海の子供たち
これはわたしが体験した話だ。
中学校一年生の時の夏休み、母と叔母と妹の四人で海に行った。
その日は夏休みシーズンで遊泳客が多く、海も砂浜もとても賑やかだった。海も空も真っ青でとても美しかった。
五歳年下の妹は泳げなかったので、母と砂浜でお城を作ったり、貝殻を拾ったりして遊んでいた。わたしと叔母は泳ぐのを楽しんでいた。
学生時代水泳部だったという叔母の泳ぎは見事なもので、平気で沖まで泳いでいた。海水浴客はたくさんいたけど、叔母ほど奥まで泳いでいる人は少なかったと思う。
わたしももう少し沖までいってみようかな。
そう思って叔母の方を見た時だ。わたしは奇妙なものを見た。
沖にぽつんと浮かんだ叔母の周りを、ぐるぐると何かが回っていた。
(何だろう、あれ。子供?)
よく見ると、叔母を囲んで回っているのは四人の黒い子供だった。影のような黒い子供は、ぐるぐる、ぐるぐると叔母の周りを回り続けている。
小さな子供が、あんな沖まで泳げるはずがない。
わたしはとても怖くなった。
叔母を助けないと。そう思うのに、なぜか体が動かない。
気が付くと、叔母も黒い子供たちの影に加わっていた。五人でぐるぐる、ぐるぐると円を描いて泳いでいる。
いつの間にか、叔母の姿が海の中に消えていた。
沈んでしまったのだ。わたしは真っ青になった。
(助けに行かなくちゃ……!)
慌てて、叔母が沈んだ所まで泳いでいこうとした。
その時、叔母の周りを回っていた黒い子供たちが、今度はこちらに向かって泳いできた。
影のような真っ黒な体に、爛々《らんらん》と光る眼と三日月みたいな真っ赤な口だけが浮かんでいる。
子供たちは満面の笑みを浮かべて、わたしに向かって泳いできた。
わたしは怖くなって、すぐに砂浜に向かって泳いだ。
もしも追いつかれたら、わたしも海に沈められてしまう。そんな気がしたのだ。
なんとか捕まることなく、わたしは黒い四人の子供たちから逃げられた。砂浜に戻ると、わたしはすぐに母に「叔母が沖で姿を消した」と伝えた。
母は最初は半信半疑だったが、わたしがあまりにも必死なので、監視員の所に行って、叔母を捜してもらった。
叔母は沖の海底に沈んでいた。すぐに心肺蘇生をしたが帰らぬ人となった。叔母の足には小さな黒い指の痕が無数についていた。
あの夏以来、わたしは二度と海では泳いでいない。




