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第10話 すれちがう想い

──────アイツはな……坂井直人は……お前を……黒鉄将輝を救いたかったんだよ。


慧の攻撃によって派手に吹き飛ばされた将輝は空中でほんの数瞬前に言われた言葉を頭の中で繰り返した。


「坂井が俺を─────」


───救おうとした?


その言葉を言い終える前に将輝は地面に叩きつけられた。

一気に全身に伝わってくる痛みと衝撃を受けながら将輝は呆然と空を見た。


そして、思い出すのはあの日の出来事。

全ての始まり。


それは本当にいつもの日常のはずだった。

普通に部活動の活動を終えて、後片付けをした。

先輩の嫌がらせのせいでたった一人、片づけを命じられた友人と共に。

もう少しで終わると思ったところで、後は自分でやるから門で待っていてくれと言われた。

本当は手伝いたかったが、将輝はすぐに首を縦に振って門に向かった。

………自分たちがいつも手助けをするのを友人がすまないと思っていることを知っていたからだ。

────────だが、それは間違いだった。


何分待っても友人は来なかった。

とっくに片づけを終わらせてもいいはずなのに。

嫌な予感がした。

だから、将輝は引き返した。


そして───────その予感は当たっていた。


友人は殴られていた。

殴っているのは先輩。

むかついた。


毎日……毎日……友人はソイツ等によって苦しめられてきた。

先輩と後輩の関係なんてどうでもいい。

これ以上は……我慢の限界だった。


状況はすぐに劣勢になった。

友人を救うために先輩たちに殴りかかったが多勢に無勢、すぐに殴る側から殴られる側に変えられた。

悔しかった。

友人を守れない自分が。

弱い自分が。


だから、叫んだ。


助けを呼びたかったのではない……どうしょうもなく、悲しく、悔しかったのだ。


気づいたら、将輝の左目は流星群を見ていた。

ある日、部屋の窓から見た景色と同じ流星群の。

激痛で将輝の叫びは更に大きくなった。


気づいたら、将輝は暗い闇の空間にいた。

目の前には鋼鉄の塊があった。

将輝はその塊を思いっきり殴った。

塊には傷がつかず鈍い痛みが拳に届いた。

そして、同時に何かが頭に入り込んでくる感覚を感じた。

頭の激痛に声にならない叫び声を将輝は上げ続けた。


そして、気づいたら元の場所に戻っていた。

周りには先輩たち。


将輝は不敵に笑うとすぐに殴りかかった。

気づいていたからだ……今、未知の力を手に入れたと。


───────────────そうやって、黒鉄将輝は全てを失った。



ゆっくりと、立ち上がると将輝は慧を睨んだ。

慧も黙って将輝を見る。


「……続きをやろうぜ」


「まだ、そんなことを言うのか……?」


「当然だ。俺にはもうこの力しか残っていない……アンタを倒してこの力の強さを証明する」


その言葉に慧は拳を握りしめた。

どんなに言っても、将輝は信じようとしない。

ただただ、力を振り回して自分の存在を保とうとしているだけ。


「…………そんなに怖いのか?」


「……何?」


慧の言葉に将輝は怒気を含んだ声でそう聞き返した。

今の会話の中でどうしてそんな質問が出たのか意味が分からなかったのだ。


「一度失ってしまったから……失うことのつらさを知ってしまったから……もう一度、得ようとは思えない。また、失うのが怖いから……お前は逃げてるだけなんだよ! 自分からも……坂井直人からも!!」


