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第51話 ぬかるみに沈んだ夢




「やっと起きた。大丈夫?」


 目を覚ますと心配そうにこちらを見つめる綺麗な金髪の少女がいた。フリカリルト・マルチウェイスター。事実上のギルド長。


「フリカリルト? 俺はどうなった?」


 あたりを見回すとすぐそばに崩れた大戯堂と青い空がみえる。おそらくここは楽園の外。そして見渡す限りの怪我人とそれを治療するヒーラーたち。彼らの間を縫うように【伝道者】があっちへこっちへ走り回っているのが見えた。


「まだ楽園付近の倒壊と救助が続いています。端的に何が起きたか説明できる?」

「【死霊魔術師】達に襲われた。崩落はおそらく奴らが攪乱のために引き起こしたものだ。犯人は【回復術師】と【重力使い】と……

「と?」

「と、とりあえず二人とも殺した……泥濘は?」


 フリカリルトは泥濘の名を聞いてキョトンとしたように目を丸くした。



「泥濘? えっと……?【魔物使い】さんならあなた達を運んだあと他の方々の救助にいきました」


 話によると、泥濘は俺と延髄と脊髄、そして盲目の遺体をここまで運んできたらしい。よく見ると俺の横にはまだ意識を失ったままの延髄と脊髄が寝かされていた。


 俺を運んできたということは泥濘は味方ということでいいのだろうか……

 少なくとも敵意はないらしい。


「フリカリルト……まずい。めちゃくちゃ使った。状況を検証されれば」

「大丈夫。落ち着いて。【死霊魔術師】によってマナ濁りが発生していました。中で起きたことの記録はのこっていないでしょう。幸か不幸か。ナイクの〈隠匿〉も相当調査を邪魔します」


 フリカリルトはいつもの無表情でそれだけ言うとそのまますっと耳元に唇を近づけた。


「で、使ったってなに?」


 上を見上げると多数の死霊たち。【回復術師】【重力使い】を殺したにも関わらずまだついてきてくれているようだ。


「だって、まだ還れっていわれてないもん」

「次何するの?」

「誰ころす?」「フリカリルト様?!」

「ええ!?」「なに?」

「悪いやつなの?」


 死霊たちがピョンピョンとフリカリルトの上で踊る。


「違う。いいか、お前ら何もするなよ」


 フリカリルトの手をとり〈死霊の囁き〉を流す。死霊たちは嬉しそうにフリカリルトに群がった。


「フリカリルト様だ」「わー」

「フリさま!」「みてみて」

「こっちこっちフリカリルト様!」「しれいじゅつしパワーあっぷ」

「みたな!」「みられちゃった!」「しんじゃったの」


 フリカリルトは自分の周囲に浮かぶ死霊たちを見つめて怯えたように震えた。


「これが………女神様の……お力……」


「女神さま?」「ちがうよ」

「しれいじゅつし!」「ナイクのちから!」

「おとしご」「こうけい!」「おとしご」

「けがれた女神さまのおとしご」


 フリカリルトが聞き入るように死霊たちの言葉に耳を傾けている。そいつらはさっき死んだばかりの死霊だ。他の死霊と交信しているわけでもないし、大したこと言わないんだが……


「フリカリルト。呆けてないで急いで【回復術師】と【重力使い】の死体を回収しないと……」


 もしかしたらまだ二人の死霊が還らずにとどまってくれているかもしれない。急いで探しに行こうと起き上がろうとした俺をフリカリルトのツタが引き留める。ツタは俺を黙らせるように口まで覆った。


「【槍聖】さん大丈夫です。【死霊魔術師】たちは我々のゴーレムがすでに回収済みです」


 足音もなく現れたのは教会派の当主候補【錬金術師】メルスバルだった。いきなり絡めとられたことを抗議するべくフリカリルトの肩を揺さぶると、彼女は少し怒ったように俺をジッと睨んだ。


「メルスバル卿。状況はどうですしょうか?」

「全くよくない。一体何名の市民が命をおとしたのか考えるだけでも胸が痛くなります。本件は我々の失態です。フリカリルト嬢には感謝しかありません。ナイク君もありがとうございます。二人を止めてくれて」


