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第三話 行きつく先

「胸が…」


「私の胸が…」


胸が…ある。


「あれ?」


溶けたと思った私の胸が無事にあるべき場所にくっついてました。


むしろ、いつもより存在感を増しているようにみえます。


「どうして」


確かに、溶けた感触がありましたし、左の胸の先の方が無くなってしまったように見えたのですが。


私は、左の胸を手で触って確認します。


「かたくなってる」


あれ、なんかいつもより固いかも。


右のは、いつも通りぷよぷよですよね。


ぱんぱんになっちゃってるけど、なんか中に入ってるのかな。


私には、3つ歳上のお姉ちゃんがいます。


ちょっと前に、すごくかわいい赤ちゃんが産まれました。


赤ちゃんが、お姉ちゃんのお乳を飲むところを見せてもらったことがあるのですが、そのとき、今の私の胸のように先が大きくなっていたのを覚えています。


「お姉ちゃんといっしょだわ」


きっと、お姉ちゃんみたいに、中にお乳がつまってるのね。


指で摘まんだらお乳出るかな。


私は、自分の胸を指で摘んだり、引っ張ったり、ねっじったりしましたが、気持ちいいばかりてお乳は出ません。


もしかしたら、口で吸ったら出でるのかも。


そう考えた私は、小さめな胸を手で引っ張って、口に持っていきます。


そして、思い切り吸ってみます。


「おかしいでさね」


それでも、やっぱり、お乳は出てきませんでした。


私はお乳を諦めて、リムさんに目をやりました。


リムさんは、普段からびよんびよんしたゴムみたいな身体ですが、お風呂の熱さで、さらにゆるゆるになってます。


「これは…」


リムさん、すごく伸びてますね。


これなら、とどくかも。


いまなら、伸びたリムさんで両方の胸を覆うことができそうです。


「2倍きもちよかったりして」


そんなことを期待しながら、リムさんを、左右の胸に触れないギリギリの距離まで持ってきて、一息いれます。


そして、一気に、すでに少し硬くなっている両方の胸の先を、リムさんの中に入れました。


リムさんの中に私の両胸がつるんと入り、そして、次の瞬間、


「-----!」


2倍どころではない衝撃をうけて声にならない叫びがでてます。


こんな…


すごすぎる


巨大ななにかが私の身体のなかを突き抜けていきます。


「なんで…、入ってる、入ってくる」


なんで?


どうして?


どうして私の中に入ってるの!?


大き過ぎるわ!


こんなの絶対無理!ダメ!


私の胸が、リムさんに入っているはずなのに、なぜか逆に私の中に大きなものが押し入ってくるような感覚に襲われます。


「イッ!」


なに?


私、どこに行っちゃうの?


高い、高いよ!


自分の口からなんでそんな言葉が出てくるのか自分でも意味が分かりません。


でも、なにか大きなものに突き上げられて、私自身が高く高く昇って、今いる世界を突き抜けて、どこか遠くへ行ってしまう、そう思ったのです。


もっと。


もっと高く…


そう、心の中で強く思った時でした。


それまで、苦しさから逃れるように開いたり閉じたりしていた私の脚は、硬直して足先までピンと伸びてしまって、まるで一本の太い棒になっています。


お母さんが変に思われないか心配でしたが、自分でも止めることができず大きな叫び声をあげます。


(はぅっ!あ、あ、あ゛ぁぁぁーー!)


お風呂だけでなく、家中に聞こえるくらい大きな声を出してしまいました。


声を出した()()()でした。


実際には、私の声は口から外に出てはいませんでいた。


まるで大声を出させないかのように、何かが私の口を塞いでいたのです。


(リムさん!?)


それはリムさんでした。


リムさんが、さらに大きく広がって私の口をふさいできたのです。


そして、気が付くと、リムさんは、口だけではなく、鼻も、目も、耳も、頭すっぽり包み込んでいます。


息ができない。


苦しいよ。


私は、リムさんの内側から、半透明な身体越しにお風呂の天井を見ながら、身体が全体がリムさんに包み込まれているのを感じました。


(お母さん…)


私、リムさんに食べられちゃったのかな。


外から見たら私どんなふうに見えるのかな。


溶けちゃって見えなくなってるのかな。


お母さん、見たらびっくりするだろうな。


ごめんね、お母さん。


死んでしまうかもしれないというのに、私は、なぜか不思議と穏やかな気持ちでした。


それでも、どんどん意識が遠のいていって、それでもなんとか最後に心の中でお母さんにあやまることができました。



「…?」



あれ、リムさんは?


