第22話 虫の脳は閼ウ縺ォ縺ゅk
「それ、弁償しろよ」
アンヘルは俺の手の中の団扇、というかもはや団扇としては使い物にならなくなった物体を見て眉をひそめた。
「悪い」
金がないから無理だ。
出かかった言葉を飲み込んだが、言わなくても察したようでアンヘルはさらに顔をゆがめる。
「テメェ、マジかよ」
アンヘルが声を荒げようとすると、青髪の女の子が俺たちの間に割り込んだ。
「あたしが買ってあげるから! この話終わり!」
そう言いながら【雨乞い巫女】はアンヘルの手を一瞬だけ取り、そのままこちらへ向きなおった。彼女もすでに蟷螂は倒してきたようで、綺麗な青髪に緑色の蟷螂の体液がべったりついていた。
改めて見たが可愛らしい女の子だ。
しかも四大系統で一番貴重な魔術系統の役職。
そんな子からあからさまな好意を向けられているアンヘルに何だか腹が立った。
「よかったな。プレゼントだ」
「はぁ? いや、テメェが買えよ」
【雨乞い巫女】がもう一度俺たちの間に入り、こちらを向いて頭を下げた
「助かったわ。【槍聖】ナイク。ありがとう。ほら、アンヘルもお礼いって。終わったらまた小虫退治行くよ」
それだけ言い残して、彼女はまた階段の方へ小虫潰しに戻っていった。
忙しそうにまた小虫退治を始めた彼女の背中を見送りながら、アンヘルは少し戸惑ったように、首を傾げ、そのままため息をついた。
「あー、助かった。その…………〈隠匿〉強いな」
心から悔しそうに言う彼の姿に少しだけ笑みが漏れる。
「どうも」
そう答えると、アンヘルはこちらを見て、またムカついたように眉をひそめた。
「テメェ、調子乗るなよ。テメェだけ一匹だったからな」
「オーバー」
「はぁ? うっぜぇぇぇぇぇぇ! やっぱテメェとは仲良くできる気がしねぇ」
アンヘルはそう吐き捨てつつも、俺の肩を掴んだ。
「まぁいい、ナイク。その〈隠匿〉を俺にもかけられるか?」
「〈隠匿〉? どうするつもりだ?」
「隠匿状態でレビルに打ち上げてもらってあの竜の翅を潰す。うまくやればここなら壁をけって走れる」
アンヘルが壁を指さした。彼の言う通り、ここはさっきまで戦っていた二階層の真ん中とちがって壁がある。が、垂直に切りたつ崖だ。
走って登れるようなものではなかった。
「無理だろ」
「テメェと一緒にするな。俺はできる。だからテメェの〈隠匿〉を借せ」
ちらりと高ランク冒険者たちの様子を見ると、相変わらず魔法を打ち合うだけの硬直状態に陥っているようだった。弾幕のように魔法や矢が飛んではいるがあまりうまく進んでいるようにも見えない。
逆に階段側の【雨乞い巫女】レビルも、まだ大変そうに虫を潰している…………が、今まで3人でずっと潰し続けていたおかげでその数はだいぶ少なくなっているように見えた。確かにアンヘルが一人抜けても問題はなさそうだ。
『その作戦ですが、〈隠匿〉は自主対象スキルです。他人にかける場合、比較にならないほど大量のマナ消費を伴います。レベル13の【槍聖】のMP量では成功確率は低いです』
「フリカリルト。MPがその3倍なら?」
『えぇ? それなら、一時的なら可能かと。でも効果は薄いですよ』
役職隠す気あんの? とでも言いたげな返答がフリカリルトから帰ってくる。俺の返答に流石のアンヘルも苦笑いをしていた。
【槍聖】が嘘だとばらすような行為だが、しょうがない。
命が一番だ。ここは逃げ場がない。あの竜を倒しきらなくては死だ。俺は二班のメンバーのように■■も残さず死ぬなんてまっぴらだ。
「わかった。やってみよう」
「よし、きた」
アンヘルが体を大の字にして俺の前に立つ。
「でかい。縮めろ」
言われるがままに赤子のように縮こまったアンヘルに〈隠匿〉をかける。まるでアンヘルの上に絵をかくような感覚で〈隠匿〉を塗っていく。
ごっそりとマナが持っていかれる感触がしたが、確かに〈隠匿〉がアンヘルを覆った。
『ナイク。アンヘルの後にあなたも飛ぶことを提案します。その方が確実。弾は二発。一発目は機敏に動き、二発目はより見えにくい。アンヘル、ナイクの順で飛ぶことをお勧めします』
フリカリルトのゴーレムがアンヘルにも聞こえる音量でそうしゃべった。
え、俺も飛ぶの?
