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第15話 本日のラッキーアイテム

 

 大規模クエスト3日目 常昼の森、二階層。


 俺は本日のラッキーアイテムである痺れキノコを握りしめながら第3班の高ランク冒険者たちの間に埋もれて、気配を殺した。


 ここは大規模クエストでもまだ誰も入っていない第二階層だ。どこに危険が潜んでいるか分からない。気を引き締めなければ。頼りになるのは周りの高ランク冒険者達と〈死霊の囁き〉、そしてこの痺れキノコしかない。痺れキノコは胞子を吸い込むと一瞬体が動かなくなるキノコだ。どこで必要となるのかわからないので、一つを握りしめ、残りはいつでも取り出せるように腰に巻き付けておいた。


 【天気占い師】の〈本日のラッキーアイテム占い〉はその日のラッキーアイテムをひとつ占ってくれるスキルだ。占いというスキル名だが、効果は確かで大規模クエスト初日に、紫の花に気をつけろと言われて助かった人がいたらしい。高ランク組は全員出発前に【天気占い師】の〈本日のラッキーアイテム占い〉を受けてそのアイテムをもつことになっていた。


「三階層はあっちやわ。多分」


【炎刃】のパーティメンバーの黒髪美女の【(さかき)】さんがまっすぐ一方向を指差した。口では多分と言いいつつも、迷いなく進む彼女の後ろをぞろぞろと【炎刃】たちのパーティがついていった。


『【榊】様には〈森の導き〉というスキルがあります。彼女があちらというのなら従うのが確実かと。OVER』


「はい。オーバー」


 フリカリルトの小型ゴーレムの言うとおりに、【炎刃】たちのパーティの後ろに並ぶ。俺を真ん中に挟むような形になって、次に【暗殺者】たちのパーティが後ろについてきた。


 【(さかき)】さんが先導する横で変わるがわる【炎刃】と【水斧】が武器を振る。その度に目の前に立ち塞がる下草が消し飛んでいった。【暗殺者】ほどじゃないにせよこの二人も確かな実力者だ。



 高ランク冒険者たちの働きぶりを見ながら呆けていた俺に向かって【雷弓】がニコリと笑いかけてきた。


「私たちの仕事は探知よ。気張って探しましょ」

「はい」


 彼女も有用な感知スキル持ちの一人。この班のメインの感知役であった。

 一応返事をしつつも、〈敵意感知〉に集中し始めた彼女を横に、俺はまた途方に暮れた。


 やることねぇ……


 〈死霊の囁き〉は能動的に何かができるスキルではない。集中したところで死霊が話しかけてくれるわけではないし、遠くにいる死霊に位置がわかるとかもない。

 あくまでその辺で喋ってる死霊達の声が聞こえるだけのスキルである。そして死霊達も俺の使い魔というわけではないから勝手気ままにどこかに行くし、喋るだけ喋って満足したらそのままマナに還っていくようなやつもいる。


 このダンジョンの死霊達は個人的な未練というよりかは、できるだけ皆が危険に近づかないように忠告するために死霊としてのこっているので、気ままに満足して還るということはなかったが、反面、死んだ場所から遠く離れないため、死霊が見つからないときは何もわからなかった。


 しかも死霊がいないから安全ともいえないのが困ったものだ。死人がでたところは確かに危険だが、死人が出てなくても危険なところはある。それに関しては〈死霊の囁き〉では一切検知できなかった。

 

 俺、なにか役に立つのか?


 あたりを見回すも、見渡す限りの下草と、それを刈る第3班の前衛達の姿しかない。二階層の入り口以降はそもそも入り込んだ人が少ないのか、ほとんど死霊がいなかった。


 あまりにもやることがない……


 【槍聖】アンヘルは、草の刈りに向いていない槍でなんとか高ランク冒険者組たちの刈り残しを頑張って刈っていた。

 なんとなく彼を眺めているとアンヘルは不機嫌そうにこちらをにらみ返してきた。


「なんか用かよ」


 

「まず上の方を持って引くように刈った方がいいぞ。鎌みたいに」


 先日【根菜農家】に教えてもらった草の刈り方をアンヘルに伝えると、彼は眉間にしわをよせ、大きくため息をついた。


「鎌使えってか? 草刈りは探索ついでだぞ。少し不便だからってダンジョンで自分の得物を持ち変えろなんて頭悪すぎだろ」


「無駄に疲れるくらいなら、やり方を変えた方がいいって。武器をかえろとはいってない」


「疲れるわけねぇだろ。お前じゃないんだからその程度の調整はできる」


「あ?」


 こいつはなぜこんなに喧嘩腰なのだろう?

