第47話 この面で『合唱』
【死霊魔術師】に差し向けられた刺客:亡骸掬いたちを討伐しダンジョンから脱出した俺たちはマルチウェイスターの街に帰宅した。
「皆さまお帰りなさいませ。無事で本当によかった。お約束通り楽園の皆に話を通しておきますね」
【伝道師】ニリの温かい笑顔に迎えられてた俺たち4人は、一晩休んで翌日から本来の目的である【回復術師】についての情報を集めるための聞き込みを開始した。
今回のことでもわかったが【死霊魔術師】はあまりにも危険な連中だ。目撃者である俺一人を消すために亡骸掬いのような悪人を使い、彼らの非道な行為は見て見ぬふりする。捕らえていた女の子によると亡骸掬い達に仕事を依頼してきた【死霊魔術師】たちのリーダーは身なりのいい男性だったらしい。
とにもかくにも早く見つけないといけない。
もたもたしていると教会から執行部隊が送られて恐怖の街民全数検査が行われるのだ。その時はこの街から全力で逃げるつもりだが逃げ切れるとも限らない。最悪処刑だ。
「ここが楽園か」
大戯堂の下、広大な地下空間にずらりと店がならんでいる。すっと奥までのびる大通りには何人もの薄着の女性たちや青年たちが道行く客の呼び込みをしていた。
「はじめてなの? 意外。そう、ここが楽園。戯典2節『産めよ、熟めよ人の子ら。愛憎満ちて世を埋めよ。さすれば至れん楽園へ』より、楽園と名付けられたるは性の享楽の祭……」
俺が詩的な言葉はよくわからないという表情をすると泥濘は馬鹿にしたように両手をあげた。
「要は金払ってセックスする所」
楽園。それは各地に存在する女神教管理下の色町のことである。
マルチウェイスターにおいては西教区にある大戯堂の地下にあり、百を超える店舗、千人を超える娼婦、男娼達が在籍しているもはや街の一区画といえるほどの巨大組織だ。風呂屋、恋人代行、模擬家庭、見せ屋、マッサージ屋、脱衣所、殴り屋などなど様々な店舗が存在し、夜も昼もなくそれぞれのサービスを展開している。楽園の最大の特徴はこの中ではどんな行為どんなサービスであってもすべてが合法、教会組織公認であり、楽園に在籍する娼婦男娼は女神の代行者、国から正式に認められてた神聖娼婦、男娼達であった。
悪戯な女神は性にも寛容であられる。
「墨子だけじゃないんだな」
「当然。本職の【娼婦】【男娼】もいるにきまってるじゃん」
大通りを進みながら周囲をうかがう。
道奥を見れば、路地裏で若い青年が年配の女性に甘い言葉を囁きながら奉仕している。すれ違う女性という女性がこちらに手を振り肌を見せてきた。
「アレ【槍聖】じゃない? 英雄【槍聖】!」
「めっちゃカッコよくない!? うちらいけるかな」
「でも案内してるの泥濘だよ」
「げー、あのクソ女、面だけはいいからな」
「【娼婦】の皆さま、どいてくださーい」
案内人である泥濘の存在が彼女らを押しとどめておいてくれているのだろう。そうでなければギラギラした目で押し寄せてくる【娼婦】たちに囲まれて一歩もあるくことができないにちがいない。
それほど【槍聖】アンヘルは女性たちの注目の的だった。
……別に悔しくはない。
アンヘルはかっこいいやつだ。昨日の亡骸掬いとの戦いだって一人で7人倒したし、レベルも71でA級冒険者。顔もまぁいい。大規模クエストでは功労2位の英雄。
モテて当然だ。女性に囲まれる生活になるのも当然である。
【雨乞い巫女】と家が隣同士の幼馴染で、美人の義姉がいて、近所の女の子たちに数日に1回は告白されているらしいけどそれも当然である。昨日助けた女の子もとやかくあって今はアンヘルの家で保護されているらしい。それもまたさもありなんだ。
……別に悔しくはない。
死ね。
「泥濘。いつになったらこの人ごみは終わるんだ」
「グチグチうるさいなぁ。墨子の店は最奥! さらにその裏に私たちの家がある。【回復術師】については墨子のお兄様方やお姉様方が詳しいと思うからまずそこに聞いてみようと思ったんだよ」
