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第67話【A Phantoms】




 夢を見た。


 ひどく不気味な夢だ。

 メルスバル卿を殺した直後の情景。


 つぶれてぐちゃぐちゃになったメルスバル卿の前で、還っていく死霊たちを眺めていた俺は急に後ろから声をかけられた。

 

「That was the best show! 【Necromancer】Nwyk, is your speech still coming?」



 声と共に部屋の隅から響き渡る拍手。そこには衛兵隊長【追跡者】がいた。

 

「あああああああ」「ぎゃぁいあえあ」

「だめだめだめだめ」「おれあなおあごいあ」

「あああらじょおらええあ」「あれーわー」

「こわいよこわいよ」「ひぎぃらじいい」


 死霊たちが一斉に逃げ出して俺の後ろに逃げ惑う。全員が絶叫しながら隠れた。


 【追跡者】は机の上に腰かけまるで見世物のように俺と【死霊魔術師】の死体を眺める。


「【追跡者】?! その……これは」

「【Chaser】? Yeah, this is Gybro, isn't it?」


 何を言っているんだ?

 なんだか頭がぼんやりするが、ともかくマズイ。今の戦いを見られていたのなら、こいつも殺さないと。


 そう思った瞬間、彼が普段と違うことに気が付いた。


 いつも左目につけている眼帯が外れていた。そしてその中に移るのは義眼。

 その中には邪神をつかさどる紋様が描かれていた。


「邪神の義眼……【百面相】!?」

「Good! I never thought you would be the 【Necromancer】. You seemed so weak, arn't you?」


 【追跡者】の目がぐるりと反転し、ぼとりぼとりと肉が飛び出す。まるで脳が反転するように目からまっくろな肉があふれ出し、飛び出た肉塊は広がり【追跡者】の身体を包んだ。 人体の中身が反転したような人型の化け物。それはぐちゅぐちゅと音を立てて真っ黒な何かになった。


 何か。

 何かとしか言えない何か。


 表現ができない。


「As expected from the one in charge of 'killing.' Even at just level 30, that strength is impressive. A pleasant surprise. With you around, there's no need to clash with 【Femme Fatale】. It's a PSYCO, isn't it?」


 ゾッとするほど低い女の声。いや、女とか男とかどうでもよくなるほど不気味な人間味のない音だった。相変わらずなにをいっているのかさっぱり分からないがそれが俺のことを面白がっていることだけは伝わった。


「We are【A Phantoms】Wewe」


 まるで握手したいとでもいうように差し出された手を無視する。

 それは無視された自分の手を見て、そして自分の頭?の部分を叩いた。そのままガンガンと自分を殴って言葉をとめる。そしてぐちゃりと指を差し込んで調整するようにかき回すとゆっくりとこちらを見た。


「はじめまして【死霊術師】殿。私はウィウィ。【百面相】ウィウィ」



 そこにいたのは男とも女とも分からない不思議な青年だった。

 そこにいたのは女とも男とも分からない不思議な女性だった。


「マルチウェイスターか。楽しみだね。もうすぐくるよ」

「あ? くる? なにが?」

虚洞(うろ)の貴公子」

「うろ?」


 それは本当に面白そうに微笑んでいる。

 なんだコイツ。訳がわからない。

 

「あああらじょおらええあ」「あれーわー」

「こわいよこわいよ」「ひぎいいいいい」

「やっぱりやひゃく」「にげろ」

「ひゃくめんそう」

「こいつはだめ」「ぜったいだめー」


 死霊たちはひたすらに恐怖に慄き。全員俺の後ろに隠れている。


「お前ら、落ち着け。ちゃんと囁け。なにがダメなんだ?」


 【百面相】が俺の手をとる。触れた指先がチクリと痛んだ。


「ああああああああああ」

「ダメーしれいじゅつし」

「にげて!」

「はやく!」


 何かされた?

 

 【百面相】を振り払って後ずさる。


 【百面相】はそんな俺をみて、それから驚いたように自分の右手をみた。俺を掴んだ彼の右手。その右手はまるで毒に犯されたように黒ずんでいく。


「Good! God! Gooooooooood!」


 【百面相】は興奮したように左手でその手を引きちぎりそのまま投げ捨てた。どぼどぼと真っ赤な血を流しながら【百面相】は嬉しそうに千切った右手を振り回して喜んでいる。


 本当になんなんだ!?

 意味が分からない。



「Hay !【Necromancer】Nwyk! Are you sure? An’t you 【Femme Fatale】Alacalte’s Pet?」

「だから何いってんだ?」

「Good! Is there problems for The Ally of Six-Forbiddens?」

「悪いな。こいつら人見知りなんだ」

「Good! Please let me know If you look up【Leader】and 【Messiah】. I caught already 【Berserkers】」

「おい?」



「Okay!Good!Bye!」



 【百面相】がまた自分の頭に手を突き刺しかき混ぜる。なぜかふっと意識が遠くなった。



 夢だ。

 これは夢。いや違う。

 これは記憶だ。メルスバル卿との戦いのあとにあったこと。


 どうして忘れていたのかさっぱり分からない。

 絶対に忘れてはいけないことだ。

 早く起きて対策を考えないと! フリカリルトに伝えないと。


 この街にはすでに六禁が3人、【Necromancer(死霊術師)】【A Phantoms(百面相)】【Femme Fata(毒婦)le】がいる。

 

 フリカリルトに伝えないと……?




