自滅の22:フジワラ、快楽の扉を開けてしまう
時は8月下旬。夏休みも間もなく終わるという頃。
ふたりはせっせと宿題をやっつけていた。
少年の名はヒナ。いじめられっこである。
少女の名はフジワラ。いじめっこである。
夏休みの間も休むことなく、フジワラはいじめるために、ヒナに会いに行っていた。
そしてヒナもまた、いじめられるために、フジワラに会いに行っていた。
そう、ヒナはドMであった。
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今日の舞台は、ヒナの自宅。
いじめのメニューは、夏休みの宿題。
ソファーでくつろいでいるのはフジワラ。
ヒナに自分の分の宿題をさせ、自分は優雅に見学といったところか。
非常にいじめっこらしい過ごし方だ。
しかし、そんなフジワラにも、わずかばかりの慈悲はあったようだ。
ヒナが困っていれば、手を差し伸べることもある。
「う~ん、この問題が解けない…。フジワラ、わかる?」
「ここはこうなって…」
「あ、そっか」
解けない問題があれば、親切に教えてあげるのだ。
「こっちは?」
「こうこうで、こう」
「なるほど」
質問すれば、すらすらと解いてくれる。
…これ、フジワラが解いた方が早くないか?
「ヒナを苦しめるのが楽しいの♪」
やはり彼女は、まごうことなきいじめっこだったようだ。
今日もヒナは非効率な方法でいじめられていた。
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しかし、それも長くは続かなかった。
フジワラはやることがなくて、退屈してしまったようだ。
おもむろにリモコンを手に取ると、テレビに向ける。
画面にはホラー映画が映し出された。
「やめろよ!僕ホラー苦手なんだから!」
ヒナは抗議するが、フジワラは気にもとめていない。
そのうち、映画がクライマックスにさしかかった。
『きゃあああ!』
けたたましい女優の悲鳴。
「ぎゃあああ!!」
それにつられ、ヒナも悲鳴をあげた。
青くなってガタガタ震えている。
それを見たフジワラ、ヒナのあまりの怯えっぷりに、思わず笑いだした。
「そんなに怖がることないでしょ!」
しかし、ヒナの震えは止まらない。
「いやあああ!!」
ガタガタガタ
あまりの振動に、ヒナの姿は残像になっている。
フジワラ、それを見てけたけた笑っている。
「これじゃヒナの方が幽霊みたいよ!」
臆病なんだから…とバカにしようとしたが。
そのとき、フジワラは思いついた。
マッハのスピードで上下に小刻みに動き続けるヒナ。
これは…もしかして…。
フジワラはそっとヒナに近づいた。
そしてその激しく震える手を、自分の肩に置いてみた。
するとどうだろう。
「ああああああ!!」
「ぴゃあああああっ!?」
びくんっと、フジワラの体が大きく跳ね上がった。
(何コレ…すごっ…
みるみるうちに肩凝りが解消されていく…!!)
そう、ヒナの振動で、フジワラはバイブの快感に目覚めてしまったのだ。
驚きのあまり大きく目を開いたかと思うと、次の瞬間では、うっとりと細める。
心臓の鼓動は早くなり、息が荒くなる。
意識はとぎれとぎれになり、頬は赤く染め上がっていく。
フジワラは、完全にヒナのバイブの虜になってしまったのだ。
(もっとほしい…もっと…ああでも…映画が終わったら止まってしまう…!
この快感を続けるにはどうしたら…
…!そうだ…!!)
フジワラは思いついた。画期的な方法を。
跳びかけた意識を必死につなぎとめ、震える足で床に立つと、ヒナにこう告げたのだ。
この快感を味わい続ける作戦。それは…。
「今夜肝試ししましょう!」
「イジメだ!!??」
ヒナ、あまりに残酷な宣言に、震えあがる。
見ればフジワラは、よだれを垂らさんばかりに恍惚とした表情をしているではないか。
(よだれが出るほどイジメが楽しいの!?
コイツ、性格悪すぎだろ!!)
こうして哀れないじめられっこ・ヒナと、バイブを楽しみたいいじめっこ・フジワラは、夜の肝試しを決行するのだった。