「リネー助けて、これどうすればいいの。あたしどうすれば」
振り返ると少し目を離したすきにアンヘルだけでなく【雨乞い巫女】まで群がられている。
「【雨乞い巫女】様。私はもうリネージュではありません。ここでは泥濘とお呼びください。おら! どけよ! オス共! この方はきったないお前らが触れていい人じゃないんだよ。若い女に群がってないで婆さん共の相手してろ!」
泥濘が清楚な顔に似合わない青筋たてて、群がっている男娼たちに喧嘩を売りに行く。だが健闘むなしく泥濘は男たちに突き飛ばされて転んだ。
「邪魔するなよ泥濘! 汚いのはお前の性根の方だろ。ちょっと顔がいいからって調子乗んなよ。墨子の屑が」
受け身も取れず無様に転がっている泥濘を助け起こしながら男娼たちを睨むと彼らはビクッと震えて後退りした。今のは間違いなく喧嘩売りに行った泥濘が悪いが彼らは彼らでクエストの邪魔だ。
「【雨乞い巫女】レビル。ふざけてないで仕事だ。早く来い」
囲まれている【雨乞い巫女】に呼びかけると彼女は困惑したように首をふった。
「いや、お兄さん俺ら無視しないでよ」
【雨乞い巫女】に話しかけていると男娼たちの一人が俺と彼女の間に割り込んだ。
「誰?」
「いや誰って、見ればわかるじゃん。仕事の邪魔すん……しないで……ください」
「誰? 名前。誰でもいいが、さっき泥濘を突き飛ばしたお前でいい。泥濘は俺たちが【伝道者】から預かっているんだ。損失がでれば補填させないといけない。だから名前」
【雨乞い巫女】に群がる男娼の一人を指さすと彼は嫌そうな顔をしてすっと後ろに下がった。
こいつらガラが悪いな。
さっさとどっかいってくれないだろうか。
そう思いながら睨みつけると彼はダンジョンに間違えて入った子供の様にビクッと震えた。
「俺ですか? 【男娼】です」
「名前」
「え? あー、ハンドリュー」
「うっそー。そいつはアーク。ハンドリューは関係ない。やっちゃったー。あーあ」
泥濘が俺の背中越しにゲラゲラ笑いながら煽る。
「ハンドリューだな。仕事熱心なのはいいことだ。でももう俺たちの邪魔はしてくれるなよ」
「ハンドリューは関係ないって」
「じゃあハンドリューにも伝えてくれ。邪魔するなって」
「うわ。ハンドリューかわいそ。こんなガチ物の殺人鬼に目をつけられるなんて」
泥濘が嘲笑いながら見下したようにアークに手を振る。
「さ……殺人鬼?」
泥濘の発言のあまりの文面の悪さに【雨乞い巫女】とアンヘルに群がっていた男ども女ども全員がこちらをむいて黙りこくった。
警戒するような視線が四方から突き刺さる。
本当にこの女は性格が悪い。なんて言い方するんだ。これじゃまるで俺が犯罪者だ。捕まっていた女の子を助けるためにやったのだから、俺はむしろ正義の味方なのに……
「おい、泥濘。露悪的な言い方するのはやめてくれ。亡骸掬いは懸賞首だ。殺しても何の問題もなかったろ」
「眼球串刺しにして頭ふきとばしといてよくいうよ。脳味噌でろでろにえぐれてたぞ」
本当に性格が悪い。
これでは俺が本気でやばいやつみたいじゃないか。
「脳?」
「眼球串刺し?」
「亡骸掬い? うそだろ」
静かになった男娼たちをかき分けて【雨乞い巫女】をぴっぱり出す。
「レビルの方がこいつらよりレベルたかいんだから、吹き飛ばせばいいだろ」
「いや……だって」
【雨乞い巫女】が同じく囲まれているアンヘルの方をみる。アンヘルはびっくりするくらい沢山の女性たちに囲まれて平然としていた。
「アイツはアイツで問題だな」
アンヘルに手招きするとアンヘルはしょうがないというように苦笑した。
「ワリィ、仲間が呼んでる。行くわ」
アンヘルも引っ張り出して楽園の奥へ。何度も何度も絡まれては囲まれるアンヘル達を引っ張り出してやっとのことで墨子の店の前にきた。
他と違って少し薄暗い店。
