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第34話 方法は【死霊魔術師】が知っている




「冒険者になって、もう半年か」



 誰もいない講義室に声が響く。

 フリカリルトのツタで講義室内につられた俺は、縛れながら、これまでのこと思い出していた。


 大規模クエストが終わり、冒険者になってから半年、処刑役職 六禁になり、役職を変える方法を探す旅に出て、はや一年。冒険者になった俺の転職活動はほとんど進展していなかった。


 冒険者になっても結局、役職を変える方法も、父の言ってた役職を変えた人についても何もわからなかった。



 この半年で増えた手掛かりは情報屋からもらった占い1つだけ。



 『女神のコトワリを壊せ』

 そして『その方法は【死霊魔術師】が知っている』

 


 その占いを受けたのは仮病がバレて入院していた大聖院から追い出されてすぐのことだった。



 マルチウェイスターの底、工房地区からの鉄混じりの廃水が流れ出す排水路を抜けた先にある地下街。入りくんだ配管と折り重なった梯子で組まれた不気味な地区には表には住めない罪人や、食い扶持のない浮浪者、麻薬中毒者、ギリギリの商売をしている商人たちがあつまっていた。いわばマルチウェイスターの裏側。情報屋はそんな地下街を支配する随伴組織(コンパニオンズ)というグループのフロント組織の一つだった。

 【榊】さんから教えられた情報屋を訪ねると、そこにあったのは、薄暗くジメジメした地下街には似つかない荘厳な建物だった。占いの館と書かれた看板を見ながら扉をあける。


「お待ちしておりました。【仮聖】ナイク様。占いの館へようこそ」


 立ち並ぶ際どい恰好をした女性たち。彼女たちはまるで今この瞬間に俺が来るとわかっていたように扉の裏に待ち構えていた。すれ違う女性たちに手を振られながら建物の奥へ。モノクルをかけた女性に案内されるがまま、占い館の元締めがいるという支配人室へ向かった俺を待っていたのは誰もいない支配人室だった。


 地下特有の薄暗い冷たさの中、ポツンと置かれた小さな水晶玉。

 困惑して振り返ると案内してくれた女性がぺこりと頭をさげる。


「大変申し訳ございません。当店支配人の【天気占い師】はただいま留守にしております。恐縮ですが私【代理人】ウヴァ・ミルストリアが代理で伝言を読み上げさせていただきます。『ご久しぶりです。【仮聖】ナイクさん。大規模クエスト以来、実に52日ぶりですね。占いの館をご利用いただきありがとうございます。ナイクさんのような将来有望な冒険者様にご贔屓していただき誠に光栄です。本日はお近づきの印にこれを。お会いできなかったお詫びもかねて今回は無料で占わせていただきました』」



 自らを【代理人】と称した女性から手渡されたのは一通の手紙だった。情報屋には何一つ伝えていないのに、俺が来ることも、何を求めているかすら知っているようだった。


 封を開け、中身を取り出す。


 『転職したいなら女神のコトワリを壊せ。方法は【死霊魔術師】が知っている』


 書かれている文字を見て、俺は言葉を失った。



「【死霊……!?」


 大規模クエストで【天気占い師】とはほとんど関わっていない。会話したのは本当にほんの少しの間、〈今日のラッキーアイテム占い〉をしてもらう時間だけだった。その時は【天気占い師】はハキハキした普通の女性という印象だった。


 隠匿竜と戦った高ランク冒険者第三班のメンバーならともかく、俺が戦っている様子を見たわけでもない【天気占い師】が、俺の正体に気が付くはずがない。

 焦る心を押えて、【代理人】の方を向くと彼女は優しい笑顔でニコリと笑った。


「これはどういう意味?」

「申し訳ございません。私には内容の意味までは分かりません。無料ということで今回はご容赦を。これ以上のことが知りたければ対価をいただきたく思います」

「対価?」


 彼女は優しく微笑むんでいるが、その目は全く笑っていないように見える。


「はい。あるいは求める占いに釣り合う金銭か、あるいは情報を」

「情報が釣り合うってなんだよ」


 【代理人】は少し考えてから、かけていたモノクルをはずした。金の装飾がついた見るからに高そうなモノクルはおそらく俺の邪神の腕輪や魔法袋と同じ、いわゆる魔道具というやつだ。〈付与〉されているのがどんなスキルかわからないが、内側にマナが流れているのがわかった。


「ご紹介いたします。こちらはメバル・マルチウェイスター様です」

「こちらはメバル・マルチウェイスター? 贈り物か?」


 若干の違和感がある言い方だったが、女性はその通りと言わんばかりに大きくうなずいた。


「はい。メバル様は以前、占いの館にいらっしゃいまして、その際、私共はメバル様に意中の女性の堕とし方をお伝えしました。その後、見事ご成婚なさまして、私共は誇らしかったのですが、非常に残念なことにメバル様はいつまでたっても対価を支払われませんでした。ですのでこのように()()()いただきました」



 なっていただいた?

