第55話 お歌の時間
「俺は【剣鬼】マルウェア・マルチウェイスター。決闘だ。【死霊術師】ナイク! さぁ存分に殺し合おう」
【剣鬼】は自らの左腕についた邪神の腕輪を見せつけるように掲げた。
隙だらけだ。
〈槍投げ〉
完璧に隙をついた一撃……のつもりだったが、【剣鬼】はいともたやすくひょいと身をひるがして槍を避けた。槍は蠢く死体たちを飛び越えて遥か彼方にあえなく飛んでいく。見えないほど遠くの死体の影に落ちた槍を見て彼はケラケラと爆笑した。
「〈槍投げ〉はさっき見たぞ。同じ技が通用すると思ったのか?」
【剣鬼】がスッと剣をこちらにまっすぐ向けて挑発する。粗野なふるまいをしているがマルチウェイスター家を名乗るだけあってその所作のひとつひとつから貴族然とした優雅さがにじみ出ていた。
「決闘だ。まずは名を名乗れ」
「【槍聖】ナイク」
「嘘はよくない」
【剣鬼】が一瞬で目の前に疾走してくる。
振り下ろされる剣を、
何とか避けた。
「前よりレベルがあがったな。悪くない反応だ」
槍がないなら徒手で。
組みついて首を絞めようと狙うも【剣鬼】は後ろに回った俺の胸を肘でついた。
辛うじて剥ぎ取られていない胸鎧の上から殴られたのに、息が止まるような衝撃が俺を襲った。
よろめいた俺にむけて再度振られた剣を何とか避けて飛び退く。
だが追いつかれてそのまま腕をとられ、再度地面に投げつけられた。
頭から地面にたたきつけられて一瞬意識が遠のく。
視界の隅でキラリと光った剣を半分無意識に蹴り、何とか止めの一撃を避けた。
次の瞬間ほとんど無防備になっていた頭に再度衝撃が走り。視界が飛ぶ。
ぐらつく意識を必死に保って【剣鬼】に〈死霊の囁き〉をかける。なぜか【剣鬼】には死霊のついていないのでどこまで意味があるのかはわからなかったが、意外にも【剣鬼】の動きはとまり、その隙をついて俺は組み敷かれた状態から逃げ出した。
「ボスがいってたのはこれか。本物の【死霊術師】。意味がわからないな」
【剣鬼】がゴンと自分の頭を叩く。抜け出るように「殺さないで」の死霊が飛び出して俺の上に着地した。死霊から流れ込んでくる【跳躍者】テースステラの記憶。泥濘と共にニリの悪口を言って笑ったこと。笑わなくなった泥濘を心配して【死霊魔術師】に協力するようになったこと。生まれてはじめてできた好きな人のこと。そして「こんなことやめたい」といってその人に殺された記憶。
彼女を殺したのは目の前の【剣鬼】だった。役職の区別なく実力と努力が評価される平等な社会を夢見た彼は自らの夢のため、理想のために【跳躍者】を殺した。
「平等な社会か………その割にしけたハンデマッチだ。平等どこいった? 自分が有利な時はそれが平等っていうやつか? 馬鹿だろ」
ぐらつく頭が落ち着くまでの時間を稼ぎたくて煽ると、【剣鬼】は少し面白そうに笑って、剣を構えた状態で止まった。
「不意打ちで〈槍投げ〉しておいてよくいう。【死霊術師】、お前は平等を勘違いしている。前提としてこの世界に真の平等など存在しない。俺とお前は年齢も体重も筋力も役職もステータスもレベルも違う。仮にそれが全部同じだとしても、なら剣術を修めてきた時間は? すべてを一分一秒単位で条件を同じにできるわけがない。結局、人は定められたルールの中でしか平等にはなれない」
ルールか。
さしずめこれはルールなし、開始状態もバラバラ。相手をバラした方が勝ちの殺し合いか?
