プロローグ
みなさんもご存じの通り突然この『小説家になろう』の規制が厳しくなり多くの二次創作が書けなくなったのでこれを機に前々から構想だけは考えていた一次創作を書き始めてみることにしました。
人の命ははかない。
失われたら二度と戻ってはこない。
「お兄ちゃん……お母さんは? お父さんは?」
夜の病院で少女は青年にそう聞いた。
結婚記念日だから、二人っきりでご飯を食べてくればいいと言ったのは少女だった。
最初、悩んでいた両親も長男である青年に後押しされて行くことを決めた。
電話が来たのは夜の七時ごろ。
今頃、二人だけで楽しんでるのかと考えながら妹と一緒にテレビを観ているとき青年の携帯電話がなった。
「落ち着け美奈……父さんと母さんは────」
「生きてるよね?」
青年は何も言えなくなった。
少女は両親が生きてると信じている。
当たり前だ。
誰だってそうだろう。
だから、青年は言いたくなかった。
自分が受け入れきれていないのに少女が受け入れられるはずがないから……。
「どうして……何も言わないの?」
だが、沈黙は答えとなって少女に伝わっていた。
青年は歯を食いしばりながら少女に抱き着いた。
「どうしたの……お兄ちゃん?」
「運命ってさ……本当に分からないよな? あり得ないと思ってたことがあり得ちまうんだからさ」
「何……言ってるの? 痛いよ……お兄ちゃん」
「父さんと母さんは死んだんだ」
「えっ……?」
その場の雰囲気が変わるのを青年は察した。
周りで少なからず友人や家族と話をしていた人たちは一斉に口をつぐんだ。
場が沈黙に支配される。
「トラックがさ……居眠り運転してたんだってよ。おかしいよな……? まだ、子供も寝る時間じゃないってのにさ」
少女は何も言わない。
それでも、青年は話を続けた。
「信号を無視したトラックがうちの車と激突したんだ。うちの車はひとたまりもなく中にいた父さんと母さんも────」
「私のせいだ」
「……え?」
青年は慌てて少女から体を離した。
少女は青年のほうを見ずに下のほうを見ている。
その瞳から涙を流しながら。
「私が……たまには二人っきりでご飯でも食べに行けばだなんて言ったからだ。だから、二人は───」
「それは違う!!」
青年はこの場が病院だということも忘れて叫んだ。
確かに、少女が両親にそんなことを言わなければ両親は今も生きていただろう。
少なくとも、交通事故になんて合わなかったはずだ。
だが、青年は少女にそんなことを言ってほしくなかった。
すべてを自分のせいにしてほしくなかった。
「父さんも母さんも喜んでたよ……美奈があんなこと言うだなんて成長したんだなって……本当に喜んでた。いいか? お前は二人を喜ばせたんだ!! お前がしたのはそれだけだ……事故はお前とは関係ないんだ」
「でも、それでも私が言わなければ二人は死ななかった!! 違う? ねぇ? 教えてよ……どうして、二人は死んだの? どうして!!!」
少女は泣きながら青年に向けて叫んだ。
まるで、行き場のない怒りや悲しみを青年にぶつけるかのように。
「偶然だ……」
青年は心の底から苦しそうにそう言った。
その言葉に少女は言葉を失う。
「トラックの運転手は事故の衝撃で目を覚ましたんだ……。だから、父さんと母さんが事故に合わなくても必ずどこかで事故は起きていた。その相手が偶然父さんと母さんだったんだ」
「偶然だなんて……そんな言葉でかたずけないでよ!! お兄ちゃんのばかあああああああああああああああああああああ!!!!」
少女は泣き叫びながら青年の胸をたたき始めた。
少女は本気で叩いているらしく鈍い痛みが何度も青年を襲った。
だが、青年は文句も何も言わず、ただ、少女の攻撃を受ける。
「そうだよな……。偶然だなんて言葉で片付けてもらいたくないよな? 当たり前だよな」
青年はそこまで言って自分も泣いていることに気付いた。
服の袖で涙をぬぐうと青年は少女に抱き着いた。
「痛いよ……離してよ」
「約束する……俺は死なない」
若干涙声だが、真剣な声色で青年は言う。
その言葉で必死に青年から離れようと抵抗していた少女の抵抗は弱まった。
「交通事故に合っても殺人犯に会っても宇宙人が攻めてきても怪人や怪獣に襲われても俺は絶対に死なない……」
「……後半が現実的じゃないよ?」
「あり得ないと思っていたことが起こるからな……もしかしたら、宇宙人が攻めてくるかもしれないだろ?」
「……そうだね。じゃあ、約束してくれる? 交通事故にあっても殺人犯に会っても宇宙人が攻めてきても怪人や怪獣に襲われても絶対に死なないって」
「あぁ、約束する……俺は絶対に死なない。父さんと母さんの分もお前を守ってやる」
少女からの返事はない。
その代り、少女の手が青年の服をつかんだ。
まるで、自分の目の前から離さないかのように。
「……ごめんね。お兄ちゃん……やっぱり、泣きたいよ」
二人にとって永遠に感じられるほどの数分が経つと少女が申し訳なさそうにそう言ってきた。
青年は少女の頭をやさしくなでる。
「泣けばいい。顔は隠してやるから……思いっきり泣けばいいんだ」
静かな病院に少女の泣き叫ぶ声だけが響く。
青年は少女が泣き終えるまでその顔を自分の胸で隠し続けた。
というわけでプロローグです。
まぁ、読んでのとおりあらすじと全く関係がありません。
ですが、次回からは少しずつ物語が進行していきますので気長に待っていただければ幸いです。
感想や意見なども気楽に書いてくださると嬉しいです。