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23/108

隨23隧 縺セ繧九〒蝪励j縺、縺カ縺輔l縺


 

 大規模クエスト四日目、第二階層。

 竜種:赤蝶の主討伐が完了した。


 強力な竜種とはいえ、こちらはSランク冒険者率いる高ランクパーティ9人班。結果を見れば、誰一人欠けることなく討伐を行うことができた。

 

 大きな怪我をした者すらいない。

 まさに大勝利だ。さっさと帰って■■■■■■から■■■■を■■■。


 早く帰りましょう、と伝えようと冒険者たちの方を向くと、彼らも疲れ果てたように地面にすわりこんでいた。倒した赤蝶の主の死骸を前に、感慨深そうにお互いをたたえあっている。

 そんな冒険者たちの中で、ただ【炎刃】だけが何かウキウキした足取りで竜の亡骸に向かっていた。多分、食べるつもりだろう。


 【炎刃】は【暗殺者】を引き連れて、竜の前で分け前の相談を始めた。


「配分どうします?」

「そうじゃな。とりあえず翅は売れそうじゃの」


 【暗殺者】は死骸から、赤い、蝶の薄翅を切り離した。


「では翅とそれ以外とかどうでしょう?」

「おぬしらがそれでいいならいいが」


 仮登録冒険者の素人目に見ても、あきらかに翅の方が高価にみえたが、【炎刃】は嬉しそうに頷いた。


「ではそれで」

 

 【炎刃】は手慣れた手つきで竜の6本の脚を切り落とした。撫でるように鱗を落とし、脚を焼いていく。

 しばらくすると肉が焼ける匂いがして、【炎刃】パーティの料理支度が始まった。【炎刃】が肉を焼き、【榊】がテーブルを作り、【水斧】が水を用意する。【■弓】はテーブルにつきジッと料理が来るのを待っていた。


 あまりにも自然な流れで始まったので俺がおかしいんじゃないかと思ったが、幸いなことに【暗殺者】のパーティメンバーも変なものを見る目で彼らを見ていた。


 【炎刃】が真っ赤な竜の鱗の隙間から竜の肉を斬りわけている。ただ【赤蝶の主】は虫由来の竜のため、あまり外側に肉はなさそうだった。



 火の刃によって剥がれた鱗がこちらに飛んできた。



 赤い鱗…………



 ■■■■■■の鱗。



 手元にたまたま持っていた■■■■鱗と、剥がれて地面に飛び散った赤の鱗を見比べる。

 赤蝶の主の鱗は鮮やかな赤、■■■■は■色。


 若干の違和感を感じるが、同一個体で場所によって色が違うなんてことはよくある。

 いや、多種多様な竜種だ。そんなのは普通のことなのだろう。


 思わず握りしめた鱗の、びっしりと敷き詰められた溝で指が切れ、鱗は出た血を吸い取った。

 血に染まり赤色に輝くそれは、確かに赤蝶の主の鱗そっくりだった。



「なぁ、仇は討てたか?」



 漂っていた【螟ァ鬟溷ァォ】の■■にそう聞こうとして、違和感に気がついた。

 ■■が誰もいない。


 あたりにいるのは満足した顔で竜の肉を齧っている【炎刃】たち3人組と、神妙そうな顔で傷の手当てをしている【暗殺者】や【■■】、【雨乞い巫女】。

 最後に不思議そうにこちらを眺めてるアンヘルだけ。



「あれ?」




 違和感を感じて立ち上がりあたりを見回すが、何もおかしなことは見つからなかった。

 ただ唯一、不思議なことといえば羽虫のような形の金属が地面に落ちていたことくらいだった。


 白い金属を拾い上げて眺めると不思議そうにこちらを見ていたアンヘルが寄ってきた。



「オリハルコンか?」


 アンヘルが俺の摘まみ上げたゴーレムを指さした。


「さぁ?」


 なんとなく捨ててはいけない気がして懐にしまうと、アンヘルは咎めるように俺の手をつかんだ。


「お前のじゃないだろ。錬金術用合金(オリハルコン)なんて【槍聖】には要らねぇ」

「拾ったものは俺のだろ」


 アンヘルは呆れたように口をあんぐりあけた。


「マジでどういう育ちしてんだ」


「じゃ他の誰かのか? それこそないな。三班メンバーにはアルケミスト系はいない。戦士系四人、アサシン系二人、魔術系三人だ。二班のメンバーかもっと昔に何者かが落としたんだろ。ほら、貰っても問題ない」

「死人からは貰ってもいいってか…………テメェは相変わらずだな。それに一人多いぞ。ボケたか? アサシン系はジジイひとりだ」



 ■■■■■■■?