ここは?


私は、朝目が覚めるように起き上がってあたりを見回しました。


何処にもリムさんの姿は見当たりません。


それどころか、そこはお風呂でもありませんでした。


お母さんが見つけて、運んでくれたのかな。


でも、ここ私の部屋じゃないし、私の家ではなさそうね。


あ、私まだ裸なんだ。


「お、気が付いたな」


そんなことを考えていた時、どこからともなく声がしました。


それは頭の中に直接響くようで、そして私を包み込むようで安心するそんな感じの声でした。


「貴方は、リムさんなのですか」


「…そうだ、おれはリム…」


ん?なんかいま、歯切れ悪かったですね。


あ、そうか、リムさんって私が勝手につけた名前だから本当の名前と違ってるのですね。


「私は、サワ。貴方の名前はなんというのですか」


「ああ、知ってるよ。おれの名前は…、リムでいい」


やっぱり歯切れの悪いリムさんです。


いま、さらって言いましたが、やっぱり、声聞こえていたのですね。


耳無いのにどうやって声とか音とかを聞くのでしょうか。


「ん…!」


ここで、私は、大変なことに気が付きました。


いや、まって。


まって!


リムさん、声、聞こえてるのね。


耳が無いのに!


もしかして、もしかして。


目も見えてるって事!?


「リムさんは、目も…その…見えるんでしょうか?」


「え、あたりまえだろ」


…やっぱり。


私は、身体の力が抜けててしまって、その場にへなへなと座り込んでしまいました。


これまで私がやってしまったことは全部見られていたのですね。


部屋の机の上でリムさんに指や拳を入れてハアハア言ってるところとか、お風呂でリムさんを胸にのせて白眼を剥いているところも見られたのですね。


「死にたい…」


しかも、リムルさんはぜったい男ですね。


話している口調は紛れもなく男のものですよね。


私は、こみ上げる恥ずかしさに堪えきれずに、自分が消えて無くなってしまいたくなって、そうつぶやきました。


「そこは、おれの中だ」


そんな、私の気持ちを無視して、リムさんは、ここが何処なのか説明を始めました。


すごく恥ずかしかったです。


でも、無視するわけにはいかないので、わたしも言葉を返します。


「私のことを食べってしまったのですか」


「まあ、そうなるな」


悪気もなくそう言うリムさんに、私はちょっとムッとします。


「どうして?」


「だって、おまえが大声だしそうだったから。見つかったら、めんどくさいだろ」


あー、なるほどー。わかります。


「えへ」


照れ隠しに、とりあえず笑っておきます。


「わたし…、死んじゃうの?」


「いや、死なないし、いますぐ元に戻してやるよ。あと、ちょっと顔借りるな」


ん?


なんか最後がよくわからなかったですが、元に戻れるようです。


よっかた。


「いや、ちょ…」


いやいや。


よかったじゃないです。


ちょっとまってくださらない?


わたし、裸ですし!今戻されても困ります!


戻るって、お風呂にですよね!


まさか、リムさんも裸ですか!


いきなり裸のお付き合いですか!?


「あ…」


戻った。


リムさんは、軽くパニックになっている私を無視して、さくっと元に戻したようです。


特に変わったところはありません。


私は、何事もなかったかのように、いつもと同じお風呂で、いつもと同じように湯船につかっています。


ただ一つを除いてはですが…


「リムさん…ですか?」


湯船の外に知らない人が立ってます。


裸なのに堂々と仁王立ちして、私のことを見下ろしています。


「ああ、そうだ」


「そ…あ…、顔…?」


私はびっくりしすぎて、口が上手く動かず、やっとの思いで片言をしぼりだします。


「君の身体をコピーしたんだ。ちょっとのあいだ、貸りるぞ」


そういえば「顔借りる」って言ってましたね。


「移動するときとか、スライムでは何かと都合が悪いんだ」


そう言われれば、たしかにそうですね。わかります。


いったいどういう原理で、私の顔になっているのか?