「ふたりとも元墨子か?」


 フリカリルトのツタをむしって話に入る。フリカリルトが微妙な表情でこちらを見ているが彼女が何を考えているかはよくわからなかった。


「心配!」「信用ない!」「すぐ煽る!」

「もんだいじ!」「フリカリルト様も頷いてる!」

「せいかいだ!」


 

「はい。【槍聖】さんの言う通りです。墨子です。どちらも3年前努めておりましたが、大痴は随伴組織との抗争に巻き込まれて事故で。鉛星はその後ロッケン卿に召し上げられ……まさかあの子が生きていたなんて。我々の手で弔ったはずなのですが。どうなっているのでしょうか」


 メルスバル卿は困惑したように空を仰ぎ見た。おそらく天空にある貴族たちの屋敷のことを考えているのだろう。ロッケン卿に話を聞きに行ったアンヘルたちはどうなったのであろうか。



「メルスバル卿。ナイクの縁外しの件。急いでもらってよろしいでしょうか」

「【死霊魔術師】について教会派が知っていることをすべて教えてくれ。ここまでのことをしでかされたんだ、中立派だの、教会派だの言ってる場合じゃないだろ」


 フリカリルトと俺が立て続けにそういうとメルスバル卿は一瞬考えそして頷いた。


「そうですね。では後日、時間をつくります。ナイク君。私の屋敷にいらっしゃってください。フリカリルト嬢もぜひご一緒に」

「後日? いま、ここでじゃだめなのか?」

「ナイク君は無理しない元がいいです。〈ヒール〉でなおるのは直前の怪我だけ。今の君はボロボロで縁外しに耐えられる体ではありませんし、それに……あれは君の仲間では?」


 メルスバル卿が指し示した方からまたひとり負傷者が運ばれてくる。絶叫しながら暴れまわるその負傷者は泥濘だった。



「救助中に急に倒れまして」


 救助に当たっていた衛兵隊や冒険者たちの話によれば泥濘は本当に何もないところで突然倒れたようだ。泥濘の首の紋様が異様な色に変色して広がっていた。首だけでなく、胸から腹にまで達している。


「これは……〈絆の縁〉裏切り者に対する制裁ですね」

「早いな。もう気づかれたか」

「気が付かれた? ナイクどういうこと?」

「簡単に言うと泥濘は【死霊魔術師】の仲間だった。だが楽園崩落を見てついていけないと判断したんだろ。彼らを裏切り俺の味方をした。おそらく【死霊魔術師】の残りのメンバーにやられたんだろ」


 初めの4人組のうち二人は殺したが、あと〈溜め〉の剣士と謎の男が残っている。

 おそらくあの謎の男が【死霊魔術師】のボスなのだろう。


「その泥濘さんをどこまで信用したの?」


 フリカリルトが真意を探るように俺をジッとみる。

 どこまで話したの?ということだろうか。

 それならもう全部だ。全部。


「さぁ? 俺は信じた」

「相変わらずうかつ」


「うかつ」「うかつ」「うかつじゅつしー」

「かわいそう」「ばかだ」


 呆れたようにこちらをジッとみるフリカリルトに便乗するように死霊たちがくるくるとまわった。


 容体が危うい泥濘を崩落現場から浮遊街の大聖堂に運ぶ。途中、何十もの遺体や怪我人たちの間をすり抜ける俺の耳にいくつもの怨嗟の声が耳に入った。

 ほかならぬ俺への恨みの声。

 新たに得た〈聴力強化〉のせいで死霊ではない生きた人もよく聞こえた。


「お前のせいだ」

「お前が楽園にこなければ」

「【仮聖】を狙ってって私たち何の関係もないのに」

「なんであの子が死なないといけなかったの」


 背中に突き刺さる声を無視することしかできなかった。


 

 大聖院に運びこまれた泥濘はひとしきり暴れたあと昏睡状態におちいり意識がもどるのに半日を要した。その間に協力してくれた死霊たちは還り、残ったのは1体だけ。「お願い泥濘を殺さないで」の死霊が横で囁き続けるのを振り払いながら衛兵隊の事情聴取に応じていると、泥濘の意識が戻ったと眼帯の【追跡者】が俺を呼んだ。


