超重装甲機動悪役令嬢 ヴィランデュシェス 〜私が作ったリアルメカで魔王城に殴り込む〜
「――シルヴィア・ド・ヴァロワ! 悪逆非道にして冷酷無比な貴様との婚約など、本日この時をもって破棄させてもらう!」
華やかな王立学園の祝賀パーティー会場。
絢爛豪華な巨大シャンデリアの下で、第一王子アルフレッドが甲高い声を張り上げた。隣には、悲劇のヒロインを気取った男爵令嬢マリアが、わざとらしく怯えた素振りで寄り添っている。
「殿下ぁ……恐ろしいですわ。シルヴィア様はいつも私を冷たい目で見下し、裏で怪しげな黒い鉄の悪魔を呼び出そうと呪いの儀式を……」
「安心しろマリア、私が守る! さあシルヴィア、平伏して罪を認めろ! 貴様のような可愛げのない女、誰が王妃などにしてやるものか!」
周囲の貴族たちがドッと下品な嘲笑を上げる。
「そうだそうだ!」「いつも高飛車で鼻につく女だったからな!」「これでヴァロワ家も終わりだ!」
だが、ヴァロワ公爵家の令嬢シルヴィアは、完璧に仕立てられたドレスの裾を乱すこともなく、扇子を優雅に揺らすだけで眉ひとつ動かさない。
「まあ、アルフレッド殿下。理由をお伺いしても?」
「フン、白々しい! 貴様が裏で怪しげな地下工房に通い詰め、黒い鉄の塊に大金を注ぎ込んでいたことは調べがついているのだ! 国の資産を無駄にドブに捨てるような狂人など、我が国の王妃にふさわしくない!」
「あら。あの開発資金はすべて私が特許で得た個人資産ですけれど? 国の税金から無駄な豪華パーティー代を捻出しているどなたかさんと一緒になさらないでくださる?」
「な、なにぃっ……!? 口の減らない女め!」
シルヴィアが呆れたように小さくため息をついた、まさにその時だった。
――ズゥゥゥゥゥンッ!!!!
激しい地鳴りが学園全体を揺らした。
会場のガラス窓が一斉に激しく粉砕し、天井の装飾から大量の粉塵が舞い落ちる。
「ひ、ひぃっ!? な、なんだ、地震か!?」
アルフレッド王子が悲鳴を上げて派手に転び、マリアを巻き込んで無様に床をのたうち回る。
「……違いますわ」
シルヴィアが視線を北の空へと向けた。
遙か彼方、魔王城の立つ山脈の上空。空が禍々しい血の赤に染まり、巨大な闇の光柱が天を突いていた。
空間を引き裂くような不気味な咆哮が、数百キロ離れたこの学園にまで届く。
「魔王の封印が……破れましたわね。ちょうど今、完全復活を果たしたようですわ」
「なっ……魔王だと!? そ、そんなバカな、予言ではまだ先の話のはず――おい近衛兵! 私を守れ! 早く城へ逃げるぞ!」
腰を抜かしたままガタガタと震え、近衛兵の影に隠れようとするアルフレッド。取り乱す王子を余所に、シルヴィアはドレスの裾をわずかに持ち上げ、静かに歩き出した。
「お戯れに付き合っている暇はなくなりましたわ。これより害虫駆除へ赴きます」
「待て! どこへ行く気だ、シルヴィア!」
「どこへ、ですって?」
シルヴィアは振り返り、ゴミを見るような冷ややかな目でくすりと微笑んだ。
「決まっておりますでしょう。私の愛機――
ヴィラン・デュシェスのもとへですわ」
彼女が胸元に下げた魔導ペンダントに指を触れ、短くコマンドを打ち込む。
彼女には前世の記憶がある。重工メーカー勤務のロボット工学エンジニアであり、休日はガンダムや勇者シリーズ、スパロボに人生を捧げた重度のメカオタクだった記憶が。
この世界に転生し、「魔法結界」と「魔導結晶」の存在を知った日、彼女は誓ったのだ。――これなら、本物のリアルロボットが作れる⋯と。
直後、パーティー会場の強化天井を木端微塵にぶち破り、巨大な影が降り立った。
ズガァァァァンッ!!!!!
