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第100話 オーバー!!

【報告者】レポート⑦東区焼失

 征暦997年360日22時10分~00時07分


 【匿名希望No.5】および【匿名希望No.2】により東区避難所の竜種4体および魔物群が討伐される。東区から逃走を試みた魔物については北区および南区冒険者の合同により包囲網が敷かれ殲滅された。その後、【匿名希望No.2】と多頭竜(レベル551相当)との戦闘により東区全域が焼失。




「東区が焼失したって?」

「全身が腐った竜みたいな化物が空から街を燃やしたらしい」



 戻ってくると北区避難所の外も中も東区が燃えた件で騒然としていた。



「何が起きたのか全然わからねぇ。気が付いたらヴァっと燃えて、何もかもなくなっちまった」

「討伐してくださったお方は匿名希望だってよ」

「噂じゃ月光のように美しい【精霊使い】様だって」

「あたし見たの! 【精霊使い】様は空でその竜と戦っていたわ!! まるで女神様みたいだった」


 


 どうやら魔物たちの晩餐から助け出した避難民たちのおかげである程度は事情が伝わっているようだ。てっきり全員、多頭竜との戦いに巻き込まれて死んだのだろうと思っていたが、死霊たちが勝手に誘導して逃がしていたらしく、北区に逃げてきたという人々の中にはちらほらと見た覚えのある顔がある。東区から憑いてきた死霊たちが彼らの周りを嬉しそうに飛ぶ。



「せいか!!」

「だいしょうり!!」

「ほら、あそこに肉花あげた子いるよー」

「まだ肉花もってる!」

「ぐろ」

「どくんどくん」

「なんてお名前なのかな」


「放っておけ。〈隠匿〉していたから大丈夫だろうが、万一正体バレたら面倒だろ」


 東区の方を指さして騒めく人々の中をするすると抜ける。〈隠匿〉で気配を殺し、誰からも話しかけられることもなく俺はまっすぐ奥に進み、フリカリルトがいるであろう執務室までたどり着いた。



 音を立てずに部屋の中に滑り込むと、執務室の中は意外にも真っ暗だった。他の誰もいない部屋の中でメメちゃんを膝の上に抱えながらフリカリルトがうたた寝をしている。


 フリカリルトの金色の眼が静かに開いた。


「ノック」


 目を覚ましたフリカリルトはジッとこちらを見つめて、呆れたようにふーと小さく息を漏らした。


「東区の件はまことに大義でした」

「俺たちは強いってな」


 フリカリルトが一瞬だけ目を丸くして、それから首を横に振った。


「強いのはあなたです、【槍聖】ナイク。まさか【天気占い師】の予言の内容がナイクのことだとは思いませんでした。それに……いえ、これは余計ですね」


 フリカリルトが何とも言えない表情でため息をつく。確か予言の内容は『赤黒の落雹が空を覆い、街には幾千の骸が降り注ぐでしょう』


 さっぱり意味が分からなかったが、空を覆った赤黒の落雹とは浮遊街を堕とした落石注意!!!のことだろうし、街に降り注いだ幾千の骸とは俺と多頭竜の戦いで上空に舞い上がった遺体のことだろう。予想もつかない形でだが予言は今のところ寸分の狂いなく実現していた。


「続きは確か……あなたは逃げなければなりません。さもなくば死があなたの肺を満たすでしょうだったか?」

「そう。毒王の朽ちた愛の隙間から零れた赤い血が大地に吸われるその前に、貴女は逃げなければなりません。さもなくば死が、誇りも、名誉も、愛もない、冷たく腐った霧が貴女の肺を満たすでしょう」


 フリカリルトが静かに頷き、パチンと指を鳴らして消えていたモニターを映す。そこには街中の至る所で今起きていることが事細かに映し出されていた。今まさにこの瞬間でも街中の至る所で冒険者たちが魔物と戦い、そして西区避難所からはまっさきに子供たちの避難が行われていた。


 そして次にダンジョンの真上、墜ちた浮遊街に何百人もの冒険者たちが一カ所に集まって何やら準備をしていた。


「ナイク、あなたが東区に向かった直後、女神教本部から【勇者】が届けられました。討伐隊とそのサポーター志願者、合計1,000名は既にダンジョンの直上に陣を敷いています。ナイク、あなたも急ぎ合流を」

 

 フリカリルトがとんとんと映し出されている映像を指さして何をしているのか教えてくれる。フリカリルトの説明によると俺が東区でレベル上げに勤しんでいる間に、事態は着々と進行していたようだ。


「急ぎ合流って、お前はいかないのか?」


 俺の問いかけにフリカリルトは大きく首を横に振った。


「ナイク。あなたは私を誰だと思っているのですか? 待ってたの、あなたを。【槍聖】ナイク。あなたならちゃんと戻ってくると思っていました」


 金の瞳を輝かせてフリカリルトが立ち上がる。同時に膝に座っていたメメちゃんがぴょんとフリカリルトの頭に飛び乗った。



「もちろんわたしも行きます。討伐隊陣頭指揮はこのわたし、六大貴族【錬金術師】マルチウェイスター家、当主代行、フリカリルト・ソラシド・マルチウェイスターが執り行います」



 

 立ち上がったフリカリルトに合わせて部屋中からツタが生えて俺の手を取った。左右逆になった俺の手のひらに合わせるようにツタが優しく包む。




「【槍聖】ナイク。あなたを討伐隊第一次先行救助隊のリーダーに任命いたします。任務の内容は最先行でのダンジョンの調査、そして発生の際の被災者の探索と救出です」

承った(オーバー)!! フリカリルト」










あとがき設定資料集



【精霊使い】

※HP 2 MP 9 ATK 4 DEF 3 SPD 5 MG 7

〜もし心に形があるのならそれは心臓の形をしてるだろう、それは生きとし生ける僕のすべてに力を与える、なくてはならない命の象徴。もし愛に形があるのならそれは大きな手のひらだろう。きっとそれは君と手をつなぐために、ただそれだけのために手の形をしているだろう〜


簡易解説:魔術役職の役職。土地に宿るマナを精霊として抽出し、操ることができる役職。精霊の用途は非常に多岐にわたり、精霊使いは精霊を介することで単純な攻撃から治療、未来予知、読心など様々なことが可能。非常に強力な万能役職として有名な役職。

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― 新着の感想 ―
肉花ちゃんからフラグをビンビンに感じる!
さっぱり意味が分からなかったが、空を覆った赤黒の落雹とは浮遊街を堕とした落石注意!!のことだろうし、街に降り注いだ幾千の骸とは俺と多頭竜の戦いで上空に舞い上がった遺体のことだろう。予想もつかない形でだ…
落石注意!!!君のビックリマーク一つ足りなくないですか? てか、竜と討伐者側が見た目のせいで逆に解釈されてますね。 それはそうと、【精霊使い】ですか〜。なんとなく【死霊術師】と似てる感じがしますね。こ…
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