 一応命を預けあう班メンバーなのだ。仲良く………は無理でもせめてまともに会話くらいした方がいいだろうに。


「ちょっと! アンヘル! そんな言い方ないでしょ!」


 青髪の女の子がにらみあう俺たちの間に割ってはいった。


「本当に申し訳ありません。私の方からしっかりいっておきますので」


 彼女はアンヘルをなだめながらぺこりと頭を下げた。そしてそのままアンヘルを引っ張っていった。なにやら、がやがやとアンヘルと彼女が言い合いをしている。「とりあえずありがとうって言っとけばいいの!」と大きな声がして、青髪の女の子は持っていた杖でアンヘルを殴った。


『ナイク。あなたも喧嘩はやめてくださいね。OVER』


「流石にダンジョン内ではしないって。オーバー」


『心配』


「まだ若いからのぅ。悪く思わんでくれ」


 しわがれた声がして振り向くと、気配もなく【暗殺者】がそこに立っていた。突然現れたS級冒険者【暗殺者】に恐怖を感じつつも頷くと、彼はピクリとも表情を変えずに微笑んだ。


「アンヘルは主に負けたのが悔しいだけじゃよ」


 おそらく【暗殺者】がいっているのは集会所でのアンヘルとの決闘まがいのことだろう。


「負け? あの勝負は俺の反則…………変な終わり方でしたけど、本気でやれば勝てるわけがないですよ」


 【暗殺者】は何かを見るようにキュッっと目を細めた。


「本気か。本気ならお主はあんな場所じゃ戦わないじゃろ。闇討ちか毒殺。闇夜と〈隠匿〉にまぎれ相手に気づかれないように殺す。それが主の殺り方じゃな」


「何を言って」


「同じ【槍聖】でもこうも違うのは面白いのぅ」


 ケラケラと笑う【暗殺者】の目は全く笑っておらず、ただただじっとこちらをみつめていた。


「それにしても魔物に襲わせるのは賢いのぅ。アンヘルもそれくらい機転が利くといいのじゃがいかんせんまっすぐすぎてなぁ」


 背筋が凍ったように冷たくなるのを感じた。

 彼の言う通り神託の儀で【死霊術師】を授けられた俺は、その場にいた【祭司】を魔物に襲わせて殺した。だが、故郷から遠く離れたこの街でその事実を知るものはいないはずだ。


 おそらくフリカリルトの〈鑑定〉ようなスキルで見破られた。

 どこまで見られた? まさか役職までバレたか?


 そうだとしたらどうする? 

 どうやって殺す? Sランク冒険者を。


「酷い殺気じゃな。何も隠せとらんぞ。そもそも〈隠匿〉というスキルは文字通り悪事を隠すスキルじゃ。そんなもんぶら下げて【槍聖】というのは、ちと厳しいかと思うぞ」


 【槍聖】というのは、ちと厳しい?

 偽物だと……

 


 バシンと誰かに頭を叩かれた。


「【仮聖】! ちょっとこっちきなさい!」


 振り返ると【雷弓】がおどろいたように口を尖らしていた。その横の【炎刃】は、まるで生のオークの内臓を食べた時のような顔で苦笑している。


【炎刃】と【雷弓】に引きずられ、【暗殺者】達から離される。【炎刃】パーティメンバーである【水斧】【榊】も後ろについてきて、彼女らは覆い隠すように俺の周りを囲んだ。


「何があったか知らないけど、敵意出すな」


「すみません」


「本当にやめて。強烈な殺意が急に出たからびっくりしたわよ」


「ライン? そんなにヤバいの?」


「ビックリするくらい本気(マジ)殺意よ。その辺のチンピラが武器チラつかせるのとは違うわ。魔物が出たのと勘違いしちゃった……相手はS級冒険者でレベル89よ。あなた11でしょ! なんであんなことできるのよ」


「12です」


「12ですじゃねぇ。やめろバカ。試されてるだけだ。【暗殺者】さんにはそういう気質がある。それくらい知っとけ」


「なんかよう知らんけど、困ったらウチらが間はいるから呼んでな」


「そうだよ頼っていいから」


「はい……」


 その後【炎刃】達にひとしきり、背中を叩かれた後、探索が再開した。


 とはいえやることもなく。

 ただただ高ランク冒険者たちの間で呆けているだけだった。


 


「あっちに、何かいるわ」


 しばらく探索をしていると、そういって【雷弓】が弓を構えた。

 空気が痺れるような破裂音がして矢が光り輝やいていく。


 思わず耳を押さえたくなる轟音と共に放たれた光の矢は遠くの下草の上に落ちて弾けた。


「ごめん。外しちゃった」


 その言葉と共に、巨大な鎌を持った魔虫が数体姿を現した。大きさは人と同じくらい鎌だけが異様に大きく虫の全長の2倍ほどあった。


『巨蟷螂!6体。レベル25相当!』


 ゴーレムからフリカリルトの声が響く。その虫達は一斉に翅を震わせ、大きな風が吹いた。


 風に耐えきれずにゴロゴロと草地を転がる。

 すぐに立ちあがろうとしたが、なぜかうまく動けなかった。


『ナイク!狙われています!そのまま左に避けて!』


 まずい。痺れきのこを吸い込んでしまって立てない!