「【仮聖】さん。泥濘はあなたと話したいと、ご一緒させていただいても?」

「悪いが外してくれ」

「それは困ります。【仮聖】さんの証言で協力者という形で一時的に保護していますが、必要とあれば彼女のお体にお話を伺うこともやぶさかではありません」

「お体にお話を伺う? 拷問? 〈正直ものよ〉でいいのでは」

「自白系はもうやりましたが駄目でした。おそらく【死霊魔術師】は非常に優秀な術者です。縁の効果で核心的な部分は忘れてさせられているようです。だから体に聞く必要があります。衛兵隊には肉片から記憶を呼び覚ますことができるスキルもちがいます」


 【追跡者】のいうことはもっともだ。優先されるべきは無辜の市民たちであっていくら裏切ったとはいえ犯罪者。特別に優遇する理由はない。しかも泥濘は奴隷だ。死んでもいいと思われている。


「まずは二人で話させてくれ」


 あの場を切り抜けるのに必要だったとはいえ、俺は泥濘に自分が【死霊術師】だと伝えてしまった。彼女が拷問にかけられれば間違いなく俺のことがもれる。俺一人でなんとか泥濘から情報を引き出さないといけない。


「ですが……」

「私も同席します。有益な情報があればもちろん共有をいたしますので」

「フリカリルト様……」


 部屋の前で待っていたフリカリルトがそういって【追跡者】を抑えると、彼は渋々といった感じで頷いた。泥濘を治療していた部屋の中に入ると、中は酷い有様だった。寝かされていたベッドには血が飛び散り、木枠にはかきむしったような爪痕がいくつもついている。一面にびっしりと呪言が書き込まれたシーツにくるまれて、まるで封印されているように泥濘は寝かされていた。


「ナイク……とフリカリルト様?」

「はじめまして。【錬金術師】フリカリルト・ソラシド・マルチウェイスターです」

「【魔物使い】泥濘です。実はフリカリルト様とは学園で何度か」

「覚えています。私の代でもあなたは有名でしたよ。リネージュ・ネクロス。私もあなたのお母さまの作ったドレスは持っております。リネージュさんとお呼びした方がよろしかったでしょうか」

「泥濘でいい……です」


 フリカリルトが衛兵隊たちを部屋から追い出すと、次の瞬間部屋一面の壁に小鳥のようなゴーレムがびっしりと張り付いた。


「準備ができました。この〈七哥〉は音声を届けるおよび阻害するゴーレムです。視覚は衛兵隊に見られていますが何をしゃべっても大丈夫です。ナイクあなたこの子にどこまで言ったの?」

「全部。役職とレベルを開示した」

「ばか」


 若干怒ったようにこちらを睨むフリカリルトに足を踏まれる。泥濘はそんな俺たちをみて少しだけ笑った。


「やはりアレは〈偽装〉じゃないのか……君が本物の【死霊術師】……意外だな……」

「本物? 【死霊魔術師】も【死霊術師】じゃないのか? てっきり二人いるもんだと」

「確率的に【死霊術師】が二人いるなんてありえない。相手の方は偽物だと思うけど」


 泥濘の方をみると彼女は俺たちから目を逸らした。


「知らない。でもあの方も邪神の腕輪をもっていて自分が【死霊術師】だと」


 うつむく様に下をむいた泥濘の目をのぞき込むとその目は涙にみちていた。


「あの方は誰だ? 目的は? 死体の死霊を縛って何をしようとしている?」

「わからない、思い出せないの。私の頭の中を何かが這いまわってる。延髄の〈忘却〉なんかより、もっと……なにもわからない。記憶が喰われてる……頭が割れる」


 泥濘は首を抑えるように呻きだした。フリカリルトの小動物のようなゴーレムが泥濘の肩にのる。真っ白なその毛並みは吸い取るように一瞬で真っ黒になった。



「落ち着いて。あなたたち……いえ、あなたはなぜ【死霊魔術師】に?」

「私?」

「そう。あなた。【魔物使い】泥濘、リネージュ・ネクロス。〈正直ものよ〉教えてあなたのことを」


 フリカリルトが〈正直ものよ〉のスクロールを使った。泥濘は一瞬恐怖したような表情をした後、あきらめたように首をふった。


「私は……普通になりたかった。ただ普通になりたかったの」

「普通……?」


 泥濘は俺たちをみて悲しそうに頷いた。


「リネージュは普通になりたかった。でも彼女はそうはなれなかった。彼女は【魔物使い】だった」


 泥濘、元の名をリネージュ・ネクロスは【宿場主】の父と【針子】の母のもとにマルチウェイスターの街、西教区で生まれた。先祖に貴族の血をひく準貴族の裕福な家庭。敬虔な女神教徒の両親のもと、1つ下の妹とともに何の不自由もなく育った。


