敬意を抱く王妃様
カウグラさんの拘束を解き、俺は改めて向き合った。
「……それで?俺に言わせれば、あの王宮に復讐なんて、せいぜい燃やすぐらいしかできないが?」
「う~ん……」
たしかに、復讐するにしても何をしようか……。
考えてみればそうだ。復讐するにしたって、法に触れずできることがない。しかし法に触れるのは、俺の立場としてはどうしても避けて通りたい道だ。
下手に騒動を起こして、国王は悪だと豪語したところで、民たちはきっとポッと出の勇者よりも自身の国王のことを信頼するだろう。
う~~~~ん……難しいな……。
と思ってた時だった。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
来客か?と思うも、誰もこの部屋に来る予定はないはずだ。でもじゃあ、一体誰だ?
「……はい?」
「やっと会えましたわ!勇者様~!」
ドアを開けた瞬間、ドアの奥の来客は、俺に飛びついてきた。
「やっと会えましたわ!勇者様~!」
いきなり人に飛びつかれ、勢い余って倒れこんでしまった。
「いってて……」
「勇者様!お礼をしに来ましたわよ!」
「お礼?お礼って……」
彼女の顔を見た途端。お礼の意味が分かった。
「あ、もしかして君、あの日の……」
「ラムネッタ王妃……?」
え
「え?」
「王妃?」
「……え?」
「えええええええええええええええ王妃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
俺がそう叫んだのに対し、王妃はパチンとウインクをした。
「ラムネッタ王妃。現状、一番王座に近い人だ」
「王妃さん……だったんですね……」
「ええ。あの時は改めて、ありがとうございました。おかげで、ひどい目に合わずに済みましたわ」
ラムネッタ王妃。現王妃としてウォルキンダムの玉座に座り、数十といるライバルの中、唯一の女で、一番玉座に近い人だ。
「ラムネッタ王妃は、王の計画のこと知ってたんですか?」
「……お恥ずかしながら、私が知ったのはすべてが終わった後でしたわ。まさか、あの作戦があんな裏があるものだとは……」
「……そうか」
おそらく、あの計画を知っていたのは、本当にごく一部だけだったようだ。現状一番王座に近いこの人でさえ、知らなかったのだ。さぞ、完璧な計画だったんだろうな。
人の人生を踏み台に、自分はそれで得た甘い蜜のみをすすろうとしやがって……。
「ぜってぇ、許さねぇ……」
「ネルさん……」
とはいったものの。
改めて王に対して何かをしようにも、具体的な案が何も思いつかない。
このまま馬鹿正直に王宮に飛び行っても、多分門前払いされて終わりだろう。あるいは、実はカウグラの言っていることが嘘だともいいかねん。
「一体どうすれば……」
「……あの、でしたら私にも協力させていただけません?」
悩んでいると、ラムネッタさんがそう言ってきた。
「協力?」
「ええ。私、あのようなお方が王座に座っていることに、心底怒りを覚えてますの。もし成功すれば、あの玉座を引きずり下ろすことが出来ますわ。それに……少々意地汚いお話ですが、あのお方が今降りれば、次期王政は間違いなく私の手中。そうすれば……カウグラさんやそのお仲間さんたちも、多少救うことが出来るよう動けますわ」
そういった目には、嘘偽りがなく、信頼を置くことが出来る目をしていた。
「……わかりました。みんな、いいか?」
「ええ。ネルの決断なら、拒否する権利ないしね」
「ネルさんのそういうとこ。私は大好きですよ」
モモイとムカゼは、そう言ってくれた。ヨネルさんも、一生懸命こくこくと首を縦に振った。
「……あとは、カウグラ。どうする」
あと一人。カウグラさえ決心を固めれば、おそらく今すぐにでも計画を立てられる。
「……俺は……俺は……」
「……わかった。いったん、考えてみてくれ」
「え?」
「お前の気持ちはわかる。大方、まだ俺らに対しての恨みを、少なからず持っているのに迷ってるんだろう?だったら……気が済むまで恨んで、妬んで。そうして葛藤した先にある答えを、また聞かせてくれ。それまでは、俺も待つ」
その答えが、彼にとってどれほど重いものかは、想像つく。なんせ、裏切ったとはいえ、一度は忠誠を誓った王を相手に反旗を翻すことになる。ましてや、今一番憎悪を抱えている相手とだ。
今すぐに割り切れと言われても、割り切れるわけがない。
だから、俺は彼の考えを尊重することにした。もし、俺らの協力をするなら快く受け入れるつもりだ。ただ、彼がそれを拒み、やはり俺に復讐を企てるというのなら、俺はそれを止める気はない。むしろ、気が済むまで殺しにくればいい。
とはいえ、この計画はあまり長引かせてはいけない。
「最低でも1カ月だ。それまでに決心が固まらないなら、俺らは俺らで計画を立てる」
「……わかった」
彼はそれだけ言い残して、ラムネッタの監視の下、帰っていった。
「……キンダム13世……お前だけは、絶対許さない……!」