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第63話 その街灯はひときわ赤く輝いた




 【死霊魔術師】は爆ぜた。


 抑える円がなくなったマナは外へ。【死霊魔術師】の魂が3つにわかれてはじけ飛ぶ。

 そして余った肉体は落ちた。


 そして俺も落ちた。

 空中でくるくると舞うように落ちる。


 つかみあっていたときに〈跳躍〉で飛びすぎてもはやどこにいるかも分かない。

 

 メルスバル卿の肉体と共に落ちる。

 どんどん落ちる。


 落ちる。落ちる。落ちる。

 

 落下死!

 

 その考えがよぎった瞬間、落ちる俺の周りをぐるりと死霊がまわった。


「だいじょうぶ。運ぶよ。手を伸ばして」


 【跳躍者】の死霊。彼女はいままでずっと同じ言葉しかしゃべれなかったのに流暢に囁いている。

 手を伸ばして彼女にふれると俺はまばゆい光に照らされて〈跳躍〉した。




 俺は庭園に立っていた。




 ぐちょっ


 水袋を落したような音と共に、目の前に共にメルスバル卿の肉体が落ちてきて潰れた。


 同時に経験値を呑み込む感覚がしてレベルが1あがった。


「かち」「かちー」

「しれいじゅつしのかち」

「かくのちがい」「みせつけたぜー」

「ほんもののかち」


 メルスバル卿が死んで〈スキルブレイク〉が切れたようだ。

 また見えるようになった死霊たちがメルスバル卿の死体を指さして煽る。


 その呼びかけに呼応するようにつぶれた死体から這い出るよう一人の死霊が抜け出てくる。

 メルスバル卿の魂ははじけた衝撃でくずぐずになっていた。



「私は……私は……まだ! まだ!」


 彼は自分の死体の上でまだ何かをしようとしている。


「お前ら好きにしていいぞ」


 騒ぎ立てる一匹の死霊に指を刺す。

 辺りを漂っていた死霊達は堰を切ったかのように呪詛のような言葉を吐きながらその死霊に覆い被さるように包み込んでいった。


「うぇくれうえ、しぅえゃよ」


 まるで死霊達に食い散らかされるように、メルスバル卿の死霊はすり潰され、散り散りになった。

 理屈はわからないが、あれは女神の輪廻に還るのとは違う。魂ごとすり潰されて、何の縁もないただのエネルギーの破片にされたのだと、【死霊術師】の直感で分かった。


 少なくとも永劫二度と生物として生まれてくることはないだろう。


「あ……」


 破片が庭園の明かりの魔法道具に向かって吸い込まれていく。その街灯は一瞬だけひときわ赤く輝いて、しばらくするといつもの街灯に戻った。



 もう全部消費されたようだ。



 因果な物だ。女神を憎み、力を求めて、逆に生まれ変わる為の縁を全部失った結果、ただのマナの塊として安い街頭にゴミのように消費される。


 だがそれも彼の望んだ終わり方か。


 死霊たちがメルスバル卿からこぼれた別の魂を運んでくる。全員いまにも飛びかかりそうに殺気だってはいたがそれでも一応俺の判断を待つようにくるくると回っていた。


 いい子達だ。


「それはダメだ」


「えー」「なんで?」

「いっしょ」「こいつらもいっしょ」「とめなかった」

「とめれた!」「これも潰す」「滅せ」

「滅せ」「滅せ」「滅せ」「滅せ」「滅せ」「滅せ」「滅せ」


「ダメだ」


 メルスバル卿からはがれた二人の死霊。

 おそらく彼の大切な人たち。メルスバル卿ははじける最期、自分の魂より彼らの魂を守ろうとしていた。【死霊魔術師】の魂に触れたからそれだけはわかる。


 だからメルスバル卿は壊しても彼らは壊さない。


 俺は普通の、誰よりも人を愛せる男だ。

 守る心は忘れない。他人の守る心だって大切にする。

 だから彼らは壊さない。


「俺の気が変わらない前に。さっさと還れ」


 二人にそう告げると彼らはおずおずと俺の前に飛んで来た。そして懇願するようにクルリと回った。


「見せてほしいの」

「あ?」

「あの女神じゃなくて貴方の世界を」


「「メルが見たがってた【死霊術師】を」」


 それだけいうと二人は俺の返事も聞かず、俺の中に飛び込んだ。


「おい! ちょっと」


 かつて隠匿竜との戦いのときに俺が中に取り込んだ2189人の死霊たちが手を伸ばすように彼らを包む。


『みんなでひとつになりましょう』 