「違う……俺はアイツに何度も連絡を取ろうとした……話をしようと思った……俺は恐れてなんかない」


「だったら、どうして今すぐ行動しない? 時間はかかったが……あっちは心を決めたんだぞ?」


その言葉を将輝は言い返せなかった。

何度も何度も直人と接触しようとしていたはずなのに今はどうしても行動することができない。

だからこそ、気づいてしまった。


慧の言うとおり────────────坂井直人との和解を恐れていることを。


和解はしたい。

だからこそ、今までも行動してきた。

だが、最後の最後で踏み切ることはできなかった。

和解をするということは……もう一度、失うかもしれないということだから。

得ようとしなければ失うこともないのだから。


そんな、矛盾した気持ちに将輝は気づいてしまった。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


頭が痛い。

自分が何をしたいのかが分からない。


早く、目の前の男を倒さないと。

そうしないと……自分が自分でいられなくなる。


焦り、不安、恐怖、それらの感情を叫びとともに吐き出しながら将輝はその鋼鉄の拳を慧の顔面めがけて放つ。


慧は何もしなかった。

ただただ、自分に向けて殴りかかってくる将輝の瞳を見ていた。

その、泣きそうなぐらい不安そうな二色の瞳を。


拳は慧の顔面に当たる寸前に止まった。


「……くそぉ!!」


叫ぶと、将輝は慧ではなく真下にある地面を殴る。

地面には雨も降っていないのに水滴が一滴ずつ落ちてきた。

それが、自分の涙なのだと将輝はすぐに気づいた。


「俺は……何をしてるんだよ……」


涙声になりながら将輝はそう呟く。

気づいたら、能力の使用もやめていた。

身体強化が消えたせいか疲労が先ほどまでよりもかなり強く感じる。


「………教えてくれよ」


緑色の両目から涙を流しながら、将輝は慧を見上げつつそう呟く。


「俺はどうすればいいんだ……? どうすれば、アイツと話ができるんだよ!!」


「黒鉄将輝……」


「おかしいのは分かってるよ! さっきまで散々アンタの言葉を信用していなかったのに虫が良いことも分かってる……だけど、俺はもう俺の考えが分からないんだよ! アンタの言うとおりだった……俺はアイツと和解するのが怖い……なのに、やっぱり和解がしたい……俺はアイツと話をして自分が何をしたいのかを知りたいんだ……だから、頼むよ…………俺を…………救ってくれよ……」