 そう思った次の瞬間頭の上を巨大な鎌がすり抜けた。


 蟷螂の振り下ろした大鎌が俺の髪をかする。

 斬撃が通った場所は、しびれずに立ててしまっていたらおそらく胴体を真っ二つに切り飛ばされていた位置だった。



 ラ、ラッキー



「感知できるんじゃないのかよ。雑魚に死にかけてんじゃねぇよ。雑魚」


 アンヘルが蟷螂に槍を突き立てると、なぜか螳螂は節々が壊れたように爆発した。


「二階層っていっていもあんまり強くないわね」


 ほかの冒険者たちの方を向くと、既に戦いは終わっていた。

 他の5体の螳螂は首と鎌、胴体を切断され、バラバラになって地面を転がっている。まだピクピク動いている部分もあるが、それも冒険者達の各々の武器で地面に縫い止められ痙攣することしか許されていなかった。


 暴れるパーツから魔物の緑の体液が飛び散り、それも徐々に少なくなっていった。

 そして、しばらくすると経験値が入ったのか、全員の緊張が緩んだ。


「【炎刃】よ、素材はいるかの?」

「ありがたくいただきます」


 そんな会話をしたかと思うと、彼らは手慣れた様子でテキパキと散らばったり破片を自身の魔法袋に押し込んでいく。

 手伝おうかと思ったが、冒険者間の解体のルールも分からないので、下手に動けば逆に邪魔になりそうだった。


『ナイク。気をつけてください。あなたは本来この階層で戦えるレベルではないのですから。OVER』


「帰りてぇ」


「なら、さっさと帰れよ雑魚」


 吐き捨てるようにいってくるアンヘルの言葉に、俺はその通りだと頷くことしかできなかった。





 結局、危機はあれだけで、【榊】のいう通りに進むと簡単に最終階層への道は見つかった。一階層から二階層への道と同じように、縦穴のような入り口。最終階層へ穴は、二階層よりさらに明るく、穴からは真夏の太陽のような強い光が噴き出していた。


 他の二班はまだ到着していないようなので、彼らに場所を伝えるべく【炎刃】が周囲を焼き払うと、巻き上がる白い煙が大きな狼煙のようにダンジョンの天井へと昇っていった。


 第一班、【看守】レベル97

 第二班、【大食姫】レベル94


 どちらの班も強力なS級冒険者が率いている。しばらくすれば彼らもじき来るだろう。

 それまでやることのない俺たちは簡単に拠点をつくるべく、散らばってごく近辺の探索と草刈りをおこなうことになった。


「【雷弓】ラインと【槍聖】ナイクはここで周囲の警戒にあたるんじゃ」


 そういわれて、最終階層への穴のそばに放置される。


 あまりにもやることもなく、死霊すら1匹もいないので、テントの準備をしていたアンヘルや、青髪の女の子もとい【雨乞い巫女】の手伝いをしようと彼らに近づいたが、アンヘルにどっか行けというジェスチャーをされた。


「テメェはやらなくて良いから周囲でも匂い嗅いでろ。それが仕事だろ」


 追い返されてひとり穴のふちにしゃがみ込む。


 言いたいことはわかるが本当にひとりも死霊がいないのだ。


 ダンジョンに紛れ込んだ人で最終階層にまで辿り着いた人がいないのであろう。ダンジョンの入り口にいた数と、二階層への入り口にいた数は多かったのに、二階層の中には全くといっていいほど死霊に出会わなかった。

 まぁどんどん危険になるダンジョンでは、みんな途中で死んでしまって最奥に行ける人がいなかった。そう考えれば死霊がいなくても何もおかしなことはない……のだがなんとなく嫌な感じがした。


「そういえば、みんな死んじゃうよって言ってたよな」


 大きな死霊。死霊の集合体を自らを称した大きな死霊は、このままじゃみんな死んじゃうからと大規模クエスト中止をお願いしてきた。

 そういえばほかにも気になることを言っていた気がする。


 女神様の相談で俺に頼みに来たともいっていたが、それじゃない…………


「ああ、そうだたしか、()()()()()()()()()()()だ」


あとがき設定資料集


【炎刃】

※HP 4 MP 4 ATK 9 DEF 5 SPD 4 MG 4

〜炎刃の超高温の炎の刃は、切り裂いた獲物の断面だけを一瞬で焼ききる。切り口から溢れ出す肉汁は、表層を焼く刹那の瞬間に内側に閉じ込められて、旨み成分とともに肉全体に染み渡っていくという〜


簡易解説:戦士系の役職。刃に炎を纏わせるスキルを持ち、高い攻撃力と合わせて強烈な一撃を放つ。また炎を纏わせるのは刃であれば何でもよく、炎刃には調理が上手なものが多い。炙り料理はまさに絶品。

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