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超絶美幼女先輩たん  作者: 和
第1章
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2話 幼女先輩たんとお昼休み

 というわけで俺は今、幼女先輩たんこと天宮 さゆ先輩に連れられているのだが......。

 そろそろ袖を引っ張られたままなのは恥ずかしく腕をスっと軽く上げると先輩の手から離れた。


「あ、すまぬすまぬ。体勢が少しキツかったか」


「まあ......それより、どこへ行くんですか?」


「目的地か? 部室だ」


 俺の通ってる高校は二、三、四階がそれぞれ一、二、三年生の教室があり、その上の五階が文化部の部室が多数、六階が体育館と室内運動部の部室が配置されている。


 ちなみに一年生は五月より入部が可能だ。


 故に今階段で上へ進んでいるところなのか。


「何部のですか?」


「物理同好会だ。興味はあるか?」


 だから物理学の本を借りていたのか、一つ謎が解けた瞬間である。


「......いえ、特には」


「そうか、でももし入部するなら歓迎しよう」


 階段にて先輩の後ろ姿を注視するが、ふわっとした長めのブロンドがなんとも綺麗なものだった。


「ここが、我が部室である」


 先輩は紹介すると共におもむろに鍵を取り出し扉を開ける。

 鍵って持ってていいのか?


「この鍵は部長から預かっているもの故、合法ではある」


 俺の心を読んだかの如く呟く。


 そして、中に入ると、周りに多くの本があり中心にテーブルと椅子がある以外なんの取り柄もない場所だ。


「そちらへ座れ、昼食は持ってきたか?」


「あ......」


 自分の机の上に置きっぱなしにしていたと思い出す。というより、ここで昼食を取るとは考えていなかった。


「なんだ、忘れたか。私のお弁当は大きいから分けてやろう」


 先輩は弁当を取り出すと白米が一段、おかずが二段が顔を出した。この身体に全て入るのだろうか。


「......私は少食ではないぞ」


 ずっと先輩を眺めていたからか、俺の心をまた読んだのか、指摘されてしまう。


「ほれ、あーん」


 先輩は箸で自前の唐揚げを掴み、俺へと差し出す。


「え......」


「遠慮はしなくて良い、沢山あるからな」


 うんっ、と更に突き出され仕方なく口へ運ぶ。


「......美味しい」


「そうか、これは私の自信作なのでな! 美味しくて当然だ!」


 照れながも胸を張る姿はまるで幼女、いや、本物の幼女かもしれないのだが......。


 そんな事よりこの唐揚げが冷凍食品でもなく、その上先輩が調理したものということにも驚いた。


「......先輩って実はなんでもできます?」


 勉学の才が秀でているかもしれない説と同時にオールラウンダー説も尋ねる。


「なんでもは出来るわけないだろう。私に出来ることしか出来ん」


 自信満々に応えるがあまりにも当たり前なので、俺の中ではやはりバカ説が濃厚になる。

 仮に賢くても認めたくなくなった。


「......それはそうと一つ質問良いか?」


 先輩もお弁当を頬張る。

 間接キスは気にならないようだ。


「なんですか?」


「『幼女先輩たん』とはなんだ?」


 ......聞こえていらっしゃったのか。いや、あれだけ言われれば聞こえるのも当然だろう。


「うーん、と......」


「......いや、私にも分かる部分はあるぞ。不甲斐ない事だが『幼女』とからかわれたことがある。そして、『先輩』は優たちからすれば私は先輩なのは間違いないことだ。聞きたいのは『たん』だ。『たん』とはなんなのだ?」