轟音とともに中庭に踏み込まれた、巨大な鉄の足。
爆風と火花、そして冷却蒸気が舞い散る中、そこに佇んでいたのは、全高19.8メートルに及ぶ漆黒と蒼銀の重装機甲――『魔導騎兵 ヴィラン・デュシェス Type-02』であった。
むき出しの油圧ライン、重々しく吐き出される高温の排気。エンジニアのロマンと悪役令嬢の意地を結集させた圧倒的な質量に圧倒的な質量と重厚な威圧感に、王子も取り巻きの貴族たちも言葉を失い、ただただ腰を抜かして見上げるしかない。
「ひ、ヒエッ……なんだあの化け物は……っ!? シルヴィア、貴様こんな恐ろしいものを作っていたのか!?」
「「化け物とは失礼ですわね。ロマンと最新工学の結晶……おバカな殿下に代わって世界を救う、私の最高傑作ですのよ」
シルヴィアは滑らかにタラップを登り、開かれしコックピットのハッチへと向かう。
そこへ、一人の男が息を切らせてパーティー会場から駆け込んできた。
「シルヴィア様っ!!」
銀の甲冑を纏った青年――彼女の専属護衛騎士、アスラン・フォードであった。
彼は手にした剣を握り締め、必死の様相でシルヴィアを見上げる。
「魔王復活の兆候を確認しました! 姫様をお一人で戦場に行かせるわけにはまいりません! 俺も連れて行ってください!」
「アスラン……? の副座はG(重力加速度)対策の魔法陣が未完成ですのよ? 生半可な覚悟なら、骨が折れますわ」
「骨の1本や2本折れても構いません! 俺の命は、貴女をお守りするためにあります!」
愚直なまでのまっすぐな瞳。
シルヴィアは一瞬だけ素の表情に戻り、どこか愛おしそうに目を細めると、フッと不敵に笑った。
「……フフ、相変わらずバカで愚直な騎士ですこと。いいでしょう、後部座席で火器管制を任せますわ!」
「ハッ!」
アスランが手すりを飛び越え、複座コックピットの後座へと滑り込んだ。
シルヴィアが前座のパイロットシートに深く腰掛け、両手でメイン操縦桿を握り締める。
「アスラン、システムチェックを開始しますわ! 後座、火器管制インターフェース接続!」
「接続完了! 照準同期率、オールグリーン! 各部油圧ライン、内圧正常です!」
《システム起動――魔導ジェネレーター、出力85%上昇。全周モニター、クリア》
《警告:外部魔力干渉を感知。メインコンバーター、臨時オーバーリミッター開放》
《プライマリ・サブ・冷却循環系、作動。内蔵ボイラー、プレッシャーマックス》
無機質なコンソールが青く発光し、視界一面に外部の映像が広がる。
重厚な油圧音とともにハッチが閉じ、密閉されたコックピット内に、金属とオイルの独特の香りが満ちた。
シルヴィアが不敵に笑い、コンソール上の保護カバーを跳ね上げてロック解除スイッチを叩き込む。
《安全装置全解除。出撃シークエンスへ移行》
《脚部固定ロック解除――3、2、1……クリア》
「各部バイパス直結! ヴィラン・デュシェス Type-02、最終発進承認ですわ!!」
「全バイザー・全周モニター、Gプロテクト最大稼働! シルヴィア様、いつでもいけます!」
《メインバーニア・グラビティスラスター、点火!》
「アスラン、歯を食いしばりなさい! メインバーニア、全噴射ですわ!!」
ゴォォォォォォッ!!!!