けばけばしいピンクの看板には赤い文字で『NGなし 暴力行為のオプションも可』と書かれている。
「少し中の人に聞いてきます」
泥濘が中に消えた瞬間、俺たちはまた一瞬で取り囲まれた。
「おにいちゃん、かっこいい。今日は私とどう? 泥濘はあっちの……怖い子に譲ってあげたら?」
「おにいさんならサービスするよ」
アンヘルがまた何人もの女性たちに囲まれている。
「君のような美しいお嬢さんがこんなところに」
「周りの男たちは見る目がない」
【雨乞い巫女】もまた若い男性たちに囲まれている。
男も女も明らかな美男美女ばかりだが、全員どことなく危険な感じがする。彼らはさきほどまでの娼婦男娼たちと違って皆一様に邪神装備を身に着けていて、耳から首にかけて刺青がはいっていた。
邪神の腕輪に耳飾りに髪留め。
人によっては二個も三個もつけている。
「六禁ファンクラブかよ」
「お兄さんも、でしょ?」
驚いたことに俺にも話しかけてくる女もいた。片耳のない美女。彼女は体を摺り寄せるように俺の腕に抱き着いた。
「お兄さん。腕輪だけとか通だね。【死霊術師】が好きなの?」
「ああ、まぁ。まさに六禁って感じだしな」
好きというか本人だが。
「流行ってるのか? お前もそれ、耳飾り」
女は千切れていない方の耳に邪神の耳飾りをしていた。
「いいでしょ。【毒婦】あやかり。これで私も傾国の美女ってね」
「本物か?」
「そんなわけないでしょ。本物持ってるのは脊髄延髄、窮奇、義勇……お兄さんのも、もしかして本物?」
「知らないな。捨てても戻ってくるが」
「じゃぁ本物だ。こわいね」
「なんだ。お前は本気じゃないのか」
「まさか。ただのノリ。本物の六禁とか怖いって。泥濘とか義勇はガチだけどね」
女は体をすりつけながら耳元で囁いた。
「泥濘じゃなくて私と遊ばない? あの子見た目はいいけどサービス悪いよ。めっちゃ嫌がるし。知らないかもだけど、このまえちょっと過激なプレイした人を半殺しにしたんだー。泥濘本人も死にかけたらしいけど。頭おかしいでしょ墨子のくせにお客様に手を出すなんて」
「悪いが仕事中だ。遊びに来たわけじゃない」
片耳の美女はゆらりとこちらを見つめて、意外そうに目を丸くした。
「あれ? もしかして泥濘ガチ恋勢? それはごめんなさーい。また今度」
彼女はぱっと離れてそのままアンヘルを囲む輪の中に入っていった。
そこからは誰にも話しかけられることなくしばらくして泥濘が出てきた。
「婆さんが【回復術師】大痴について知っているようです、表は騒がしいので中で話しましょう」
泥濘と共にもう一度アンヘル達を引っ張り出してピンクの扉をくぐる。そこにいたのは置物のように大きな老いた女だった。眼帯で両目を隠した老婆。
「【槍聖】アンヘルだ」
「【雨乞い巫女】レビルです」
アンヘル達の挨拶に何も答えず老婆は何も答えず探るように俺たちを見つめている。〈隠匿〉を上から撫でられるような嫌な感触がした。
「〈鑑定〉だな。アルケミスト系だな」
「失礼なガキだね。名乗りもせずにレディの股ぐらに手を突っ込むなんて」
老婆が想像の4倍くらい大きなダミ声でしゃべる。あまりの大きさに気おされそうになるのを堪えて睨み返した。
「下品な比喩だな。自分だって名乗ってないのに」
〈鑑定〉を押し返すように〈隠匿〉ですべてを塗りつぶすと老婆は表情一つ変えずにこちらを眺めた。
「レビ。あいつ誰にでもああなの?」
「そうだよ。リネー! 初対面の【暗殺者】に喧嘩売ってたよ」
「【暗殺者】ってニリと同じS級よね。うへぇ。やっぱイカレじゃない」
女衆が後ろで何やら言っているが、それどころではない。この老婆は危険だ。かつて俺はフリカリルトの〈鑑定〉に【死霊術師】を見抜かれたことがある。〈鑑定〉には本気で向かい合わないといけない。
「危険ねぇ。本気で向かい合ってくるというならわしも本気で向かい合うかのぉ」
は?
今、口に出していたか?