 説明するのが、めんどくさくなってアンヘルを振り払い赤蝶の主の所へ向かった。

 濃厚な血の匂いを滴らせながら、モグモグと竜を食べている【炎刃】たちの脇をぬけ、竜の裏へ。

 


 だがそこにも死霊はいなかった。



 みんな、どこに消えた?


 さっき赤蝶の主の真の居場所を教えてくれた死霊たちに礼をいいたかったのだが、影も形もない。

 もしかしてダンジョンコアの竜が死んだから成仏して、マナに還ったのか?

 ありえない話じゃないが、誰も何も言わずに消えていくだろうか。流石に一人くらいは挨拶してくれるはずだ。それにここは第二階層の入り口だ。


 もともと何人か死霊がいたはず。

 俺は死霊を探して、思わず〈死霊の囁き〉を強化するようにマナを注ぎ込んだ。




縺翫→縺励◆(おとしてるよ)




 どこかから声がして、手に■が押し付けられる感覚がした。


 ■?


 疲れすぎて意識が朦朧としているのか頭が回らない。

 俺はもう一度しっかり確認するように自分の手のひらの上の竜の鱗を眺めた。



 (にび)色の■。


 一人の妙に輝きの強い死霊が、■色に光る鱗の上でぴょこぴょこと跳ねていた。


「ああ、そんなとこにいたのか」



 鱗を見ていると、雲をくぐったような息苦しさをかんじた。意識全体が一段階下に落ちたような不思議な感覚。

 まるで何か、真っ黒な泥に潜ったような、息苦しさだ。


「他の子達はどこにいる?」


 【大食蟋オ】の死霊に話しかけようとした瞬間、彼女の姿は掠れて消えた。



 まるで〈死霊の囁き〉が何か別の力に塗りつぶされたように何も聞こえない。

 慌てて、もう一度〈死霊の囁き〉にマナを注ぎ込むも、何も見えなかった。


「ナイクどうした?」


 アンヘルが違和感に気がついたのかこちらに駆け寄ってきた。


「おかしい。こえ、いや匂いが消えた」

「におい? 〈血の香り〉か。やっぱりまだだよな。ダンジョンが壊れた感覚がネェ。ただなんかそれでもいい気もするんだよな」

「どういうことだ? あれが核じゃないのか?」


「ああ。テメェは初めてか。核が壊れれば普通はダンジョン全体のマナが消える。なのに今はあの竜が死んだのに何も変わってねぇ」

「核じゃない? じぁなぜ呑気にBBQしてんだ。早く伝えないと」


 【炎刃】たちの方へ駆け出そうとすると、アンヘルは俺を止め、首を横に振った。


「落ち着け。多分無理だ。てか、ちょっとおかしいが…………だが、とりあえず今は、オメェの感知スキルだ。俺の勘だがそれは鍵になる。で、多分知らないだろうから教えてやる。パッシブスキルに力を入れる時は、部位を意識するんだ。スキルを使うところにマナを流せ」


 アンヘルの発言は意味が分からない。

 だが、妙に真剣な面持ちで俺の鼻を指す彼が言いたいことはわかった。


 もっと気合入れて〈死霊の囁き〉を聞けと。


 スキルを使うところは、目と耳。


 目を大きく閉じて、そこにマナを集める。まるで何かに邪魔されているような感触がして体の中でマナが突っかかり、うまく目にいかない。

 耳も同様。


「ダメだ。うまくいかない」

「いや、できる。それが役目だろ」


 アンヘルはそう言って俺に〈鼓舞〉を流し込んでくる。


「もう一度だ」


 【死霊術師】の体中の有り余るマナを目に押し付けた。突っかかりを押しつぶすように流し込むと、鈍い痛みと共にブチブチしこりが剥がれていく。


 血管が切れたように目尻から熱い血が流れた。

 頭痛が激しくなり、耳が燃えるように痛む。


 あまりの痛さに倒れそうになった時、囁きが聞こえた。




「やるじゃん」


 

 【大食姫】の死霊が耳元で囁き、振り返った俺は信じられないものを目の当たりにした。



 あたり一面に夥しいほどの大量の死霊が渦を巻いていた。



「いるよ?」「いる!」「ずっといるよ!」

「おーい、しれいじゅつしぃ!」

「あ!みた。こっちみた」

「気がついた!」「ヤッタァ!」

「見て」「見て」「やっと気がついた」

「ここ」「立って!」「まだ終わってない」

「いるよ!」「みんないる」

「いっぱいいるよ!」「まだだよ」

「アイツがいる」「落ち着いて」

「動いちゃダメ」「ヤッタァ!」


「初めてだ!」

「遂に気がついた」

「急いで!」




「あの子、死んじゃうよ」



 