背部スラスターから吹き荒れる青白い魔導噴流。
そのすさまじい風圧と爆熱により、すぐ下にいたアルフレッド王子とマリア、そして嘲笑っていた貴族たちはカツラや高級ドレスを乱されながら無惨に吹き飛ばされ、泥水の中に転がり落ちた。
「ぎゃああああああっ! 服が! カツラがぁぁぁっ!?」
情けない悲悲鳴を置き去りに、20メートルの鋼鉄の巨人は一気に大空へと躍り出た。
ゴォォォォォォォ……ッ!
音速を超えて大気圏スレスレを激走するヴィラン・デュシェス。
しかし、20m級のリアルメカのコックピット内は、ロマンあふれる格好良さとは裏腹に、極限状態の過酷な空間であった。
「ぐあああっ……!? ひ、姫様、Gが……Gが想像以上です……ッ!」
後座のシートに叩きつけられたアスランが、顔を歪めて悲鳴を上げる。
「当然ですわ!ヴィラン・デュシェス の慣性制御回路はまだ試作段階! 歯を食いしばって魔法で内臓を固定しなさいな!」
「内臓を!? 無茶を言わないでください!!」
狂ったようにコンソールを高速操作しながら、シルヴィアのメカオタクとしてのスイッチが完全にオンになっていた。
「それとアスラン! なぜか機体スピーカーから激しいアニキ風の熱唱ヴォーカル曲が響いていますけれど、何ですのこれ!?」
「えっ!? 俺がテンションを上げるためにプレイリストに仕込んでおいたテーマソングです!」
「勝手な演出を挟まないでくださる!? 声が良すぎて集中できませんわ!」
「そんなことよりアスラン! 同調率が40%から上がりませんわ! 何を雑念に抱いてますの!?」
ヴィラン・デュシェスの性能を100%引き出すには、前座(操縦)と後座(火器管制)の《デュアル・コア・リンク》――すなわちふたりの魔力波形と感情の同調が必要不可欠だった。
「雑念というか……その、距離が近すぎて、シルヴィア様の髪のいい匂いがして集中できないと言いますか……!」
「〜〜〜〜〜ッ!? こ、このバカ騎士! 変なこと考えてる場合ですの!? パルスを合わせなさい、アスラン!!」
「は、はい、シルヴィア様! ……あと、あの、まったく関係ない雑念なのですが、俺が乗るなら機体は『赤』じゃなくていいんでしょうか……!?」
「リアル志向だから赤くありませんし、頭部に角もアンテナもついていませんけれど文句でも!? くだらないツッコミをしていないで集中しなさいな!!」
真っ赤になって怒鳴るシルヴィア。だが、彼女の拍動の高鳴りと恋心が魔力パルスに直結し、コンソールの同調率メーターが一気に跳ね上がった。
《デュアル・コア・リンク、同調率89%突破。火器管制システム、全開》
「前方より魔導飛竜種30! 本隊です!」
「無駄撃ちは厳禁ですわ! 滑腔砲の1弾あたり金貨100枚しますのよ!? 引きつけてから高周波ブレードで切り裂きますわよ!」
ドレス姿の悪役令嬢が弾薬費にケチをつけながら、20mの鉄塊を操って空を舞う。
《各部バイパス直結――駆動系、全出力へ。接近戦モードへ移行》
ゴォォォォォォッ!!
ヴィラン・デュシェスは背部のメインバーニアを最大噴射し、迫り来る飛竜の群れへと突っ込んだ。
シルヴィアの華麗なレバー捌きに合わせ、20メートルの鋼鉄の巨躯が、まるで舞踏会で踊るかのように空を舞う。
「そこですわ!」
ドォォォォンッ!!
