慧は剣を使ってダスト相手に接近戦をしていた。

間合いを開けることなく、ダストの攻撃もかわすのではなく腕や剣を使って防ぎながらダストに攻撃していく。

ダストの拳を剣で防ぐと攻撃の威力で慧の体はわずかに後ろに下がった。


「ッ!?」


その瞬間、慧の体はダストの方に引き寄せられていく。

突然の衝撃にガードすることすら忘れている慧に向かってダストは拳を構えた。

だが、その拳が当たる前に結佳がダストの前に現れるとナイフでダストを斬った。


「香椎ッ!? 大丈夫か?」


ダストが攻撃されたことにより引き寄せる力から解放された慧はすぐに結佳のもとに駆け寄った。

さっきまで、殴られ続けていたのだから体力の方も大分消耗していると思ったからだ。


だが、慧の言葉に対する結佳の返事は持っていたナイフを慧の頭に向けることだった。


「………どういうつもりだ?」


「悪いけど、アイツは私が倒したいの。だから、邪魔はしないで」


「邪魔って……お前、さっきまで─────」


「アイツに引き寄せられる力の正体はもう分かってるわ」


慧が言い終えるよりも早く、結佳はそう言い放った。

慧が何も言わないのを確認すると結佳はそのまま話を続ける。


「アイツの能力はあの姿と引き寄せる力からして『Magnet』よ」


「『Magnet』って……磁石か? だが、磁石が引き寄せるのは鉄とか金属じゃないのか?」


「そうね。でも、磁力って磁石だけじゃなくて電流でも発生するのよ」


「!? まさか、生体電流のことか?」


「話が早いわね」


結佳の言葉に慧は寒気を感じた。

人の体には『生体電流』と呼ばれるごく微弱な電気が流れている。

ダストは慧や結佳の体に流れるその電気を利用して二人の体を自分のいる方向に引き寄せていたのだ。


「まさに化け物だな……」


「分かったら。アイツの相手は私にやらせなさい」


「待てって! お前の推論が正しければアイツは引き寄せるだけじゃなくて俺たちを反発させることもできるかもしれないんだぞ! 一人よりも二人の方が勝機はある」


「………だから何?」


「………は?」


「二人の方が勝機はある? そうよね……離れたら引き寄せられて……もしかしたら、近づいたら今度は反発させられるかもしれない……一人で戦うにしては厄介よ……だけど、それがどうしたの?」


