No.110:遠征を終えて
ID:1053851様、1548463様、連日の誤字報告有難うございました。いつも助かってます。引き続きよろしくお願いします。
「楽しかったー」
「そうだね。お腹もいっぱいだよ」
後部座席で星野と美桜も満足そうだ。
バーベキューが終わってお開きとなり、俺は誠治の運転で美桜と星野の二人を自宅まで送っていく。
俺の心配をよそに、二人共最初から俺たちのグループに馴染んでいた。
「ねえ、誠治君」
星野が運転している誠治に声をかける。
「ん?」
「あの女の子たちの中でさ、仲代くんてモテちゃったりしてるの?」
「あー……瑛太、どうなんだ?」
「俺に振るなよ」
振られても困るし、モテてはいないだろ?
「わたしも皆に瑛太君の高校の時のこととか、すっごく聞かれたよ」
美桜までこんな調子だった。
「そりゃ仲間としちゃあ当然だろ? 友達だよ、友達」
「友達ねぇ……」
誠治が混ぜっ返す。
「そっかー。やっぱ美桜、頑張んないとダメじゃん!」
「ちょ、ちょっと恵子」
美桜が慌てている。
「星野、俺は美桜と友達に戻ったばっかりなんだよ。あんまり騒がれると、こっちはやりづらい」
一応俺は、助け舟を出してやる。
「そ、そうだよ」
「なーんだ、つまんないの」
「そういう星野は、吉川とうまくいってるのか?」
「うーん……まあまあ、かな?」
「まあまあ、って……」
もうこっちまで巻き込まれるのは、勘弁してほしい。
先に星野の家へ行って降りてもらい、それから美桜の家に向かった。
「じゃあ瑛太君、また東京でね」
「ああ、またな」
「誠治君もありがとう。おやすみなさい」
「ああ。美桜ちゃん、またね」
誠治は車を走らせる。
美桜が小さく手を振っているのが見えた。
「いやー、瑛太君、モテモテじゃん」
「やめてくれ」
誠治に君付けされて、背筋が寒くなる。
「これでまた、盛り上がってくるぞ! あー、メシが旨い!」
「お前、マジ性格悪いな!」
誠治はケラケラと笑っている。
俺はどっと疲れて、助手席の背もたれに身体を預けた。
◆◆◆
翌朝の朝食後、俺達は帰り支度を始めた。
今日は8月16日、予想では渋滞のピークは15日らしい。
とはいっても、今日も関越道は混むに決まっている。
どうせ混むならと、俺達は途中軽井沢に寄って遊んで帰ることにした。
おそらく東京へ到着するのは、かなり夜も遅い時間。
それでも女性陣は「軽井沢のアウトレットのお店に寄りたい」という意見で一致したようだ。
荷造りを終えて、すべて車の中に積み込んだ。
全員で忘れ物が無いかチェックする。
「またいつでも来てくださいね」
お袋たちも見送りに、出てきてくれた。
全員が口々のお礼の言葉を述べる。
お袋も忙しかっただろうな。
俺たちは車に乗り込み、実家を後にした。
後部座席のメンバーを、来たときと入れ替えた。
今誠治の車に乗っているのは、俺と明日菜ちゃんと小春ちゃんだ。
「本当に楽しかったです」
後部座席の明日菜ちゃんが、そう口にした。
「そっか。気に入ってもらえてよかったよ」
「また来年、お邪魔してもいいですか?」
「小春も行きたい!」
小春ちゃんは一人だけ高校生だったが、それなりに楽しんでいたようだ。
綾音にも、もうすっかり懐いていた。
見ていて微笑ましかった。
結局俺たちは軽井沢のショッピングプラザで買い物をして、近くのマクドで食事をして、断続的な渋滞に巻き込まれながら東京へ戻ってきた。
明日菜ちゃんと小春ちゃんを送ってから、俺がアパートへ戻ってきたのは夜の11時半だった。
◆◆◆
長野ツアーから戻ってきてから数日後。
バイトを終えた俺達3人は、吉祥寺のマレーシア料理店『カマール・マカン』の中にいた。
「そいじゃあ誠治、お疲れ」
「お疲れ様」
「おう、ありがと」
俺たちは乾杯した。
誠治は今日、ビールを飲んでいる。
俺と綾音はソフトドリンクだ。
先日の長野ツアー中、ずっと運転してた誠治を労う会だ。
結局全ての行程を誠治一人で運転してくれた。
もちろん海斗もそうだから、海斗にもあらためてお疲れ会を開催する予定だ。
「でも本当楽しかったよね。食べ物は美味しいし、自然は豊かだし。川も綺麗だった」
「ああ、そうだな。また来年も行きてーな」
綾音も誠治も、大満足の様子だ。
俺たちのグループLimeでも、ほぼ全員から楽しかったというコメントをもらっている。
「バーベキューも美味しかったし。あ、そうそう。美桜ちゃんも可愛かったよね」
「そうか? 綾音が言うと、ちょっと嫌味かもしれんぞ」
「へ? そ、そうかな。そんなことないよ……」
少しモジモジする綾音の横で、誠治がため息をついている。
「美桜からも連絡があったんだ。バーベキュー、めちゃくちゃ楽しかったって。ああ、そう言えば……」
俺は昨日、美桜から送られてきたLimeメッセージを思い出した。
美桜:瑛太君たちのサークルってさ、他大学からの入会もOKだったりする?
「って、訊かれたんだよ」
「あーー」「あーー」
綾音と誠治の声がハモる。
「いや別にサークルじゃないぞ、って言っといたんだけどな」
「……まあ美桜ちゃんとしては、一緒に遊びたいって思うわよね」
綾音が視線を少し上にあげて、思考している。
「まあ……イベントがあったら、誘ってあげたら? ああ、明日菜ちゃんにも訊かないといけないわね」
「綾音はいいのか?」
誠治の目が細くなる。
「いいわよ、別に。この際一人増えたって、変わんないでしょ?」
「そうか。もちろん他のメンバーにも訊かないといけないよな」
「ああ……まあねぇ」「ああ……まあなぁ」
俺の問いかけに、また二人の声がハモる。
「まあサークルじゃないけど、イベントがあれば声をかけるからって言っとくよ。他のメンバーにはその都度訊いてみる感じだな」
まあそんなところが現実的だろう。