「ならこの決闘のルールには納得できないな。あまりに不平等だ」
本当に不平等だ。
腕は取れかけ、槍は飛んでいき、敵の周りには何十何百もの使役死体。その上こちらはマナ枯渇気味。〈捕食強化〉用の丸薬ももうない。
「同じだよ。俺は今の社会のルールが不満なだけだ。だから壊す」
「なんだそれだけか。話がながい。俺はお前の女じゃない。そういうのは恋人に……そういや、聞いてくれる女は自分で殺しちゃったんだったな」
【剣鬼】は顔をしかめた。
「なぜ、そこまで……ああ、そういうことか。いるのかテスラ」
【剣鬼】が一瞬構えを解いて辺りを見回す。いくらスクロールで〈㞔骸〉を再現できても死霊までは見えていないようだ。彼が見ている方は【跳躍者】の死霊とは全く逆方向だった。
【跳躍者】の死霊が俺の周りで回る。相変わらず「お願い殺さないで」としか囁けないが彼女は【剣鬼】の方を睨みつけているようにみえた。
「悲しいな【剣鬼】。そこにはいないぜ」
【剣鬼】はため息をつき再び剣を掲げた。ぐんぐんと剣にマナが集まっていくのを感じた。
「泥濘にも逃げられたし、俺ももう終わりか。ボスにも見切りをつけられたろうな。しょうがない。お前を殺して奪ったマナと死体でマルチウェイスターを攻めよう。俺を殺して〈㞔骸〉を止められるのはお前しかいないぞ。守り切れるか? 【仮聖】」
「邪悪なやつだ。お前が【錬金術師】にならなくてよかった」
「否定はしない。が、六禁が言うなとも言っておこう」
いいだろう。ルール無用だ。
「【死霊術師】の戦い方を見せてやる」
役職スキルツリー ⭐︎落城のネクロマンス 0
サブスキルツリー •初級槍術 24
•冒涜の災歌 12
【回復術師】と【重力使い】を殺して得たレベルは6。屋敷の突入する前にその6ポイントを冒涜の災歌のスキルツリーに振って手に入れたスキルが二つ。どちらも歌スキル。歌うことで強力無比な効果を発揮する特殊なスキルだ。
〈冒涜の災歌 第1節〉
術者を除くすべての封印スキルを封印します。
〈冒涜の災歌 第2節〉
術者を除くすべての身体強化スキルを封印します。
通常戦っている最中に歌うなんてできるはずがないが、俺は【死霊術師】だ。
歌うのは俺じゃない。
「平等な実力主義の理想郷なんてものは力無き者が寄ってたかって実力者を殺すことで阻止してきたんだよ。なぁ野郎ども。お歌の時間だ」
『やろう?』
『女子もいるもん!』
心の底が勝手に身震いするような不思議な気分がして、体が冷たくなる。
「〈冒涜の災歌 第2節〉」
『お歌の時間』
『お歌の時間』
『いっぱい歌おう』
『僕らはうごめく』『えんさの』『だいがっしょう』
心の底の石をひっくり返したような感覚と共に無数の囁き声が響いてきた。
俺の底から這い出る蠢く大量の死霊たち。
『お歌の時間』
『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』
『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』『お歌の時間』
『指揮して。しれいじゅつし』
隠匿竜との戦いで取り込んだ2,189人の死霊たち。
彼らの囁きが俺の中で災歌を歌っているのが聞こえた。
〈はてうみむらで うまれたこどもは
むかーしむかしも いつかのみらいも
みーんなみんな ひとりぼっち
ひとりがこわくて よりあつまって
みんなでひとつになりましょう
おおごえパパも いじわるママも
みんなでひとつになりましょう
そしたら何もこわくはないよ
みんなでひとつになりましょう〉
合唱とともに空間の密度が重く冷たく沈む。説明はできないが周囲一帯が普通とは違う別の規則に支配されたことが分かった。
『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『ひとつでみんなにふえましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』『みんなでひとつになりましょう』
『なんかずれてる』
『つられちゃった』
『みんなオンチだ』
『そういう歌だよ』
『みんなでひとつになりましょう』
『いま終わったの?』
『一節うたってるやついない?』
『やりなおし!』
そして再度歌い始めた死霊たち。
彼らが歌えば歌うほど空間が重く冷たく沈んでいくのが分かった。
【剣鬼】の剣をとりまいていたマナがかき消えた。彼の体にかかっていたであろう身体強化スキルもことごとく消失する。
「お前、何した? この、不気味な曲……どこから聞こえる?」
本来は誰にも聞こえないはずだが【剣鬼】には〈死霊の囁き〉がかかっているため聞こえてしまっているようだった。
だが効果には関係ない。
「いい歌だろ」
周囲を蠢いていた㞔骸たちがとまり、あーあーうーうーとまるで歌に合わせるように左右に揺れていた。完全に【剣鬼】の制御を離れているようだ。俺が操るようなことはできないが、敵対してくることはないという確信がある。
するすると死体たちの中から一本の槍が俺の手の中に差し出された。
白骨の腕がしがみついたような最高に悪趣味な槍。
投げた槍が返ってきた。
「【死霊術師】の歌スキル……ひとりで【指揮者】と楽団の真似をするのか。おもしろい。俺は【剣鬼】マルウェア・マルチウェイスター。【死霊術師】に頼るのはもうやめだ。【剣鬼】として殺してやる」
【剣鬼】は少しだけ笑って剣を構えた。俺も【剣鬼】にむけて槍を構える。
ほぼ同時に踏み込んだ。
寄られないよう剣の間合いの外から腕を狙う。【剣鬼】はスルリと避け槍を蹴り上げた。
あえて踏ん張らず衝撃をそのまま受け入れて手元で槍を回す。
飛び込んできた【剣鬼】に向かって回した勢いのまま槍を突き出すと、【剣鬼】は驚いたように咄嗟に後ろに下がった。
「いい技術だ。どこで習った?」
「親」
「恵まれてるな。羨ましい」
【剣鬼】が再度剣を構える。
彼の姿が一瞬消え、俺の手の槍がはじけ飛んだ。間合いの外にいたはずの【剣鬼】がいつのまにか目の前にいる。
胸の鎧の上から腹を殴打される。
あまりの衝撃に意識が飛びそうになった次の瞬間には俺の身体は投げられて頭から地面にたたきつけられた。
「悪いな。〈跳躍〉だ」
がら空きの胸に剣が振り下ろされる。
死ぬ!
