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第78話 献辞


 献辞

 本レポートはこの事件のすべての被害者と

 浮遊街の最前線で竜と戦い命を落とした亡き父

 【法律家】に捧げる

         【報告者】モンドヴィ



  




 【報告者】レポート⓪


 

 〜はじまりのダンジョンは拷問官の拷問部屋であった。無数の絶望と死にまみれ淀んで澱りかたまった塵埃の中で最初の魔王がうまれた〜(【拷問官】のフレーバーテキストより抜粋)


 女神が人に役職を与えるよりずっとずっと前、とある魔法生物が生まれた。現実を捻じ曲げ、自らに都合のいい世界を作るその生物はまず自らが生まれた拷問部屋を書き換えた。何百と空間を折り重ねて、拷問部屋の中は数万倍に膨れ上がった。血と肉と痛みと悲鳴で溢れる地獄の三千世界。あっという間に拷問官とその被害者たちは部屋にとり込まれ、破壊と再生を繰り返す永遠の住人となった。


 拷問部屋を意味するダンジョンと名付けられたその魔法生命はその後、株分けと放卵を繰り返し世界中に広がっていった。完成しきったダンジョンの中は別世界。灼熱の氷の中を魚が泳ぎ、鳥が空に落ちる。生物の存在できない毒沼の中に美しい花が咲いた。物理法則すら成り立たなくなった強力なダンジョンのことを人々は魔界とよび、その核を魔王と名付けた。


 幾千もの完成したダンジョンとその核、魔王。ダンジョンは自らが生み出した世界の中に生態系をつくり自らの配下の魔物を育て、外の世界を少しずつ取り込んでいく。魔の時代、世界のすべてがダンジョンに覆われた。


 

 およそ千年前、絶滅の危機にあった人類に、とある一人の英雄が生まれた。その名は【勇者】、彼女は女神から与えられた六人の従者を引き連れて一界の魔界を旅し、そこの魔王を討伐、ダンジョンを破壊し、人類が安全に生きることができる領地を勝ち取った。

 

 最初で最後の人類生存領域。人類唯一の王国。

 六大貴族とはかつて【勇者】と共に魔王を滅ぼした六人の従者を祖とする貴族たちのことである。

 

序列第一席【冒険者】  アンビシャス  国王

序列第二席【剣聖】   ローレンシア   家

序列第三席【錬金術師】マルチウェイスター家

序列第四席【賢者】   ディエンゴ    家

序列第五席【忍者】   キリガクレ    家

序列第六席【護衛官】  ガンダルシア   家


 彼ら六大貴族の当主たちの集まり、六大貴族上院議会は、全貴族下院議会の法案拒否権と彼らの任命および除名権という絶大な権力を持ち、建国から千年を経た今もなお、実質的な人類の支配者といえた。



 序列第三席【錬金術師】マルチウェイスター家は政治には疎い家系である。治める領地は六大貴族直轄領最小、最大領地をもつガンダルシア家の十分の一もなく、国教である女神教会とも仲が悪い。


 それでも貴族序列は三位という立場はゆるぎないものであった。

 マルチウェイスター家の真髄は技術力に有った。


 主力であるスクロールや、自動人形、魔道具生産の国内シェアは90%を超えており、その他、高度義手技術や医薬品の生産でも国内一位。その商業的な価値は計り知れず、マルチウェイスターなくしてこの国は動かないといわれるほどであった。


 領主はリンド・ソラシド・マルチウェイスター(76)。次期候補として彼の実子であるリカルド・ソラシド・マルチウェイスター(39)及び姪のフリカリルト・ソラシド・マルチウェイスター(21)、そして遠縁にあたるイヴァポルート・カララド・マルチウェイスター(3)の三名が有力である。


 錬金都市、学術都市といわれるマルチウェイスター領都の始まりは千年前、マルチウェイスター家の始祖【錬金術師】マルチウェイスターが何もない荒野の下に金脈を見つけ、その上に街を築いたことがはじまりである。以降千年間、マルチウェイスターの街は計十五回にわたる魔王侵攻も、【死霊術師】の軍勢も、【狂戦士】の感染禍もすべてを防いで絢爛を維持し続けたまさに金の都であった。(【狂戦士】の感染禍が広がりにくいのは単に戦士系役職が少ないおかげであったが)