あたりを見回すとアンヘルが怪訝そうにこちらを見返した。
「そんな焦らんでもわし以外聞こえとらんわ。ああ、大丈夫じゃよ。心配せんでええ、わしは正気正気。名乗る名などないよ。ここでは盲目と呼ばれてるさね。【覗き見】盲目さ。あとは……そこにいるのは泥濘かい? 意外よのぉ」
老婆が汚くしわがれた声で笑いながら腹を叩く。
「さて、このクソガキはっと」
老婆は眼帯を外し、抉ったようにぽっかりと空いた眼窩を見せた。その瞬間、抉るような視線が俺を貫いた感覚がした。〈隠匿〉を突き破られて奥まで見透かされたようなゾッとする気配。
隠していたものも何なら自分すら覚えていない記憶すら見透かす強烈な光をあてられたような……
そんな嫌な感覚。
老婆は一瞬何かを考えたように首を傾げ、そして空っぽの眼窩を大きく見開いた。目の裏の脳膜がぼんやりと蠕動する。
「おおお、見える。見えるぞ! これは坩堝よ、坩堝。溶かして鋳た人の蟲毒。闇夜に蠢く怨嗟の合唱歌よ。冒涜に歌うは神をも殺す呪いの勅。殺意の王よ。おおお、おお、おおおおおおおおおお。まさか、まさか、ぬしは……ぐぇ」
婆さんの首を絞めて言葉を止める。
おそらく【死霊術師】がバレた。やはり危険だった。
この老婆どう殺す?
首を折る!
「ナイク! 何してんだテメェ!」
折ろうと力を込めた瞬間、アンヘルに蹴り飛ばされて【雨乞い巫女】に魔法で動きを止められる。
マズイ!
なんとかしてあのババアの息の根を止めなければ!
そう思った瞬間、婆さんはまるで石のになったように固まった。まるでスキルで動きを封じられたよう完全に停止している。
「なになに? また新しい子? ばぁさん絶叫してるじゃん。ここまで取り乱してるの。泥ちゃん以来かー? 期待の新人現る」
「なんていってました? 最初から聞いてなかったのですが。殺意の主?」
階段から降りてきたのは美しい……双子。全く同じ顔の美男美女だった。左右で対になるように耳から肩に刺青をいれられたそっくりな男女。
「〈忘却〉! ほらこれで元通り。はーい。お婆ちゃん今日は冒険者の方々がいらっしゃってますよぉ。【回復術師】大痴のこと聞きたいって。はーい落ち着いてー」
女性の方が老婆に〈忘却〉をかける。記憶が飛んでふらりと倒れこんだ婆さんを彼女があやしている横で男の方が恭しく頭を下げた。
「貴方方がニリのいってた冒険者様でしょうか? お初にお目にかかります。姉弟で墨子のまとめ役をさせていただいております。弟の【拷問官】延髄です」
「同じくまとめ役のー姉の【審問官】脊髄でーす。お婆ちゃんが取り乱すから泥ちゃんはしばらくその方の相手してあげてー。上の部屋が空いてるから使っていいよー」
アンヘルにも席をはずせと目配せされて、俺は部屋の外に出た。ついてきた泥濘に案内されるまま上にあがる。空いているといわれた部屋には二人用のベッドが一つ置いてあった。
ほかに座る場所もなくベッドに腰かけると泥濘が静かに横に座った。そのままポンポンと俺の膝を叩く。
「盲目婆はいっつもああだからあんまり気にしないでよ。もう忘れてるだろうし。盲目婆が墨子のみんなに名前つけてるんだけどさ。全部あんな感じだし」
婆さんの言葉に殺意をむき出しにしてしまったのを怒っていると思われたのか泥濘が意外な態度で慰めてくる。バレたから殺そうと思っただけで怒ったつもりはなかったのだが、泥濘が慰めの言葉を投げかけてくるというのは意外だった。
「いや、大丈夫。それより皆あの予言みたいな言葉から名前をとってるのか」
「予言……あれ予言か? 『ああ、泥よ。踏み殺されし魂の獣よ。泥濘に沈む供養なき供物よ。決して泥から揚がることなかれ、さすらば、魔が赴くことなし』……だから私は泥濘」
「どういう意味だ?」
「さっぱり。みんなあんまり気にしてない」