「それがどうしたって……」


「もう一度言うわよ。アイツは私が倒したいの……邪魔、しないで」


そう言い捨てると、結佳の姿は消えた。

そして、次の瞬間にはダストの背後に姿を現してその背中を斬った。


「なんなんだよ……」


結佳の言動の意味が理解できずに慧は呆然としていた。

だが、足音が聞こえてきたので背後を向く。

そこには自分を追ってきたのであろう化け物三体がゆっくりと歩いてきていた。


慧は剣を構えて応戦しょうとするが、その横を結佳が吹き飛んできた。


「大丈夫か!?」


「大丈夫よ……ったく、引き寄せられても大丈夫なように高速で移動しながら背後ばかり狙っていたのに案の定反発されたわ」


そう言いながら、結佳は立ち上がるとすぐにダストの方に走っていく。

慧は慌ててその手を掴んだ。


「なに!?」


「それはこっちのセリフだ! 今日のお前は様子がおかしいぞ? ………あのダストに恨みでもあるのか?」


やはり、放っておくのは無理だった。

そこまで、結佳と親しくない慧から見ても今の結佳は明らかに様子がおかしい。

どう考えてもあの磁石のダスト───────マグネット・ダストに執着していた。


結佳はしばらく黙っていると突然、手を掴んでいた慧を横に突き飛ばした。


「おっ……」


一瞬、困惑した慧だったがすぐにその理由は分かった。

ほんの一瞬前に慧がいた場所に化け物がいたのだ。

おそらく、背後から殴りかかろうとしていたのだろう。


結佳はナイフで化け物を斬ると、その場で宙返りしながら化け物の肩にナイフを突き刺す。

着地すると同時に、今度は高く飛び上がった。

そして、化け物の肩に刺さっているナイフに跳び蹴りする。


結佳が地面にもう一度着地すると同時に化け物は光になってその場にはナイフのみが残された。


慧は一瞬何が起きたのか分からなかった。


「………今更だけど、ソイツ等はあなたが戦ってたやつらよね? なんなの?」


「……なんなのって……やっぱり、ダストじゃないのか?」


結佳の言葉によってやっと、状況を理解した慧は怪訝な表情でそう返す。


「ダストは石の持つ力が所有者の願いに反応することによって生まれるのよ……同じ姿が生まれることはありえないわ。第一、ダストにしては弱すぎる」


戦いながら慧がずっと考えていた疑問に一瞬で答えると結佳は残り二体の化け物には背を向けてマグネット・ダストの方を向く。


「まぁ、いいわ。ちょうどいいから、あなたはそいつらを倒しといてね」


そう言うと、結佳の体はゆっくりと倒れていく。


「おいっ!?」


慧はすぐに結佳のところに駆け寄るとその体を支えた。

結佳は一瞬何が起きたのか分からないかのような表情だったが、すぐに理解したのか慧の腕から離れると無言でマグネット・ダストの方に歩いていく。

慧はその肩を掴んだ。


「何?」


「何じゃねえだろ!? お前、もう体力もほとんど残ってないんじゃないのか?」


「体力がなくても気力と精神力があるわ。それだけあれば……まだ、戦える!!」


「ふざけるな! ただでさえ、能力を使ってるから精神にまで負荷がかかってるんだぞ? しかも、お前はダストにずっと殴られていただろ? もう、肉体的にも精神的にもぼろぼろのはずだ」


「だから、なに? そんなのは関係ないのよ。私はあのダストを絶対に倒さないといけないの………あのダストだけは絶対に……命に代えてでも」


慧は自分の体が震えていることに気付いた。

結佳の目は本気だった。

本気で自分の命に代えてでもマグネット・ダストを倒そうとしている。


「どうして……そこまで、あのダストに拘るんだ?」


「あなたには関係ないでしょ?」


「関係なくない!!」


慧の叫びに結佳は驚いた表情をした。

慧はソレを無視して叫ぶ。


「俺たちは仲間なんだろ? 仲間が命を懸けてるのにソレを放っておけるわけがないだろうがよ!! 俺は人を守るために今、戦ってるんだよ…………だから、お前だって守りたい!!」


その言葉に結佳は呆然とした。

何かを喋ろうとしても口がうまく回らない。


何を言えばいいのか困惑していると慧の背後から化け物がとびかかってくるのが見えた。

結佳は一旦、考えるのを止めると走り出す。

同時に、慧も走り出していた。

一瞬だけ、背後を見ると結佳を背後から襲おうとしていたのであろう、もう一体の化け物がとびかかってくるのが見えた。

二人は剣とナイフをお互いに襲いかかろうとしていた化け物に刺すとそのまま斬る。

残り二体だった化け物は光になって消滅した。






「………………タクシーで私が言ったこと、覚えてる?」


化け物だった光が完全に消滅すると、結佳は唐突にそう言った。


「………確か、ダストに襲われた七人の中にお前の友達がいた───────って、まさか」


「よく、覚えてたわね。簡単に言えば、ソレが私があのダストに執着する原因よ」


「でも、友達は生きてるんだよな……?」


「えぇ、生きてるわよ。幸い、彼女と彼女たち(・・・・・・・)を助けてくれた人(・・・・・・・・)は軽傷で済んだわ」


でもね、と言い足しながら結佳は慧の方に振り向く。

慧の方も反射的に結佳の方を振り向いていた。

そして、血のように真っ赤に染まった左目を慧に向けながら結佳は続きを言った。


「彼女の彼氏は意識不明の重体で医者も言ってたそうよ…………いつ、目を覚ますのかは分からない。もしかしたら、このまま───────────ってね」

相変わらずサブタイトルは適当です。

というか、毎回サブタイトルには苦戦しますね……。


……因みに読んでいて結佳がマグネット・ダストに執着する理由ぐらい普通分かるはずなのに慧はどうして分からなかったんだ……? と思う人がいるかもしれませんが、一応そこらへんにも理由があります。


そこらへんの理由は次回明かされます。

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