 領都の人口は街内だけで12万人、郊外も含めると約45万人を誇る王都、聖都につぐ国内第3位の街であり、王国内で住みたい街ランキング1位をディエンゴ領の領都(通称:聖都、女神の都)と争いつづける国内最良都市である。


 この領都は観光名所としても非常に人気であり、最大の特徴は街中央に浮かぶ巨大な浮遊石とその上の浮遊街。これは【錬金術師】マルチウェイスターが魔王討伐後の人生をかけて作り上げた国内唯一の永久機構内蔵超巨大自動人形である。浮遊街は歴史、科学、魔導そして経済面全てにおいて最重要遺産であり、勇者の知恵【錬金術師】マルチウェイスターの偉業を讃えるものとして、現在もマルチウェイスター当主によって管理運営されている。


 この浮遊街を中心に街が成り立っている。というのがマルチウェイスターの最大の特徴である。



 千年祭を丁度二年後に控えた征歴997年360日12:00。

 かつて当主候補最有力候補であったメルスバル卿が引き起こした【死霊魔術師】事件から一年。この街の千年の歴史の中で最悪の事件が発生する。


 街の地下。随伴組織の治める地下街、そのど真ん中にとあるダンジョンが出現した。


 ダンジョン:(ひずめ)の狭間。ダンジョンは周囲を呑み込みながら地下街を落下、最下層にあたる地下300階に固着した。



 首魁となるそのダンジョン核は発見者となった当主候補【錬金術師】フリカリルト・ソラシド・マルチウェイスターにより識別名:虚洞(うろ)の貴公子と命名される。その特別なマナ波長の特徴から新たな魔王の卵と断定された。


 実に七十年ぶり史上十六回目の魔王侵攻である。

 マルチウェイスター市民12万と魔王の軍勢の有無を言わせぬ戦いは、ほとんど何の前触れもなく、あまりにも突然始まった。


 以上、【報告者】レポート⓪を終わります。

 









『ギルド指名依頼 A級冒険者【槍聖】ナイク

 依頼主 フリカリルト・ソラシド・マルチウェイスター

 危険度  計測不能

 討伐目標 ダンジョン :(ひずめ)の狭間

      ダンジョン核:【雅樂】虚洞(うろ)の貴公子(魔王の幼体)


 【槍聖】ナイク様には第四次討伐隊として【雅樂】の魔王討伐任務に当たっていただきたいです。拒否なさる場合は速やかなる街からの避難をお願いいたします。

 詳細については内容決定次第連絡いたします。第一次討伐隊及び第二次討伐隊の結果報告から本命部隊となる第三次討伐隊およびの三次隊の補欠部隊である第四次討伐隊の作戦内容を決定します。命令があるまでは常に連絡可能な状態で浮遊街内に待機してください。

 現在判明している情報から推定された配下の魔物の総数は少なくとも一万。首魁、【雅樂】の魔王:虚洞の貴公子のレベルは5,500相当です。ご武運をお祈りいたします。

 

 繰り返します。レベル5,500です。

 五千五百です』





 


あとがき設定資料集


【冒険者】

※HP 5 MP 5 ATK 5 DEF 5 SPD 5 MG 5

〜自由とは沼のようなものだ。一度落ちれば自力では抜けられず、意識すればするほど雁字搦めに囚われる。自由とは川のようなものだ。感謝する物に恵みを与え、愚弄するものを波間に攫う。自由とは海のようなものだ。その深淵には誰も見たことがない秘宝が眠る。だからこそ人は自由に飛び込む。己の夢だけを命綱にして〜


簡易解説:戦士系統の役職。かつて【勇者】と共に一界の魔王を滅ぼした六人の仲間のひとり、通称”勇者の荷物持ち”は【冒険者】であったと記録されている。彼への敬意をこめ以後、魔物と戦う者は冒険者と呼ばれることとなった。

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― 新着の感想 ―
桁が違い過ぎる...1回だけとはいえこんなのに勝ったのか人類 あと居住区域でもお構い無しにダンジョン発生するのね
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