 彼女が自分が普通じゃないと気が付いたのは12歳になり、学園に上がったばかりの頃、授業の一環で、ダンジョンに行った時のことだった。

 初めて見た魔物はゴブリン。子供である自分たちと変わらない背丈の魔物だった。性欲旺盛で雄雌関係なく全ての生命を孕ませることができる非常に危険な魔物。周りの子供達が忌み嫌い、気持ち悪いと称した魔物を美しいと思った。外敵を殺し、辱めるために無駄のない形と性質、泥濘は魔物に魅せられた。


「美しいってゴブリンがか?」

「趣味が悪いよね? そう……君の言う通り最悪だった」


 以降、彼女は取り憑かれたように魔物辞典を読み漁り、様々な魔物についての知識を身につけていった。敬虔な彼女の両親は好きなだけ魔物辞典を買い与えた。将来は【討伐者】かしら、と笑いながらいつも彼女が魔物について話すのを喜んで聞いてくれた。


 数年を経て、彼女は美しく成長した。街を歩けば道ゆく男達が皆、振り返る、美しく、妖艶な女に。成人する前から妾にならないかという声はかかっていた。が、彼女の敬虔な両親はそれを許さなかった。結婚は役職を貰ってから。その一点で貴族からの求婚も断った。


「今思えば馬鹿だった。役職を貰えば男なんて選び放題。どんな役職でもこの容姿さえあれば問題ない。私は私の異常性のことを甘く見ていた」


 神託の儀でリネージュは【魔物使い】を授かった。そしてその場で拘束され、首に罪人としての刺青を入れられた。以降は家族から引き離され、楽園で墨子としての生活が始まった。



「墨子となった1日目、私は103人に犯された。高額で私の初夜権を買った男たちに抱かれ続けた。104人だったかも。もう忘れた」

「それは……大丈夫だったのですか?」


 泥濘がフリカリルトをにらみつける。その目は魔物のように真っ赤だった。


「大丈夫なわけないだろ。だからニリが横についてずっとヒールしてくれたわ。処女だったからそれごとね」


 フリカリルトが目を逸らす。男である俺にはあまり実感が湧かないが、彼女たちの態度を見るに相当つらいことなのだろうということは分かった。


「わかる!? 103人に処女を奪われたのよ! ニリは、あのイカれ女は大喜び。こんなに奉仕できて幸せですねって。私の味方をしたのは男達の方。そんなにしなくていいんじゃないかって!自分の番が終わってから言うのよ! じぁやるなよ!お前が我慢すれば一人減ったんだよ!」


 泥濘は怒りながら、ぼろぼろと泣いていた。


「気持ち悪い。気持ち悪い、本当に気持ち悪い。セックスしたいだけならそう言えばいいのにゴミのような言葉で着飾って。魔物の方がよっぽど美しい。本当に滅びればいいのに」



 そうして墨子となった彼女は男達の慰み者になりながら毎日を消費していった。人なんて滅びればいいのに。そう思いながらも彼女は奴隷としての自分を受け入れいくことにした。