と言い返したくなったが、アンヘルはフリカリルトの言葉にうんうん頷いて、もう一度俺の肩をつかんだ。
「フリカリルト様もこう言ってるし決定だな」
「嫌だ」
〈バレット〉も油弾も流れ弾に当たるだけで致命傷だ。わざわざ戦いの激震地に行きたくはない。
「そんな舐めたガキの考えた作戦、付き合うわけないだろ」
「ああ?」
アンヘルとまた睨み合うと、今度は俺とアンヘルの間に羽虫ゴーレムが割り込んできた。
『【槍聖】ナイク約束ですよ。今日一日は私のいうことを聞くと。それに流れ弾に当たることを心配しているのでしょうが、そんなバカなことを許すわけないでしょ。タイミングは私が調節します』
約束? 参加するとはいったがフリカリルトの言うことを聞くなんて約束しただろうか。
記憶の中を探っていると、黙っているのを肯定ととらえたのかアンヘルは大きくうなずいた。
「決まりだな。おい! レビル!」
アンヘルに呼びつけられた【雨乞い巫女】が戻ってくる。
「俺らを〈上昇気流〉で打ち上げてくれ」
「はぁ?! あれはただの風よ! 人を持ち上げる力なんてないし」
「大丈夫、レビルならできる」
アンヘルは彼女の肩を掴んで、何かのスキルを発動した。力のようなものが【雨乞い巫女】の中に吸い込まれていく。
「バフ?」
『〈鼓舞〉です。指定した相手のスキルを強化します。さっきあなたにも使ってましたよ。OVER』
「どうりで一発で〈隠匿〉掛けれたわけだ、オーバー」
【槍聖】のスキルに〈鼓舞〉はないからアンヘルのサブスキルツリーだろう。
サブスキルツリーまで優秀なのは卑怯だな。
そんなことを考えながら、何やらモゾモゾとしながら準備している二人を見ていると、突然アンヘルがポンッと上空に打ちあがった。〈隠匿〉で覆われているお陰か、音もなく竜のほうへ飛んでいく。
ブンブンとこちらへ手招きしている【雨乞い巫女】に近づくと、急激な浮遊感が足元を襲った。
「いってらっしゃい!」
【雨乞い巫女】の言葉と共に足と地面が離れていく。足をばたつかせてももう地上に戻ることはできず、体はどんどんと浮き上がっていった。
体は次第に加速し、高度が上がる。
小石のように小さくなっていく【雨乞い巫女】とは逆にどんどんと近づく赤い竜。
間近でみたその竜はあまりに大きかった。
四枚の赤い羽根が視界いっぱいに広がる。それぞれの羽根には、瞳のような大きな紋様がついていてまるでこちらを見つめられているように感じる。
なんとなく恍惚とした気分になってくる。
それは魔物とはいえ、蝶の魔物、美しかった。
アンヘルと【暗殺者】がダンジョンの壁を走って竜の攻撃を避けているのが見える。無数の火の玉が彼らに向かって襲い掛かっていた。
爆ぜる岩々と、飛ぶ投げナイフ。だが【暗殺者】の投げたナイフは竜をすり抜け明後日の方向に飛んでいった。
「ナイク! 目で見るな! 影の上だ!」
すれ違ったアンヘルはそう言って落ちていった。
空振ったのだろう、彼は槍で虚空を切ったように変な体勢になっている。
竜の複眼が落ちていくアンヘルを追いかけて下を向いた。ぼとりとした〈虹色油弾〉が口から垂れていく。追撃のように吐き出そうとしている。
直撃すれば回復魔法も間に合わず即死の攻撃…………
まぁアンヘルは【槍聖】だしなんとかするだろう。
幸いにも竜はアンヘルに夢中で、こちらには気がついていなかった。
どんどんと近づいて来た竜の姿は透明で、どこか後ろが透けているようにも見える。
そして俺はそのまま竜の羽根を貫通するようにすり抜けた。
?
なんの感触もなく、そのまま通り抜ける。
意味も分からず混乱したところに一つフリカリルトの言葉が思い浮かんだ。
『【幻惑蝶】収斂進化個体』
【幻惑蝶】
とっさに死霊を探した。
「こっち」
「こっち」
「そっちじゃないよ!」
「ここ見て!」
何人かの死霊達が寄り集まって、場所を指し示していた。
竜からほんの少し上空の一見何もない空間。だがよく見ればそこはスライムをぶちまけたように空間が歪んでいた。
体を捻り、飛ぶ方向を少しずらすも届く気がしない。
〈槍投げ〉
俺は槍を投げ飛ばした。
何もない空間。
コツンッ!