 意外である。怒るものかなと身構えていたが、予想とはかなり違っていた。


 もしくは、よく小さいことへの弄りは受けたのだろうか、そう思うと少し不憫に感じる。


 今朝シンタローに何食わぬ顔で幼女先輩たんと言ったことに後悔する。


「『たん』っていうのは〜たんという所謂愛称です。......もしかしてこのあだ名嫌ですか?」


「ふむ、もう慣れたからなんとも思わないな。別にそう呼びたければ呼べばいい。優もそう呼ぶか?」


「......いや、俺は天宮先輩と呼びますよ。俺にとっては気高い先輩ですから」


 茶化した風に告げるが、勝手に幼女扱いした事には自分の中で気がかりになっていたのも事実だ。


 それにただ見た目が小さかっただけの人格者だ。


「なら私のことは名前で呼べ。さゆ先輩とな」


 急な名前呼びへの強制に困惑する。そしてまた俺の口へとおかずを差し込む。


「何もそこまで驚かなくても良かろう。私の周りは皆さゆちゃんさゆちゃんと苗字で呼ぶのは先生くらいでくすぐったいものだ」


「は、はあ、さゆ......先輩」


 うむ、と応えられ、暫し沈黙する。

 ただの名前呼びに恥ずかしさなんて、感じない、だろう。


 また、お互いに少しずつご飯を口にした後、さゆ先輩が口を開く。


「優は私に何か質問はないのか? なんでも答えてやるぞ」


「......じゃ、じゃあ、一つ。......えーと、俺の組いつ知ったんですか?」


 なんとなく絞り出した質問であった。平凡な質疑だったのだが、あまりにも奇想天外な答えが返ってくる。


「私は全ての学生の名前と組は覚えている。もちろん、顔は一致していないが」


 絶句してしまう。

 この高校は一組あたり40と少しの人数が四組、それが三年生分ある。単純計算しても500人近くいる。


 それを全て、とは些か現実味の無いことだ。


「......嘘ではないぞ」


「いや、なんで学校全員分覚えてるんですか!?」


「四月の始業式には下駄箱前に各生徒の学年と組が張り出されているだろう。ただの暗記だ」


 そんな軽々しく言い放たれても、出来るとは......。


 もちろん、俺も一度チラッと見たが、ただ出席番号順に名前が書かれているだけである。

 なんの特徴も無い。


「......私は背が低いからな、始業式だけは早く登校する。やはり皆誰と同じ組になったか気になるからいつもの時間だと私は視界が塞がれる。だから、余った時間で他の生徒も覚えたのだ」


 言ってることに対する難易度がどれほど高いのか理解しているのだろうか。

 やはり、天才なのか。


「......先輩って成績どのくらいですか?」


 興味本位、怖いもの見たさで問う。


「この高校は成績の張り出しは行われないが、私が一位なのは確実であろうな。全て満点だから」


 ......予想はるか上にいくポテンシャル。

 しかし、それだけ賢いならば天才と噂になってもおかしくないはずである。今朝、さゆ先輩が天才の噂は無いとシンタローから聞いた。


「それだけの才覚なら、テスト前引っ張りだこ......なんですか?」


「いや、賢いのは知られているが、ここまでとは誰も思っていないだろうな。やはり皆、私を子供扱いする。満点を自慢したことが一度あるが、友人は凄いとの一言だけだった。そもそも友人と思ってるのも私だけかもしれないな」


 眉をひそめて、少ししょんぼりする。

 いつも明るい先輩だから余計に悲しそうに見える。


「中学ではこの才能を妬まれ、悪口を言われたことがあったが、高校ではただ可愛がってくれるマシ、であろうかな、あはは」


 苦し紛れの笑い方。綺麗な、可愛い顔が残念である。


「じゃ、じゃあ俺が褒めます」


 真っ直ぐさゆ先輩を見つめる。先輩は呆気に取られた顔を俺に晒す。


「一番取って褒められないのは悲しいですから。褒められないのは平凡だけで十分ですよ」


 俺の言葉を聞いて先輩がクスッと笑う。


「優が褒めでくれるのか、それは嬉しいな。次のテストにも少しやる気が出た」


 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴り響く。ちょうど先輩のお弁当も空になり、片付ける。


「ありがとうな、優。では、私は教室へ戻る。またな」


「さようなら」


 先輩が部室を飛び出す。そして、帰ってくる。


「そういえば、本来はお礼が何が良かったのか聞きに来たのであった! 何がいい!」


 少しは落ち着いて欲しいものだ。


「じゃあ、またここで一緒にお昼食べましょ」


「そんなことでいいのか、ではまた明日......ではなく月曜日!」


 先輩は再び飛び出す。

 我ながらいい礼を要求したと思う。

 月曜日、休日終わりの平日が少し楽しいものになるだろう。


 ふと、机の上を見ると鍵が置いてある。


「......え、戸締り......俺?」


 結局、部室を閉め、職員室へ行き、「この鍵拾いました」と綺麗さっぱりな嘘をつくと、しっかり五時間目の授業に遅刻し、先生からお叱りを受ける。


 ......少しでも尊敬した自分がバカに思えた。


 自分の机の上には購買で買ったパンを残しながら、前を見るとシンタローがニヤニヤしていた。


 ......後で殴ろう。

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