此の記憶に、持ち主は居らず
「……じゃあ、改めてすまなかった。君さえよければ、俺と一緒に旅に出てくれないか?」
「……ふんっ。気付くのに遅すぎなのよあんたは。まあ……うん、いいわよ」
「ありがとう、本当に」
後日。怪我を治してもらった後、モモイに改めて話す場を設けさせてもらった。
俺はそこで、モモイの努力を知ったこと。モモイの強さを知ったこと。何も知ろうとせずに断ったこと。そして、それらすべてを含め、謝罪と、俺と一緒に旅に出てほしいと伝えた。
モモイは、そんな俺も許してくれて。その上で彼女はその申し出を快く受け入れてくれた。
「それから、ムカゼ。その……俺はまだ、人生経験も、人格も、全部が未熟だけど、それでも俺に……俺と一緒に、その……」
ムカゼにも、俺は謝罪をしなければならないのに。俺は何を言っていいのかさっぱり出てこず、言葉がぐちゃぐちゃに出てきた。
「……わかった。わかったからもう喋んな。お前が口開くと、余計なことを口走りそうで怖い」
「……す、すまん」
俺はしょんぼりしながら、長々と語られる説教に耳を傾けることしかできなかった。
こうして。
俺、ネルと。
戦士、モモイと。
魔導士、ムカゼと。
今世紀の、魔王討伐のパーティが決まったのだった。
そう。これが、すべての元凶で、始まりだった。
俺らは永い旅を経て。知識も、戦闘も、実力も。何もかもレベルアップさせていった。
決して楽なだけな旅路じゃなくって。それでも、楽しい旅で。きっと、魔王と戦うという使命さえなければ、俺らはもっとずっと。仲良くなれてたはずだった。
「あ……あ…愛しき……我が王よ……。憎き人間は、こんなにも____」
そう言って、幹部の一人は消えていった。
「……っ」
「……ネル。行くわよ」
「モモイ……でも、お前……」
俺は、モモイを反射的に止めようとする。しかし、モモイは止まろうとしない。
「モモイ!お前……!」
「大丈夫よ……利き手は元々、右だからね。こんなの、布でぐるぐるまきにしとけばいいのよ」
「お前……ムカゼが死んだからって!」
そういった瞬間。俺の目前にはモモイの斧が迫っていた。
「なっ!」
「……それとこれとは、関係ない……!」
それだけ言って、彼女は斧を背中に担いで奥へと進んでいってしまった。
「……っくそ!どうして……」
俺は、そばに置いていた仲間の亡骸をもう一度抱えながら、そうぼやいた。