それは何人もの上級生と二人の能力者に対して常に強気で戦い続けた者と同一人物とは思えないほど弱い叫びだった。


だが、慧は驚きすらしない。


戦っているうちに分かっていた。

黒鉄将輝という人間は決して強い人間ではない。

友との関係を悩み、失っていた居場所のことを引きずっていた。

そして、それらを振り払うかのように戦い続けた───────結果的にそれらを犠牲にして手に入れた『能力』を使うことによって。


慧は能力の使用を止め、立膝をついて地面に両膝を着いている状態の将輝と視線の高さを合わせるとその瞳をしっかりと見る。


「俺もかつて……大切な人と居場所を失った」


静かな言葉。

その言葉に将輝は何も言えなかった。

戦いの最中、慧は何度かそんな言葉を発したことは覚えている。


自分と似ているや自分の気持ちが分かるなど。


その言葉を聞いた瞬間、将輝は激怒した。

だが、今なら分かる。

その言葉は本当なのだと。

目の前の青年は自分と同等かそれ以上の悲しみを背負っているのだと。

だからこそ、何も言えなかった。


「俺はもう大切な人も居場所も取り戻すことはできない……だけど、お前はまだできる」


黒鉄将輝は知らない。

慧の両親が死んでいることも両親が死んだことにより『家族』という大切な居場所が消えたことも。

だが、言葉から誰かが死んだことには気づいた。


「だからさ……行って来いよ。坂井直人は屋上でお前を待っているんだ……行って、お互いに言いたいことを全て吐き出してこい」


その言葉で将輝は立ち上がった。

疲労のせいで体が大分ふらつくが、それでもしっかりと立つ。


直人の居場所は分かった。

本当ならすぐにでも向かいたい衝動を抑えて将輝は慧に向けて深く頭を下げた。


「アンタは……本当に俺と坂井を救おうとしてくれた……なのに、俺はアンタに拳を向けた」


「普通は他人なんて信用しないさ」


「だけど、アンタは他人の俺たちを救うために体を張った! ……どうしてなんだ?」


「嫌いなんだよ……子供(ガキ)の涙が。嫌いになるほど……見飽きたから」


その言葉で将輝の言葉は止まる。

言われなくともその原因が慧が失ったものと関係があることを察したからだ。

何も言わない将輝に軽く自虐的な笑みを浮かべると慧は立ち上がり将輝の肩を掴んだ。


「早く行け。俺なんかと話している時間なんてないはずだぞ?」


「…………またな」


言いたいことはたくさんある。

謝りたいことはたくさんある。

だが、慧の言うとおり、いつまでも慧と話をしているわけにもいかなかった。

だから、『さようなら』ではなく『またな』と言って将輝は走り去る。

必ず、再会することを決めながら。


将輝の姿が見えなくなると慧はその場で仰向けに倒れた。

すでに体力は限界に達していたのだ。

足音が聞こえると、すでにダストを撃退し傍観を決め込んでいた結佳が膝を下ろして顔を慧に近づけてきた。


「随分と無茶をしたわね。誰かを救うために戦うことは知ってたつもりだけど……まさか、能力者まで救っちゃうだなんて驚きだわ」


「能力者だとかそうじゃないとか関係ないだろ? 俺はただ、泣いてるやつを助けるために行動しただけだ」


「…………へえ。ところでさ………お腹、すいてない?」


「……………すいてるが?」


「だったらさ、一緒に喫茶店に行かないかしら?」


「………はい?」


一瞬、結佳が何を言ってきたのか慧には理解できなかった。

だが、そんな慧を無視して結佳は話を進めていく。


「……同盟してから一日しか経っていないのに言うのも変だと思うけど……私とあなたには圧倒的にお互いへの信頼が足りていないと思うのよ」


「そんなことは─────」


「黒鉄将輝って能力者だったのね」


「──────ないと思いたいな~」


結佳の言っていることはもっともだが、ソレを言ってしまうと今後に影響が出るため弁解しょうとする慧だったが、一瞬でその言葉から弁解の意思は消えた。


「あなたも分かっている通り、学校での接触は危険よ。かといって、休日に会う理由もないんだから、帰りにでも一緒に行動するしかないでしょ? で、どう? 行くの? 行かないの?」


「ちょっ! 近っ! 近いって!」


少し、興奮しているのか一気に慧の顔に自身の顔を近づけながら吐き出すように聞いてくる結佳に慧は真っ赤になって叫んだ。

振り払いたいが、体のダメージが思ったよりも大きいため体が思うように動かないのだ。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!?」