スライムって人の姿になったりできるのか?


聞きたいことがいっぱいです。


でも、私には、まずハッキリさせたいことがあります。


すごく大事なことです。


「男…ですか?」


堂々としたなぜか開き気味のスタンスで、私のことを見下ろしている裸のリムさんに、私は目のやり場に困りながら聞きました。


「んー、たぶん違う」


「つるつる」


ホースもホールもない…


ちらっと見てしまった、リムさんの広いスタンスの付け根は、予想外につるつるで、つい目がそこに止まってしまいます。


「おい、どこ見てんだ?」


リムさんは、なにか可哀そうなものを見るような目で、ちょっとイラついたように言いました。


「女性なのですか?」


「中性らしい…」


「おしっこは、どうやってするのです?」


「スライムだから、排せつも、呼吸も不要なんだ」


必要ないから、コピーしていないと言うことですね。わかります。


「でも、鼻の穴とか、口とかはあるんですよね」


「鼻の穴がないとみんなびっくりするだろ」


なるほど、本来は不要だけど、見た目重視でコピーしてるってわけですね。


「それでは、コピーしようと思えば可能なのですね」


「ま、可能ではあるな」


「それでは、やって見せ…」


「やだ」


裸で仁王立で腕を組んだリムさんに、食い気味に拒否されてしまいました。


「どうしてですか」


「無駄だし、恥ずかしいし、そもそも、あまり奇麗なものじゃないぞ」


前半の二つはわかりますが、後半はちょっと納得できません。


納得はしてないですが、リムさんがとても残念そうな顔で私のことを見るので、これ以上は止めておく事にしました。


でも、自分の身体をよく見ることができる、またとないチャンスだったので残念です。


特に、普段はよく見れない部分とか…お尻の穴とか…


そんなことを考えている私を、リムさんはジットリとした目で見ながら言います。


「すまないが、服を貸してくれないか」


そうですよね、裸のままで外を歩くわけにいきませんものね。


いや、むしろ、私の顔で裸で外を歩かせるわけにはいきませんからね。


「もちろんです」


私たちは、お風呂をでて部屋に戻り、自分のお気に入りの服をリムさんのために取り出してました。


「かわいい…」


私の服を着たリムさんは、抱きしめたくなるくらい、可愛いかったです。


「よく言うよ。自分だろ」


「えへ」


自分のコピーでした。


笑ってごまかします。


「また会えるといいですね」


名残惜しいですが、お母さんに見つかるとややこしいので、お別れは手短にしなければなりません。


「もうちょっとして落ち着いたら、そうしたら招待するよ」


「絶対ですよ」


きっとまた会える。


根拠はないですが、なぜか確信をも持って私はそう思いました。


「名前はそのときに教えてくださいね」


私はそう独り言を言いながら、”彼”の背中を見送りました。




後日、ひとりの男性が私を訪ねて来ました。


その方は、主が大変お世話になったこと、本来なら自ら会いに来てお礼を言いたかったこと、ささやかだけど贈り物を受け取ってほしいことの言伝を私に伝えました。


そして、わたしがリムさんに貸した服と、もう一着を置いて帰られました。


ちなみに、ものすごいイケメンでした。


リムさんからの贈り物、それは、絹でできた服でした。


白を基調とした清楚な雰囲気と、動きやすいよう機能性を兼ね備えた、シンプルながらも不思議な存在感のある素敵な服です。


その、普段の買い物でも着れるし、ダンジョンに行くのにも使えそうなデザインを私は一目で気にいりました。


後からわかったのですが、実はその服いろんな魔法が付与されていて、例えば物理攻撃をほどんど受け付けないとか、自動で修復されるとか、国宝級だとか、とんでもないものでした。




そして、演劇の招待状が届いたのは、それから一年後のことでした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想、批評などなど、なんでも結構ですので、言葉をいただけると嬉しいです。

なお、星で評価をいただけると次回作への意欲がむくむくと湧いてくると思われます。

次は中長編にトライしたく構想中です。

今後とも、よろしくお願いします。

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