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No.37:お勧めのメニュー


 俺たちはまず最初にランチを取ることにした。

 その後で運動がてら、井の頭公園を散策するプランだ。


「こんなところに、お店があるんですね。近くに住んでるけど、来たことないです」

 エリちゃんが訝しげに言った。


「まあオレたちも、最初はビックリしたもんな。こんなところにお店?って。でも安くて美味しくて、平日でも結構混んでんだよ」

 

「そうだな。今日みたいに客で行く分にはいいんだけど、バイト中は結構大変だもんな」


 誠治と俺は、バイト先のオステリア・ヴィチーノをそう説明した。

 

 しばらく歩くと、店の看板が見えてきた。

 誠治がドアを開け、女性2人を中へ促す。

 

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 全員入ったところで、落ち着いた女性の声が聞こえる。

 詩織さんだ。


「こんにちは、詩織さん。今日は客ですよ」


「今日は、じゃなくて、今だけだね。夜のシフトには入ってもらうから」


「げっ、そうだった……」

 

 詩織さんは誠治に、現実を突きつけた。

 まあ俺にもなんだけど。

 俺も誠治も、今日は6時からシフトが入っている。


「開店の6時半から、ほぼ予約で満席だからね。覚悟しといて」


「うわっ」「マジで?」


 詩織さんは、容赦なかった。


「奥の席を押さえているよ。ご案内します」

 詩織さんは笑いながら、俺たちを案内してくれた。


「いらっしゃいませ。改めて2人とも、本当に可愛い女の子を連れてきたね。どうやって知り合ったんだい?」


「ナンパされたんです」

 なぜかエリちゃんが、そう即答した。


「いやいや、ナンパから助けてあげたんでしょうが」


「えー、そうでしたっけ?」


「そのあと、マクドでご馳走したよね?」


「んー、覚えてないなぁ」


 そんなエリちゃんと誠治のショートコントを見て、明日菜ちゃんが噴き出した。


「ご注文がお決まりになりましたら、またお呼び下さい」

 そう言って詩織さんは、一旦さがっていった。


「あの女性の方、素敵な人ですね」


「そうそう! なんかさ、宝塚の男役みたいな人だったよね」


 明日菜ちゃんと、エリちゃんが盛り上がっている。


「あの人は詩織さんっていって、俺たちがバイトを始めたときから一番お世話になってる人なんだ。この店のベテランだよ」


「そうなんですね。なんか貫禄があります」


 貫禄というのは、言い得て妙だと思った。


 メニューを見ながら、誠治がオススメを説明し始めた。


「オレのお勧めは、パスタだったらタラコクリーム、イカスミ、ボロネーゼ、カルボナーラあたりかな。ピザはマルゲリータ一択。安くて十分美味い。あとシーザーサラダもボリュームがあってお勧め」


 悪くないチョイスだ。

 個人的にはここのシーフードグラタンが好きなんだけど、シェアすることを考えるとパスタとピザが無難だろう。


 結局誠治お勧めのメニューを注文することにした。

 詩織さんを呼んで、パスタ4種とピザ1枚、サラダを2つ注文した。


「素敵なお店ですね」

 明日菜ちゃんは店内を見渡してそう言った。


「落ち着いた感じがするよね。客層は若い人から40代くらいまでのお客さんが多いよ。学生からサラリーマンまで、幅広いと思う」


「値段もかなりお値打ちだと思います」

 エリちゃんも気に入ってくれたようだ。


「そうなんだよ。だからエリちゃんも明日菜ちゃんも、また来てよ。俺たちがいる時は、ドリンクぐらいだったらサービスできるからさ」


「本当ですか?」


「ああ。こっそりとだけどね」


 これは本当だ。

 詩織さんからも、ワンドリンク程度ならサービスしてもいいと言われている。


「じゃあ今度エリと一緒にきますね」


「ああ、お待ちしてるよ」


 明日菜ちゃんとそんな会話をしていると、注文したものが運ばれてきた。

 いろんな味が楽しめるように、詩織さんに頼んで取り皿を多めに持ってきてもらった。


「んー、美味しい!」


「だろ? このオーダーにハズレはないんだよ」


 なぜか誠治が自慢げだ。

 たしかにパスタもピザも美味い。

 若干味付けが濃い目だが、それがリピーターを生む。

 それでこの値段だったら、人気が出ない理由がない。


 味見できるように、パスタも一口ずつ取り分けた。

 女性陣に一番人気だったのは、タラコのクリームパスタだった。


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