引き抜かれた巨大な振動ブレードが、飛竜を魔力結界ごと一刀両断にする。
油圧シリンダーの駆動音と、魔物が弾ける爆音が交互に響き渡る。
《警告:魔王領へ侵入。外部魔力圧、極大。機体周囲の魔導結界、出力120%で維持》
視界一面を覆っていた空が、どす黒い紫の瘴気に塗りつぶされた。
全周モニターには、不気味に蠢く巨大な魔王城の影が映し出されている。
「……相変わらず趣味の悪いお城ですこと」
続く二撃、三撃。
シルヴィアの操縦は、もはや令嬢のそれではない。地下工房で油まみれになりながら組み上げた機体と、完全に神経が同調していた。
「照準同期率98%……! シルヴィア様、行けます!」
「いいわ、アスラン! 300mm魔導滑腔砲、撃ちなさい!!」
ズガァァァァンッ!!
アスランの放った一撃が、飛竜の残党を一掃し、そのまま魔王城の外壁を貫いた。
だが、砂煙が晴れた直後、コックピット全体に真っ赤な警告が点灯した。
《緊急警告:上空より極大魔力反応!! 回避不能――》
天から降り注いだのは、空間そのものを削り取る黒い魔力の雷光だった。
ヴィラン・デュシェスの右半身を直撃する。
ズガァァァァァァンッ!!!!!
「きゃあああああっ!?」
重厚な衝撃波がコックピットを激しく叩き割った。
右腕の重装甲が吹き飛び、むき出しになった鉄骨フレームが激しい火花を散らす。
直後、衝撃を吸収しきれなかったメインコンソールが爆ぜ、飛び散った高熱の金属片と強化ガラスの破片が、シルヴィアの右腕と脇腹を深く切り裂いた。
「シルヴィア様っ!?」
「くっ……あぁっ……!」
白いドレスの袖が一瞬で鮮血に染まり、操縦桿を握るシルヴィアの指先が激痛で細かく震える。
額から流れる血が美しい蒼銀の髪を汚し、苦痛に顔を歪めながらも、彼女は必死に意識を保とうと歯を食いしばっていた。
《深刻な損傷:右腕駆動系、完全沈黙。操縦者バイタル低下――出血量増加、意識混濁の恐れ》
魔王の精神侵食を含んだ不気味な声が、コックピット内へ直接響き渡る。「くうっ……! メインシステム、再起動⋯⋯急ぎなさい……!」
シルヴィアは火花を散らすコンソールを叩くが、機体は姿勢を保つのが精一杯で、黒い瘴気の中を漂う。
霧の向こうから、巨大な魔王の影がゆっくりと姿を現した。
「……おめでたい人間の鉄クズが。我の前に跪くがいい」
魔王の、精神を直接抉るような声がコックピット内に響く。
「跪く……? この私、シルヴィア・ド・ヴァロワに、そんな無礼なことを言う口は、根こそぎ引き千切ってあげますわ……!」
シルヴィアは強気を崩さないが、その声は微かに震えていた。
ジェネレーターは瀕死。武器は残っているものの、右腕が動かない状態での接近戦は自殺行為だ。
コックピット内を、絶望的な沈黙が支配しかける。
「……シルヴィア様」
後座から、アスランの低く、だが驚くほど落ち着いた声が届いた。
「アスラン……申し訳ありませんわ。私の設計ミス……いえ、バカな王子の相手なんてせずに、もっと調整を続けていれば……!」
傷口を押さえ、荒い息を吐きながらなお操縦桿を握り直そうとするシルヴィア。その痛々しい姿に、アスランの瞳に血が上った。
「……違います」
火花と警告音が鳴り響く中、アスランはシートベルトを強引に解除すると、狭いコックピットの隙間を押し通って前座へ身を乗り出した。
「俺に操縦桿を渡してください! シルヴィア様をこれ以上傷つけさせない!」
血に濡れたシルヴィアの小さな手を、大きな手で力強く包み込む。
「シルヴィア様。俺は、貴女が油まみれでこの機体を組み上げている姿を、ずっと見てきました。誰よりも誇らしく、そして……誰よりも、愛おしかった」
「〜〜〜〜〜ッ!? こ、この状況で何を……!」
「俺は騎士です。だから、無事に生きて帰れたら……護衛は辞めます。俺の残りの人生は、貴女の夫として、その無茶に一生付き合わせてください。……シルヴィア、愛している」
心臓が、跳ね上がった。
脇腹の激痛すら一瞬で吹き飛ぶほどの情熱。
《――精神パルス同調、計測不能。魔導ジェネレーター、臨界突破》
「……バカな騎士ですこと。私の承認なしに、護衛を辞めるなんて許しませんわ!」
血に濡れた顔のまま、シルヴィアは今までで一番不敵で美しく笑った。
「夫として付き合うというのなら……死んでも、勝ちなさい! これは命令ですわ!!」
「ハッ! 御意のままに!!」
スパコーンッ!!