 突然現れた大量の死霊達の大合唱がこだまする。


 いや、違う。

 【死霊術師】の本能が告げている。


 彼らが突然現れたのではなく、俺が突然聞こえ無くなっていたのだ。

 ずっと、ずっと彼らここにいいてそして叫んでたんだろう。


 気がつかなかったのは俺の方。


 とんでもない死霊の声がしていたのに、まるで今まで何かに覆い被されたように彼らの存在を認識できなかったんだ。


 だが周囲を見回してもまだ違和感は消えなかった。

 場を埋め尽くすほどの大量の死霊が増えただけで現実は何も変わってない。


 満足した顔で竜の肉をほおばる【炎刃】たち3人組と、神妙そうな顔で傷の手当てをしている【暗殺者】や【■■】、【雨乞い巫女】。最後に心配そうにこちらを眺めてるアンヘルだけ。

 


 困った俺の上で【大食姫】死霊が何かを伝えようと必死に跳ねる。



「思い出すんだ! あんたは知ってるはず。そうじゃなきゃ全員死ぬぞ。全員。ここのみんな。【槍聖】も【雷弓】も、もちろんあんたも。あんたが気付かなきゃ全員」


 【大食姫】は何かを伝えたいのだろう。

 それは昨日の取引の時のフリカリルトの言葉とそっくり同じだった。


「あんたの〈■■〉と■■■」


 相変わらず重要な所は塗りつぶされたように聞こえなかった。




 ……塗りつぶされた?




 ふと、フリカリルトの言葉が頭に浮かんだ


『〈隠匿〉はそこに全く読み取れない穴があくの。何かで塗りつぶしたみたいにぽっかりと。上手い隠し方ってのは穴の存在すら認知させないようにすること。〈隠匿〉は情報を隠すスキル。もし覆い隠しているという概念情報すら覆い隠せる〈隠匿〉使いがいれば、それの存在に気がつくことなんて誰にもできないでしょ?』


 

 急に思い出したフリカリルトの〈隠匿〉の説明。難しすぎて聞き流していたが彼女は確かにそう言っていた。

 

『読み取れない穴があくの。何かで塗りつぶしたみたいにぽっくりと』



 もしかして、これは〈隠■〉?


 そんな馬鹿な。

 そんなたまたま俺以外に〈隠匿〉使いがいて、しかもそれが魔物側だなんてそんな偶然あるはずがない。


 理性が否定してくるが、だが〈隠匿〉だと考えると腑に落ちることがあった。

 

 他に比べて死霊だけは隠すのが下手すぎるのだ。


 死霊を認識できるのは【死霊術師】の特権だ。おそらく他の誰かが〈隠匿〉をしていたとしても死霊のことは存在すら知らない。

 つまり、他がどれだけ完璧に隠匿できても、死霊だけは完璧には隠せない可能性がある。


 やっぱりこれは〈隠匿〉?


 何が起こっているのかを理解した瞬間に、靄が晴れるように視界が鮮明になった。

 目と耳に残っていたしこりが消えていく。




 そして



 目の前、正確には赤蝶の主の肉を頬張る【炎刃】たちの横に、

 地面を這いずる等身大の(アイツ)の姿が見えた。




 アイツはモグモグと【雷弓】を頬張っていた。




【あとがき設定資料集】


識別名:赤蝶の主 

種族:【幻惑蝶】

性別:メス

親:常昼の森

レベル:89相当

討伐者:【水斧】イリスリス・バックロージャ


簡易解説:常昼の森ダンジョンの3体のサブコアの1体。二階層を縄張りとしており、通常は〈幻惑〉のスキルによって自らの姿を隠して天井に張り付いている。好戦的、攻撃的な魔物の多い常昼の森の収斂進化個体であるが、他の収斂進化個体と比べると比較的おとなしく、空腹時以外は進んで行動を行うことはない。サブコアとしての防衛は主に誘導フェロモンをつかい他の魔物を利用して行うことが多い。

 逆に空腹時は凶暴であり、積極的に二階層を徘徊、〈虹色油弾〉で表面のみをカリカリに焼いた獲物の生焼けの内臓を好んで食す。獲物がいない場合や、1階層にしかいない場合は、操った他の【幻惑蝶】に獲物を捕食させ、その個体を二階層へ誘導、共食いすることで食事を行う。

 人間の雌の子宮が好物。

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