第81話 邪神装備探してんねん
「邪神の腕輪の出品は開会セレモニー後すぐを予定しております、義眼、耳飾り、足輪も同じです。って泥濘、あんた腕輪もう持ってるじゃない。買い占めるつもりなのかよ?」
出品物への質問客でごったがえしているオークションの受付。泥濘が相手の随伴組織構成員を睨むと、相手の女も泥濘を睨み返した。
「金を払わないってわけじゃない! ちょっと取り置いておいてって話」
「構成員であっても出品物の差し止めはできません。欲しいなら自費で落札しな。元奴隷の給料じゃ一個も買えないだろうけどなぁ」
「ああ?」
ニヤニヤと笑う随伴組織構成員の女。泥濘の指が今にも〈バレット〉を撃ちたそうにピクピクと震えている。
転職薬より邪神装備回収を優先しよう。
泥濘にそう説得され、俺たちは平穏を守るため、転職よりもまず、邪神の腕輪を回収するために動くことにした。
邪神の腕輪は俺の手元に返ってくる運命を持っている。逆に言えば【死霊術師】に会いたいなら邪神の腕輪を身に着け続ければいい。買うのが金持ちの好事家や、目的があって【死霊術師】に会いたいと願うモノ好きならまだいい。だが腕輪がもし俺にとって危険な奴ら、例えば教会執行部隊のような人物の手に渡れば、逃げることができない。
腕輪の回収は危険の芽を摘むために必須だった。
「あっ、良いこと考えた。泥濘のお得意のテクで金持ちのオッサンしゃぶれば買ってもらえんじゃね」
「殺す!」
今にも〈バレット〉を撃とうと動いた泥濘の腕をつかんで止める。そのまま後ろに回して、とびかかっていきそうな泥濘の肩を抑えた。
「ナイク!! 止めるな! どっちの味方だ!」
「落ち着け。構成員同士で喧嘩してどうなる」
目を真っ赤にして泥濘がこちらを睨む。それと同時に受付の女が驚愕した目で俺の顔を見た。
「お、お前!? い、いつのまに?! その顔、まさか【仮聖】!?」
ガタっと動いて、攻撃の姿勢を取りそうになった構成員の女の喉を抑える。触れたら壊れるガラス細工を愛でるように優しく気道を指でつまむと女は恐怖に染まったように静かに黙りこくった。
「私が、私の男をどうしようが私の勝手だろ」
「泥濘……あやまる。あやまるから、こいつ止めて……」
怯える女に向かって泥濘がニタァと笑って、そしてカタログを指さした。
「ねぇ【客引き】? 邪神装備はそれぞれ何個? 予想落札価格は?」
カタログに載っている以上の情報を構成員の女から聞き出した俺たちは情報を整理し、作戦を練り直すことにした。
受付を離れ、夙夜殿の人ごみを抜ける。そのままホテルに戻ろうとして違和感に気が付いた。背後をつかずはなれずでつけてくる気配。手慣れているようで〈聴覚強化〉でもほとんど音がない。
「後ろ。結構手練れだ」
「ん? え? 気がつかなかった」
泥濘の導きに従って角を曲がるや否や、泥濘に〈隠匿〉をかけ、そのまま【擬態壁】にもぐって姿を隠す。俺たちを追うように現れた男の背後から首筋に㞔槍を突き付けた。
色付き眼鏡の伊達男。彼は幾重にも骨がしがみついたような形の槍を見て不敵に微笑んだ。
「兄さんら【死霊術師】やろ」
俺の背後に誰かが立ち指を突き付けた。指に込められたマナから〈バレット〉が浮かぶ。長い髪で顔を隠した陰気そうな女が何の感情も無さそうな虚ろな目で俺を睨んだ。
そして、その女の頭蓋を握りつぶすように泥濘の【鷲獅子】の爪がつきつけられた。
「死ね」
「ちょいちょいちょいちょい待ち!! 奥さん気ぃはやいて!」
殺意全開の泥濘にむかって色付き眼鏡男がわざとらしくぶんぶんと手を振る。奥さんといわれた瞬間に泥濘の表情は一瞬やわらぎ、爪がとまった。
「安心してや、わいらは怪しいもんちゃう! 兄さんらと同じ、邪神装備探してんねん」
芝居がかった聖都弁で色眼鏡の男が手をあげる。害意はないと示すように手のひらをひらいてフリフリと振った。
「盗み聞きとは趣味が悪い。怪しいかどうか決めるのはお前じゃない。俺たちだ」
「そないなこと言わんといてや。邪神装備探しとるのだってれっきとした捜査のためや。その腕を見るに兄さんたちは【死霊術師】を探しとるんやろ? わいらとは協力できると思うねん」
捜査?