そう思った瞬間、「殺さないで」と叫ぶ死霊と触れた。
俺の手は【剣鬼】の指についていた〈跳躍〉が付与された指輪に触れていた。
〈跳躍〉
俺はほんの一歩分、瞬間移動し、
目の前に【剣鬼】の喉元が見えた。
思いっきり嚙みついた。
両手で【剣鬼】の手を抑えて首に噛みつく。
投げられて地面に横たわっていた俺の身体はいつのまにか起き上がり【剣鬼】の目の前にいた。
「〈跳躍〉?! テスラァ!?」
【剣鬼】の動脈を噛みちぎり。湧き出る血を啜る。
〈捕食強化〉【剣鬼】
【剣鬼】で強化された力で【剣鬼】を押さえる。完全に拮抗した力の狭間で、俺は血を啜り続けた。
ただひたすらに。
粘る血が喉を潤す。
動かなくなるまでずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。
『みんなでひとつになりましょう』
『みんなでひとつになりましょう』
ごくごくと血を飲み続けた。
『みんなでひとつになりましょう』
『みんなでひとつになりましょう』
次第に力が失われ、抵抗が小さくなっていく。最後の抵抗をする元気すら失わせるほど血を啜って俺は【剣鬼】から手を離した。
「真に平等なものはないといったな。それでも死だけは平等に訪れる」
血を失い動かなくなった【剣鬼】を見下ろしてそう告げると【剣鬼】マルウェアは最期、ごぼごぼと残り少ない血を吐きながら満足したように笑った。
「光栄…………術師】……前は死……化しん」
`
言葉が終わる前に【剣鬼】の心臓に槍を突き立てる。
血を失いもはや動いても大して機能しないにも関わらず、まだ必死に生きようと脈動している肉を一撃で貫き、すり潰して彼を殺した。
経験値を獲得したが、レベルはなぜか上がらなかった。出てくるはずの死霊も出てこない。まるで別の何かに経験値を取られたような感覚。
槍を形づくっている骨の指がぴくりと動いた気がした。
『はつこうえん!』
『すたんでいんぐおべーしょん!』
『ぱちぱちぱち!』
『ナイクもはくしゅ!』
うまかったぞ。よくやった。
『おおー、ほめられた』
『はじめてほめた』
『やくにたつ!』
『アンコール?』
『しょうがない』
『もう一回うたう!はてうみむらでー』
周囲ではまだ死体たちが歌に合わせて揺れている。
これどうしよう。俺のことを攻撃しないのはギリギリわかるが、これに関しては本当によくわからない。なんで㞔骸どもが踊ってるんだ? 術者も死んでるのにどうして終わらない?
【剣鬼】を殺したはいいものの、こんなところを見られたら間違いなく怪しまれる。
最悪【死霊術師】がバレるぞ。
途方に暮れた、その時、ぱぁっと光が走って死体が止まった。
「〈スキルブレイク〉〈㞔骸〉」
光と共に上空から降ってきた二人の影。彼らは一瞬で地面に生えたツタにくるまれてゆっくりと着地した。
「ナイク無事ですか!?」
降り立ったフリカリルトは俺の腕を見るなり、スクロールの〈ヒール〉を何枚も使った。結構時間が経っていたにもかかわらず取れかけていた腕がきゅるきゅる音を立ててくっついた。
「何とか間に合ったようですね。【槍聖】君が無事でよかった」
【錬金術師】メルスバル卿は墓所全体を覆うほど大きな〈スキルブレイク〉を発動して、㞔く死骸たちを完全に止めた。
そして二人に続いて続々と衛兵隊や冒険者たちが到着し、この集団跳躍事件は終結した。
あとがき設定資料集
【指揮者】
※HP 3 MP 8 ATK 2 DEF 8 SPD 1 MG 8
〜一体感を産むために必要なのは恐怖ではなく、愛です。指揮者が誰よりも率先して、曲を、楽器を、共に演奏する仲間を、そして音楽そのものをひたむきに愛することで私たちは最高の音楽となるのです〜
簡易解説:魔術系統の役職。様々な系統にまたがる音楽系役職一つであり、多数の音楽役職の取りまとめを行う。指揮者に必要な技能は音楽や曲そのものへの理解のみならず、楽団全体の〈調和〉や〈同調〉、メンバーたちの〈精神管理〉を行う必要があり、音楽そして人の管理者としての特徴が強い。




