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第62話 死霊魔術師

 




「この歳で挑戦者というのもいいものですね。【死霊術師】ナイク。終わりです」


 【死霊魔術師】は空中に浮かんだまま何か魔術を溜め始めた。急激に膨れ上がっていくマナが彼の手にあつまる。その術はここからでもバチバチと聞こえるどうみても危険な代物だった。


「なんだよ、それ」

「説明したら対処されそうなのでしませんよ。君を殺す術とだけ教えてあげます。女神に祈っておいてください」


 【死霊魔術師】は一瞬驚いたような顔をした後、自分の発言に対して少しおどけた様に笑った。


「まぁ助けてはくれませんがね」


 彼の言葉には女神を信じていた過去の自分とに対する嘲笑のような感情が込められていた。そしてそれを裏切ってクスクスと笑う悪戯な女神に対する明確な憎悪も。


「女神への憎しみなんて何になる? あれは人の総意なんだろ? お前も死ねば女神に還るんだぞ」

「私は女神に還るくらいならマナとして消失することを望んでいます。いいじゃないですか。一度きりの人生。本当の自分は私一人だ」


「ならひとりでやれ」


 【死霊魔術師】は嬉しそうに笑う。少し話している間に彼の腕の魔術がバチバチと音を立て徐々に大きくなっていく。それは既にこちらからも空間の歪みが見えるほど大きくなっていた。


「正直いうと憎しみなんてもう忘れました。ですがやめることはできません。だってこれが私の生き方ですから。やり直したくなんてないです。そうですね。強いて言うならやりたいことだからやってるだけです」

「嘘だな。怒りと憎しみしかなくて、もはや怒ってることも認識できなくなってるだけだ」

「私は女神を殺したい。人類のため、人の在り方のため。女神の存在が俺の邪魔だから殺すんだ。というとちょっと【死霊術師】っぽいですか」


 女神を殺すことが【死霊術師】っぽい?

 何言ってるんだ。俺はそんな野蛮なやつじゃない。


「それで喜ぶと思うか? お前の妻子が。不幸をだしに犯罪の言い訳にされてるんだぞ」

「ほう? まさか本気で説得するつもりですか? らしくない。無理ですよ。要らない成功体験を積みましたね。泥濘に説得が効いたのは例外ですよ。彼女は君のことが好きになってしまっていた。そんな人から俺は君が憧れる【死霊術師】だ、なんていわれたあの年齢の女の子はいちころです。私は君が嫌いだ。というか君のこと好きな人はかなり珍しいですよ」

「いいんだよ。俺は別に人に好かれたいわけじゃない。俺が人を好きになりたいんだ。誰よりも人を愛せる人間になりたいんだよ」


 【死霊魔術師】は俺の言葉を聞いて楽しそうに笑った。貴族らしく上品に、それでいて【死霊魔術師】らしく醜悪に、嘲るように笑う。


「はははははははは、不幸なのは君の方ですね。真の不幸は幸福を知らないことだ。私は不幸ではない。幸福を失ったときに、もう一度同じもの手に入れようとして努力する方向を間違った愚か者です。全く同じものなんて手に入るわけないのに。ですが君はそうか。真に人を愛したことがないのか。頭では愛を理解できるのに、自分の中にそれがないのですね。だからまっとうな普通に憧れる。確かにそれは不幸だ」


 愛したことない。

 愛したことないだと?


 賢いやつは嫌いだ。

 その通りだよ。


 だから俺は俺を愛してくれていた父の言葉だけは守ろうとしてるんだ。きっとそれが俺に与えられた唯一の愛だから。


 だから俺は普通を目指してるんだ。


「終わらせてあげますよ。永遠に」

「殺す」



 説得は無理だ。どう殺す?

 どう殺す? 

 いまのいままで一撃も有効打を入れられていないのに、ここから殺すことができるのか?