 気が付くと目の前に【追跡者】ギブロが立っていた。まだ俺の頭はぼんやりとしているが謎の存在は姿を消し、死霊たちも落ち着きを取り戻している。【追跡者】もさっき引きちぎっていたはずの右手は傷一つなく生えている。



 彼は俺を一瞥すると【錬金術師】メルスバル卿の死体向かって一礼した。



「メルスバル様……まさかあなたが【死霊魔術師】だったなんて。【仮聖】さん、【死霊魔術師】討伐の協力まことにありがとうございます。衛兵隊を代表して【追跡者】ギブロが感謝と謝罪の言葉を慎んで申し上げます」


 【追跡者】はまるでさっきまでのことがなかったように話し始めた。ついさっきまで【百面相】だった男はまるで本人ですら自分が【百面相】であることを忘れているように悔しそうに手を握りしめた。


「【仮聖】さんがフリカリルト様ではなく私に連絡してくださったのはよい判断です。下手にやればフリカリルト様が【死霊魔術師】の罪をメルスバル卿におしつけて暗殺したと捉えられる案件でした」


「いや……ええ? それよりさっきのやつは」


「さっきの?」「どうしたの?」

「しれいじゅつし?」


 さっきまで大慌てで俺の後ろに隠れていた死霊たちもまるでさっきまでのことがなかったように忘れてフヨフヨと浮いている。


 本当に何が起きているのだろう。

 それともこれが【百面相】の能力?


「困惑なさるのはわかります。ですがご安心を今回の件、私たちは【仮聖】さんの味方です」


 【追跡者】がいつも通りの胡散臭い顔でニコニコ笑って頷く。


「なんとなく。そうしないといけない気がするんです。私のそういう勘は昔からよく当たります」

「わかった。あー、それならその眼帯の下を見せてもらってもいいか?」

「眼帯? いいですよ。お恥ずかしながら三年前の抗争で失いましてね。ただの義眼です」


 すこし驚いたように眼帯を下げた【追跡者】の右目には義眼が埋まっていた。だがそれには邪神をつかさどる模様はなく。本当にただの義眼。


 さっきのはなんだったのだろう。

 別人? それとも疲労のせいでみた幻覚?


「どうしました? まるで亡霊でもみたような表情ですよ。今日はもうお休みした方がいいのではないでしょうか」

「そうだな」


 〈槍投げ……?


 握った槍を〈槍投げ〉しようとしたのに腕が動かなかった。


「 wOW!Nwyk!Stop being mischievous!(おいおい。ナイクくん。おいたするのはやめてよ)」


 どこかから聞こえる声への恐怖に心臓が止まりそうになる。


「もうおしまい?」「おわり?」

「ありがとうしれいじゅつし」

「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」

「そろそろ還るね」

「Hey, Nwyk!(ねぇ。ナイクくん)」

「ばいばーい」


 死霊たちの声にまじってどこかから声が聞こえる。もちろん内側の死霊たちでもない。


 どこか……別の……所にいるような。

 その声は刺された腕から聞こえる気がした。


「I will scatter this bracelet again in the city. May it take root in your new sacrifice.(邪神の腕輪は私が街にまた蒔いておきます。あなたの新しい贄に根づきますことを祈って)」



 なぜか【百面相】の言葉の意味が分かった瞬間、俺は飛び起きた。

 息切れしながら自分の腕を見るも、そこにはいつも通りの腕と腕輪があるだけ。



「【死霊…………愛…………い」


 なぜか寝床に潜り込んでいる泥濘がむにゃむにゃと寝言をいっている。俺の胸に頭をのせ、緩み切った表情で寝ている目の前の美しい妹から香る甘ったるい匂いが鼻腔から男の本能に突き刺さった。


 湧き上がる気持ちをなんとかおさえて再び目を閉じる。


 いつもの本当にいつもの日常。


 冷や汗でぐっしょりになったシーツのなかで、俺は結局何の夢を見ていたか思い出せなかった。













「I'm not your enemy. Not yet, at least.(敵じゃないよ。いまはまだね)」






あとがき設定資料集


【百面相】

※HP 2 MP 3 ATK 5 DEF 5 SPD 10 MG 5

〜百面相って、なんだっけ?〜


簡易解説:現在までに確認された中で最も高いSPDを誇るアサシン系統の役職。認知を操るスキルを多く取得するほか、他人の肉体と魂を奪い自らと同化し吸収することが可能。奪った対象の顔やスキル次第では災害級の事態を引き起こすことができる。教会の定める禁止六役職 (六禁)の一つ。


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あとがき


「カクヨム」にて、本作をタイパ重視にして、ストーリーを分かりやすくした濃縮版の連載をはじめました。基本的に大きなストーリーは同じですが多分に味変しておりますのでよろしければご照覧ください。

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狂戦士はもう捕まえてるってもう手綱を握ってるって意味?それとも居場所は掴んでるとかそういう意味?どっちにしろ怖すぎる。
百面相怖すぎ
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