嫌な予感がする。こいつら、生かしてはダメだ。
「〈蝕魂……」
「〈推理空間〉」
色眼鏡の男がそうつぶやき、
俺たちは不思議な空間に飛ばされた。
女神と話すときの真っ白な空間とは違う場所、どこかの屋敷の居室のような一角。〈跳躍〉でどこかに飛ばされたのかと勘違いしそうなほどありがちな空間。ただそこが現実の空間ではないと確信できる要素が一つだけあった。
その空間には敵意が存在しなかった。武器も、泥濘の魔物も忽然と消えている。
そして素手に関しても、まるで攻撃するという行為そのものが禁じられているように俺たちは二人組にたいして暴力を振るうことができない。意志をもって攻撃しようと考えた瞬間、萎えるような無力感が襲い腕がとまった。
反射的に男から離れ泥濘を抱えて〈隠匿〉で気配を消す。だが二人組は全く意にも介さぬように部屋の隅に逃げた俺たちを見逃すことなく見つめた。
「この人たち〈隠匿〉です……」
「せやな。もし特2なら掘り出しもんやが……」
「何者だ、お前ら?」
「自己紹介したろか……私は元墨子の随伴組織構成員、【魔物使い】や、そして俺は【槍使い】に見せかけたアルケミスト系……やろ?」
色眼鏡の男が不敵にこちらを見つめて微笑む。まるで俺たちのことを見透かしているとでも言わんばかりの表情。完全に初対面のあいてに素性を言い当てられて泥濘が怯えたようにビクッと震えた。
「な、なに? こいつら。なんでナイクのこと」
「そないビビらんでよ奥さん、ちょっとした推理や。兄さんの出身はガンダルシア。役職は戦士系槍系に見せかけて、実はアルケミスト系。もしかしてお尋ね者なんか? 正体がバレるのを恐れとる。奥さんのほうはマルチウェイスター出身の元貴族。両親には捨てられたけど、今の旦那様に召し揚げて貰えたから幸せ新婚生活中ってとこや」
「連れが申し訳ございません。この人すぐ人の秘密を言い当てるので」
陰気な女のほうがそういいながら男の頭をつかんで下げさせる。
この状況、意味が分からないが対話はできるようだ。
「言い当てる?……侮蔑で覆い隠した……尊敬と好意? なんだお前ら? 観光旅行客かと思ったが違うな。関係性が仕事仲間だ」
俺の言葉に陰気な女の方が目を見開き、そして男の方は愉快そうに手を叩いて喜んだ。
「やるやん。兄さん。尊敬と好意ってドクちゃん俺のこと好きすぎやわ、照れてまう」
「違います。嫌いです」
「え、結局何なの? 君たち?」
泥濘の問いかけに対して、二人はピシッと背筋を伸ばして敬礼した。
「わいは執行部隊五番隊第三席【探偵】」
「同一番隊第三席【毒見】といいます」
「し、執行部隊!?」
教会執行部隊。聖都近辺の街、アーサワークを拠点とした王国最強の対人戦闘部隊。普段は犯罪者の討伐を主な業務としているが、その本質は六禁役職絶対処刑部隊。執行部隊は一から六番隊まで存在し、それぞれが対応する六禁役職へのメタとなる役職で構成されている。ひとたび六禁が与えられたことが確認されれば、何があっても見つけ出し、どんな犠牲を払っても処刑する献身と慈愛に満ち溢れた王国の平和の象徴のような部隊である。
もちろん俺にとっては最悪の敵。
「なんで……執行部隊が」
「ちょいまち、時間や。俺のプリンを食べた犯人はドクちゃん、これにて閉幕」
飛ばされた空間が元に戻る。場所は先ほどの袋小路。消えていた㞔槍は手元に戻り、泥濘の魔物たちも行儀よくならんでいた。
「執行部隊が私たちに何の用?」
「すみません。こっちではその名前はおやめください。特1に聞かれてしまいます」