慧に叫ばれたことによって自分の行動を理解した結佳は跳ねるようにしてその場を離れると、真っ赤な表情で慧を睨んだ。


「馬鹿! 返事が遅いのよ……」


明らかに八つ当たりだが、結佳自身もソレを理解しているのかそれ以上は黙って声にならないうめき声をあげているため慧も何とか腰を上げてその場に座る。


疲れのせいか少し眠くなってきた瞳で結佳の方を見ると、その両目は茶色になっている───つまり、能力を使用していないのだが、代わりに頬が赤く染まっていた。


「…………いつまで待たせる気かしら? ………返事」


「あっ、悪いっ」


結佳に言われて慧は自分がずっと、結佳の方を見ていたことに気付いた。


香椎結佳という少女は正直、美しい。

転校前が、お嬢様校である『白麗学園』からだからか、どこかお嬢様のような雰囲気すら感じる。

否、彼女は間違いなくお嬢様なのだろう。


だからこそ、慧は心のどこかで結佳の方をそういう風に見ていた。

いつも、どこか余裕のある態度で慧のはるか高みまでいる少女。

能力もそう──────結局は目の前の少女によって導かれたのだから。


だからなのか、頬を赤く染めている結佳を見たら遠くにいた少女が急に近くに来た気がして思わず見とれていたのだ。


「えと……あぁ、悪い。俺は行けない」


「え……?」


その言葉に、結佳は驚いたように瞳を瞬かせた。

その瞳に不安の色が宿っているのを感じた慧はすぐに続きを言った。


「その……財布を忘れててさ。だから、また、今度……行けたら」


言っていて、自分でも情けなくなる言葉だった。

正直、嘘だと疑われても仕方がないほど適当な理由なのだ。


それを聞いた結佳は黙って立ち上がると側に置いてあった荷物を持って慧に背を向ける。


「お、おい……? 香椎……?」


「明日……また、学校で会いましょ」


それだけ言うと、慧の返事を待たずに結佳は歩き出した。

慧はどうすることもできずにその場に残ると、何度目か分からないが財布を忘れたことを後悔した。






「……断られちゃったなぁ」


校門を出て、最寄駅まで歩きながら結佳は小さくそう呟いた。

もちろん、断られることは予想していた。

だが、どうしても気にしてしまう。


「………財布を忘れたか……そういえば、結構騒がしかったわね」


昼休みの光景を思い出しながら結佳は小さく笑った。

その光景は同時に彼が『嘘』をついていないことを証明してくれたから。


不意に、足を止めると結佳は体の向きを変えて高校の方を向く。

そして、小さく呟いた。


「しっかり、してよね……あなたには生きてもらわないといけないんだから………そして、私を救ってもらわないとね」


どこか、残酷な笑みを浮かべながらそう呟くと、結佳は体の向きを再度変えて歩き出した。






黒鉄将輝は走っていた。

上履きも靴も履いていない。

履き替える時間が惜しくて靴を脱いだだけで校舎に入ったのだ。

早く────早く、行かなければならない。


途中、靴下で全力走行しているせいで何度も滑り転んだ。

能力を使用すれば早く────尚且つ、転んだ痛みなんて気にせずに行けるのだが、今はもう能力を使うほどの精神力は残っていない。

それでも、転ぶたびに痛みを我慢して戦いで消耗しきった体を無理やり起こし、再び走り出した。


いつもの数倍長く感じる廊下を走り抜けるとやっと、屋上への扉が見えた。

一切、スピードを緩めることなく将輝は扉に突っ込んでいき、寸前で何とかそのドアノブを手で回した後、扉に体当たりをしながら屋上に出る。


そして─────────ソイツはいた。


「坂井……」


「やぁ、黒鉄……上履きはどうしたんだ?」


「知るかよ……そんなの」


何気ない会話。

それさえも、今の将輝にとっては何よりも尊いものだった。


なのに、体は動いてくれない。

怖い。

ここまで来たのに……恐怖心は消えてくれないのだ。


「───────────僕はずっと怖かった」


だからこそ、今の直人の言葉に将輝は敏感に反応した。

すぐに直人の方を見ると直人の視線はすでに将輝を見ている。


「先輩が怖かった……君の瞳の色が怖かった……君の持つ『何か』が怖かった……」


将輝は何も言えない。

当たり前だ。

自分が直人の立場だったら、今、直人の言った言葉は全部自分でも怖いと思うからだ。

分かっていた。

直人が自分を恐れていることぐらい。

だからこそ──────


「でも……それよりも、君が傷つくのが怖かったんだ」


──────その言葉は将輝を激しく動揺させた。


「何を……」


「君はいつも僕を助けてくれたね………本当に感謝している。だが、同時にいつも不安だったんだ」


不安。


その言葉が将輝の頭に深く刻み込まれる。

自分がいつも直人を助けているとき……自分が正しいと思っている行動の裏で彼は何かにおびえていたのだ。


「なぁ、将輝……君は大切な友人が自分を守るために大勢の先輩相手に決死の覚悟で戦ってくれた場合……どう思う? 感謝するかい?」


将輝は何も言えなかった。

聞かなくても分かる。

それは、あの日の自分のことなのだ。

そして、その答えはあの日の直人の気持ち。


「僕はもちろん感謝した……だけど、同時に激しく絶望したんだ。僕は…………僕は───────────」


そこまで聞いて、将輝はやっと、直人が泣いていることに気付いた。

近づけずに扉の前で立ち止まっていたため気づかなかったのだ。


「──────僕は君を傷つけてしまったんだ!! いつか、こうなることは分かっていたんだ……君が僕のために退部になるほどの事件を起こすかもしれないって……なのに、僕は何もできなかった! ただただ……守られてただけだったんだ!!!」


「坂井……?」


「僕はずっと君に謝りたかった! お礼を言いたかった! だけど、ダメなんだよ……僕という存在は君を傷つけてしまうから……僕は君から居場所を奪ってしまったから!!!」