「うおっ!? あ、頭の中で何かが種子みたいに彈けました!」
「余計な覚醒演出はいいですから、早く照準を合わせなさいな!」
アスランが前座の操縦桿を握り直し、シルヴィアが後座のメインコンソールへ承認キーを叩き込む!
「ふふ……おめでたい魔王に、最高の舞踏会をお見舞いして差し上げますわ! ――天の静寂より舞い降りなさい、我が覇道の翼! 軌道上増設ユニット、ヴァルキュリア、戦術接続!!」
(BGM ドゥンドゥンドゥンドゥンドゥン)
《静止軌道上:ユニット、ヴァルキュリア、ロック解除――大気圏突入シークエンス開始》
雲を突き破り、静止軌道上に待機していた超大型増設ユニット、ヴァルキュリアが飛来!
ヴィラン・デュシェスの背部にドッキングし、蒼銀の光で形成された結晶翼が夜空いっぱいに広がった。
「な、なんだその背中のデカい翼は! 最終決戦で急に増設ユニットが軌道上から飛んでくるなんて、ご都合主義が過ぎるだろうがぁぁぁっ!?」
あまりの超展開に、空中に浮かぶ魔王が思わず素でツッコミを入れる。
「承認キーを差し込んで全弾発射と極大レーザー……! シルヴィア様、これ完全に主人公機が後半でやる一番派手なやつです!」
「細かい演出にツッコんでいないで、さっさと撃ちなさい!」
《最終限定解除、承認。空間断絶砲『レガリア・ゼロ』解禁》
「シルヴィア様の望む世界を……俺が切り開く!! 絶望を断ち切る……撃たせるかぁぁぁッ!!」
数百のビットから放たれる全周マルチロックオンの全弾発射が魔物群を一瞬で消し飛ばし、続いて胸部コンバーターから放たれた極大の白光『レガリア・ゼロ』が、魔王の絶対防御ごと魔王城を真っ二つに切り裂いた!
「ぬおおおっ!? なんだそのマルチロックオンは! 処理能力が狂っているだろうがぁぁっ!?」
理不尽すぎるオーバーテクノロジーの暴力に最後の悲鳴を上げ、魔王は絶対防御もろとも白光の中に影も形もなく消し飛んだのだった――。
数日後。魔王討伐という前代未聞の偉業を成し遂げ、崩壊した魔王城から帰還したヴィラン・デュシェス
王都の広場には、王族や貴族たちが集まっていた。
その中心には、魔王の脅威が去ったと知るやいなや、何食わぬ顔で威張り散らしていたアルフレッド王子と、泥だらけのドレスを新調したマリアの姿があった。
「聞いたか皆!ヴィラン・デュシェスとかいうあの兵器、実は我が王家に伝わる古代兵器で、私が裏でシルヴィアに命じて作らせていたのだ! つまり魔王を倒したのはこの私だ!」
自分の功績だと嘘を触れ回り、観衆に向かって調子良く手を振るアルフレッド。
そこへ――ズゥゥゥゥン……ッ!!