「はっはー、【毒見】ちゃんまじめやなー、もう特1にはバレとるやろ。さっきの放送で名前ガン出されとったやんけ。奥さんの質問にお答えすると、用ってのは協力要請や。執行部隊からご夫妻に提案とお願い。わいらの目的は六禁につながるための邪神装備の回収。特に【百面相】」
色眼鏡の男は俺の方をゆっくりねっとりと見つめた。
「兄さんたちがどういう目的で【死霊術師】を探してるかは詮索せん。死んだ友達を生き返らたいとか肉親に会いたいとか定番やし、その気持ちは否定せんで。どや? 一緒に集めようや、六禁装備。わいが欲しいのは義眼」
「わたしは耳飾りです。腕輪はお譲りいたします」
執行部隊五番隊【探偵】は人柄よく俺たちに向かって手を差し出してきた。
泥濘がどうしていいのか分からず困惑したように俺を見つめる。
執行部隊か。
最悪だが、これはある意味不幸中の幸いか。
俺の知らない間に邪神の腕輪が彼らの手に渡ってしまうよりずっといい。それに手を組むということはいつでも殺すチャンスがあるということ。
「A級冒険者の【槍聖】だ。こっちは妹の【魔物使い】。よろしく」
【探偵】の手を握り返すと彼は嬉しそうに不敵に微笑んだ。
「いいねぇ、兄ちゃん。話が分かる奴は出世するでぇ。立ち話もなんやし、場所変えようや。それとももっかい〈推理空間〉がええか?」
「好きにしろ」
そして数時間後、俺たち4人は賭場で絶賛大儲けしていた。【探偵】たちと話し合った結果、俺たちは邪神装備を手に入れるため、正攻法で金を集めることにした。
賭博による資金稼ぎである。
「あのね、この人『4』と『9』もってる」
「あ、こっちは役ないよ」
「いかさま、いかさま。今すり替えたよ!」
さすが随伴組織の賭場だ。死霊に憑かれている悪人がわんさかいる。だれだれがというより賭場そのものに沢山住み着いているようだ。優しい死霊たちをつかって【勝負師】の勝負所を避け、【牌配人】の手札を確認する。相手からのスキルはほとんど〈隠匿〉で防いでどんな相手もカモにした。
「あかんやで。お嬢様方、そういうイカサマはわいにはきかんで」
相方として俺と一緒に卓に座る【探偵】は異様なほど目ざとく優秀だった。巧妙な罠をしかけ、
どんなイカサマも見抜き、そして勝つ。
勝ちまくる俺たちをみて唖然としている泥濘と【毒見】をよそに、勝利とチップを積み重ねていると目の前に一組の美しい金髪の姉妹が座った。
「ナイク、一緒していい?」
「フリカリルト? なぜここに……」
そこにいたのは金髪金眼の美少女。フリカリルト。
そして、龘龘䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑䨻龘䲜靐䨺齉䖇䴒䶫齾䯂䰱䴑爩鱻麤龗䨊灪籲龖䚖䡿䴐灩䂅䆐䉹䖅䖆䶑鬱驫鱻鸞齉籲龘靈籟
ズタ袋を䚖った、光すら黷しのみ込む、混沌のような灪麗。
「爩籟ちゃんもいるよー」
フリカリルトアラカルト姉妹。
「爩籟ちゃんたちとやろうよ? 【探偵】ちゃんと【■■■■】ちゃん!」
あとがき設定資料集
【探偵】
※HP 5 MP 5 ATK 1 DEF 1 SPD 5 MG 5 INS 8
〜探偵にひらめきはいらない。探偵に何も見落とさない几帳面さもいらない。探偵に決して諦めない執念もいらない。常識の通じない怪物たちと渡り合うために必要なのは思い込みを捨てられること。ありえないことを除けば、残ったものがどんなに信じられなくても真実だ〜
簡易解説:どの系統にも属さない特殊な役職。〈推理空間〉〈異議申し立て〉など、空間そのものに働きかけ、その空間のルールを付与、変更するスキルを持つ。洞察力が非常に高い。




