4話 幼女先輩たんとたまたまデート
本日日曜日、平日の疲れを癒し、月曜日からのための精力を養う日。のはずが、今は一人電車で数駅離れたショッピングモールへと出かけている。
事の発端はこうだ。
「優、もうすぐゴールデンウィークもあるし、暖かくなるんだから薄手の服自分で買ってきなさい。言い忘れてたけど、去年着てた服はあらかた捨てちゃったわ」
と、母が言う。
言い忘れにしては酷い話だ。
もちろん、ゴールデンウィークや夏休みは外出するが、頻度は多くなかったため数着しか持ってなかった。
タンスには部屋着やジャージばかりとなっていた。
一言くらい教えて欲しかったものだ。
別に一人で服を買いに行くのは何とも思わないが、面倒くさい。
更に日曜日ともなれば、貴重な休みが潰れた気分だ。
「人が多いな」
俺は一人寂しくぼやき、目的地を調べる。
かなり大きめのショッピングモールなので、男女問わずいる。カップルもチラホラ見える。
「えっと......服屋は......」
「「あった」」
誰かと声がハモる。
声のした右を向くと誰もいない......訳ではなく背の低い可愛らしい女の子──さゆ先輩が居た。
ヒラヒラとした長袖の白いTシャツ、デニムのショートパンツに黒のニーソックス。
頭には白のマリンキャップがブロンドの髪と合わさってとても綺麗に見える。
やはり可愛いのは可愛い。
「優ではないか!」
「さゆ先輩!」
互いに驚く。
「優も来ていたのか......一人か?」
「そういう先輩も......一人ですか?」
また二人同じクルクル見渡す行動をとる。
「ああ、私は一人だ。ここ最近暖かくなってきたのでな、服を買いに来た」
「俺も全く同じ目的です」
お互い目を見合せ、ハハハと笑う。
「ならば、一緒に行こうではないか」
「ええ、奇遇ついでに」
二人で歩き始める。
沈黙の時間を減らすため、先輩を一瞥し話題を探す。
「先輩、その服凄い似合ってますね」
とりあえず褒める。
昔、シンタローから女性のファッションは褒めが基本と言われた。
「あ、ありがとう。一人で買いに行くのだからオシャレする必要はなかったと頭を過ぎったのだが、優にそう言われたなら満足だ」
さゆ先輩は少し照れたように振る舞う。こちらからは帽子のせいで顔がよく見えないが、赤いのだろうか。
「そういうセリフは彼氏に言うもんですよ」
「か、彼氏!? ......コホン、彼氏などいない。だからいつ言おうが私の勝手だ」
決め顔をしようとも、最初の動揺がバレバレである。
「そうなんですね、さゆ先輩可愛いから彼氏いると思ってました」
「......その可愛いとは所謂愛玩であろう?」
「いえ、単純に美形でオシャレで可愛いって事です」
「な、な、何!? ......ゆ、ゆ、優こそ彼女はおらんのか?」
......この照れっぷり、癖になってきた。
「あいにく俺はモテませんから」
「ふ、ふーん、そうか。それは残念だな。っと、私はこの辺りで夏服を買う予定だが、優はどうする?」
女性服売場に到着する。男性服もこのフロアにあるが、マップを見たところ随分と離れている。
「ここまで来たんだし、先輩のファッションセンスを見せてもらってもいいですか?」
「うむ、別に構わん」
不意に、なんかデートみたいだな、とは思ったが、口にすると先輩どころか自分まで赤くなりそうだったのでチャックをした。
........................。
大人女性用の服でもかなり小さ目の物を選べばさゆ先輩にとって少し大きいくらいに留まっていた。
逆にそれが一層可愛らしさも引き出していて、元の素材が抜群であるのを見事に示す。
さゆ先輩はいくつかの夏服を選ぶと試着室へ入る。
「これはどうであろうか」
先輩は白のワンピースをヒラヒラさせてカーテンをめくった。なんでも似合うのは服を選ぶのに困らなそうだ。
「流石先輩、綺麗です」
そうかそうか、ニコニコしながらまたカーテンをしめ、次は半袖にミニスカートと夏らしい格好をして出てくる。
俺はそれに、似合ってる、可愛い、綺麗、とありふれた感想しか言えなかったが、先輩は一言一言喜んでくれた。
結局、最初に選んだ中から気に入った物をいくつか取り出し、会計に行った。
「あちら、彼女さんですか?」
突然、店員が話しかけてくる。
小さくてオシャレな女の子とダサい格好をした自分が傍から見ればそういう関係と疑われるのは些か驚いた。
「いえ、友人です」
淡白に返事をするが店員はニヤッとして、可愛らしい友人ですね、とだけ言い残し去っていった。
シンタローみたいな店員だなと、失礼にも感じる。もちろん、失礼したのは店員の方だ。
「待たせたな」
格好いいセリフを甲高いアニメ声で仕上げるため、脳がバグりそうである。
「いえいえ、待ってませんよ。俺はこれから自分の買い物に行きますが、先輩はどうします?」
「もちろん、同行するに決まっておろう」
決まってるんですか、初耳です。
服なので重くはないだろうが、手一杯に荷物を持つ先輩が見てられなかったので、サッと取り上げる。
「持ちますよ」
「う、うむ。優しいな優は」
さゆ先輩は帽子を深く被り直す。
照れ隠しのつもりだろうか。
先日、シンタローに恋愛がああだこうだと説かれたが、これはやはり、芸能人に対するのと同じな気がする。
それくらい可愛さに関して先輩は突出していた。
「......俺はこの辺りですね」
男性洋品店に到着する。
先輩は自分とのサイズの差に感服していた。
それほど大きくもないTシャツでも身体を覆い、うげっと声を漏らしていた。
........................。
結論から言うと俺の買い物はササッと終わった。
試着などしなくても、サイズは分かっているのでてきとうに2、3着取り出しレジに通していた。
「優は私からファッションセンスの欠片も見習わなかったのだな」
先輩は呆れた風にこちらを向く。
俺も、あはは、と苦笑いをするが、先輩の手厳しい言葉には反論の余地もなかった。
「優もオシャレをすればモテるかもしれないぞ」
「オシャレしてもモテてない先輩がそれを言いますか」
先輩がモテてない、というか男からのアプローチがないのは別の要因なのは明白だが黙っておく。
......それにしても、ここまで可愛いなら体格など関係なく、告白を受けてもいいだろうに。
断っているのだろうか。
余計なことは考えても無駄だと諦め、今度は特に会話もせず歩き、ショッピングモールを出る。
「今日は楽しかったぞ、優。また明日な」
「はい、また明日......昼休みで」
すると、そうだ、と思い出したように先輩が
「明日も手ぶらで部室に来るといい」
と、ニコッと笑い、返した手一杯の袋を抱きしめたまま小さく手を振り去っていった。
今日はなんとも眼福な日であった。
毎話いいねを付けてくれる心優しい方がいて、作者としても嬉しい限りです
今後も頑張らせて頂きます