「優しい人もいたの。墨子の先輩たちは皆危ない人ばっかりだったけど優しくしてくれた。特に仲がよかったのは直列という墨子のお姉様だった」


 【跳躍者】テースステラ、直列と呼ばれていた彼女も美しい性奴隷だった。七つ年上の直列は泥濘に痛みを感じない術、男を手早く満足させる術を教えてくれた。


「103人はすごいね、私は60人だったよって。二人でニリの悪口を言って盛り上がったわ。もし姉がいたらこんな感じなのでしょうね」

「あなたにも妹が」

「そう。彼女にも妹がいた。普通の姉妹。特段仲がいいというほどではなかったけど、お互い大切に思ってた」



 その妹が神託の儀を迎えた。


「ニリは頭イカれてるけど優しいことはあるのよ。神託の話をすれば、それは素晴らしいですね、ぜひ行きなさいと、こっそり見に行かせてくれた」


 そこで泥濘が見たのは母と同じ【針子】になった美しい妹の姿だった。


「よかったって泣いてたわ。家族全員、父も、母も、妹本人も、あの売女のようにならなくてよかったと泣いてたの。女神様は見ていてくれたと泣いて喜んでいたの。私は普通になりたかっただけ……普通に生きて、そこそこかっこいい旦那と、あんまり裕福ではなくても子供や孫に囲まれた優しい老後をおくりたかった。どうして? どうして私が泥濘のように踏みしめられないといけないんだよ? なんで? なんで私だけ街の地下のぬかるみに沈まないといけないの? 私はなんなの? 男達を慰める道具なの? なら【娼婦】にしろよ! それならもっともっとまともな人生が送れたのに。私は普通になりたかった」



 泥濘は魔物のような眼でフリカリルトを睨んで泣いていた。


「教えてよ!女神は私の何を見ているの?!」

「女神様は……その……」

「だから私は【死霊術師】様の仲間になることにした。自由になるために、この世界のコトワリを壊すために」



 泥濘と直列は自ら【死霊術師】を名乗る人物の手伝いをすることにした。詳細はわからないが、直列は【死霊魔術師】が犯罪役職達を匿っていることを知っていて、彼女が自分たちも逃して欲しいとお願いしたらしい。


「【跳躍者】直列姉様は人攫いとして優秀だったわ。〈跳躍〉すれば絶対にバレない。私も与えられた魔物を使って人を攫った。【擬態壁】の性能は知ってるでしょ。十人? 馬鹿いえ、百人以上攫った。あの方は褒めてくれたわ。【魔物使い】は【死霊術師】とよく似ていると」

「そいつらが殺されていることも知っていたと」

「もちろん。知らないわけないだろ。あの方が何を目指しているかは難しくて分からなかったけど……私は、私はこんな世界滅びればいいと思ってるんだ!」


 

 泥濘はカラカラに乾いた目でフリカリルトを見つめていた。


「つまり俺たちは直列、テースステラを探せばいいってことか?」

「無駄。直列姉様も消えた。嫌になって逃げたんでしょ。直列姉様の〈跳躍〉なら壁なんて関係ない。私を置いて……どこにだっていける」

「なら犯人は誰なんだ? 【死霊魔術師】は誰だ?」



 俺の質問を聞いて泥濘は耐えきれないように血を吹き出した。首の真っ黒な刺青がさらに広がる。



「わからない、本当に思い出せない。思い出せるのは場所だけ。あの方と話したあの部屋だけ……」


「それはどこですか?」


「助けて【死霊術師】様……私、君に言われて裏切ったよ。君のように自由になりたい。お願い助けて……こんなの聞いてない。聞いてないよ」


 泥濘が俺に向かってすがるように手を伸ばす。フリカリルトに促されるままその手を取ると泥濘は俺にだけ聞こえる声で場所をつぶやいた。




 その時、扉が開いて部屋の中に【追跡者】が飛び込んできた。



「フリカリルト様、お取込みの所大変失礼いたします。本件で続報です。さきほど自分こそが【死霊魔術師】だと【抽出師】ロッケン・マルチウェイスターが自白しました。そしてその直後随伴組織が私的制裁として彼を殺害したそうです」


 【抽出師】ロッケン・マルチウェイスター?

 アンヘル達が話を聞きに行った相手だ。




あとがき設定資料集


【針子】

※HP 3  MP 7 ATK 4 DEF 6 SPD 5 MG 5

〜つむいだ思いに言葉を込めて。思いと共に織り込んだ愛は永劫消えぬ生涯の思い出となる〜



簡易解説:アルケミスト系統の役職。作成した衣類に様々な効果を付与するスキルをもち、優れた針子の作った衣装は透き通るようなヴェールであっても魔物の攻撃を防ぐほどの強度をもつ。有名な針子の作成した衣装はその希少性と有用性から高価で取引されることが多い。

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すいません。 冒険者登録の回で出た〈詐称〉、この回で出てた〈偽装〉の二つはどう違うのですか?
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