 おちつけ。

 やりようは必ずある。相手は人だ。必ず死ぬ。どこかに死因がある。

 俺がやるのはそれをただ少し早めてあげるだけだ。

 

「素晴らしい殺意です。一番心が動きました。力ずくで止めてみなさい。人の心を動かしたいなら相手の土壌に立たないと。一方的に正しさを押し付けてもだれもついてきませんよ。【死霊術師】らしく私を殺してみなさい」


 【死霊魔術師】は相変わらず楽しそうに笑った。バチバチとなる術は既に【死霊魔術師】の身長を超えるほど大きくなっている。


「なんだお前、大好きじゃないか。【死霊術師()】のこと」

「ははははは。バレましたね。実は大好きです。憧れてます。君と会えてよかった。これが【死霊術師】になる男。泥濘の気持ちよくわかります。ですが敵なので殺します。君もそうするでしょ」



 そして、身長を超えるほど大きかった術は一瞬で圧縮され手のひらサイズになった。


 地面にゴーレムが生えて俺の足を掴んだ。


 反射的に蹴り、捕まるのを防ぐ。




 振り返ると、



 真横に【死霊魔術師】がいた。

 メルスバル卿の手が俺の胸にあたる。



「それが【死霊術師】の殺り方」





 俺は撃たれた。


 強烈な雷が

 心臓を貫く様に

 バチバチと音をたててはじける。



 


 避けようのない死を意識したその瞬間、


 俺の胸の上でパカリと深淵が口を開いて、雷を吸い込んだ。



 【擬態壁】が俺の代わりに雷を受け止めた。



「いいだろ?うちの(女神)だぜ」

「泥濘!」



 強烈な衝撃を受けて【擬態壁】が消し飛ぶ。

 俺は消失する【擬態壁】を壁にして槍を突き出す。


 【死霊魔術師】は素晴らしい反射神経で槍をつかむ。



 俺は即座に槍を手放して、


 その手で、

 【死霊魔術師】をつかまえた。



「とらえた!」


 【死霊魔術師】メルスバル卿の腰を抱える。〈跳躍〉でも絶対に逃げられないようにがっちりとホールドした。



「はは、驚きましたが……それで、何ができるんです? 君のスキルはすべて消した! 今の君はただの低ステータスのレベル36……」


「役職を返してもらうぞ」




 ずっとポケットに入っていた、いまも手の中にいる【跳躍者】を押し付ける。

 声は聞こえない、姿は見えないが、そこにいることは分かった。なぜだか彼女が俺の手に触れている気がしている。


 

 増幅され膨れ上がっている【死霊魔術師】のはちきれんばかりの巨大な魂。そこにぴきっとヒビが入った感覚がした。




「な……ありえない」

「〈槍投げ〉がなくとも槍は投げれる。〈読心〉がなくとも心は読める」

「ふざけるな! 

       ふざけるな! 

              できるわけない。

      いくら君でも!」



    「で

    き

   る

    わ

     け

      な

       い。

 「知     離

   っ     せ

    て     !」

     る

      だ

       ろ。

       【死

         霊

          術

           師】

            は

             魂

              に

               触

                れ

                 ら

                  れ

                   る」




 【死霊魔術師】の魂から【跳躍者】の役職を、魂を引きはがす。

 俺の周囲と中にいるたくさんの死霊たちと共に。



 全力で、力ずくで魂を引き千切る。


『私の力で。もう誰も殺さないで!』


 【跳躍者】がそういっている気がした。


「こ

  れ

   が

   【死

     霊

      術

       師】

        !

       こ

      れ

     が

    本

   物

  !」


 【死霊魔術師】の魂から【跳躍者】の役職が音をたてて千切れ飛ぶ



 引きはがした隙間。

 俺は彼の魂の隙間に手を差し込んだ。

 

 

「こ

  の

   化

    け

     物

      め

       !」




 そして円を


 メルスバル卿の中の


 彼の魂で描かれた魔法陣を破壊した。




あとがき設定資料集


【死霊魔術師】

※HP 25 MP 26 ATK 17 DEF 19 SPD 15  MG 18

〜無様な生き残りは家族を求めた。かき集めた妻子の破片を喰らって。無様な負け犬は力を求めた。慕ってくれた部下たちを捨てて。得られた力は史上最強の死霊術師の真似事だった〜


簡易解説:【錬金術師】メルスバルの傑作。マルチウェイスター家に保管されていた過去の【死霊術師】の情報から〈魂蝕〉を再現し、自身に複数の魂を融合して作成した。本来、複数の魂を内包して自己認識を保つのは【死霊術師】の異常に強靭な自我をもってはじめてできることであるが、メルスバルは強固な怒りをもって【死霊魔術師】の制御を可能にしている。まさに天才。勇者の知恵にもっともふさわしい男。

【錬金術師】+【錬金術師】【整備士】【跳躍者】

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