重厚な駆動音とともに、漆黒と蒼銀の巨体ヴィラン・デュシェスType-02が静かに降り立った。
搭乗ハッチが開き、中から颯爽と降り立つシルヴィアと、彼女を優しくエスコートするアスラン。
アルフレッド王子は勝ち誇った笑みを浮かべ、下品にニヤつきながら歩み寄ってきた。
「ハッハッハ! 戻ったかシルヴィア! 素晴らしい成果だ! 貴様にしては上出来だぞ! 特別にあくどい婚約破棄を取り消し、私の側室にしてやってもいい! そしてその鉄の巨神は王国……いや、この私の所有物として接収する!」
「そうですわシルヴィア様! 側室になれるなんて光栄に思いなさいな! 私は正妻として、貴女をしっかりとしごいてあげますからね!」
マリアまでもが調子に乗ってクスクスと笑う。
シルヴィアは二人の話を冷ややかな目で見下ろすと、ふっと溜め息をついた。
「……相変わらず、おめでたい頭の二人のようですわね」
シルヴィアは胸元のペンダントを弄りながら、のコンソールに遠隔指示を出す。
「ヴィラン・デュシェスの制御権限は、私とアスランの魔力同調にのみ固定されていますの。あなた方のような愚者には、ただの20メートルの粗大ゴミですわ。……それと」
シルヴィアが指を鳴らした瞬間。
ドスッ……!!!!!
ヴィラン・デュシェスの巨大な鋼鉄の拳が、完璧な精密制御で、アルフレッド王子とマリアの頭上わずか1センチの位置へ超高速で叩き落とされた。
「ひっ、ひぎぃぁぁぁぁぁっ!?!?」
強烈な衝撃波と風圧が二人を直撃!
地面が爆破されたかのように跳ね上がり、アルフレッドとマリアは盛大に泥水の中へと頭から突っ込んだ。
「ひ、ヒエッ……! 助けて、潰される、死んじゃうぅぅぅ!」
「だ、誰かこの悪魔を止めろぉぉぉっ!」
泥まみれになり、鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら失禁して這い回る第一王子と男爵令嬢。
集まっていた民衆や貴族たちからは、「自業自得だ」「情けない」「これが王子かよ」と爆笑と蔑みの声が一斉に上がった。
そこへ、騒ぎを聞きつけた国王と騎士団長が駆け込んできた。
「静まれ! 国王陛下の御前である!」
国王は惨めに入水自殺の如く泥に這う息子を一瞥すると、深いため息をつき、冷酷に告げた。
「アルフレッド! 虚偽の報告で民を惑わし、国家の英雄たるシルヴィア殿を侮辱した罪、看過できん! 本日をもって貴様を廃太子とし、国境の開拓地へ終身流刑とする! そこの男爵令嬢共々、二度と王都に足を踏み入れるな!」
「「そ、そんなぁぁぁぁぁっ!?」」
絶望の悲鳴を上げる元王子と男爵令嬢は、兵士たちに惨めに引きずられて追放されていった。
惨めな害虫がいなくなった広場に、温かな夕日が差し込む。
傷つきながらも誇らしく佇むヴァルキリエスの装甲の上。
アスランが、シルヴィアの前に優雅に膝をつき、準備していた箱から輝く指輪を取り出した。
「改めて……俺と結婚していただけますか、シルヴィア様。今度は騎士としてではなく、貴女を一生愛する夫として」
シルヴィアは照れ隠しに扇子でパッと顔を隠したが、その耳まで真っ赤になっているのは隠しきれなかった。
「……本当に、図々しい騎士ですこと。断る理由が……ありませんわ」
そっと差し出されたシルヴィアの手の甲に、アスランが恭しく口づけを落とす。
「ふふ、これで平和になりましたわね。次はフリーダムな新型機でも設計しましょうかしら」
「シルヴィア様、それ以上は本当に各種権利関係の方面からお叱りを受けるのでやめてください!」
笑いと熱狂の中、悪役令嬢と最強の騎士は静かに誓いの口づけを交わしたのだった。
(完)
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