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○○の叫び【完結】

作者: 雪紫琴葉

 とても冷たいところに、いったいどのくらいいたのだろうか。体の芯はとっくに冷えきり、身動き一つとれず、聴覚を奪われ、目などは最初から備わっていなかったから何も見えない。ただただ、漂う冷気の中、おそらく隣にいるであろう死体の冷たさを感じる以外、なにもできなかった。

 死んだはずだった。なのになぜか意識がある。

 きょうだいも、お隣さんも死んだ。もうどこにいるのかも分からない。

 隣にいる死体は、多分、自分が知らないやつだ。


 突然、床が動いた。

 聴覚も視覚もない中、自分の感覚だけが頼りだ。おそらく地面は前にスライドしたのだろう。自分はその反動で奥の方に動いてしまう。

 ほんの少しだけ冷気が逃げていくような気がした。そして生温かいなにかが自分を掴んだ。その表面は少しふにふにしている。潰される心配はなさそうだが、そのまま上に体を持ち上げられて久しぶりの浮遊感を感じた。

 そして掴まれたまま、水を浴びせられる。なにかふわふわしたもので体を洗われると、今度はさっきとは別の場所に着地した。寒くはなかったが床はひんやりと冷たかった。

 自分はなにをされているのか全く分からないまま、動かない体でじっと待った。久しぶりに水を与えられたのに、お腹がいっぱいになることはない。死んだらなにも感じないんだ、と思ったはずだった。

 体が真っ二つに裂け、全身に激痛が走る。

 痛い、と言える口は存在しないため、ただただ耐えるしかなかった。自分はバラバラにされ、とても小さくなってしまった。

 裂けた所から少しだけ体液がにじみ出る。今もズキズキと痛み、体内を空気にさらされてヒリヒリした。感じたことのない痛みに困惑し、意識を手放せたらどんなに楽だろうと思った。

 そしてさっき自分を掴んだ生温かいなにかが、今度はバラバラになった体をすくいあげるようにして乗せると、緩やかなカーブのある場所に転がした。もう感覚のない体と隣り合わせになる。


 しばらくしたあと、なにか固形物が降ってきた。柔らかくて少しぬめっとしたなにか。自分はその正体が分からなかった。そしてその正体不明のなにかと自分は、棒のようなもので混ぜ合わせられた。

 そして今度は、水とは違う液体が降り注いだ。なんだかぬるぬるしていて体にまとわりついてくる。そしてまた棒のようなもので混ぜ合わせられ、また別のカーブがある場所へ移動させられた。しばらくしたらカーブのある場所ごとなにかに置いたような感覚がした。


 よく分からない固形物と、ぬめぬめした液体としばらく時間をともにしたあと、棒のようなもので自分の体が摘まみあげられた。

 今度は一体なにをされるのか、それを知るすべはなく、自分は生温かいものを感じた瞬間体が弾け、ようやく意識を手放した。




―――――――




「うぇっ、オレトマトきらーい!」

「だめよ、野菜もしっかり食べなきゃ」




 食卓の上に残されたトマトとアボカドのサラダから悲痛な叫びが聞こえたのは気のせいだろうか。

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