切り開く先、巨大な影が蠢く
未開拓区域 ?層
「……妙だな」
「妙ね……」
あのじめじめした雰囲気から一転。神秘的で幻想的な、不思議な雰囲気の廊下が一本伸びていた。
先ほどまで死ぬほどあったトラップが一切なくなり、嵐の前の静けさといった感じだった。
「……あれ、ネルさん。あの先、なんかありますよ」
「ん?どれどれ……」
ヨネルさんに言われ、奥の方を見たものの、なにがあるのかは全く見えなかった。
むしろ、その先は行き止まりだった。
「先って……この先、行き止まりじゃないの?」
「え?いや……この先、繋がってますよ」
そう言いながら、ヨネルさんは行き止まりの壁を進んでいった。
うん、進んでいった。文字通り、すり抜けて。
「……へ?」
「なんでこんな妙なところで勘が働くんだ?」
壁をすり抜けた先は、やけに広く、薄暗い場所だった。
自分で見つけたはずのヨネルさんは、なぜか自分から入ったそこに震えていた。
「おそらく、今まではこの道を見つけれた人がおらず、結果的にエンカウントしたモンスターたちに消耗させられ続けて倒れていったんだろうな」
「ということは、この先を攻略すれば、ここを完全クリアになるってことだな」
ここがおそらく最下層。このダンジョンをダンジョンたらしめるボスがいるはずだ。
「……なあ、勇者さん達?」
「どうした?モルト」
急に彼は、やけに真剣な目を向けてきた。思えば、途中から彼は、剣を振るうたび、何か思うとこありといった顔をしていた。もしや、剣に何かあったのだろうか。体に不調とか、なければいいんだが……。
と、思っていたが、考えるだけバカだったらしい。
なんせ、つづけた言葉は
「腹が減ったんだが、飯はないか?」
だったから。
こいつ、緊張感ってもんがないのか?
「……ムカゼ、なんかわかることはあるか?」
俺は、モルトを無視することに決めた。どうやらムカゼもそうすることにしたっぽい。
「なんか食うもん……」
「ここら辺の草も花も。あまり見たことないものだ」
「無視か……?無視はひどいんじゃ?」
「これでも食っときなさい!」
耐えかねたモモイが、そこら辺の草をちぎり取ってモルトの口にねじ込んでた。
不気味な風が渦巻く空間。その奥に、何かが見えるような……。
「……デカくね?」
紅い閃光が二つ。まるで、ギラギラと光らせた目玉のような……。
「……グルルルルル!」
「まずいっ!下がれ!」
叫びながら、俺と声に反応したモモイが、その場にいた他三名を抱えて後ろに飛び下がった。
飛び上がった刹那。俺らがいた足元はドロドロに溶けた地面が赤黒く光っていた。
「おいおいおい……マジかよ……」
その紅い閃光の正体。のっそりと立ち上がったそれは、首の長いトカゲに翼を生やしたような見た目をしていた。
「なんでこんなとこにドラゴンがいるんだ!?」
ここを守る主を見た俺の叫びに呼応するように、ドラゴンはその地鳴りのような叫びで墓全体を揺らした。
「ハワワワッ!ど、ドラゴンなんて初めて見ましたよ!ど、どうするんですか!?」
「どうするもなにも、こうなった以上倒すほかないだろう!」
「ネルさん、倒せるんですかこれ!!」
「やるしかないんだ!腹括れヨネル!」
ドラゴンを前に弱音を吐くヨネルさんに活を入れながら、俺らは臨戦態勢に入った。
俺含めた全員。少し震えていた。
「……とりあえず、隙を見てダメージを与えていくんだ。攻撃のパターンがわかるまでは無理に突っ込むんじゃないぞ!」
「「「了解!」」」
それと同時に、俺らとドラゴンとの戦闘が始まった。
正面から飛び込むと、ドラゴンは前足を大きく振りかぶり、鋭いかぎ爪を振るってきた。
避けた先にあった崖が、斬撃で削れていた。
「こりゃ、当たったらひとたまりもねぇな……」
正面からの攻撃はなしだ。かすっただけでも死ぬだろう。モモイがドラゴンの気を引くように攻撃をしてる隙に、後ろに回り込む。
「まずは一発!うおっ!」
ふるった剣は、角度・勢い・力の入り方すべてにおいて完璧なクリティカルヒットだった。はずなのに。
バキッ!と嫌な音を立て、剣が折れてしまった。
「うっそぉ……」
唖然とする間もなく、ドラゴンはその尻尾を思いっきり振ってきた。
「あっぶ!」
身にまとう鱗が固すぎて、モモイもネルも碌なダメージを与えられていないように見える。
「くっそ……なんか弱点ないのかよ……」
ムカゼとモモイも戻り、どうすればいいのかとドラゴンを見ていたが、どうやらそんな余裕はないらしい。
「ネルさん達!大丈夫ですか?」
「ヨネルさん、ありがとう」
「いえ。それより、どうやってあのドラゴンを倒すんです?」
皮膚は鱗に覆われて攻撃が通らない。ならば顔か?とも思ったが、見た感じ顔の鱗も相当固そうだ。それに、顔に飛び込んであの炎を受けてしまえば、即お陀仏だろう。
「グルルルルルル……」
所々口から
漏れ出ている炎が、もうそろそろ限界のようだ。吐きだす準備をしてる。
「まずいっ!離れるぞ!巻き込まれたらたまったもんじゃない!」
モモイ達が俺の声に合わせて離れる中、なぜかモルトだけはさっきからずっと微動だにしなかった。
「モルト!止まってたら死ぬぞ!」
俺がそう声をかけても、依然としてモルトは動かない。
遠くを見つめ、まるで何かを見つける前のような顔をしていた。
しかし、ドラゴンは変わらず、その口から漏れ出そうな炎を吐きだそうとしていた。
既に俺が踏み出している距離からして、あのまま炎を出されたらとてもじゃないが間に合わない。
「まずい間に合わない!モルト!」
俺の声が発せられる前に、ドラゴンが炎を吐きだした。
一直線にモルトに襲い掛かる。さっき地面を赤黒くしたのを見るに、人が食らえばまず致命傷だろう。
「モルト!」
俺が手を伸ばすまもなく。ドラゴンが放ったその炎は、モルトに直撃した。
ゴウゴウと燃える火の海。モルトはその炎に飲み込まれてしまった。