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響け過去の聖女へと  作者: 時雨 悟はち
城壁の影に奔るもの
15/18

勇者、勇気出ず

次の日。

あの約束はせど、やはり研究所の魔物に関しては、倒さねばならない。なので、今日も俺たちは各々の鍛錬や研究をしていた。


「……よし。今日はおしまい。ネル、あんただいぶ良くなってきたじゃない」

「そうか?なら、よかった。鍛錬の甲斐があったってやつだ」


今日は軽めに日が上がり切る前に終わったのだが、その間ずっと動くことが出来た。


「私の動きはほぼすべて対応できるわね」

「ああ。そりゃ、ここ1カ月ほどずっと打ち合いしてるからな。ある程度は、網羅出来たつもりだ」


得意げに笑って見せると、モモイは「図に乗らない」といって頭を割と強い力ではたいてきた。脳に響く……。


「いってぇ……」

「そろそろ、実践も入れていかないとね。本番、魔物はどう動くかなんてわからないし、より多くの攻撃パターンを身に着けておいた方がいいわ」

「実践、ねぇ……。なら、ここら辺にダンジョンがあるらしいから、そこに行くか?」


そう尋ねると、モモイは珍しいといった顔で


「いいわね、そうしましょう」


といった。何が珍しいってんだこいつ。



瓦解の墓、と呼ばれるらしいそのダンジョンは、そこそこの難易度とそこそこの魔物が出現するということで、前半フロアは大変人気らしい。

ただ、奥の方は、行ったものがボロボロで帰ってきて、口々に「あそこは行くな」というもんだから、未だほぼ未開拓のエリアらしい。


「へぇ。そんなところがあるなんてねぇ……あ、あの串焼きおいしそー」

「あのねぇ。だから、俺はその奥に行こうって言ってるの。その意味わかってる?」

「大丈夫。わかってるから。すみませ~ん。串一本」


モモイはそういうと、串焼きを一本買った。

ハフハフといいながら串焼きにかぶりつく彼女の横顔は、とてもじゃないけどわかっている顔じゃなかった。


「もっと緊張感……はぁ。こりゃダメだ」


話が通じねぇ。これ以上彼女に話すのは無意味だな、と思った。


「……あのねぇ。まずそもそも、魔王倒すって言ってるやつが、一体一般人が苦戦してるぐらいで何ビビってんのって話でしょ?」

「いやまあ、そうかもだけど……」


こいつ、急に話聞き始めたかと思ったら説得力あること言ってきやがった。


「たかが一般人の噂なんて鵜吞みにしない。嘘なら嘘でその程度って思えばいいし、本当なら本当で楽しめばいいのよ」

「モモイ……」


な、なんかすごい、納得した。

たしかに、何周りの評価を鵜呑みにしてるんだって話か。俺は、魔王を倒すために旅をしてるんだ。それなのに、魔王よりも弱い奴にビビってたら、魔王相手に力を出せるわけがない……。


「……それも、そうだな。よし!明後日、瓦解の墓に行く。みんなに伝えておいてくれ!」

「はいはい。あ、やっぱヨネルちゃんにはあんたから言っときなさいよ」

「え?なんで?」


そう聞くと、モモイははぁ~っと言わんばかりの顔しながらため息をついた。


「……あんたねぇ。そろそろ関係進展させようとしてくんない?なよなよした男見てるの嫌いなの」


度胸の部分で、さらに怒られてしまった。



「ヨネル、ちょっといい?」

「はい?どうしました?」

「明後日、瓦解の墓っていうダンジョンに行くから、その準備をおいてくれ」

「あ、はい。わかりました。頑張りましょうね!」

「…………」



「……で、帰ってきたと」

「……はい」


俺がそういうと、モモイは目をかっぴらき


「バッカじゃないの!!!!!?」


と、ド叱ってきました。返す言葉が見つかりません。



夜も更け、俺は昼間のヘタレについて、ものすごく後悔していた。


「なんで、あれだけで会話終わらせちゃったかなぁ……」


もうみんなは眠っている。俺は一人、眠れないので仕方なく装備の手入れをしていた。


「……ヨネルさん、絶対変に思ったろうなぁ……」

「……ネルさん、私がどうかしました?」

「えっ」


いつの間にか、俺の部屋にヨネルさんが入ってきていた。


「い、いつの間に?」

「あ、いえ。ただ、モモイさんが、ネルさんからお話があるって……」

「モモイに?」


そんなこと言ってないのに。そう思って扉の方を見ると、モモイがニマニマしながらこっちを見ていた。

あ、あいつ図りやがった……。


「あ、あー……ん~~」

「えっと……眠れないんですか?」


話す話題に困っていると、ヨネルさんはそう言ってきた。

うう……天使だ。ヨネルさんからしたら、夜遅くに呼んでおいて、何にも話すことがないただのやばい人なのに、こうして俺に話しかけてくれるんだ。


「……えっと、だな。少し、話でも出来たらって、思うんだが……いいか?」

「……ええ。もちろんです」


それから、俺はヨネルと夜が明けるまで語りふけった。

旅のこと。仲間のこと。趣味のこと。そして、家族、自身のこと。

ヨネルさんは元々、聖女をしていた母の下から生まれた、産まれつきののシスターだと言われ育ったらしい。町でも有名なシスターさんだったらしく、そんな母の背を追うようにシスターになったという。


「まあでも、いざやってみたら、母のようにうまくいかず……。あろうことか、勇者様に着いて行って。こんなの知ったら、母、泣いちゃうかもですね……あはは……」

「そうだったんですね……。なら、俺もヨネルさんのことを、無事に故郷に返さないとですね」

「ネルさん……。ふふっ。じゃあ、お願いしますよ」

「もちろん。死んでも守ります」


俺がそういうと、ヨネルさんはふふっと笑い「死なないでくださいよ」といった。

その笑顔を守るために。俺は決意をもう一度しっかり固めた。

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