3話 友人との放課後
「で、一体あれはどういう組み合わせだったんだ」
放課後、俺の買ったが食べなかったパンを二人で分けながら中庭のベンチに座って駄弁る。
もう四月も終わりに近い。時折暖かな風も吹く。
ベンチに座って寝る、なんて選択肢もあり......とはならなかった。
「俺も突然の事で未だに驚いてる。結局、手伝った時のお礼はなにがいいかって事だった」
「うんうん、でもそれだけにしては長かったよな?」
「あー......、弁当を少しばかり分けて貰った」
「......ユウって奥手かと思いきや案外大胆?」
「なぜそうなる」
「いや、箸が一本だと考えれば結論はただ一つだろうに」
瞬時にその答えにたどり着く方が怖い。俺の脳を開いて記憶でも見たのか。
「まあ、結局そうなったが、向こうが気にする仕草は無かった。大胆なのはある意味さゆ先輩なんじゃないか?」
「そう! そしてユウは今さゆ先輩と呼んだ。今朝は一年生では当然の幼女先輩たんとしっかり呼んでいた。そこもまた気になる」
面倒くさいやつだなぁ、と心底呆れるが、中学三年間共に過ごしてきて俺に色恋沙汰が無かったのはシンタローは知っているだろうから珍しさがその好奇心をくすぐっているのだろう。
「本人からお告げだ。決して自分から進んで提案したものでは無い。......しかも、対面で幼女先輩たんなんて言えないだろ」
「それもそうか......。ところでお礼は何を要求したんだ?」
「いや、その、なんというか......」
少し吃る。自分から昼食を誘ったなんて聞けば、ニヤニヤするシンタローの顔が浮かぶ。
「ハッキリしないなあ、もしかしてユウ......いかがわしい事か?」
「断じて違う。......また、昼一緒に食べようって言っただけだ」
「ほうほうほうほう」
シンタローの声色が跳ね上がる。顔もイラつく。
「遂にユウも恋を経験するってわけかぁ。応援してるぜ! ......意外だったのはユウって小さいのが好みだったんだな」
「別に恋でもないし、そういう趣味もない」
こいつ本当に後で絞めようか。
「違う違う、中学の時、気にかけてたのは背の高い椎名だっただろ? その時もユウは恋じゃないって断言してたけど」
懐かしい名前が飛び出す......といっても数ヶ月前まで同じクラスメイトだったのだが。
椎名 可憐──シンタローとは方向性の違うクラスの中心人物。
信頼も厚く、生徒会長も務め、成績も常に上位、運動神経も抜群。更にはスカウトが来たとも噂の長身美形。
何事においても一流の人物だ。
俺が、というより多くの男子生徒の視線を惹き付けていた。
憧れ。今のさゆ先輩へと感情と同じだろう。
こうありたい。こうなりたい。
平々凡々な俺からしたら二人とも高嶺の花なのである。
もちろん、今横にいるシンタローも中学時代、サッカー部のエースでよくモテていたが、シンタローのようなおちゃらけた性格は友達だけで十分だ。
「......俺、色恋に向いてないんだと思う。告白する、されるにしても自分に自信が無いと先が無いだろ?」
「うーん、俺なんて自信ないがモテたぞ」
ニコッとこちらを向く。こいつは人の気分を害さないのいけない呪いにでもかかっているのか。
「嘘つけ、シンタローは自信過剰のイケメンだろ。中学時代、付き合った人数数しれずのくせに」
「あはは、バレちったか。でも、俺だって生まれた時から自信家じゃない。ただ一度勇気を出すだけで見る目変わるなら、それもいいんじゃないか?」
「シンタローってやっぱイケメンだ」
「それはどうも」
食べ終わったゴミを捨て、俺とシンタローは学校を出る。
「そういえば、今度クラスの何人かで遊ぼうって予定があるんだけど来るか?」
「いや、俺は......」
自信、頭の中で先程のシンタローの言葉が響く。
「行こう、かな」
「よし、とは言ってもまだ何も決まってないから結構先の話になると思っててくれ」
「テスト明け......くらいか?」
「うっ、テストという言葉を発さないでくれ。アレルギーなんだ」
シンタローがぼやくが、アレルギーについては当然嘘である。
しかし、テストが苦手。成績がそこまで良くないのも事実だ。
「ユウは良いよなぁ。お前にとっては常に平均点ジンクスでも、俺にとっては万々歳だ」
「なら、五月から始まる部活を少し減らしてでも勉強するんだな」
「それは勘弁。運動は俺の生きがいだ」
「はっきり宣言できるシンタローが羨ましい」
ユウとシンタローの家の最寄り駅につき、そこからは別れる。
もう時間もそこそこ遅いのに夕陽が眩しい。
夏なんていつの間にかやってきそうだ、と感慨に耽る。
「もうそろそろ五月かあ」
夕陽を尻目に自宅の玄関を開けた。