情けない音をたてて投げた槍が弾かれた。
「あ」
自分はレベル13、そりゃそうだと思ったのと同時に、ゾクッとした寒気に襲われた。
背後から何かが飛んでくる。
そう思った次の瞬間、
BaChⅰChⅰChⅰChⅰChⅰ
大きな音を立てて雷をまとった矢が俺の脇を通り抜け、槍が弾かれた空間に突き刺さった。
爆発するように閃光が炸裂し、
俺はそのまま地面に激突した。
受け身を取り衝撃をいなす。
当然いなしきれるものではなく、ゴロゴロと草地の上を転がった。
かなり高いところから落下したせいで全身が痛い。
「もしかして受け止めてあげる必要あった?」
【雨乞い巫女】が心配したように俺に声をかけ、そのまま槍を渡してくれた。それを受け取りながら彼女をにらむと【雨乞い巫女】は、ごめんねというように首をかしげた。
「アンヘルと一緒にするな」
見上げた上空では、いくつもの魔法と共に【暗殺者】と【槍聖】【雷弓】が空中を走り、先ほどの空間に集中砲火を浴びせている。
ギチチチチチチ
と、火打ち石をひたすら擦り合わせたような奇声がして、再び空がグズグズのスライムのように溶けた。
今まで見えていた赤い竜の姿がぼやける。
そして、急に波状の光が一体を覆い、空の幻惑が全てかき消えた。
そこに残ったのは赤い竜。しかしさっきまで見えていた幻影より遥かに小さかった。
その竜は4枚の翅のうち一枚をズタズタに破られ、少しだけふらついていた。先ほどの集中砲火はうまく翅に当たっていたようだった。
『〈幻覚〉を〈スキル繝悶Ξ繧、繧ッ〉してかき消したようです。ナイク、レビル、お手柄です。後は高ランク冒険者に任せて、小虫退治に戻りましょう』
「はーい。フリカリルト様。もどりまーす」
【雨乞い巫女】と共に小虫のほうに戻ると、虫はまた溢れんばかりになっていた。
波のように押し寄せる虫を押しつぶし、踏みつけ、ひしゃげた団扇で〈叩きつけ〉る。
背後で大きな音が鳴って、再び火打ち石のやうな竜の悲鳴が轟いた。【■■】の魔法が当たったのだろう。
しばらくしたら、雷と共に地響きがなり、竜は地面に落ちるのがみえた。
そして最後は【榊】の生んだ樹に絡めとられ、【水斧】によって頭蓋を、脳を砕かれて竜は死んだ。
ほんの少しだが経験値が入る感覚がして戦いは■わった。
押し寄せていた虫達は急に立ち止まり、蜘蛛の子を散らすように散り散りに立ち去っていった。
「終わったみてぇだな」
いつのまにか横に戻ってきていたアンヘルがその場に座り込んだ。
「アンヘルのせいで疲れた」
【雨乞い巫女】もその場に跪く。
一応他に魔物がいないか確認するが全員引いたのか魔物の一匹もいないかった。
それどころか■■1人見つからない。
「ぜんっぜん竜の経験値貰えねぇ。俺ら虫潰しただけかよ」
「は? アンヘル竜の分あるの? ずっる! あたしなんてゼロよ。ゼロ。飛ばしたのあたしなのに」
横を見ると2人が仲良さそうに、経験値について文句を言っている。
当たり前だがほとんど竜にダメージを与えていない俺たちにはほとんど経験値は流れてきていなかった。
彼らの姿を見ていると改めて冒険者と仮登録の違いを実感した。
やっぱり冒険者は精神性が違う。
俺なんて生き残ったので大満足で経験値とか気にもならない。
「し、死ぬかと思った…………」
安心して、ヒューヒューと息を切らしている俺を見て、アンヘルと【雨乞い巫女】の2人はケラケラと笑ってい■。
強かった。
これが、第二班を■■た魔物か。
俺もその場で、ほっと一息ついた。
ヘナヘナと崩れ■■■俺の■に、【大■■】の残した■が突き刺さった。
『■■■■■■■■■■■■■』
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【あとがき設定資料集】
識別名:赤蝶の主
種族:【幻惑陜カ】
性別:繝。繧ケ
親:蟶ク譏シ縺ョ森
繝ャ繝吶Ν89逶ク蠖
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■■■■■■■■■■、〈■■■■■〉■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■。
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