「坂井!!」


将輝は走った。

恐怖心なんてもうなかった。


分かったのだ……全てが。

直人が自分を避けていた理由が。

あの武器使いが言っていた『自分を救いに来た』という意味が。


結局のところ、坂井直人と黒鉄将輝は同じだったのだ。

友達が傷ついていくのを見ていられない……だから、行動した。

ただ、その方法は決定的に違う。

だからこそ、二人の関係も決定的に変わってしまった。


だが、もう大丈夫だ。

分かったから、直人の気持ちが────────今、自分がやらなければならないことが。


直人のその今にも崩れ落ちそうな両肩をしっかりと掴むと将輝は叫んだ。


「馬鹿野郎!! この……大馬鹿野郎!!」


その怒声に、直人は泣くのを止めながら将輝の方を見る。


「俺は間違ったことなんてしていないつもりだ……部活がなんだ? ボクシングだったらクラブでも探せばいい。俺はな……部活を止めたことよりもずっと、お前と絶交したことを考えていた。俺のやったことは間違えていたんだと何度も思った……でもさ、無理なんだよ……どう考えても、俺はあの時にお前を助けた……そうじゃないと、絶対に後悔するからだ!!!」


「……黒鉄。でも君は……あの日、『何か』を得たんだろ……?」


「………あぁ」


数秒の間を開けて、将輝は答える。

絶対的に敗北するはずだった喧嘩に勝ち────その時、瞳の色が変わっていた。


話を聞いただけだとか遠くから見ていただけならいくらでも言い訳があるだろう。

だが、能力を覚醒するところを目の前で見ていた直人をごまかす手段など思いつかなかった。


「それは危険はないのかい? その『何か』がなんなのかは僕にはわからないし聞く気もない……でも、もしソレで少しでも君に害があるのならそれはやはり……」


「害なんてない。うまく言えないし俺自身、この力については知らないことばかりだが少なくとも、俺はお前を救うことができたこの力に少しだけ感謝してるんだ」


「……そうか」


「なぁ、仲直りしょうぜ………俺は……やっぱり、お前と友達でいたい」


そういいながら、差し出された手を直人は見た。

答えは決まっている。

散々上級生と話をしたのだから。

だけど、やはり怖い。


「できれば……また、一緒にボクシングがしたいな」


その言葉に止まっていた直人の手は動いた。

そして、ゆっくりと将輝の手を掴む。


「……僕も君と一緒にボクシングがしたい。そして、君以上に強くなりたいな」


「ほぉ……言うじゃねえか」


互いに握手をした状態で二人は不意に笑い出した。

それは、二度と手に入らないはずの笑顔。

お互いにお互いのことを考えたために失われようとしていた友情は─────────今、確かに二人の間に存在していた。






「………帰りてえ」


黒鉄将輝や坂井直人、二人の後輩と深くかかわった次の朝、慧は自転車で学校近くを走りながら、そうつぶやいた。

結局、あの後一度家に帰った慧だったが弁当を忘れたことを妹の美奈に気付かれてしまい怒られた。

しかも、黒鉄将輝に殴られたところがまだ痛むこともあり、気分的にも肉体的にも疲労しながらバイトに行ったものだから次の日は筋肉痛の上に何故か気持ちがわるかった。


「……最近、やけに眠くなってくるな。寝た場合授業のノートは煙道───────はどうせ書かないから起きてないとな」


不真面目な友人を理不尽だと分かってて軽く恨みながら慧は学校の駐輪場まで着いたため自転車を降りた。


「先輩!」


自転車を駐輪場に置くのとほぼ同時に聞いた覚えのある声が背後から聞こえてくる。

眠気眼を背後に向けるとそこには二人の後輩がいた。


「先輩! おはようございます!!」


「おはようございます……先輩」


その二人の姿を見て慧は思わず笑みを浮かべてしまった。

自分の役目は終えた為あの後、二人を確認に屋上に行く真似はしなかった。

だから、二人が最終的にどうなったのかは知らない。

心配もした───────だからこそ、今の二人の姿を見た瞬間笑みを浮かべずにはいられなかった。


「おはよう……仲、良さそうだな。黒鉄将輝、坂井直人」


二人は一度互いの顔を見合わせた後同時にサムズアップをした。

一人は友を助けたかった。

一人は友が傷つくのを見ていたくなかった。

 

今回はそんな二人を中心にした話でした。


なんだか、更新速度がだんだん遅くなってきている気がしますが、今後も頑張って行きたいと思っているので読んでくだされば幸いです。


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