犯罪役職は様々な権利を失っている。資産、結婚、移動などなど。その最たるは名前だ。以前までの名を名乗ることは許されず教会から与えられる洗礼名を名乗らなければならない。与えられる洗礼名は魔物や犯罪者にあたえられる識別名のようなもので誰が見ても分かるようにその者の危険性を名前にする。
この街ではあの婆さんが名付けをしているのだろう。
「君、婆さんに新入りと間違えられてたね。盲目婆さんは目は見えてないから君も冒険者とはわからなかったみたい」
「俺も墨子としての名前を貰ったってことか。つまり俺は……合唱?」
「……合唱?!」
泥濘は噴き出してゲラゲラと笑った。
「合唱……合唱……この顔で合唱……普通は坩堝とか冒涜とかにするだろ」
「それはそれで恥ずかしいだろ。俺は冒涜とかいいたくないぞ」
「でも合唱は……あははははは、だっさ」
笑い転げまわる泥濘を眺めながらため息をついた。
さっきの婆さんはあまりにも危険だ。一瞬であまりにも簡単に【死霊術師】を見破られた。幸運にも〈忘却〉が行われたが、また見られたら同じことが起きるだろう。
出会い頭に〈正直者よ〉を連打してきた【伝道者】ニリといい、読心術ともいえるレベルの〈鑑定〉を使える盲目婆といい、やはり教会関係者は危険だ。
「他の奴らはどんな洗礼名なんだよ。もっとダサいやついるだろ」
「いや、普通にトップ。さすがに合唱はない。この面で『合唱』は……あははははは」
それからしばらく泥濘から楽園にいるいろいろな犯罪役職にきいていた。双子のまとめ役【審問官】【拷問官】脊髄延髄、筋トレ大好き【詐欺師】窮奇、お調子者の【ほら吹き】爆笑、いつも陰口ばかり言ってる【髪喰い】麺丼やマゾヒストの【反逆者】足枷。数日に一度はこました娼婦に刺されて死にかける【解体屋】巨根などなど。
「というか遅くないか? 私たちどんだけ待たされるんだよ」
随分と待たされてしびれを切らした泥濘がどたばたと走って出ていく。彼女はすぐにアンヘルや双子たちを連れてもどってきた。
「うそ! なんもしてないの? ごめん。てっきり泥ちゃんのコレかと思って終わるまで待ってたのに」
「ちーがーう。脊姉さんそういうのやめて」
「なーんだ。でもお似合いじゃなーい? カルマの色がそっくり。泥ちゃん性奉仕苦手なんだから召し揚げてもらおうよ。やり手の冒険者なんでしょ。ちゃーんす。激押しちゃーんす」
「絶対嫌です」
意外にも仲よさそうにじゃれている墨子たちを横目にアンヘルが真剣な顔で上を指さした。
「ダメだ。誰も【回復術師】フュードルの居場所しらないってよ。仲のよかった墨子もいたらしいが貴族に召し揚げられて簡単に会えないらしい」
「貴族?」
「【抽出師】ロッケン・マルチウェイスター様だ。俺らには貴族とのつてはないし、フリカリルト様から会わせてもらえるように頼むしかネェな」
アンヘルの指につられて上を眺める。楽園の天井しか見えないが当然この上には大戯堂があり、そしてそのさらに上には俺たち平民からは見ることもできない貴族の街がある。
「それは俺いかないほうがいいな」
「「なんで?」」
「前そいつに喧嘩売った。お前〈鑑定〉下手くそだなって」
【抽出師】ロッケン・マルチウェイスターは確か亡霊屋敷のときに【看守】と一緒にいた小太りのオッサンだ。フリカリルトに嫌がらせしているのがムカついて怒らせてしまった。
「ナイク。テメェ本当は【煽り屋】だろ……」
「あはははは、【煽り屋】合唱」
泥濘は俺を指さして笑った。
【娼婦】および【男娼】
※HP 6 MP 4 ATK 5 DEF 6 SPD 4 MG 5
〜三大欲求。性欲! 肉欲!! セックス!!!〜
簡易解説:戦士系統の役職。全ての役職の中で最も所持者の多い役職であり、身体強化スキルを多く覚え、体力も高い意外に優秀な役職。スキルによる避妊や防疫も可能でありまさに性の申し子である。ごくまれに男性の【娼婦】、女性の【男娼】も存在する。