『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 『みんなでひとつになりましょう』 


【錬金術師】リュカ

【整備士】ラクリエを取り込んだ。


 レベルが9上がった。


 〈絆の縁〉を獲得しました。様々な条件で〈絆の縁〉を結ぶことができるようになりました。

 〈蝕魂〉を先行獲得しました。魂への干渉が可能です。


 〈蝕魂〉……【死霊術師】の基本技能だ。


 抵抗する隙すらなくあっと言う間に手に入れてしまったスキルに困惑する。

 おい、【死霊魔術師】どもなんてものくれるんだよ。




「おお」「すご」

「僕らもいったほうがいいやつ?」

「しれいじゅつしだ」

「どうしよ」


 とりこまれた二人をみて他の死霊たちがあわあわと慌てている。


「要らないっての」


 彼らにそう伝えると死霊たちは決心したように飛び立った。


「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう「ありがとう」


 辺り一面、感謝の囁きで埋め尽くされていた。


「どういたしまして。せっかく自由になったんだ。お前らさっさと還れよ」


「分かった」「はーい」「うん」「仰せのままに」

「貴方がそういうなら」「ありがとう」「またね、どこかで」

「僕はついていく」「じゃぼくも」


 浮かんでいた死霊たちの一部が俺の中に飛び込んでくる。


 死霊を10人とりこみました。

 レベルが1上昇しました。



 これで2,201人。


『ぼくが2200人目!』

『違う僕だよ!』

『はぁ、新入り達みんな聞きなさい。貢献度ならこのあたし【大食姫】ローベルメが一番!〈捕食強化〉は今日も大活躍!』

『うぜぇぇぇ!』

『ローベルメうざい!』

『お歌の時間?』

『お歌の時間!』

 

『はてうみむらでー うまれたこどもは

 いっつもいつも  ひとりぼっち』


 急に歌い始めた死霊たちの災歌をききながら、得たスキルポイントを振っていく。


 俺ももう学んだ。

 こういうのはさっさと振るべきだ。いつ何が起こるか分からない。逃げるにしても戦うにしても、手段は多い方がいい。何を得るか分からない賭けにでるのは他人がやるのを見る分には面白いが、あまりにも愚かだ。


 メルスバル卿の言葉を借りるなら必死さが足りない。


 初級槍術に6、冒涜の災歌に3振る。


 所持スキルツリー  未割り振り1

 ⭐︎落城のネクロマンス 0

 •初級槍術    30

 •冒涜の災歌   15


 


 〈槍装備時ATK上昇0.5〉を取得しました。既に取得していたものと統合して上昇値は2となりました。

 〈常在槍術〉を獲得しました。槍向けのスキルを他のものへ応用できるようになりました。また〈槍装備時ATK上昇〉のステータス上昇がに常に有効となりました。初級槍術のスキルツリーが完成しました。おめでとうございます。ナイクはこれで槍術マスターです。

 〈メトロノーム〉を獲得しました。非常に正確な時間感覚を獲得しました。



 地味だな。


 そんなことを考えていると【跳躍者】の死霊が目の前に浮かんだ。いままでずっとついてきていたが、これで彼女ともお別れだ。彼女は女神に還る寸前のように朝日に照らされてキラキラと輝いている。


「ありがとう。役職をとりもどしてくれて」

「どういたしまして」

「ねぇ、しれいじゅつし。泥濘を殺さないで。幸せにしてあげて」

「安心しろ。妹を殺す兄はいない」

「わーお。シスコンのへんたいだー。泥にぴったり」


 【跳躍者】はそれだけ言い残して還っていった。


「長かったが、終わったな」


 彼らが全員消えるまで待ってから俺はフリカリルトに連絡をしようとした。







あとがき設定資料集


【整備士】

※HP 7 MP 8 ATK 3 DEF 3 SPD 5  MG 4

〜積み重ねた結果が信頼をつくる。そして積み重ねた信頼に人は命を託す。どれだけ能力が高くとも信頼がなければ重要な仕事はこない〜



簡易解説:アルケミスト系統の役職。〈補修〉や〈修理〉などのスキルをもち様々なものを最善の状態に保つことを得意とする。専門職には劣るが武器や防具などを持ち主に合わせて〈調整〉することも可能であり、非常に幅広い対象を整備することが可能な汎用的な役職。

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