未知の地に伏せる、いずれの伝説
「……うんうん。いい雰囲気になったわね」
ドアを少しだけ開き、二人を見ていたが、中々いい雰囲気になったのを見て、ドアを閉じて離れた。
「なよなよしてるのを見るのが嫌い、か……あたし何言ってんだろ」
なよなよしたのが嫌いだとか言いながら、自分はなよなよしている何て知ったら、なんていわれるだろうか。
「でも……うぅ~~!」
ムカゼさんのことみると……。
あの立派なお腹。優しそうな顔立ち。頼りになる知識量。ズバッともの言えるあの性格。
人が見たらマイナスになるかもしれないことも。何もかもがかっこよく見えてしまう。
いけない。考えてしまったら、つい鼻血が出てきてしまった。
「……他人の恋で満たされたし。寝ましょうかね」
その日。私はとってもぐっすり寝た。それはそれは、幸せな夢を見ながら。
瓦解の墓
薄暗い雰囲気と霧に包まれた入口に、俺たちは立っていた。
今から、未踏の場まで行くのだと思うと、少し億劫さをも感じる。
「……ネルさん、頑張りましょうね!」
「お、おう。そうだな」
いかん、この前なんかすごい雰囲気になったせいで、あれから余計意識してしまう……。
やめろ、そんなに純粋な目を光らせてくるんじゃない!ちょっと邪な考えしてる俺がみじめに見えてしまうだろうが!
「……じゃあ、行くぞ」
「おう!」
「ええ!」
「は、はい!」
水滴の音や、風の音が無音の空間を何度も余分に震わす。
その一つ一つにヨネルさんが「うわぁ!」などと言って驚いていた。
「ヨネル、俺の服引っ張ってていいぞ」
「うぅ……ごめんなさい……」
それにしても、本当に墓地みたいな雰囲気だ。ゾンビの一体や二体ぐらい出てきそうな……。
「……ヴゥ……!」
「出てきたわ」
ヨネルさんは絶叫して気絶してしまった。
「仕方ない。ムカゼ!モモイ!」
「任せなさい!」
「研究の成果を見せる時です!」
ざっと見て20体ほど。ただし、理性の欠片もないので、落ち着いて処理すれば、そこまでの脅威ではない。
俺も、モモイも、ムカゼも。ゾンビ相手に苦戦することなく、すべてを捌き切った。
「ふぅ……。ヨネルさん、大丈夫?」
「……うぅ…」
「大丈夫じゃないみたいね」
モモイの言う通りだった。仕方ないので、俺がヨネルを背負ってダンジョンを進むことになった。
「……ここから先、だな」
道中のモンスターには、到底苦労することもなく、現状開拓されている最深部までやってこれた。
建てられた看板には「この先行方不明多数。調査中につき立入禁止」と書かれていた。
「うわぁ……より鬱々としてる……」
ようやくさっき目を覚ましたヨネルさんは、またも気を失いそうになっていた。
この先には、確かに不気味な雰囲気を漂わせいていた。
「……よし、いくぞお前ら!」
意気込んで一歩目を踏み出し、そして……。
「ゔっ!」
「え」
何か、人型の何かを踏んでしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「キャーーーーーー!」
「うおっ!」
俺、ヨネルさん、ムカゼと、絶叫が連鎖した。
「な、ななななんだこいつ!ゾンビか!?」
「……腹が……減った……ゔぅ」
「……ギリギリ、人間っぽいぞ」
よく見ると、彼はウォルキンダムの冒険者登録証を持っていた。どうやら、ウォルキンダムの人間らしい。多分。
「……こいつ、だとしたら何してんだ?」
「さっき、お腹がすいてるって、言ってました……」
ヨネルさんがそう言ったので、俺はひとまず口元に干し肉を山積みに置いてみた。
「……旨そうな、匂い……旨そう!!」
それは、目の前の干し肉の山を文字通り貪り食った。
それはそれは勢いよく。山がみるみる減っていった。ほぼ飲み込むように食っていた。
「……くぅ~~!俺復活!」
すべてをまっさらに平らげたそれは、今その瞬間まで死んでいたようになっていたのと打って変わって、元気よく飛び起きた。
「いやぁ~死ぬかと思ったけどよかった~。しっかし、飯ならたらふく持ってきたのに、なんでなくなっちまったんだろうなぁ」
「……あの、君は?」
一人で勝手に話し始めた彼に、そう尋ねた。
「ん?俺?俺はモルト!世界一の剣士になり、世界最強になる男だ!」
「……へ、へ~……」
何にも考えてなさそうな能天気な回答に、俺はこいつは馬鹿なんだと思った。
しかし、この先は危険地帯。彼がこの先の探索クエストを受けてるのか否かを確かめるすべがない以上、彼に直接聞くしかない。
「えっと……君は、この先のダンジョンの探索許可を得てるのかい?」
「探索許可?許可ってなんだ?」
「えぇ……」
許可云々以前に、なんも考えずにここまで来たんだろうなと思った。
「……なんでこの先に行こうとしてるんだ?」
「ふっふっふ。それはな、伝説の竜を倒し、『竜のかぎ爪』を手に入れ、この家宝『竜剣』をさらに強いものにするために来たんだ!」
「竜?この先に、竜がいるのか?」
と聞くと、モルトは目を真っすぐにし、自信に満ちた目で
「知らん!」
と言い放って見せた。ほっとけばよかったこんな奴。
とりあえず、この先に行ってみたいと言って聴かないので、連れていくことにした。
ほんとこいつ、大丈夫かなぁ……。