 寒気がする言葉に絶句していると女性はさらに優しく微笑んだ。


「こちらのモノクルは〈鑑定〉スキルを永続的に付与した魔道具でございます。さすがメバル様です。不足分以上のものを支払ってくださいました。ちなみのこの横についている鎖はメバル様の奥様からの贈り物で〈通知〉というスキルもついております」


 平然と答えているがとんでもないことだ。

 彼らは貴族を、それもこの街の領主マルチウェイスター家の人間たちを殺して、魔道具にしたということだろう。噂にはきいていたが随伴組織というのは相当危険な奴らのようだ。地下街を支配しているというだけのことはある。



「これは私個人としての見解ですが、【仮聖】様は素晴らしい対価をお持ちのようです。私共からはどんな情報でも提供する準備があります。いかがいたしますか?」

「いや、遠慮しておくよ」

「それは残念です。ではまたの機会に」



 

 またのお越しを、と背中から投げかけられながら、逃げるように地下街を抜け出したのももうずいぶん前のこと。


 情報屋の占いだ! 必ず何かある!

 と意気込んでたいのだが、この半年、女神のコトワリどころか【死霊魔術師】すら影も形もなかった。



 本当に何も見つけられなかった。


 とはいえこの半年、本当に何もしなかったというわけではない。


 大聖院から無理やり追い出されたり、街から去る【炎刃】さんたちの見送りパーティーにも参加したりもした。根城にしている中央街の公園で盗難事件の犯人探しに駆り出されたこともあった。いろいろあるがこの半年で一番していたのは何かと聞かれたら答えは一つだ。


 勉強である。

 毎日みっちりと冒険者についての講習を受けていた。


 納税義務、報告義務、携帯義務、守秘義務、自衛義務、順法義務、教育義務、子供に対する守護義務……。素材取得権、スキル使用権、移動権、結婚権、育児権等々

 

 膨大な数の課せられた義務と得られた権利。一人で生きるために必要なありとあらゆる街のルールを叩きこんだ。辺境の開拓村でなんとなくで暮らしていた俺は、この国の法律をちゃんと理解できていなかったらしい。あまりにも覚えることが多すぎて冒険者として仕事をとる余裕はなかった。


 過剰だとは思う。

 普通の冒険者は聞き流しているだろうが、俺には必要だった。【死霊術師】として生きるにはどこに落とし穴があるかわからない。急に役職の開示を求められでもしたらその時点で詰みかねない。


 せっかく手に入れた大規模クエストの報酬金はほとんど食費に消え、残ったのは赤蝶の主の素材と、新調した装備一式のみ。俺は相変わらず公園での浮浪者生活を送っている。


 で、そんな講習漬けの毎日も終わり、そろそろ本格的に役職を変える方法を探そうとした矢先に、このありさまである。



 講義室につられたまま、プランプランと揺れる足を眺めていた。足に少し力を入れて振るだけで信じれれない速度で足が動く。レベル25という一般的な成人平均レベルに到達した俺は子供の頃では考えられない身体能力を手に入れていた。レベル13の時と比較しても倍といってもいいほどのステータスだ。走れば耳元で風鳴りがするほど速く走れるし、大きな岩石も頑張れば片手で持ち上げられる。


 それでもレベルの割には弱いのはMP以外のステータスの低い【死霊術師】である以上しょうがないことだった。今なら同レベル相手なら幼いころから父に教え込まれた格闘術や槍術のおかげで補えてはいるがレベルが上がればあがるほどその差が絶望的になっていくのは明白だった。



「はやく普通になりたい。いつバレるんじゃないかとビクビクしないですむ普通の街民になりたい」


 俺の情けないうめき声は誰もいない講義室にひどく響いた。



あとがき設定資料集



【投石兵】

※HP 4  MP 5 ATK 8 DEF 5 SPD 5 MG 3

〜人が人たる最大の特徴は二足歩行と、二足歩行の獲得により極度に役割分担された手足にある。体重を支えることに特化した強靭な足と、重力から解放されて緻密作業を行うことができるようになった手。この手足により他の生き物にはない投擲という武器を獲得した人類は、まず一番最初に石を投げた`〜



簡易解説:戦士系統の役職。様々なものを投げることに特化したスキル構成をしており、戦士系でありながら高レベルになると投石機という簡易なゴーレムを生み出すこともできる特徴的な役職。

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― 新着の感想 ―
やろうと思えばアサシン的な立ち回りできそう。 てか、投石機ゴーレム扱いなんですね。
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