試練を超えた先、糞にまみれた宝が光る
「っ……。そんな……」
「ネル……今は、あいつを倒すことだけを、考えましょう」
「くっそ……」
救えなかった……。あんな馬鹿でも、いい奴ではあったはずだ。それなのに、俺はモルトを助けられなかった。目の前にあった、守るべきものを……。
くそっ……くそ……。
「モルトォォォォォォォォォ!」
燃え盛る火柱に、故人の名を叫んだ。
「え?呼んだ?」
「……え」
火の中から、そんな大声が聞こえた。
「き、気のせいか?なんかモルトの声が……」
俺が炎の中に指を指した瞬間、その炎は四散し、その中から大剣を構えるモルトの姿があった。
「なんだ?腹なら大丈夫だ!さっきの草、なんかすげぇお腹いっぱいにしてくれたぜ!」
「いやっ違っ!……なんでも、ない」
何が起こったんだとか、聞きたいことは山ほどあるが、このバカに言っても何も伝わらないだろうと思った。
しかし、かといって戦況が変わるわけじゃない。何か、あいつにダメージを負わせる弱点があればいいんだけど……。
「モルト!こいつ、どこに攻撃が通るんだ?」
「両翼の付け根だろ!わかってるわ!」
「そうか、やっぱわからな……え?」
どうせわからないと思ったのに。モルトに尋ねたら二つ返事で答えが返ってきた。
「え?それほんと?」
「だって、さっきモモイが翼の付け根に投げナイフさしたら、すっげぇ苦しそうな顔してたぜ?」
「……そぉ……」
「ん?なん」
「そんな大事なこと、もっと早く言わんかぁぁぁぁぁぁ!」
確信した。こいつ、天才肌な大馬鹿だ。
「モモイ!ムカゼ!弱点は翼の付け根だ!集中砲火するぞ!」
「「了解!」」
ただ、弱点さえわかってしまえばこっちのもんだ。
モルトは、あの炎を斬ったからか、ドラゴンから一目置かれ、ドラゴンの攻撃を一身に受けていた。
「注意を引いててくれよモルト……そらっ!」
モルトが注意を引いている間、俺とモモイは壁伝いに上り、天井から吊るされているツタに手をかけた。
目くばせをし、俺とモモイは一気にドラゴンの背中へ飛んだ。
「食らいなさい!あの世で最強の戦士である私の一閃を受けられたと自慢しに行きなさい!」
「さっきの炎の分、きっちりお礼してやる!」
俺とモモイは、ドラゴンの両翼の付け根を掻っ切った。
「グォォォォォァァァァ!」
広がる傷口に、鉄棒を一本ずつ差し込む。
「よし!行けムカゼ!」
「任せろ!“天誅・ライコノサンダン”!」
俺とモモイが飛び去ったのと同時に、刺した鉄棒にムカゼの魔法による電気が強烈に叩き込まれた。
「グォォッ、オォォォォ!」
「差し込んだ鉄を伝って、普段の何十倍もの痛みが襲ってるだろうな」
「作戦成功ですね……。あとは、これで倒れてくれるかですね」
だが、ドラゴンの方も中々しぶといそうだ。ふらついてはいるものの、まだ倒れない。
「タフだな……モモイ!」
「任せなさい!鈍くなったあんたなら、その攻撃さえ私の足場よ!」
ドラゴンの振るう爪も尻尾も。そのすべてをモモイは足場として扱い、どんどん上へと飛び乗っていった。
「俺も俺も!」
「えっ?ちょモルト!?」
モモイの飛び乗っていくのに着いて行くように、モルトも上へ上へと昇っていった。
邪魔してモモイの機嫌を損ねたりしないかと、普通に事故を起こして死んでしまわないかひやひやしていたが、モルトは天性のセンスかモモイの動きを邪魔せず、かつ最速で上まで登りきった。
「あれ?来ちゃったの?」
「一緒に行きましょう!」
飛び立った二人にドラゴンは爪を振るおうとしたが、俺がそれを無理くりねじ伏せた。
「行け二人!」
「合わせなさい!」
「いわれなくても!」
二人が振るった斧と大剣は、両翼の付け根を捉え、翼を切り離した。
「グォォォォォァァァァ!」
急所を抜かれ、ついにドラゴンは力尽きた。
「ハァ……ハァ……やったな、みんな」
「お疲れ様です!やりましたね!」
ヨネルさんがみんなに回復魔法をかけている間、モルトはおもむろに立ち上がり、ドラゴンに近付いていった。
「モルト?どうしたんだ?」
「……よいしょ」
「え」
何をするのかと思えば、モルトはいきなりドラゴンの肛門を大剣でこじ開けた。開かれた肛門からは、この世のものとは思えない激臭が漂っていた。
「なにしくっさ!オエッ!おま……なにして……」
「ん~、こいつなら持ってると思ったのになぁ……どこだどこだ……?」
「ちょ……と……ネル、ごめ……」
と呟き、モモイはダウン。次いでヨネル、ムカゼも気分悪そうにしていた。
「ん~……あ!あった!」
どうやら、モルトは何か探し物をしていたらしく、それを取り出した後すぐに肛門を閉めたおかげで、それ以上の公害が発生することはなかった。
「うぅ……まだ鼻に残る……」
と呟き、うつむくムカゼに、
「ムカゼ、これを。白百合の香りをベースに作られた、いいところの香水だ」
と言って、この前貰った香水を渡した。
「ありがてぇ……」
と言いながら、ムカゼはその香水を鼻に吹きかけた。片鼻10回ずつ。
「おま……何取り出してたんだよ……」
「ん?ああ、これだよ!」
と言い、モルトは先ほど取ったのであろう糞を見せつけた。
「ドラゴンの糞が……?もっと、取り方ってもんが……」
「は?ちっげぇし何言ってんだ?」
その前にお前は何やってんだ?というツッコミすらする余裕がなかった。
「これは尻子玉。“ドラゴンの尻子玉”だ」
「し、尻子玉?ドラゴンの?」
「そうだ」
さも当然のように言われたが、全くわからなかった。
とりあえず、糞にしか見えないそれを水で洗い流すと、綺麗な真珠のようなものが現れた。
「こいつは、俺の家で代々伝わる言い伝えにあるもんだ。竜の試練を乗り越えし時、肛門より生み出されし宝珠が力を与えるだろう、ってね」
「……なんか、うん……ずいぶんと汚い言い伝えだな」
思わず、そう呟いてしまった。
まあ、最後にひと悶着はあったものの……。
俺らは、瓦解の墓もとい、竜巣の攻略を達成したのだった